自動車リサイクルの現実と課題
― 第3回:解体事業への新規参入/(株)CRS埼玉 ―

平岩幸弘

『月刊整備界』 35巻10号, 2004年9月, pp. 26-28

 近年,全国各地で解体事業への新規参入が相次いでいる.もともと解体業は,経済的な意味での参入障壁はそれほど高くない産業である.そこへ自リ法という新たな規制・仕組みが導入されたことによって,自動車静脈セクターにおける制度的インフラが整備され,それが結果的に解体事業への参入誘発要因になっているのである.

 参入事例にみられる特徴は,その多くが自動車静脈産業の既存企業による垂直統合的な形態によるものであり,いずれの業者も年1万台以上の処理能力を備えた大規模工場ということである.それらを出身産業別にみると,大雑把に@川上産業(自動車ディーラー,整備業等)からの参入,A川下産業(破砕,鉄スクラップ関連等)からの参入,B川上・川下の両産業からの協調的な参入(エルバ北海道等),C全くの異業種からの多角的な参入,という4つに大別できる.

 このなかで最も活発なのは,川下産業からの参入である.そこで本稿では,その最新の事例紹介として,海RS埼玉を取り上げる.同社が,既存の経営資源をどのように活かし,解体事業にどのような見通しを持っているのかを具体的に見ていきたい.特に,事業の投入と産出の部分,すなわち,廃車仕入れ,Aプレス,中古部品販売の3つに注目した.いずれの点も,解体事業に参入した企業にとって,戦略上の重要課題だからである.


 CRS埼玉の概要

 同社は,川下業者である破砕業の叶ツ木商店と,総合商社の双日鰍フ共同出資により設立された解体業者である.この両社はもともと取引関係が強い.青木商店では,従来の破砕事業に加えて川上の廃車解体に遡ることで事業の裾野を広げようと考え,一方の双日では,鉄スクラップ流通の実績や廃棄物マニフェストシステムのノウハウなどを活かした新たなビジネスチャンスを模索していた.この両社の思惑が重なり,約3年間の調査・準備期間を経て,今年6月に操業を開始した.

 資本金は3億4000万円,従業員は24名,設備投資は約10億円に達し,月間2000台の処理能力を有する関東屈指の大規模工場である.廃車ガラを破砕処理せずに直接電炉に送り込むという,「全部再資源化」方式を採用している.まだフル稼働はしていないが,軌道に乗った2年後に,年商30億円を目標としている.


 廃車の仕入れと適正処理

 さて,解体事業へ参入する上での最初の(そして最大の)ハードルは,廃車をいかにして確保するかという点である.廃車獲得競争が激しさを増す中,いかに大規模業者とはいえ,新参の同社が月々最低1000台前後を安定的に仕入れることは容易ではない.

 そこで同社がとった方法は,地域内の廃車を独占するために高値で仕入れるといった価格競争は一切行わずに,逆に,廃車を仕入れるために適正処理を徹底するというものであった.というのも,近隣のディーラーやリース会社,オークション会社などの大口排出業者には,排出者責任という認識(というより危機感)が浸透してきており,実際,取引価格以上に,適正処理を条件とした解体業者との取引を望んでいる企業が多いという.同社の三澤専務は,「きちんと設備投資して,ちゃんと適正処理していれば,モノは集まってくる」と語る.

 これと関連して興味深かったことは,前処理段階において整備工場のような方法を取り入れていたことである.通常の解体工場のような流れ作業ではなく,1台ずつリフトアップして前処理を行っており,そこで作業する従業員も大半が元整備・修理工場出身者である.そのため,工場内にガソリンなどの液体が飛散しておらず,非常に清潔な印象を受けた.こういった工場設計は,既存の解体業者にはない,参入業者ならではの発想といえよう.

 さらに,整備工場からの廃車収集策として,親会社の双日が日本興亜損保と提携して開始した,整備業者向け自リ法対応サービス「NKリサイクルネット」の活用がある.その中に,双日が日本興亜損保の代理店(整備・板金・GSなど約2万店)に対して,適正処理を行っている全国約50社の優良解体業者を紹介し,そこへ優先的に廃車を流すという仕組みがあり,CRS埼玉はその直営工場の1号店となっている.つまり,適正処理の面で他の解体業者と徹底した差別化を図り,商社流の廃車流通ネットワークを組み合わせることで,組織的な廃車の収集システムを得たのである.


 全部再資源化とAプレスの品質

 破砕業者である青木商店がシュレッダーレスの全部再資源化方式の工場を設立したのは,やはり,ASRリサイクル料金の払渡し制度に収益性を見出したからであろう.しかし,この方式については,「精緻な解体」の方法や技術が確立されておらず,Aプレスの品質向上のためには解体費用の大幅増が不可避で,しかも電炉側がそのAプレスを受入れるかどうかが不明であるなど,悲観的な見方が多勢である.そういった不確実性は参入者にとっては大きな障壁となる.

 それに対して,同社では,全部再資源化のために必要な「精緻な解体」に関して,銅の除去,すなわちワイヤーハーネスの取り外しに徹底的にこだわった.そのための研究を,青木商店を中心に2年前から始めている.様々な車種でハーネス除去作業のシミュレーションを行い,そのAプレスを実際に溶かして成分分析にかけ,銅含有量が0.3%以下になるような最も効率的なハーネス除去方法を開発した.そのノウハウは既に同社で実用化されており,前処理段階での手作業と,解体処理段階での重機(ニブラ)によって,1台につき約10分ほどでハーネスを取り外している.

 こうしてできたサイコロプレスは,もはや通常のAプレスではない.銅分0.3%以下が保証されたより高品位の鉄鋼原料となり,その分,通常のAプレスよりも高値で電炉に卸すことが可能になったのである.


 中古部品販売事業

 そして第3に,中古部品販売をどのように展開するかという点である.実は,川下の破砕業者が解体事業への進出する大きな動機の1つが,中古部品市場に参入できるということにある.価格変動のリスクがある鉄スクラップ事業に対して,単位あたりの付加価値がより大きく,需要の急成長が見込まれている中古部品ビジネスは,彼らにとって大きな魅力なのだ.

 同社においても,先述したようなAプレスにも注力しているものの,売上げの柱には中古部品販売を置いている.当面は,大量に仕入れた低年式廃車から生産した大量の中古部品をNGPのネットワークを通じて販売していき,今後は,双日を通じての輸出事業も視野に入れている.

 もちろん,数少ない高年式廃車からより希少で高値の部品を生産・販売するという,中古部品販売専門業者のような形態の方が収益性は高いかもしれない.また,既存の解体・中古部品業者に比べると,同社は,中古部品ビジネスのノウハウ(高年式廃車の収集,売れ筋商品の見極め,販路の確保等)の蓄積では遅れをとっているのも確かである.

 だが同社では「自リ法がきっかけで中古部品の認知度が高まってくれば,やがては価格競争,品数勝負,薄利多売の域に入っていく可能性が高い」(三澤専務)と市場動向を予測している.そうなると,同社のような低年式部品の大量生産・大量販売という方式も十分な競争力を持ちうる.さらには,今後リサイクル部品の「製販分離」が進むならば,同社が関東における有力生産拠点になるという可能性も決して小さくはないだろう.


 おわりに

 30年前,川下産業からの参入といえば,叶L生(大阪府)に代表されるように,破砕ラインの横に解体工場を付設するという,完全な垂直統合の形態であった.廃車を直接仕入れることで,原材料の確保や,解体‐破砕プロセス全体を通じた「規模の経済」(=規模を拡大することによる生産性向上・費用低減の効果)を追求することに主眼が置かれていた.加えて,鉄スクラップ市場が低迷すると,中古部品市場への参入を求めて解体事業へと乗り出す業者も現れた.

 そして自リ法施行前の現在,CRS埼玉のように,複数の企業が共同で全部再資源化方式の工場を設立する事例が多く見られる.今後も全部再資源化というトレンドが続くのかどうかは予測不能だが,川下産業からの解体事業への参入や大規模工場の建設は当面は続くとみてよい.

 しかし一方で,こうした参入が進むほど,徐々に解体事業への参入障壁が高くなるのも確実である.既存業者は廃車流通を排他的に支配し,解体技術や分解・選別技術が向上し装置化が進むにつれて,規模の経済も大きくなる可能性がある.すでにそういった兆候は現れており,地域によっては処理能力が過剰になりつつある.

 ゆえに今後は,単に新鋭の大型解体工場だけ建設しても,成功が約束されるわけではない.言い換えれば,本稿で紹介したような,それまでに築いてきた様々な経営資源(流通・販売網,経営能力,技術力,研究開発など)をいかに利用し,解体事業と有機的に結びつけることができるのかが参入戦略の要諦となってくるだろう.

 そして,果たしてそういった試みが成功するのか否か,その意味でも,今後の同社の動きに注目していきたい.

(ひらいわ ゆきひろ ・ 一橋大学大学院経済学研究科)
----------
* 双日およびCRS埼玉取材(6月17日実施)の際,丸山貴広氏(双日・新規事業開発G),三澤宏司氏(CRS埼玉専務)に大変お世話になった.記して感謝する.

<< 連載Top | 研究成果