自動車解体事業の現実と課題
― 第3回:(株)大橋商店 ―

平岩幸弘

『月刊整備界』 33巻10号, 2002年9月, pp. 34-36

 はじめに

 今回の連載で取り上げる椛蜍エ商店は,従来型の『解体屋』から大手解体業者へと成長した企業の1つの典型である.1955年9月に現会長の大橋新平氏によって横浜市南区に設立された.当時,社会は全般的にモノ不足の時代で,廃車といえども中古部品や鉄スクラップが全て高値で売れていたという.この頃はとにかく多くの廃車を壊し,それらを鉄スクラップとして売却して利益を上げていた.現在は2代目社長の大橋岳彦氏に引き継がれ,従業員数は23名,本社(横浜市磯子区)では中古部品の販売業務を,金沢営業所(横浜市金沢区)では廃車の入庫からプレス作業までの解体業務を行っている.現在の月間処理台数は約500台であるが,最盛期(1990年頃)には約750台が処理されていた.神奈川県内のトヨタ系列ディーラーと契約しており,そこから持ち込まれる廃車が処理台数の約8割を占め,その他では損保会社などから事故車が持ち込まれている.2001年3月期における年間売上高は5億2,000万円で,業界でも大規模の部類に属する.そして,従来型の『解体屋』と決定的に違う点―同時に大企業に共通している点でもある―は,中古部品売上の割合が年商の大半(大橋商店は約8割)を占めていることである.

 本稿では,解体業者が直面している厳しい現状を概観した後,この業界で生き残っていくために大橋商店がどのような戦略をとっているのかを見ていくことにする.


 解体業者が直面する「板ばさみ」

 現在では,鉄スクラップ等回収資源依存型の『解体屋』の業務だけではもはや収支が合わず,経営が立ち行かないような状況になっている.その背景として,第1にディーラー等の仕入先から廃車を引取る際の逆有償価格が安価であるために,それだけでは適正な解体処理を行うための費用をカバーすることができない,第2にシュレッダー業者に支払う処理費用が急騰している,という2つが主に考えられる.いずれも,単に逆有償化しているというだけではなく,ディーラーやシュレッダー業者に対する価格交渉力も大きく影響を及ぼしている.大橋社長の言葉を借りると「ディーラーとシュレッダー業者との間で板ばさみにあっている」という状況である.


 ディーラーと解体業者

 まず,ディーラーと解体業者の関係から考えてみよう.そもそも解体業は「フォークリフトとトラックさえあれば誰でも始められる」と言われるくらい容易に参入できる業界で,家族的な小規模経営の解体業者が多いのもそのためである.一方,廃車の供給元はディーラーがほとんどで且つ地域毎に限定されている.廃車がまだ有価物であった頃,仕入競争が激しい地域における解体業者は,利益が生じる限り他社より高い値段を提示して廃車を買取るような状態にあった.近年ようやく廃車の引取りが逆有償になっても,各業者間ではより安い値段を提示するといったシビアな仕入れ競争が相変わらず続いている.つまり,ディーラーと解体業者では伝統的に前者の方が価格交渉力が強い傾向にあり,逆有償になったとしても十分な処理費用を受け取ることが難しいのだ.

 そのような中で,適正処理を推進している解体業者にとって問題となるのは,環境汚染を引き起こすような不適正処理が可能な状況下では,不適正処理業者は適正処理業者に比べて逆有償の価格を低く設定することができるため,たとえ環境に配慮した優良な企業であっても市場から排除されてしまう可能性がある,ということである.このような事態を回避し,安定した仕入台数を確保するために,適正処理業者は逆有償の価格を極端に低く設定するか,あるいは有償で買取るという戦略をとらざるをえない.実際に,大橋商店では適正な解体処理のために必要な費用を逆有償で賄うことができず,解体業務に限ってみると赤字になっているという事態に直面している.


 シュレッダー業者と解体業者

 次に,解体業者がシュレッダー業者へ廃車ガラを引渡す際の逆有償価格(解体業者にとっての処理費用)が急騰している点については,大橋商店を例にとると,1トン当たり(乗用車約2台分)の処理費用は2001年4月時で4,000円だったものが,2001年10月時には8,000円に達している.その背景として,第1に鉄スクラップ価格の急落,第2に最終処分場の逼迫による処理費用の高騰が挙げられる.いずれもシュレッダー業者の収益を大きく減少させる要因となっている.殆どの解体業者は廃車ガラの処分をシュレッダー業者に委託しているため,シュレッダー業者を抜きに廃車ガラを処分することはできない.そのため,現在ではシュレッダー業者の処理費用を,逆有償というかたちで解体業者が肩代わりしている状態になっている.つまり,鉄スクラップの暴落や埋立処理費用の高騰は直接的に解体業者の費用負担として圧し掛かっているのだ.

 加えて,シュレッダー業を営むためには大型の設備(初期投資は数億円規模)が必要であり,特に関東・東北地方ではシュレッダー業者が少なく寡占状態にある.また,業界団体(日本鉄リサイクル工業会)が組織されており,解体業界に比べて発言力も大きい.現在はシュレッダー能力が過剰気味であるといっても,解体業者とシュレッダー業者では後者の方が価格交渉力が強い傾向にあり,特に東日本ではシュレッダー業者の言い値を処分費用として支払っているのが現状である.

以上で述べたように,解体業者にとって「川上業者」であるディーラーと「川下業者」であるシュレッダー業者に対して解体業者は価格交渉力が弱い立場にあるため,適正処理に要する費用をカバーすることができず解体業者の収益を圧迫している.処理費用の負担に耐えられなくなった解体業者は不適正な処理を行ったり,廃業に追い込まれたりしているケースも見られる.全国に数千社あるといわれる中小の解体業者には厳しい現実が突きつけられている. 昨今議論されている自動車リサイクル法やマニフェスト制度がこのような問題を抱える解体事業にどのようなインパクトを与えるのかについては,未だ推論の域を脱しておらず,今後の重要な研究テーマである.


 大橋商店の戦略

さて,このような厳しい状況の中で大橋商店が展開してきた戦略は,第1 に中古部品販売事業への転換であった.つまり,もはや収支の釣り合わない従来型解体事業から大きな収益を見込める国内向け中古部品販売事業へと転換し,その収益で適正処理費用をカバーするという事業転換を成し遂げたことが,現在の大きな成功に繋がっている.

大橋商店における中古部品販売事業の軸は,同社が1993年に加入した「NGPグループ」というネットワークを介しての販売活動である.大橋商店の保有する在庫点数は約8,000点で,それらは全てNGPグループの在庫として登録されている.そのうち,同社の月間販売量は1,500〜2,000点である.既にこれまでの連載記事で述べているように,広範囲をカバーし且つ豊富な在庫量を有する販売網が確立されてきたことにより,大橋商店でも堅調に売上が伸びている.また,一部で中古部品輸出業務も行っている.

そして第2に,環境に配慮した適正処理に注力していることを挙げておこう.大橋商店は産業廃棄物収集・運搬の免許を取得しており,1987年には環境保全と適正処理を推進している「TCRグループ」(関東地区の解体業者で結成)に加盟するなど,積極的に取り組んでいる.もちろん,処理委託先も全て産業廃棄物取扱の許認可を受けている企業である.

同社資料によるとフロンガスの回収・破壊量は,1999年度が1,800キログラム(解体台数4,570台・1台平均396グラム),2000年度が1,776キログラム(解体台数4,701台・1台平均378グラム)である.大橋商店ではカースチールのようにフロン破壊装置を所有していないため,ボンベは神奈川県フロン回収推進機構のルートにより指定のフロン破壊処理工場へ運ばれる.このとき,フロン破壊費用としてボンベ1本(約20キログラム・乗用車約50台分)につき約15,000円を支払っている.

液体抜き取り作業においても,車体に残された廃油・廃液をそのまま放置すれば土壌汚染や火災等の原因となるため,1台ずつ丁寧に回収している.回収後は,廃液はドラム缶(200リットル)1本につき6,000円を支払い,廃油はゼロ円でそれぞれ専門の処理業者に引き取ってもらい処理される.

ただし,先にも論じたように,解体業界を取巻く現状では適正処理に積極的に取り組んでいる企業が競争上不利な立場にあり,不適正処理を行うインセンティブが生じかねない状況になっている.そのような中にあって大橋商店が積極的に適正処理を行っているのは,単に業界のイメージアップというだけでなく,自動車リサイクル法やマニフェスト制度の動向,あるいは関係業界や消費者の環境意識の高まりを鑑みて「長期的な視野でみれば適正処理を推進することが事業を拡大し成長するための最善の戦略」と考えているからであろう.今後も,中古部品販売で得た収益で適正処理費用を補填するといった状態が続くと見込んでいるが,同社の適正処理に対する姿勢は変わることはないと思われる.

(ひらいわ ゆきひろ ・ 一橋大学大学院経済学研究科)
----------
*本稿は,同社見学会(2001年9月28日実施)の調査レポートに加筆・修正を加えたものである.前稿の執筆にあたり,大橋岳彦社長,竹内啓介氏(ジャプラ理事),及び慶大山口光恒研究会(第6期)自動車廃棄物班の各氏より多くの助言を頂いた.深く謝意を表する.ただし,残されたであろう誤りは全て筆者に帰するものである.なお,本連載の調査実施にあたって拠|内環境リサイクル研究所より援助を受けている.

<< 連載Top | 研究成果