はじめに
途上国を中心としてモータリゼーションが急速に進み、世界中で自動車の需要が増大している。日本やドイツなどでは、中古車の輸出がここ数年で急拡大しており、その中には国内で廃棄されうるものも多数含まれている。2006年における中古車輸出台数の合計は、貿易統計上の数値で約114万台となっている。これは国内で使用されない状態になる車両の2割以上を占めている。
日本では、2005 年に自動車リサイクル法(使用済自動車の再資源化等に関する法律)が施行された。同法は、国内で解体される車両のみを対象としており、海外に中古車として輸出されるものについては対象外としている。中古車は輸出後、各国の制度のもとで処理されているが、制度が整備されていない国や、制度があっても事実上機能していない国もあり、必ずしも適正に車両が処理されているとは限らない。このような状況下で中古車輸出はますます増加傾向にあり、日本は輸出国としてこれにどう関わるべきかという議論が重要となってきている。
われわれはこれまで、日本国内の自動車リサイクル産業について実態調査を行ってきた。その調査の過程で、ロシアや中国を含めた各国の経済成長が強まり、日本の自動車リサイクル産業において部品や資源の輸出が重要になってきた。同時に、中古車の輸出が増大し、それに関わる産業も成長してきた。このように産業構造が変化するなかで、海外の実態を調査する必要性が増した。
一方、各国の経済成長は、自動車のみならず、様々な循環資源の需要を増大させた。とりわけ廃家電・廃電子機器類は、中国やインド、アフリカに不適正に輸出され、いわゆるE-wasteの問題としてメディア等で報道された。この問題は、廃棄物に関する政策研究の重要課題として扱われ、国内外で多くの研究者が実態調査を行った。われわれは、このような流れに沿って、自動車の国際リサイクルの研究を行った。
本研究は、国際化する自動車リサイクルの実態を調査し、これを明らかにするとともに、アジア全体におけるリサイクルの協力関係を築くための政策的提言を行うことを目的とする。まず、日本から輸出される中古車に関し、それらが輸出後にどのように扱われ、最終的にどのように処分されるのかについて、輸出台数の多い極東地域、オセアニアにおいて現地調査を行った。次に、モータリゼーションが進む東アジア、東南アジアの廃車処理事情を概観し、我々がこれまで調査してきた日本の事情およびその歴史と対比して課題を抽出していく。そして、客観的な立場、現実的な視点で、どのように国際的なリサイクル制度を構築していくのが望ましいかを議論し、政策的提言としてまとめていく。
2年間という研究期間において、われわれは定期的に研究会を実施し、ディスカッションを行ってきた。その過程で、国際リサイクルの研究を第一線で行っている研究者を多数招聘し、われわれの研究のヒントを多くもらった。また、自動車リサイクルの政策に携わっている政府関係者、および国際リサイクルの現場に携わっている各種事業者にも参加いただいた。これらの関係者とのディスカッション、研究会内でのディスカッションにより、予想以上に効果的に研究を進めることができた。
本研究の成果は、国内の社会科学・環境関連の主要学会による口頭発表のほか、様々な媒体で誌上発表された。とりわけ、『環境と公害』(岩波書店)36巻4号では、国際リサイクルの特集号が組まれ、研究メンバーの成果が公表されている。また、全日本自動車リサイクル事業連合(JARA)の国際会議(The 3rd Automotive Recyclers International Round Table Meeting 2007)では、「アジアの自動車リサイクルの実態と再生資源の循環制度設計」のフォーラムが設けられ、われわれの研究メンバーが登壇し、議論した。これらの成果の一部が本報告書にも含まれている。
当然ながら、本研究は、多くの方の支援なくしては、生まれるものではなかった。研究会にて講演をしていただいた細田衛士氏(慶應義塾大学)、森口祐一氏(国立環境研究所)、寺園淳氏(同左)、小島道一氏(アジア経済研究所)、布施正暁氏(産業技術総合研究所)、中石斉孝氏(経済産業省自動車リサイクル室長)、渡辺富夫氏(富士ゼロックス)ほか研究会に参加いただいた方には研究の方向性や現地調査に関して多くのアドバイスをいただいた。また、現地調査においては、面会していただいた各国の関係者のほか、これらとの接点を作っていただいた日本の解体業者、中古車輸出業者ほか多くの関係者にお世話になった。個々のお名前は割愛させていただくが、この場を借りて心より深くお礼を申し上げたい。
2007年11月吉日 研究代表:寺西俊一