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ブック・レビュー


ギフト 西のはての年代記I
"Gifts: The Chronicles of The Western Shore" 
アーシュラ・K・ル=グウィン(Ursula K. Le Guin)/作
谷垣暁美/訳 2006.06発行 河出書房新社



〈高地〉に住む一族の間には、〈ギフト〉と呼ばれる力が備わっていた。その力は一族ごとに異なり、族長(ブランター)の血筋に継承される。ゆえに血統を保ち、ギフトの力を保つことが、一族の存続にかかわっていた。ギフトの力は多岐にわたる。動物たちを呼び寄せる〈呼びかけ〉や、呪文で作り出したナイフをふるえる〈ナイフ〉のギフトなど。カスプロ家の跡継ぎである少年オレックに伝わるギフトは、〈もどし〉と呼ばれる破壊するギフトだった。目の力で発動するギフトの力が制御できないことがわかったオレックは、目隠しをして目を封印してもらう。

 オレックの母は、ギフトの存在など知らなかった低地の人間だった。低地では都市があり、神殿に仕えるために育てられた母は、読み書き、算術などを身につけていた。オレックと幼馴染のグレイは、この母から物語を聞かされて育ち、文字も教わった。父はギフトの訓練をするが、これは言葉ではいいあらわせない。一方オレクは母から文字を教わる。この対比が今後どのように物語にかかわっていくのかが、興味深いと思った。
 オレックが過去を振り返りながら、ギフトについて、そしてこの世の中について考えてきたことを丁寧に語っていく。後半にゆくにつれて一族を守らなければならない父と、期待にこたえられないと悩むオレックとの葛藤は、息苦しくなるほどだった。  なぜこの世に生まれてきたか、どう生きていくかを考えさせられる重厚な物語。

(2006.07.17読了)

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移動都市
"Mortal Engines"  
フィリップ・リーヴ(Philip Reeve)/作
安野玲/訳 2006.09発行 東京創元社(創元SF文庫)



 15歳のトムは、移動都市ロンドンに住む、史学士ギルドの三級見習い。久しぶりにロンドンが〈狩り場〉へでて、獲物を追っている最中だというのに、博物館で陳列品のほこりをはらわなければならない。つい我慢できずに仕事を放り出して展望デッキにでたものの、ケンカ騒ぎを起こしてしまい、罰として最下層での作業を言いつけられた。憂鬱な気分で作業場にいくと、憧れの史学ギルド長、ヴァレンタインがいて、親しく声をかけてくれた。捕獲した都市の解体作業に、ギルド長の娘キャサリンとともにトムは同行する。ところがそこに、ヴァレンタインの命を狙う少女、へスターが現れた。トムはとっさにヴァレンタインの暗殺を阻止したが、へスターとともにロンドンから落下してしまった。生まれて初めて地上に降り立ったトムは、謎の少女へスターと行動をともにすることになる……。

 世界を滅ぼした「六十分戦争」から千年たった遠い未来の地球が舞台。文明は滅び、地殻も変動して、生き延びるために人類は都市にスチームエンジンとキャタピラやタイヤを取り付けて、まるごと移動させることにした。何層にもそびえる大都市から、1層だけの小都市が乱立するなか、都市が都市を喰らう、弱肉強食の世界となっていた。そこに、もう都市は移動すべきでないという「反移動都市同盟」も絡んでくる。都市から都市へ渡り歩く飛行船隊や、そうした飛行船が集う空中都市など、イラストレーター出身の作者らしく、絵が浮かんでくるような場面が満載。特に都市が都市を「喰らう」ところは迫力満点。まさに喰いつくす。資源がないからリサイクルも徹底している。喰った都市の使えるものは、みんな再利用、それでもスティームエンジンの燃料が木材であるところがおもしろい。
 登場人物も多く、また地上に降りたトムとへスターの側からと、ロンドンで謎を追うヴァレンタインの娘キャサリンの側からと、交互に語られて場面もめまぐるしく変わるが、混乱することなく一気に読めた。
 ともに孤児であり、最初は互いに反発しながらも、悩みながら危機を乗り越えていくトムとへスターに、胸が熱くなった。

2002年ウィットブレッド賞(現コスタ賞)候補作
2002年スマーティーズ賞(現ネスレ子どもの本賞)9歳〜11歳部門金賞
2002年ブランフォード・ボウズ賞候補作
2007年星雲賞海外長編部門受賞

(2006.10.11)

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海賊ジョリーの冒険(1) 死霊の売人
"Die Wellenlauter"(a にウムラウト) 
カイ・マイヤー(Kai Meyer)/作
遠山明子/訳 2005.12発行 あすなろ書房



 ジョリーは、奴隷市場で自分を買い取った海賊バノンに育てられた、14歳になる少女。バノンの指揮のもと、いつものようにスペインの帆船を襲ったはずが、何者かの罠により、仲間たちは毒グモにやられて船も沈んでしまう。バノンの最後の叫びをきいたジョリーは、緊急脱出用の小舟にのって生き延びた。流れ着いた孤島でジョリーを助けたのは、ムンクという少年だった。実はジョリーは水の上をあるけるミズスマシと呼ばれる子供だったが、ムンクも同じミズスマシだった。ムンクの両親は、ミズスマシが生まれたいきさつをふたりに打ち明け、危険が迫っていると告げた。そこへ怪物があらわれて、ムンクの両親は殺されてしまう。ふたりはそこにやってきた死霊の売人に助けられ、航海にでることになる。

 18世紀、スペインとイギリス、フランスが覇権争いをしている時代。海洋冒険小説か、と思いきや、主人公は水の上を歩く能力をもち、出会った少年は、魔法を使える。少年の両親は死霊を働き手として農園を営んでいる。と謎がいっぱいの世界だった。
 3部作の1巻ということで、いろいろな謎が残されたまま終わってしまい、少々欲求不満。次から次へとでてくる謎や、怪物に引かれて一気に読んでしまった。
 死霊の売人の説明によると、この世界の隣に〈暗黒の海〉(マーレ・テネブロズム)があり、その海とこちらの世界の海との境目が〈大渦潮〉(マールシュトローム)で、そこから怪物がやってくるのだという。〈大渦潮〉が完全に開いてしまったら世界は終わりだ、といわれ、それを救うにはミズスマシであるジョリーとムンクの助けが必要だと説明されて、あるところにつれていかれることになる。しかし、ジョリーにとっては、世界を救うなんていわれてもピンとこない。育ての親や仲間たちの安否のほうが重大なのだ。死霊の売人も、まだまだ正体不明で1巻は登場人物の説明で終わったという感じだった。今後の展開楽しみだ。

(2006.06.08読了)

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海賊ジョリーの冒険(2) 海上都市エレニウム
"Die Muschelmagier"
カイ・マイヤー(Kai Meyer)/作
遠山明子/訳 2006.08発行 あすなろ書房



 
★シリーズ物につき1巻のネタバレを含みます★



 海上都市エレニウムを目指す途中、グリフィンを助けようとして船からおりたジョリー。グリフィンを助けたものの、気がつくとカーフェックス号の姿はなかった。グリフィンとふたりで橋を建設しているキャンプにたどりつくが、クラバウターの襲撃を受ける。そこへ助けにきたのは死霊の売人たちだった。ジョリーとグリフィンは無事にエレニウムへ到着した。
 そこでジョリーをまっていたのは、いまでは世界にふたりしかいないミズスマシとして、ムンクとともに〈大渦潮〉(マールシュトローム)を封じ込めるための訓練だった。先に訓練を受け、町の人々からの期待を受けたムンクは、有頂天になり魔法の力を増大させていく。その姿を見て不安になるジョリー。そして、ある決心をして行動に移すのだが。

 なぞめいたエレニウムのようすや、新しい生き物海馬など、今回も盛りだくさん。ジョリーは救世主といわれることよりも、まず自分の頭で考えようとする。現代ファンタジーらしく、善と悪の二元論ではない。「邪悪とはなにか」との問いかけに悩むジョリーの姿が詳細に描かれていて好感がもてる。ジョリーが海賊であり、これまでも人々からの略奪をあたりまえにして育ってきたというところがポイントなのだろうか。ジョリーにとっては試練の連続だった。
 プリンセス・ソールダットをはじめ、カーフェックス号の仲間たちも大活躍。こちらはジョリーよりもちょっと年長ゆえの余裕もあるが、悩みは同じ。ソールダッドとウォーカーは、なかなかよい感じ。大人だあ。ソールダットはかっこよくてほれぼれする。
 一方、思春期のムンクとグリフィンとの三角関係も気になるところ。うーん、どうなるんだろう。グリフィンはこの巻ではかっこよくなったし、ムンクは未知数だ。まだまだ謎がたくさんあって、最後の巻にむけて期待が高まった。

(2006.09.18読了)

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