『雪の降る夜に』


「あ、ほら、見て見て、雪が降ってきたよ」
 カーテンを開きながら彼女は言う。
 窓の外は空の黒と部屋の明かりに反射した雪の白が対比し、美しさを増していた。
「うん」
 俺は気のない返事をする。
「何それ、つまらない返事ねぇ」
 彼女が窓から目を放して笑う。
「あんま珍しくないんだ。実家、雪国だもんで」
「あぁ、そうなんだ」
 彼女が炬燵に戻ってくる。
「じゃあさ、雪だるまとか作って、雪合戦とかやった?」
「やったけどね」
 俺は気がのらないように炬燵に頬をつける。
「じゃあさ、明日積もったら一緒にやんない? 私雪見るのって初めてなんだぁ」
「まぁ、いいけど」
「なんか、覇気がないわねぇ。こんな美人が相手だとやる気でないとか?」
 意地悪そうに彼女が言う。
「そういうわけじゃないさ」
「じゃあ、なんなんのよぉ」
「・・・なんかさ、毎日がつまらないんだよね」
「へ?」
 彼女が気の抜け返事を返す。
 俺は炬燵から顔を離して、斜め上に目を向ける。
「こんなこと話しても仕方ないんだけどさ、平凡がとっても退屈に思えてきたんだ、最近。田舎ってのはホントに退屈だった。道具は古めかしい物ばかりで、見合わせる顔も同じものばかり。毎日が同じことの繰り返しであまりのも在り来たりすぎたんだ。こんな都会に出て来たのもさ、変化が欲しかったんだ。平凡を打ち消すようなさ」
 俺はまた炬燵に顔を沈める。
「でも、あんま変わらなかった。最初のうちは結構楽しめた。でもだんだんその感動も薄れてきて、これが平凡になってきちまった。また退屈が戻ってきた」
 俺は炬燵に脚を入れたまま仰向けに寝転んだ。
「いっそ、戦争でも起きて、命の危険に晒されるくらいの毎日になって欲しいと思うんだ。もっと生きてるっていう実感が欲しい。今の自分は死んでるんじゃないか、とまで思うようになってさ、どうしようもないんだ」
 数秒沈黙が続いた。
 ふと彼女の顔が気になって、顔を上げようとしたとき、彼女が口を開いた。
「でもさ、そんな危ない所にいる人って、こんな平凡な生活を望んでると思うんだ」
「・・・どうして? その方が充実してるじゃん」
 俺は体を起こして彼女の顔を見る。
「だってさ、毎日死ぬことにビクビク怯えながら過ごす事になるのよ。そんな生活って送りたくないじゃない」
「そういう緊張感がいいんじゃないか。死を感じる為には生を感じなきゃ、死ぬことなんてわからないんだよ。今の生活には生きてる実感すら沸かないんだから」
「そんなことないよ。平凡な生活だからこそ、今が輝いて見えるじゃない。死に近づきすぎちゃいけないのよ」
「生死は人間の要だろ。それなのに死を感じちゃいけないってどういう意味だよ。それじゃ、生死の相対概念が成り立たないだろ」
「違うの。私が言いたいのはそういうことじゃなくて・・・」
 刹那、爆音が鳴り響いた。
 それは俺の後ろで鳴ったような気もするし、前で鳴ったような気もする。
 後ろからは爆音に交じりながら、はっきりと足音が聞こえてきた。
 彼女はというと、いつの間にか立ち上がり、その足音と対峙している。
 爆音の度に呻き声が聞こえ、正面の壁や棚に穴が開いた。
 俺は動けなかった。
 あまりにも長い時間のように感じる。
 僅か数秒しか経っていないはずなのに。
 最後の呻き声と同時に爆音は止み、静寂が戻る。
 窓には相変わらず、真っ白な雪が降っていた。
「・・・あぁ・・・見つかっちゃったか・・・」
 彼女が呟く。
 彼女の持っているそれの存在を認めたとき、
 俺は彼女の言っていた意味が漠然とわかったような気がした。

 終

 

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