はじめに
三井物産金属原料株式会社(以下,三井物産金属原料)は,その名の通り,金属原料,特に鉄くずを中心に扱う会社である.この会社に自動車の解体事業が含まれているのは,解体事業が廃車の鉄くず販売を主な収益源にしていた歴史を感じさせるが,同社の堺事業所は,鉄くず価格が下落する以前から中古部品輸出事業を営んできた.中古部品輸出に最も古くから取り組んできたパイオニア,それが三井物産金属原料・堺事業所である.
中古部品は,連載の第1回目で触れたように,低年式車を扱う場合,国内需要が少ないため,年式の古い部品でも需要のある海外に販路を求める必要がある.そして,低年式車は,大量に発生しかつ高年式車のように有償でなく丁寧に部品取りされることもないため,自動車の適正処理の問題を考えるうえで最も重要となる.
したがって,低年式車の解体事業の中で主な収益源になっている中古部品輸出事業の実態を把握することは,適正処理の問題を考える上でも,グローバル化した社会の中でますます海外との関係を深めている自動車解体業の今後を考える上でも必要不可欠である.
今回は三井物産金属原料・堺事業所の実態を通し,解体事業における日本と海外の関わりを中古部品の輸出を中心に見ていき,さらに,今後施行される自動車リサイクル法を海外との関わりから考察していきたい.
会社概要
三井物産金属原料は1987年に三井物産の鉄くず部門の全額出資で設立された.全国に15の事業拠点があり,業務内容は鉄くずなど製鉄原料関連商品を中心に,非鉄くず,加炭剤,中古機械,公害関連機器等の販売にいたるまで幅広く展開している.1990年に自動車解体事業を営んでいた西日本商事を吸収合併し,ここが現在の堺事業所の母体となった.1993年からは姫路事業所でも解体事業を開始,国内向け中古部品を取り外している.このように国内と国外向けを完全に分離しているのは全国的にも珍しい例であろう.
2001年度末時点で,2つの事業所の売上は,6億4,000万円,内訳は堺が4億9,000万円,姫路が1億5,000万円,売上構成は中古部品販売が72%,鉄スクラップ(溶解用エンジン含)が18%,中古車販売が3%,逆有償による収入が7%.また処理台数は合計で年24,500台,内訳は堺が20,500台,姫路が4,000台である.
中古部品輸出事業
堺事業所の前身,西日本商事で中古部品輸出を始めたのは1970年からであり,日本では最も早くから中古部品の輸出に取り組んできた.当初は,バンコクなど東南アジアを中心に展開し,その後,豪州,今は同社の輸出全体の半分が中南米・北米である.現在継続的に取引しているのは19ヶ国,中南北米以外に,東南アジア,中近東,アフリカなど,我々が見聞した業者の中で最も幅広い.
15年ほど前まではシンガポールやマレーシアなどに売り込みに行っていたが,現在は先方からの引き合いがほとんどである.取引は,商社を通して行い,日系の商社以外に,華僑,印僑資本の在日商社との取引も大きい.
中古部品の品質管理は,国内向けと輸出向けとでは大きく異なる.姫路事業所での国内向けのものは,加盟するNGPグループの基準の下に部品取りや在庫の記録を行っており,エンジンも全部テストされる.これに対し輸出向けには,そのようなことは一切不要である.もっとも,ボディーパーツなどは海外向けに比べて国内向けは一桁高く売れるというように,付加価値もまったく異なる.
このような違いは解体ラインにも大きな影響を与える.姫路営業所では丁寧に作業すると1人1日1台程度で,倉庫やテスト機など解体後の設備が重要である.一方,堺営業所では1人1日7,8台は解体する.そのため,スムーズな動線の確保など,効率的な流れ作業を可能にする解体ラインが重要となる.これは,三井物産金属原料に限らず解体業者一般に共通する.
自動車解体事業の国際化
以上のような中古部品輸出事業を,鳥瞰的視点から位置付けてみよう.それは解体事業の国際化という視点である.
解体事業の国際化は,現象として,「パーツリサイクルとしての(中古部品の)輸出」,「マテリアルリサイクルとしての(ガラとそれ以外の金属くずの)輸出」,「リユースとしての中古車輸出による解体事業の空洞化」の3つを主に挙げることができる.
この3点の内,中古部品輸出とマテリアルリサイクルは,相手国で廃棄物を発生させず,また,国内における解体事業の拡大を意味する.もっとも厳密には,ガラの輸出の場合,多量のゴミを含んでいたり,シュレッダーダストを相手国で発生させるなど問題もはらむ.しかし,いずれにせよ中古部品輸出は,相手国への環境の影響,日本での雇用の確保,この両面で優れていると言えるだろう.
一方,中古車輸出を見てみよう.現在,日本で排出される使用済み自動車500万台の内,100万台は海外に中古車として流れているとされている.そして,この中古車輸出は社会的問題を含んでいる.
まず,相手国へ環境の影響として,中古車は新車に比べて有害排気ガスの発生量が多く,相手国の市民の健康を害する(経済学的に言えば負の外部性を発生させる).また,新車よりも当然早く廃車になるため,使用量に比して廃車処理の負担が大きくなることになり,公害輸出の側面を持つ.
もちろん,中古車輸出が相手国に悪いと決めつけることはできない.30年前の車が当たり前に走る途上国では,負の外部性が発生しても,それ以上の社会的便益をもたらすと判断される場合も多い.社会的費用と便益の大小関係は,相手国のニーズ,使用形態,車齢や車の価格に依存し,慎重に議論する必要がある.
では,輸出する国,日本の解体事業者の雇用面はどうだろうか.中古車輸出は中古部品市場を拡大する効果もある.雇用創出効果と雇用減少効果のバランスがどのようになっているかの調査は今後の課題だが,少なくとも,国内で解体される車が無くなれば雇用が消滅することを考えると,あるレベルを超え中古車輸出が進んだ場合,明らかに国内雇用は減少していく.
ドイツでは,地理的条件は異なるものの,年間排出される320万台の内,国内で解体されるのは110万から170万台に過ぎないという調査結果があり,解体事業の空洞化は深刻である.
自動車リサイクル法の影響
今回の自動車リサイクル法制定の過程で,解体事業の国際化が論じられることはほとんどなかった.厳しい国内法も,国外で廃車処理が行われれば意味がないが,同法ではどうなるだろうか.
処理費用が新車購入時に徴収される「前払い方式」になったことは,「後払い方式」に比べ空洞化を防ぐ効果が期待されることは注目すべきである.後払い方式の場合,ユーザーには,その負担を逃れようとする誘因が働く.したがって,不法投棄を助長することは常々指摘されてきたが,このような非合法な抜け道とは別に,合法な抜け道として,中古車として輸出する誘因も働くのである.事実,後払い方式が採用された家電製品でこの現象が起きており,自動車の処理費用が前払い方式になったことは,解体業界の人々が認識している以上に業界にとって重要なことであった.
ただし,前払い方式だからといって空洞化がおきない保証はない.日本ではメーカーに対し,特定3品目に絞り引き取りの法的義務をかけたが,これらの費用を引いた後,ユーザーから解体業者への引き取り価格が有償になるか逆有償になるか定かでないからである.逆有償であればやはりユーザーには使用後にその負担を逃れようとし,空洞化の誘因となる.
日本で空洞化を防ぐ1つの方策は,事前に徴収する費用を十分大きく取り,常に引き取り価格を有償に保つことである.有償であれば,ユーザーは喜んで解体業者に車を持っていくであろう.これはデポジット制と同じ誘因を生むことを意味する.リサイクル法の議論において,その担い手である解体事業者の費用構造に関する分析が概略的レベルでしか行われていないが,2004年にリサイクル法が施行されるまでの間,適切な前払い費用と解体事業者への支払い金額が導かれるよう,注意して議論を深める必要がある.
なにが必要か
中古部品輸出事業は,廃車の適正処理から考えると重要な事業であるが,その反面,国内の中古部品事業に比べ非常に不安定な事業でもある.為替レートにより取引価格が大きく変化するのはもちろん,各国の政情や政策の変化によって輸出が突然完全にストップしてしまったり,外国の中小企業を相手にするゆえの与信に対する不安も大きい.三井物産金属原料・堺事業所では,1ヶ国からのリスクを減らすために取引相手国を分散させ,また与信に対する不安を軽減するため商社を仲介するという方法をとってきた.
中古部品輸出の発展に必要なことは,まず,中古部品貿易に対する国家間の基本的ルールの確立と,取引相手や価格に関する情報を共有化できるような市場の形成である.そして,日本における解体事業の存亡とも深く関わる,中古車輸出に関する議論の欠如を改めることが必要である.その上でリサイクル法の処理費用に関する議論を深め,中古部品の海外輸出のみならず,適正処理そのものが促進されるよう期待したい.
(ぬき まさひで ・ 一橋大学大学院経済学研究科)----------
*同社訪問(2002年2月1日実施)の際,中川所長,山崎自動車営業部長にお世話になった.感謝の意を表したい.なお,調査にあたって拠|内環境リサイクル研究所より資金援助を受けた.