はじめに
2004年8月30日から9月10日までの12日間,筆者はロシア極東地域(サハリン州ユジノサハリンスク市とその周辺,沿海州ウラジオストク市)の自動車リサイクル関連業界の視察を行った.本報告はその視察記録である.ロシア極東地域は韓国や中国,台湾など他の近隣諸国に比べると日本人の関心は薄い地域である.しかし,体制移行とともに,日本からの中古自動車を中心に自動車台数が急増しているため,自動車リサイクルの観点からは無関心ではいられない地域でもある.今回と次回,ロシア極東地域の自動車リサイクル関連業界の現状をレポートする.
急増する自動車と自動車リサイクル関連業者
十数年前までは,ユジノサハリンスク市では,バスと少数のロシア製自動車しか走っておらず,1000人あたり自動車台数が74台(1990年)であったのが,現在では250台程度になっている.そしてそのほとんどが日本車である.この傾向はロシア極東地域全体にいえることであろう.この急激な自動車台数の増加に伴って,自動車販売,自動車部品販売,自動車整備業者,自動車解体業者といった関連産業が発達途上にある.
今回は自動車解体業者に焦点を当てる.ロシア極東地域における自動車解体業者は,筆者が見聞した限りでは,大きく3つのグループに分けることができる.1つ目は日本に従業員を滞在させ,廃自動車を日本で2つに切断(ノーズカット)して,輸入後に解体し,部品販売などを行う業者,2つ目は日本に従業員を滞在させ,日本で廃車を解体し,部品を輸入する業者,3つ目は,現地で発生した廃自動車や事故車を解体する企業である.
急速に自動車台数が増えていることもあり,多くの業者は1つ目と2つ目のグループに属している.また,自動車リサイクルを考える上で,日本との関係がより深いところから現状を把握することは必須だろう.これらの点から,今回は1つ目と2つ目のグループに属する企業をそれぞれ紹介しよう.
バレーエリ・ノーディンゴ社
まず,1つ目のグループに該当する「バレーエリ・ノーディンゴ」(ユジノサハリンスク市)という会社を紹介する.ユジノサハリンスク市内には自動車解体業者が20ほどあるといわれているが,この会社は市内最大手の部類に属する.今回,インタビューに応じてくれたのは副社長のアレクサンドロさんである.
この会社では,日本から廃自動車を輸入し,それを解体して,再利用部品・再資源化部品の販売を行っている.従業員は30名であるが,その他に3名が自動車の買い付けに日本に行っており毎月廃自動車を50台分程度輸入する.ただし,ロシアの輸入自動車に対する高い関税を避けるため,日本で廃自動車をノーズカットし,税関で部品扱いとなるようにしている.例えば95年式のカローラの標準的なタイプのものであれば,日本円で45万円程度の関税がかかる(関税は,ロシアの自動車産業振興の観点から,非常に高く設定されている)が,半分に切断することで約2万円〜3万円程度になるのである.
事業所の内部には,事務所と中古部品売店(ミラー,ライト類など比較的小さめのもので,カウンターが1つあるのみ),中古部品を保管する大きな倉庫があるが,解体工場の建家は見あたらない.作業は基本的に屋外で行う.「解体手順」というのは特になく,ライト類やドア,エンジンなど,売れそうなものについてはあらかじめはずしておき,工場内に並べておく(写真1).残った部分については工場内に保管する(扉写真,写真1).
中古部品を希望する客は自由に敷地内に立ち入ることができ,並べられている部品や,廃車に付属している部品についてその場で値段を交渉し購入する.最終的に余剰となった商品については,再資源化のため,リサイクル業者に無償で運んでいってもらう.その他解体プロセスで発生した廃棄物については市内の廃棄物処分場へ運んでいるとのことであった.
アブト・サブ社
次に紹介する「アブト・サブ」という会社は2つ目のグループに属する.場所はウラジオストク市郊外のスネガバヤ地区で,近辺には多くの自動車解体業者や中古部品販売業者が立ち並んでいる.ウラジオストクは人口60万人を越える沿海州の中心の都市であるため,その業者の数は多く,地元紙の広告欄(中古部品販売業)には200を超える業者が掲載されていた.インタビューに応じてくれたのは社長のローマンさんである.(写真3,右端)
この会社の事業内容は,日本から中古部品を輸入し,販売することである.よって事業所では部品の販売が主たる業務となっている.とはいえ,日本でいう店舗に相当するものはなく,倉庫内に保管されていり,屋外に展示されているという様相である.従業員15名のうち,5名が日本に派遣されており,彼らが日本で廃車や部品を調達し,解体して運んでくる.部品は個別のパーツに解体するか,有る程度の大きさに切り分けて(写真4),20ftコンテナで運搬する.月間でコンテナ5つ程度を輸入しており,ウラジオストクでも大手の部類に入るとのことであった.なお,ウラジオストク全体では,月間200個位にはなるのではないかとのことである.
アブト・サブ社は京都府や静岡県に協力工場(自動車解体業者)を有しており,派遣されている従業員は,その工場の協力を得て廃車や部品を調達している.こちらの解体業者の間では,日本での中古車オークションは高価であるとの認識は一般的であり,日本の自動車解体業者の協力は必須なのであろう.先に紹介した業者もそうであるが,極東ロシア地域では,従業員を日本に派遣するのは珍しいことではない.ローマンさんも同業者は皆,日本に従業員を派遣していると教えてくれた.
視察からみえるもの
以上,ごく簡単にではあるが,ロシア極東地域における自動車解体業者の現状をレポートした.今回は自動車解体業者に限っていえば10の事業所を見学したが,もっとも古い事業所でも,いまから13年前に開業したものである(上記のバレーエリ・ノーディンゴ社,なお鉄スクラップ業界には国営企業から引き継がれたものもあった).多くが開業時から日本の企業の協力を得ており,アブト・サブ社のように,日本の協力会社から部品を調達したり,その会社を経由しての翼システムやNGPシステムの利用もみられ,現地滞在中に何度も名前を聞いた.日本企業との結びつきなしには,この事業を行うのはもはや困難であるといえる.
一方で,解体作業を必要とする事業所に関しては,そのプロセスから発生した廃棄物は適正に処理されているとはいえないのが現状である.例えば,バレーエリ・ノーディンゴ社やその他の事業所でも,液類の抜き取りやフロンガス対策のための施設は見あたらなかった.ある業者は液類の抜き取り・再利用はケースバイケースで,フロン対策は行っていないと教えてくれた.
最終的に発生した廃棄物が運び込まれる廃棄物処分場は,両都市とも基本的に管理がなされておらず,煙や炎を上げ続けている.廃自動車から発生する廃棄物による環境汚染が懸念される状態である(写真5).廃車ガラはウラジオストクでは有償,ユジノサハリンスクでは無償で,基本的に再資源化に回されているようであるが,ウラジオストクの場合は,最終的に廃車ガラは切り分けられて,鉄くずとして中国に輸出されているとのことであり,そのプロセスでも廃棄物が発生している可能性が高い.
新しい業者が多いこの業界で,このような問題が顕在化するにはまだかなり時間がかかるように思われる.しかし,見てきたように,日本企業との結びつきなくしてはこの業界は成立し得ない.その意味では,「公害輸出」が顕在化する前に日本の関連業界が取り組むべき課題は多くあるように思われる.
次回の後編では,中古自動車輸入・販売事情や現地での関税の動向を中心にレポートする.
(あさづま ゆたか ・ 北海学園大学)----------
* この現地視察調査は,日本学術振興会科学研究費補助金若手研究(B)「自動車リサイクル法がELVの処理・リサイクル関連業界にもたらす影響に関する研究」から補助を受けた.