自動車リサイクルの現実と課題
― 第14回:タイヤのリサイクルビジネス/轄装ェ商会 ―

中谷 勇介

『月刊整備界』 36巻9号, 2005年8月, pp. 34-36

 本連載の第11回目では「廃バッテリーの行方」と題して,廃バッテリーがリサイクルされる現場を紹介した.同じく自動車リサイクル法の指定回収物品ではないが,適正な回収が求められるものに廃タイヤがある.今年に入って関東地方でも不法投棄や不法集積の事件がすでに何件か報じられた.

 連載14回目の今回は,廃タイヤのリサイクルを支える現場を紹介しながら,廃タイヤリサイクルの現状を紹介し,そのビジネスとリサイクルシステムの可能性について考えてみたい.


 リサイクルの流れ

 廃タイヤがリサイクルされる流れをおおまかに説明しよう.廃タイヤは8割近くが整備の過程で発生する.廃車時に発生するのは全体の2割程度でしかない.タイヤは消耗品であり,自動車の寿命を考えるとヘビーユーザーでなくとも複数回の交換をすることになるだろう.タイヤの交換によって発生した廃タイヤは,そのまま業者に託されるか,タイヤ卸を経て収集・運搬業者に引き渡される.

 廃タイヤそれ自体は,他の廃棄物と同様に,中古品として再利用可能なものも存在する.また,トレッド(接地面)部分を削って,新しいゴムを貼り付けてタイヤの機能を再生することも可能である.これは更生(再生)タイヤと呼ばれるもので,バスやトラック用などの事業用車両を中心として使われている.一部はこのように,プロダクト(製品)リサイクルへと向かうものもあるが,ほとんどが切断あるいは破砕という工程を経て利用される.その利用方法としては,サーマル(熱利用)リサイクルとして燃焼させる方法,そして再生ゴムやゴム粉の形態にすることで別のゴム製品へと利用する,マテリアル(素材)リサイクルがある.今回は,この収集・運搬と中間処理を担う轄装ェ商会を取り上げる.


 リサイクルの現場から

 轄装ェ商会(埼玉県熊谷市)は1976年に創業し,現在では廃タイヤの収集運搬と中間処理事業,タイヤの小売販売事業,およびタイヤを中心とした輸出入事業を手がける.中間処理事業に関していえば,国内でも最大手の規模を誇る.本社工場は2万uと巨大であるが,各種許可だけにとどまらず,ISO14001も取得済であり,清潔で環境に十分配慮した設計が見てとれる.

 タイヤはその構造上,取り扱いがやっかいである.まず,中空構造であることから,比較的広い保管場所が必要である.その上,雨水が溜まりやすく,夏場は蚊が発生することもあるため,防虫消毒や殺虫の作業も必要となる.また,原材料の60%が石油由来であるので,火気には十分注意しなければならない.1991年には大分の業者が火災を発生させ,廃タイヤが100日間燃え続けたという事件が発生した.当局も火災への対策については重要視しており,同社も各種の対策を取っている.

 同社は収集・運搬の事業も兼ねており,廃タイヤは処理料を徴収して関東を中心に回収をおこなっている.我々が日頃目にするような種類のタイヤだけでなく,建設作業車などの特殊車両用タイヤの処理も請け負っている.というのも,同社では超大型のタイヤ切断機を所有しているため,数トンにおよぶ巨大なタイヤにも対応可能なのである.それ以外にも自転車やオートバイ用のタイヤや,フォークリフト用のノーパンクタイヤなど,ここではありとあらゆるタイヤを目にすることができる.

 各地より集められた廃タイヤは最初に選別作業がおこなわれる.すでに触れたように,廃タイヤのリサイクルには,更生タイヤや中古タイヤとしての利用といった,プロダクト・リサイクルという方法が存在する.更生タイヤになる廃タイヤは台タイヤと呼ばれ,傷や亀裂などがなく,なるべくパンクのないものが選ばれる.また,ユーザーの需要があるタイヤかどうかも重要である.トラックやバスのタイヤは比較的規格やサイズのバリエーションが少なく,更生タイヤ業者も対応しやすいため,普及が進んでいたという.しかし,新品タイヤの価格下落や,良質な台タイヤの不足などで,更生タイヤとしてリサイクルをするという環境は厳しくなっている.また,中古タイヤとしての活用もある.同社では,中古タイヤの輸出も手がけているため,中古タイヤとして世界各国で第2の人生を歩むことになるタイヤも数多い.また,輸出先で中古ではなく更生タイヤとして生まれ変わるものもある.

 このように廃タイヤそのものを商品として販売することができるケースもあるが,多くは切断や破砕という工程に回される.ご存じのように,タイヤはその形状のため,丸いまま輸送しようとすると非効率的である.原形をとどめることが用途として必要でなければ,切断もしくは破砕することがベターであろう.切断工程では,まず背割りという作業によって,トレッド面から歯を入れて2分割する.そして16分割できる機械で合計32分割する.1本1本熟練の作業員が手作業で,作業ラインに廃タイヤを投入しきながら切断作業が進んでいく.一方で,ほぼ機械化が進んでいる所もある.これがチップ状にする破砕工程である.同社では大型の破砕機を所有しており,バーストしたタイヤなど切断ラインでは対応できないものも数センチ四方のチップにすることができる.切断や破砕する前のタイヤの材質やサイズなど,需要家からの注文は多いという.このため,需要家のニーズに応えるために,このような巨大な破砕機を導入する,あるいは一見非効率にも見える切断工程に直接人間が関わっているとも考えられる.

 日本の廃タイヤリサイクルシステムでは半数強の割合がサーマルとしての利用である(日本自動車タイヤ協会調べ).一方,国分商会では,全体の約70%がサーマル用であった(2004年).特にセメント業界での利用が多かったが,近年では需要が落ち込んでおり,新たな利用先の開拓に迫られていた.そこで浮上してきたのが製紙業界である.製紙業界が廃タイヤを積極的に利用しようとしている背景には,最近の資源価格の高騰,特に石炭からの代替を意識しているものと考えられる.今後の見通しでは,製紙工場向けがセメント工場向けを逆転すると予測しているとのことだ.ただ,これらは生産拠点が日本にありつづけるという前提での話であり,よりコストの安い海外へと生産拠点が移転してしまった場合,また新たな需要先を見つける必要があるだろう.


 リサイクルをビジネスから考える

 同社のように収集・運搬業を兼ねて中間処理業にも取り組む場合,どのようなどのようなビジネスモデルが浮かび上がってくるのだろうか.少なくとも,現在の廃タイヤのリサイクルシステムでは,処理料金をユーザー(店舗)から徴収して,そこから収集・運搬のコスト,切断・破砕のコストを捻出する必要がある.というのも,多くのケースでは,中古販売や輸出,更生タイヤ代を除いて,「処理料」を払って工場に納入するという「逆有償」メカニズムが存在しているからである.このため,処理料金を受け取れる所から収集量を拡大させるのが1つのビジネスとしての解である.

 もう1つは,「逆有償」メカニズムの克服,すなわち「有価」での取引を拡大させることである.同社がこれまで力を入れてきたことの中に,全てのタイヤを切断してしまうのではなく,その中からプロダクト・リサイクルが可能なものを1つでも多く発見するということがあった.この商品として見分ける力を維持し,いかに育てていくかがビジネスとして重要となってくる.

 また,タイヤの組成にはナイロンコードやスチールワイヤーが利用されている.廃タイヤをチップ化する際にこれらは残渣として廃棄している.スチールワイヤー分のみ取り出せることが可能であれば,「有価」としての取引も考えられよう.手間とコストを考えると現状では難しいかもしれないが,ビジネスとしての方向は,これら付加価値を生み出す活動に対する,資源の集中であることは言うまでもない.

 しかし,個別企業での対応には限界が存在する.需要先が不安定であるような企業環境では,付加価値を創出する投資といえども,それが企業規模に対して巨大な額となってしまうものであれば,実行は困難になってしまう.

 また,このビジネスに関わる企業の中には,同社のような優良業者だけではないことも現実にある.中にはこの「逆有償」システムを利用して不法収集をおこなう者もいる.はたして,このような構造を保ったまま,永続的でかつ適正なビジネスをおこなうことが可能であろうか.近年では「拡大生産者責任」が叫ばれることが多くなり,様々な製品に適用され始めてきた.これはOECD(経済協力開発機構)が提唱しており,「製品の使用済み段階まで,製品に対する責任を製造者(販売者も含め)が負う」という考え方である.その精神は自動車リサイクル法にも生かされている.フロンガス,シュレッダーダスト,エアバッグ類の3品目について,自動車メーカーが引取りと再資源化の義務を有しているのは,この考え方にのってっているためである.これらは市場メカニズムに任せたままであると,適正処理がおこなわれないおそれがあるため,メーカーにも責任の一端を担わせている.

 では自動車には必要不可欠なパーツの1つであるタイヤはどうであろうか.メーカーも従来からの取り組みに加え,3R(リデュース・リユース・リサイクル)の理念に基づく新たな取組みを進めつつあり,「拡大生産者責任」を念頭に置いた動きも見られる.とはいえ,廃タイヤのリサイクルシステム全体から考えれば,それだけにとどまらず,消費者,リサイクル事業者,需要家をも取り込んだシステムとして再構築すべき時期に来ているのではないだろうか.

(なかたに ゆうすけ ・ 一橋大学大学院経済学研究科)
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* 本執筆にあたって,轄装ェ商会の田端輝彦氏,中川孝典氏,松本秀典氏および,日本タイヤリサイクル協同組合の池永貞二氏に貴重なお話を頂戴した(2005年6月22日).記して感謝したい.

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