自動車解体事業の現実と課題
― 第1回:カースチール(株) ―

貫 真英

『月刊整備界』 33巻8号, 2002年7月, pp. 36-39

 はじめに

 今,自動車の静脈産業は変革の時を迎えている.20世紀後半に起きた豊島事件によって社会に広く顕在化した使用済み自動車の問題は,21世紀,自動車リサイクル法が制定される新たな段階を迎えようとしている.法律の効力および関連業界への仔細な影響は未知数であるが,業界構造を激変させる十分な可能性を秘めていることは間違いない.

 本連載は,そのような時代の流れと問題解決の可能性を考察する上で,まず自動車解体作業の現場で何がおこなわれているか把握すべくおこなった,自動車解体業者巡りの「記録集」である.自動車解体業者とは,カーディーラや自動車整備業者などから使用済み自動車を引き取り,有用な部品を取り出す作業を行う者であり,静脈過程において重要な位置を担っている業者である.さらに,最近では解体処理後の部品のリユースで業績を伸ばしており,彼らの成功と課題を見聞することは,自動車に限らず今後の静脈産業のあり方を考える意味で非常に重要である.

 現場で見聞する「現実」は非常に新鮮かつ複雑,難解である.どのような問題があり,その問題に各事業者および業界がどのように対処しているか知ることは,我々研究者にとって貴重であるだけでなく,業界関係者はもとより一般の人々にとっても重要であると確信する.本連載が,社会的重要性に反して久しく注目されてこなかったこの業界が,今後理解されていく一端を担えれば幸いである.

 第1回目の今回,紹介する事業者はカースチール株式会社である.同社をまず取り上げるのは,会社の設立当初から,業界に求められる今日的ビジョンを備えていると同時に,今後の解体事業者のあり方の1つの雛型となりうる会社である点に注目した.また,同社の概要を見ていく中で,自動車解体業のイメージを掴んで頂きたい.


 カースチール株式会社

 カースチール梶i以下,カースチールと呼ぶ)は1970年に設立された自動車解体業者である.本社は群馬県前橋市にあり,従業員数は69名(役員18名),売上げは平成13年度3月期決算で8億円を超え,その売上げはここ数年確実に上昇している.また自動車の処理台数は年間24,700台であり,これは群馬県で排出される使用済み自動車の約25%にあたり,自動車解体業者としては非常に大規模なものである.

 同社の特徴は,その主なものとして以下の4つが挙げられる.第1にディーラー出資によって作られた会社であること,第2にNGPグループという中古部品販売グループに属していること,第3に近年中古自動車部品輸出事業に力を入れていること,第4に早くから環境に配慮した解体処理を行ってきたことである.以下これらの特徴を順に見ていこう.


 先駆的な企業体

 カースチールは群馬県内のディーラーが全社参加して設立された自動車解体業者である.1970年会社設立当時,群馬日産自動車の社長であった天野丈夫氏が,主に2つの問題意識の下,県内のディーラー会社に呼びかけて作られた.その問題意識とは,「自分達の作った自動車の後始末は自分達の手ですべきではないか」,また「資源の乏しい日本においては廃自動車のリサイクルを進めるべきではないか」,というものであった.これら天野氏の問題意識は現在の拡大生産者責任(注1),廃棄物リサイクル法の流れを先取りしたものと言え,その先見性は高く評価されるべきであろう.

 このように県内のディーラーが全社参加して作られたカースチールは,その試みとして先駆的であるが故に(注2),必然的に,その業務内容は他の解体業者と異なった特徴を持つ.それは,第1に,取り扱い自動車台数がある程度保証される一方,仕入れ先も群馬県下に限定されていること,第2に,ディーラーから車を引き取り解体するために,買い替えによる下取り車,しかもそのままでは中古自動車市場には流れないような年式の古い車を扱うことになること,の2つである.とりわけ,後者は,事故車を中心に扱うユーパーツ(次回参照)とは業務展開の上で決定的な違いをもたらしている.このことは後に中古自動車部品輸出事業の説明箇所で述べる.


 販売業者としての側面

 同社は,「NGPグループ」に中古部品販売強化策として平成8年6月より所属している.NGPグループ(本部:東京都港区)とは自動車中古部品販売の全国ネットワーク組織であり(注3),150社以上(200拠点以上)の参加社を有する.各社はグループ独自の自動車部品在庫情報網によって繋がっており,中古部品の品質・在庫は厳重に管理されている.また,このグループへの参入には一定の条件があり,3,000社あるとも5,000社あるとも言われる自動車解体業界にあって参加社は優良企業の集まりといえる.

 カースチールのNGPグループへの参加は,「解体業者」としては地域に密着しなければならない一方,「中古部品販売業者」としては全国,さらには世界を視野に入れなければならないという,同社および業界が持つ二面性が現れていると言える.中古部品の販売は,その業態の特殊な性質上,各企業ではその供給が不安定となるため,その販売には規模の経済が必要であり,安定した供給網ができてこそ潜在的需要も掘り起こすことができる.近年の流通・情報技術の革新により,遠隔地を販売対象とする付加費用が減少したことは,自動車中古部品市場の整備に重要な役割を果たしている.カースチールはそのように新しく整備されつつある中古市場の流れに的確に対応し,中古部品販売に力を入れている.


 カースチールの売上構成

 中古自動車部品輸出事業は,上述した中古部品販売に力を入れている一環であり帰結の1つである.カースチールは昭和58年3月より中古自動車部品輸出事業を開始,現在では売上の大きな柱として成長している.輸出国はセネガル,ギリシャなど途上国であり,これらの国からバイヤーが来社し,サイトに入って中古部品を見定め買い付ける.主な輸出品はエンジンやドライブシャフトなどの足回り部品である.エンジンは車以外にも小型船舶用など多様な用途があり,また足回り部品は未舗装の道路がまだ多い途上国の道路事情から消耗しやすく,需要が大きい.

 ここで,カースチールの売上げ構成比を昭和59年と平成12年度で比較しよう(注4).昭和59年には鉄・アルミという素材リサイクルによって売上の73.9%を占め,部品リサイクルによる売上は26.1%であった.これが平成12年度には,前者が15.8%,後者が78.6%,(さらにフロン処理徴収金が5.6%)と比率が逆転している.この背景には円高,バブル崩壊などによる鉄スクラップ価格の暴落があり,決してカースチール特有の現象ではない.しかし,このように素材リサイクルから,手間が掛かるがより付加価値の高い,部品リサイクルへの移行を行い得たことが同社の現在の発展に繋がっている(注5).

 鉄スクラップを始めとする素材価格の暴落により中古部品販売に力を入れるようになったカースチールであるが,次回見るユーパーツほど中古部品販売に特化していない.この点については,ユーパーツが損保と提携し事故車を中心に扱っているのに対し,カースチールはディーラーと提携し下取り車を中心に扱っていることと深く関わっていると言える.事故車の特徴は,台数は比較的少なく車の年式は新しいものが多いことであり,これに対して下取り車でしかも解体業者に持ちこまれる車の特徴は,台数が多く年式が古いことである.これらの特徴から導かれることは,事故車を扱う場合,その部品は新しく需要が大きいものが多く,より高値での販売が期待できるのに対して,下取り車の部品は,同車種が国内では同時期に廃車時期を迎えるため国内需要が少なく,年式の古い部品でも需要がある海外に販路を求める必要があることである(注6).故に,カースチールの中古自動車部品輸出事業強化はディーラー出資によって下取り自動車を処理する会社として,利潤追求上での帰結といえる(注7).


 環境への配慮

 もう1つ,ディーラーからの下取り車を扱うことに起因することは,古くかつ台数が多いために廃棄される量も多く,より環境に配慮した適正処理が重要課題となることである.この点に関してカースチールは,平成11年にはリサイクル推進事業の功労に対し通産大臣賞を受賞,また同年,フロン回収・破壊という環境保全の貢献に対し群馬県環境功労賞を受賞しており,同社の適正処理活動には大きな注目が集まっている.

 フロン回収・破壊が適切に行われているかどうかは,ある意味,その解体業者が環境保全を考慮した適正処理を行っているかどうかのバロメータになるだろう.なぜならその処理には法的義務がないにもかかわらず,もっとも手間と設備が必要とされ,適正処理を行おうという積極的意志なしには成立し得ないからである.

 廃棄自動車のエアコンから出るフロンガスが問題になったのは比較的近年であり,平成9年に通産省が使用済み自動車リサイクルイニシアチブを公布し,フロンの適正処理を指導した.これに対応して,平成10年には群馬県自動車ディーラーの集まりである自動車販売店協会の委託で同社はフロン回収・破壊を開始する(注8).この自動車販売店協会からカースチールへの委託という経路は,ディーラー出資によるカースチールの存在が,あたかも仮定される拡大生産者責任(EPR)下の静脈企業のように機能しているという意味で,非常に興味深い.もっとも,自工会ルート,その他の解体業者への委託,という他のフロン回収・破壊ルートも存在するが,自前でフロンの破壊装置を持っている解体業者はほとんどない.いずれにせよ,カースチールではフロンを積んでいる全自動車に関しフロンの回収・破壊を行っており,その処理量は平成12年度において,処理台数19,664台,フロン処理量9,566sである.

 カースチールではフロンの破壊費用として2,000円のみ引き取り時に支払ってもらっている.この価格は下取り車を取り扱う近隣の解体業者と比較して非常に低く,本来必要な処理費用より安く設定されている.カースチールでは6台の車を並べて同時にフロンを回収するなど効率的回収に努め,フロンの破壊処理に伴って発生する使用済み石灰の2次利用を模索するなど,企業努力に努めている.またフロン以外にもエアバッグの適正処理にも力を入れている.このような適正処理への努力の一環として平成12年には産業廃棄物処分業(中間処理施設)の資格を取得した.


 裏舞台から表舞台へ

 以上がカースチールの主な特徴であるが,最後に同社が,「社会的価値の追求」,「社員の生き甲斐・夢」といったものを経営理念に掲げ大切にしていることを補足する.このことは,これまで自動車産業の裏舞台であり,零細企業が多く統計的に正確な数さえ把握されてこなかった自動車解体業にあって,成功している会社が最も大切にしてきたものとして十分留意すべき点であると思われる.

(ぬき まさひで ・ 一橋大学大学院経済学研究科)
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注1:
拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility : EPR)とは,生産者の製造責任を廃棄段階まで拡大する一つの環境政策概念.90年代に入ってOECDを中心に盛んに議論されている.その概念の仔細は必ずしも固まっていないが,ヨーロッパの国々を始めとして実際の政策に応用されている.
注2:
近年同社を見習って設立された解体会社が2つある.活城自販リサイクルセンター(茨城県東茨木郡美野里町),協同組合長野県中古自動車リサイクルセンター(長野県小県郡東部町).
注3:
同様な自動車中古部品販売組織はビッグウエーブ(本社 : 名古屋市),部友会(本社 : 熊本市)など多数ある.
注4:
カースチール鰍フ売上構成比の推移.同社よりご提供いただいた(*ここには未掲載).
注5:
この移行は決してスムーズに行われたものではない.カースチールのような優良企業もこの間大きな赤字に陥っている.
注6:
自動車のエンジンは約50万q走るように作られているが,国内で実際に走るのは平均10年10万q程度(年1万q)とのこと.ちなみにタクシーは約40万q(年4万q),アメリカでは平均17年34万q(年2万q)走っている(竹内啓介氏の談話による).
注7:
もう1つの帰結にタイヤ販売がある.中古タイヤ販売は利鞘が小さいため中古部品販売に力を入れるユーパーツも行っていない.しかしカースチールでは,同社の処理で大量に排出されることと,併せて新タイヤも販売することによって規模の経済性をもたらし,平成元年より新・中古タイヤ販売強化方針を決定した.
注8:
カースチールで導入されたフロン破壊機は,群馬大学大沢教授・新明和オートエンジニアリング株式会社により開発されたプラズマ破壊方式である.これに伴い群馬県よりフロン無害化処理施設整備費の補助金1,000万円を受領している.
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* 本稿は,2001年5月19日に同社を訪問した調査レポートが元になっている.訪問に際しては,中嶋朗社長はじめ,従業員の方々には貴重な時間を割いていただき,心より感謝申し上げる.また,本連載は竹内啓介氏より全面的協力を得ており(拠|内環境リサイクル研究所社長,JAPRA理事),あわせて感謝の意を表したい.
執筆に際しては,今後の執筆メンバーでもある,阿部新,関耕平,野田浩二,平岩幸弘の各氏の協力を受けたが,残されたであろう誤りはすべて筆者によるものである.なお,連載の調査実施にあたっては,拠|内環境リサイクル研究所より資金援助を受けた.

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