1)伝統鍼灸であること
はり・灸は古来中国から日本に伝えられ、それぞれの国で独自の発展をしてきました。当然、日本では四季がはっきりしている、湿度が高いなど、その風土、国民性に合った治療法が生まれました。当院ではその日本の伝統的な理論を取り入れた本格的な治療法を行っております。
東洋医学では、人体を含めた全てのものを陰陽に分けたり、あるいは木・火・土・金・水の性質を持つ5つに分類をして考える点が特徴的です。そして、ツボがあり、それをつなぐ通り道「経絡」があり、そこを気というものが流れていると考えます。
西洋医学の専門家、いえ、ほとんどの方が絶対にそんなものはあり得ない、迷信だ、と一笑に付されることと思います。しかし、鍼灸師として臨床に携わっていると、じきに考え方は変わってきます。「東洋医学も捨てたものではない」と。なぜなら、西洋医学で効果が認められなかった症状が、劇的に変わったりしている現実があるからです。効果がなければ、はり灸など既に廃れているはずです。
西洋医学は人体から臓器、細胞、そして遺伝子まで細分化して考えるようになり、感染症などについては様々な病気を克服してきました。しかし、その反面、全体像を見失い、未だに治療できない病気も多くあるのが現実です。対照的に、東洋医学は良くも悪くも全体を、ぼんやりと診る医学です。両方の医学をうまく使いわけることが、健康な生活を送る上でとても重要なことではないでしょうか。
我々がなぜこの伝統鍼灸に向かったのか。それはある人物との偶然の出会いから始まりました。
2)師、福島弘道先生との出会い
我々新井康弘、敏弘が早稲田鍼灸専門学校在学中、たまたま先輩からの紹介で、当時から鍼灸師として有名だった福島弘道先生にお会いすることが出来ました。そしてなんと、見学に行ったその日から東洋はり医センターという治療院に入門するという幸運に恵まれたのです。先生は、東洋はり医学会という最大規模の学会の会長であり、古典鍼灸の中では卓越した技術を持ち、まさに名人とうたわれていた人物です。当時、東洋はり医センターでは、福島先生の治療を受けるために朝早くから行列が出来ており、一日100人ほどの患者さんが押しかけていました。
福島弘道先生の治療の様子ですが、治療と言うより、すっ、すっとまるで舞を踊っているような光景でした。一度、治療を見学している最中、どうしてその経穴(ツボ)にはりを打ったのかをお尋ねすると「因数分解を解くように、必要なツボが瞬時に出てくるのです。身体が自然に動き、いちいち考えてうっているようではまだまだだよ」と言われたことを昨日のように思い出します。そして常に日本全国の地方支部会で講演をする際にも、常に先生についてお世話をさせていただき、その間に多くのことを学びました。
「悪い部分を鍼で取る時の心持ちはね、巨大な岩を細い蓮の糸で引っぱるような心持ちで」など、この修業時代のときの福島先生の教えが今の巽堂の痛くない、繊細な治療法の土台になっています。我々巽堂の鍼は、とにかくブスブスと刺して、刺激を与える鍼とは一線を画すものです。 photo by Toshiko Sano
3)経絡治療
その東洋はり医センターで行われていた診察法の一つが脉診でした(当時の看板にも脉診、とうたってありました)。脉を診ることで、一本のはりがどのように身体に影響を及ぼしているのかをつぶさに診て、診察および治療を進めていく方法です。いわば常に患者さまの身体と対話し、その声に耳を傾けながら最善の治療を行うようなものです。福島弘道先生はよく「脉が全てを教えてくれる」とおっしゃっていました。ただし、脉を単にとるといっても、6点に分けそれぞれの強さ、深さ、速さ、流れなど様々な点を鋭敏に感じ取らねばならないため、習得に非常に時間がかかる難しい技術です。
経絡とはツボを結ぶ流れ、道のようなものです。その道には気、血が流れています。痛いところにはりや灸をするだけでなく、その経絡と呼ぶ流れを利用して患部から離れたところから治療をする方法です。ですからよく治療中に「先生、そこは痛くありません。私が痛むのは別の所です」と患者様から言われることがありますが、その時はまさに経絡治療を行っていると考えていただいて結構です。
本来その流れが病気の原因の一つであるという考え方が、伝統的な鍼灸だったのですが、昭和14年頃西洋医学に基づいた、患部そのものに刺激を与えるという方法が主流になり始めたため、数名の指導者達によりそれらと区別するように経絡治療という言葉が生まれました。
4)漢方はり治療
我々はさらに効果のある治療法を求め、七人の仲間で研究会を始めました。当時は、一日おきに集まり、終電ぎりぎりまで古典を読みあさり、討論をし(時にけんかになる寸前までいったこともありました)、はりを互いに打ってその手法で本当に良いのか検討しあいました。そしてこの会が現在の漢方鍼医会となり、巽堂のはり治療になっています。
5)気を動かす治療法
もうひとつ、巽堂の治療を語る上で欠かせない点がこれです。「気」というとうさんくさい、迷信と思われるかもしれませんが、東洋医学の理論書には一番最初に書かれているほど、存在して当然のものなのです。気を土台にして東洋医学は成り立っているといっても過言ではありません。しかし、実際の鍼灸業界においては、迷信とされ、治療に生かされていないのが現状です。理由を考えますと、感覚が養われないと気を感じることが出来ず、否定することに結びついてしまうのだと思います。しかし、ここ巽堂は気をとらえ、動かす、不足していれば補う、そんな治療を日々当たり前のこととして行っている治療院です
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