はじめに
今回の連載で取り上げる渇ヘ村自動車工業(以下,河村自工)は山梨県竜王町に位置する有力企業である.同社社長の河村二四夫氏は,山梨県カーリサイクル協同組合の顧問のほか,日本自動車リサイクル部品販売団体協議会の理事職を務めるなど,氏は山梨県における解体業界のリーダー的存在であるだけでなく,全国的に見ても中心的存在であることが伺えよう.
河村自工は正社員21名,補助1名の22人体制であり,内訳は,営業3名,フロント対応3名,生産(解体)現場9名,経理3名である.2000年度年間処理実績は2,664台であり,廃車の90%をトヨタ,日産,ホンダといったディーラーから受け入れている.そこから中古部品を取り出して自動車整備・修理業者へ供給する.そのあと,廃車はプレスされ,いわゆるガラと呼ばれる状態にされた後,新潟のシュレッダー業者へ運ばれ最終処分される.
本稿では工場内における廃車の流れを簡単に追い解体業者の業務内容を再確認した上で,自動車解体業界が抱える課題をいくつか概観していく.
廃車受入から出荷まで
廃車処理の工程はおおまかに@仕入れ,A受注業務,B解体工程,C(中古部品)生産工程,の4つに分けられる.
@仕入れ : 廃車の仕入れはその車の年式やその車の部品の市場性を判断した上で行っている.多くの場合,ディーラーから1台当たり平均で5,000円の支払いを受けて(逆有償)処理しているが,車種・年式によっては有償で回収する場合もある.
また,廃車の引き取り(場合によっては買取)価格を判断するにあたっては,常に中古部品市場の変動を把握しなければならず,経験を要する.例えば新しい時点で廃車になったものは高く買い取るかといえばそうではない.ディーラーが5年保証をしているために,その廃車から取る中古部品に市場性はないということになる.基本的には多く売れている車が修理需要も多く,市場性があることになるが,逆にそうした車種の中古部品は多く出まわり,価格が下落してしまうこともある.そのため,仕入れの判断は容易ではない.
A受注業務 : ここでは主に以下の2つの業務がある.第1に,引き取った車体のどこにどのような部品が搭載されているのかを,車体番号を元に調べる業務である.車体番号から他の車種との部品の互換性も調べる.また,同車種でも年式によって互換性がない場合も多く,複雑な作業になる.第2に,整備業者等から受注された部品を供給するため,それがどこにあるのかをNGPグループ(中古部品流通の全国ネットワーク)のコンピューターネットワークによって在庫検索するという業務である.
B解体工程 : ここは,廃車解体と部品取りを行う工程である.中古部品として使用できるものとできないものに分解・仕分けを行う.廃車解体と部品取りは闇雲に行うのではなく,その車のどの部品に市場性があるのかを判断した上で作業を行う.かつては部品取りをアバウトにやっているというイメージがあったが,現在では新品に遜色ないものを取り外し中古部品として扱っている.例えば,エンジンの取り外しや供給に際しても,エンジン内の圧力の低下が一定水準以下になっていないかどうかなど,使用可能性を慎重に検査した上で供給を行っている.
C生産工程 : 生産工程とは,商品にある傷をチェックし,納品するために中古部品を包装する工程のことである.取り外された部品は在庫保管される.半年経過しても売れない中古部品は適宜廃棄処分される.ボンネットを例に取ると,これまではそのまま取り外して渡すという形であったが,現在ではきれいに洗浄し,どこに傷と歪みがあるのかを詳細に説明した上で提供している.ユーザーとの直接取引は基本的に行わず,自動車整備業者との取引を原則としている.そのため,顧客側(自動車整備業者)で傷や歪みを修理する条件で合意しスムーズな取引が可能となっている.
〈適正処理〉費用が利潤を圧迫
以上のような流れで廃車が処理されていくが,周知のように自動車には有害な物質が含まれ,そのまま廃棄してしまっては環境に悪影響を及ぼす部分がある.通常,こうした部分に関しては企業にもよるが,外部に委託して処理してもらうことが多い.これら適正処理のためにどれだけ費用がかかるのであろうか.ここでは河村自工を例におおよその数字を見てみよう.
河村自工では,作業員1人で1日1台解体し,車種・年式によって全く異なるが,中古部品売上は1台当たり平均3万円ほどであるという.
一方,シートやダッシュボード,部品を取り外したボディー(いわゆるガラ)はシュレッダー業者に1トン(車2台分)当たり4,000円〜5,000円で引き取ってもらっている.最終処分場の逼迫が影響し,最近ではシュレッダーダストの埋め立て処分価格が大幅に上昇している.さらにタイヤ・フロン・廃液等処理費用を9,000円程支払うので,人件費を加算すると純利益が出ているかどうかは微妙な状況であるといえる.
前回の記事でも指摘されていたように,適正処理のための費用は中古部品販売等であげた利益をまわすことによって解体業者が負担するという事態が起こっている.本来,適正処理を行うことは社会全体にとって必要なことであり,その費用は「社会的に」負担される必要があろう.自動車リサイクル法がこうした課題に応える法体系になっていくのかどうかは今後注目していく必要があろう.
次に,この業界が抱える課題をいくつか指摘したい.ここでは特に,@自動車メーカーの責任と連携・協力の必要性,A解体業界における〈適正価格〉の確立の必要性をとりあげる.
自動車メーカー・解体業者の責任と連携・協力の必要性
これまで自動車解体業界は,自動車メーカーとの関係を持ってこなかったし,持つ努力も欠いていた.しかし,自動車解体業界の将来を見据えるならば,メーカーの責任の明確化と,連携・協力は欠くことはできない.
第1に,より効率的な中古部品の取り出しを可能にするため,メーカー側の車体番号や品番に基づく部品情報の開示やメーカー・解体業者間の部品情報の共有を進めることが必要である.これが実現すれば,解体業者にとっては,再利用可能で市場性のある中古部品がどの廃車に存在しているかの判断が容易になり,中古部品の使用・リサイクル率のさらに高い実現が可能になるであろう.
第2に,解体業界とメーカーとの技術的情報の相互交流である.同じ規模のエンジンであっても細かい部品の構造が車種ごとに違っていること(互換性の欠如)や,取り外しの際に部品が壊れてしまうものがあるなど,解体業界からみて非合理なことがまま見られる.生産コストを削減するためと思われるが,その結果,こうした事態が放置されてきた.この様に解体業界の声がメーカーの生産段階で配慮されることは,自動車のリサイクルを進めていくためには不可欠である.
第3に,爆発物や危険物質の使用に関する情報提供の必要性である.これまで,メーカー側から整備業者や解体・シュレッダー業者に対し,爆発物や劇物が使用されているという情報が提供されてなかったため,労働災害・環境汚染が解体現場で起こったことがある.解体業界としては,解体マニュアルの整備や研修,あるいは使用されている危険物質に関する情報の開示などをメーカーに求めている.メーカーの責任を明確にし,こうした情報が開示され,安心して解体・処理できる労働環境を整備していくことは,この業界にとっても重要なことである.
〈適正価格〉の確立を
明瞭な価格体系の確立はユーザーや顧客との対応・信頼関係の構築の上で欠かすことができない.しかしながら,自動車解体業界は業界標準の適正価格の確立には至っていない.
例えば,自動車整備業界における「修理費」については次のような工賃の「適正価格」の計算方式が確立されている.〔修理費=部品費+工賃+塗装費〕(工賃の適正価格=標準修理時間×各社のレイバー・レート)
しかし自動車解体業界では,まだこのような「標準解体時間」といった指標は確立されていない.その理由として,標準的作業が明確になっていない,作業で用いる工具類も標準化できていない,それら必要な諸研究のための受け皿が確保できていないなどの点を指摘できる.今後も適正価格の設定へ向けての努力をする必要がある.そのためには,業界全体の業務規格化,組織化が必要となってくるといえよう.
以上,自動車解体業界の抱える課題を幾つか述べてきた.業界としての努力を求められる部分もある一方で,自動車メーカーとの関係の中で,あるいは社会全体として解決されなければならない課題も多い.こうした課題に応えるような自動車リサイクル法が施行されるのかどうかはまだ未知数といえよう.
(せき こうへい ・ 一橋大学大学院経済学研究科)----------
*本稿は,同社見学会(2001年6月2日実施)の調査レポートに加筆・修正を加えたものである.見学の際には河村社長をはじめ社員の方々,大塚悦郎氏(大塚マネジメント・リサーチ代表),河西三郎氏(山梨県カーリサイクル協同組合理事長)にお世話になった.また,前稿の執筆の際には河村社長,竹内啓介氏(ジャプラ理事),鎭目志保子氏(一橋大大学院)より多くのご助言を頂いた.この場を借りて感謝申し上げたい.本連載の調査実施にあたって拠|内環境リサイクル研究所より援助を受けている.なお,残されたであろう誤りは全て筆者に帰する.