自動車リサイクルの現実と課題
― 第6回:ロシア極東地域における自動車リサイクル事情 [後編] ―

浅妻 裕

『月刊整備界』 35巻13号, 2004年12月, pp. 24-26

 はじめに

 前回紹介したように,ロシア極東地域では自動車台数が急速に増加している.この多くを日本製自動車が占めており,日本の対ロシア乗用車輸出は,2002年の5万848台(うち中古車3万5826台)から2003年は9万156台(うち中古車5万3706台)へと増加している.この数字は日本側の貿易統計に掲載されているもののみであり,これに含まれない船員や旅行者の携帯輸出が膨大な数にのぼるといわれている.携帯輸出とは,日本を出国する際に,30万円以下の物品につき1人3点まで,携行品として簡易通関のみで持ち出すことができるという制度である.例えば,2003年に富山県からロシア向けに積み込まれた携帯輸出を含めた中古車輸出は8万6500台であり,この数字は日本全体の対ロシア中古車輸出台数を大きく上回っているのである.なお,筆者が問い合わせたある税関では,携帯輸出を含めた中古車輸出の統計はとっていないとのことであった.

 これらの膨大な日本からの中古自動車は現地でどのように販売されているのだろうか.筆者は今回(2004年8月30日〜9月10日)のロシア極東地域における現地調査で,複数の中古車輸入・販売業者を視察している.本稿では,この地域における中古自動車輸入・販売業の紹介と,この業界に大きな影響を与えるロシアの輸入関税の動向を簡単に紹介したい.


 ユジノサハリンスク市内の中古車輸入・販売事情

 筆者は今回市内3カ所の中古車輸入・販売業者訪問した.ロシア極東地域では新車ディーラーは非常に少なく,例えばユジノサハリンスク市では,2003年に開業したディーラー(トヨタ車専門店)が1つだけである.月間販売台数は行政や大手企業を対象として,4〜10台程度である.一般市民が自動車を購入するのはやはり中古車販売業者からということになる.

 その中のある中堅会社(A社とする)を紹介する.この会社は,6年前,現在のオーナーが同業者が少ないことに目を付け,創業した.中堅会社とはいえ,従業員3名のみで,6〜7メートル四方程度の小さな小屋が事務所である.常時300台程度の中古車を販売しており,年間販売台数は720台である.また,扱っている自動車はすべて日本車である.このような中堅の業者であっても,日本への観光客や船員が携行品として持って帰ってくるものを販売しているとのことであった.平均的な売値は1台あたり約1万ドルとのことであり,現地ではいわゆるミドルクラスでも月給が1000ドル程度であることを考えれば,極めて高価であるといえる.

 A社で販売されているのは多くがトヨタ車であった.ユジノサハリンスクではトヨタ車(特にカローラ)に対する需要が非常に高いのである.後述するウラジオストク市では他社製のものも多く見かけたが,関連市場がウラジオストク市に比べて非常に小さいため,補修部品確保が可能な特定のメーカーに需要が集中すると考えられる.市内最大手のフョードロフスカ社では,ビスタ,カムリ,カローラの在庫が追いつかない状況であるという.


 ゼニョーリウーガル中古自動車販売市場

 次に,ウラジオストク市のゼニョーリウーガル地区にある中古自動車販売市場を紹介する.ここは,ウラジオストク市郊外の丘陵地に開かれた巨大な販売市場である.丘陵地一面に自動車が展示されており(写真1),その総台数は約1万台に及ぶ.また,そのうち99%が日本車であるといわれている.乗用車だけでなく,クレーン付のトラックや,タイヤなどの中古部品も販売されていた.

 市場の中では,法人形態の自動車輸入・販売業者も出品しているが,携行品扱いで輸入された中古車を販売している個人事業者が大部分を占めている.誰もが自由に販売できるのではなく,有料で一定の区画を占めることができるようになっており,その場で買い手の引き合いを待つのである.

 訪問して驚いたのは,その市場の広さはもちろんのこと,販売されている自動車の価格の高さ,年式の高さであった.写真2がその中の1つである.売り手の男性に話しを聞くことができた.価格は1万8340ドルと極めて高額に設定されている.それでも,オークションでの購入に1万ドルを要し,他にもロシアの関税(6040ドル),税関での車輌保管代金,運賃がかかり,利益は1500ドル程度となってしまうそうである.この男性は1990年頃から毎月日本に通い,自らが中古車オークションに参加しているそうだが,上記事情で一度に多くの自動車を持ち帰らねばならない.しかし,携行品としての輸出は一度に3台までと制限されている.そこで,協力者を連れていき,毎回5〜6台ほど持ち帰るとのことである.

 この男性のような個人輸入業者がロシア極東地域では非常に多い.そして,この部分は,日本側の貿易統計には反映されない.複数の市場関係者によれば,日本からの中古車輸入は,ウラジオストクで毎月5000台程度,沿海州全体では毎月1万台程度にのぼるのではないかということである.ロシアが日本からの中古車の最大仕向国の1つとなっていることは間違いない.


 中古車輸入関税の動向

 しかし,この台数は,現在は減少傾向にあるとのことである.その理由は,前回もふれたように,国産自動車産業の振興政策を背景として,輸入自動車に対する関税が年々高くなっているためである.ロシア全体で急速に自動車台数が増えているにもかかわらず,国産乗用車生産台数の大幅な増加は見られないのである.例えば,94万台(1995年)→101万台(2003年)のように.よって,近年,輸入中古車に対する関税が断続的に改訂されている.2002年10月には,輸入形態により異なるが,製造後7年以上経過した自動車への関税率がそれまでの2.4倍になり,2003年7月には製造後3〜7年経過した輸入中古車の関税が倍以上引き上げられている.製造後7年以上経過した中古車は2003年末にも関税が大幅に引き上げられている.

 乗用車ばかりでない.トラックの輸入関税が倍以上に跳ね上がっている.例えば,95年式の日産10トントラックでは,1万2000ドルから2万5000ドルに上がった.こういった事情により,中古車市場で販売されているのは高年式車ばかりということになるのである.このためゼニョーリウーガル地区における中古車価格は高騰しており,もっとも安価な中古車でも5000ドル程度である.

 なお,この地区周辺では,自動車修理業の集積が見られ,写真3のように古くなったガレージを利用して,多くの若者が自動車の修理や塗装を行っていた.今回,筆者を案内してくれたのも,ここで塗装業を営んでいる男性である.


 まとめにかえて

 今回,ごく一部ではあるがロシア極東地域の中古車輸入・販売関連業界の紹介を行った.冒頭に述べたとおり,日本からロシアへの中古車の流れは非常に大きく,また個人が行っている部分も大きいため,その全貌をつかむのは非常に困難である.さらに,税関で賄賂が横行しているため,データがあったとしても信頼性に欠ける.実際,沿海州のスリャビャンカという港では,中古車輸入が賄賂の横行を理由に禁止されてしまった.

 自動車リサイクル法では,中古車を輸出する場合,「最後の所有者」が「輸出抹消登録」を行えば,リサイクル料金の返還請求が可能になるが,輸出代行者や解体業者などが「最後の所有者」になる場合があることを考えると,中古車の輸出ドライブがかかる可能性もある.前回紹介した自動車部品の輸出や廃車ガラの輸出もふまえれば,今後は国際リサイクルに対応した適切な廃自動車の処理・リサイクルの制度設計を視野に入れて行くべきである.

 また,上記のような観点から,日本からの中古車輸出,現地での販売等に関する実態把握の必要性が高まっている.そもそも日本からの中古車輸出の仕組みについても,盗難車や未通関車の輸出問題をはじめとして,一部に不透明な部分があるため,困難が予想されるが,今後も日本側,ロシア側双方から継続的に関連調査を進めていく必要がある.

(あさづま ゆたか ・ 北海学園大学)
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* この現地視察調査は,日本学術振興会科学研究費補助金若手研究(B)「自動車リサイクル法がELVの処理・リサイクル関連業界にもたらす影響に関する研究」から補助を受けた.また,執筆に当たっては,ロシア東欧経済速報(2004年8月15日号)を参照した.

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