自動車リサイクル法の本格施行まであとわずかとなった.この7月には,解体業,破砕業の許可申請が始まり,また自動車メーカー各社は3品目のリサイクル料金を発表した.一方で,関連事業者の間では,依然として廃車仕入れ競争が激しい.当然ながら,廃車がなければ自動車のリサイクルはできないため,法が本格施行する前に,いかにして廃車を確保する体制を整えるかが各社の関心事である.
6月の末のことだが,筆者はハンガリーを訪れる機会があった.このとき,友人の案内で同国の自動車リサイクル関連のとある組織を訪問することができた.この組織は,スクラップ回収業者が共同で出資したもので,解体業者(部品回収業者)や整備業者を参加させ,共同で廃車の引取事業を行っている.今回は,この訪問記録とともに,共同廃車引取事業について考えてみたいと思う.
カーレック
ハンガリーは,ヨーロッパの中央部に位置する.面積は,日本の約4分の1,人口は日本の約10分の1である.1990年に民主政権が成立し,以後,西欧諸国へのキャッチアップを進めてきた.そして,今年5月にポーランドなどとともにEUに加盟した.
EU加盟を受け,ハンガリーでは,EUの基準に合わせるための各種法制度化が急がれている.自動車のリサイクルについても同様であり,2000年にEUが発布したELVに関する指令を国内法化する準備を進めている.以前の本誌連載においてドイツの事情を紹介したが,EUの制度においては,廃車を自動車メーカーが無償で引き取り,リサイクルしなければならない.そのため,ハンガリーにおいても同じような制度が近いうちに成立する予定である.
さて,今回訪れたところは,首都ブダペストに位置するカーレック使用済自動車処理協会(CAR-REC End of life vehicles Treatment Association. 以下「カーレック」)である.この組織は,スクラップ回収業者6社の共同組織として2003年に設立された新しいものである.
加盟6社のうち,4社は国内に10か所以上の工場を持っており,廃車以外も含め,各社それぞれ15万トン前後の処理能力がある.残りの2社は,ブダペスト市内に1工場を所有しているのみであるが,5万から10万トン程度の処理をすることから,規模としては小さくはない.つまり,カーレックは,自動車のリサイクルにおける大規模企業のグループといえる.
引取・処理ネットワークの構築
EUの廃車処理制度では,自動車メーカーが廃車を無償で引き取らなければならない.加えて,自動車メーカーは引き取った廃車の処理(リサイクル,処分)責任もある.よって,これらを実行するために,全国的な廃車引取窓口と処理工場を必要とする.自動車メーカーは,通常,既存の整備業者や処理業者にこれらの業務を委託することで対応している.
カーレックが存在する背景には,この廃車処理制度がある.その役割は,自動車メーカーに代わって,廃車の引き取りと適正処理のための全国的なネットワークを構築することである.引取窓口は,カーレック加盟6社の工場・営業所と,これに加えて,各地の解体業者,整備業者に参加してもらう.そして,それぞれの引取所において引き取った廃車を加盟6社のいずれかに供給し,適正処理をする.
加盟各社は,直接ユーザーから引き取る廃車以外に,解体業者経由で部品取りされた廃車ガラも引き取る.カーレックの担当者によると,ハンガリーでは,部品取りを行なう解体業者は300社あるという.このうち,引取所としてカーレックのネットワークに参加する解体業者は約50社である.これは,カーレックの基準によって選ばれた業者である.
各引取所で引き取った廃車は,6社で取り合いになることはなく,地域で棲み分けをしている.ハンガリーで排出される廃車の数は年間15万台程度であり,日本の500万台と比べると圧倒的に少ない.この15万台のうち,約3割がカーレックによって引き取られる.
日本でも,同業者がグループ化することはよくある.これらは,単なる親睦団体としての性格のものから,処理などの事業を行うものもある.しかし,カーレックのように,引取事業を大々的に行うグループは,あまり聞かれない.筆者は,カーレックの訪問後,なぜ日本でこのような共同事業が普及しないのかについて考えた.
なぜ共同事業が成立するのか
カーレックのような廃車引取・処理ネットワークが成立するためには,関係者すべてが何らかのメリットを得なければならない.まず,加盟6社については,廃車処理制度の下,メーカーから委託を受けた処理業者として廃車を合法的に確保することができる.もちろん,自動車メーカーはカーレック以外の処理業者にも並行して委託する可能性はあり,廃車を独占できるわけではないが,少なくとも委託を受けていない同業他社とは差別化を図ることができる.
次に,廃車の引取窓口としてカーレックのネットワークに参加する整備業者や解体業者にメリットはあるのだろうか.これらは,本来なら,よい条件の引渡し先があればよく,カーレックに参加する必要性はない.しかし,その背後に廃車処理制度がある.カーレックが自動車メーカーと契約するのであれば,カーレックに参加しておけば,メーカー公認の引取窓口となることができる.
廃車の引取窓口は,全国的に万遍なく設置しなければならない.そのため,窓口として委託する事業者もそれだけ必要である.この契約は,自動車メーカーが1社ごとに行うよりも,グループ化したところに一括したほうがやりやすい.
自動車メーカーは,引き取った廃車を処理する必要があり,信頼のおける処理業者と契約する.ここでも,複数の個々の処理業者と契約していくよりは,カーレックに一括で委託したほうがより利便性が高い.しかも,組織内の個々に対する監視もカーレックに任せることができる.よって,自動車メーカーにとっては,引き取り,処理を一括して請け負うことが可能なカーレックのような組織は望ましいのである.
このように,カーレックは,加盟6社だけでなく,引取窓口として参加する整備業者,解体業者,さらには自動車メーカーにまでもメリットをもたらす.その背景には廃車処理制度があり,これが共同事業を成立させる所以なのである.
日本における引取事業
ハンガリーの廃車処理制度に対して,日本の自動車リサイクル法は,制度の内容がやや異なる.周知のとおり,日本では,自動車メーカーは,解体および破砕後の品目に引取・リサイクル義務がある.そのため,廃車の引取・解体段階には自動車メーカーは基本的には関わってこない.整備業者らは,自動車メーカーと契約する必要性もなく,引取業者として都道府県に登録をすれば,廃車引取事業が可能である.だから,カーレックのような組織に参加してもしなくても所有者との関係を築けばよい.
解体業者やシュレッダー業者などの処理業者も同様で,メーカーと契約しなければ廃車を確保できないわけではなく,個々の引取業者との関係を築けばよい.よって,グループ化して共同で廃車引取事業をやる必要性はない.
ただし,ハンガリーのような制度がなければ,処理業者が共同で引取事業をする意味がないというわけではない.ここで鍵となるのはグループ化によって形成される評判やブランドである.これらは,とりわけ取引相手の情報がわかりにくい場合に重要となる.例えば,品質がそうであり,廃棄物処理においては処理サービスの質がこれにあたる.
品質の優劣については,長期的な取引関係,実績,公的な資格などがその判断材料となる.優良とされるグループに属しているか否かは一種の公的な資格であり,重要な情報になる.つまり,引取業者が適正処理を望むのであれば,優良という評判を生み出すグループ化の意義はある.問題は,引取業者が適正処理をより欲するかである.
自動車リサイクル法では,リサイクルルートの起点として引取業者の役割を重要と位置づけている.引取業者が不適正な処理業者に廃車を引き渡したら,制度が機能しないのである.しかし,より優良な処理業者を選択したとしても,引取業者はそれだけ得するわけでもない.引取業務として,フロン,エアバッグの有無や預託金の確認,電子マニフェストによる報告など手間があり,これらを行わなければ罰則もある.つまり,廃車を引き取ることは,何をやるにしろ費用がかかる一方である.
そのような状況であるから,適正処理という質についてはこだわりもなく,最低限の法的義務を行うのみである.より費用を負担して良い処理業者を選択しようとするのは,ISOの認証取得を求めるなど環境意識の高い業者である.これは,環境意識が高いことが消費者にアピールでき,ビジネスチャンスと考える業者である.
思えば,われわれ消費者は,自動車を手放すとき,それが国外を含めてどこに運ばれ,どう処理されたのか知ろうとしないし,問題が起きても法的な責任はない.そのため,環境意識の高い引取業者がいても,その意識が消費者には伝わらないことがある.ただし,環境意識の高い引取業者を選択する消費者は,少数派だがいる.このような消費者がますます増えれば,引取業者にとって適正処理に関わることがより重要となってくる.その結果,カーレックのような廃車引取窓口と処理が一体化したのネットワークがより機能し,引取業者もこれに参加する意義が生まれる.
(あべ あらた ・ 一橋大学大学院経済学研究科)----------
* 本執筆にあたって,訪問企業のCARREC社,MUGU社ならびに案内役のデネシュ・ゾルタン氏(一橋大学大学院経済学研究科博士課程)に大変お世話になった.この場を借りてお礼を申し上げたい.