自動車解体事業の現実と課題
― 第14回:中古部品輸出とバーゼル法 ―

平岩幸弘

『月刊整備界』 34巻9号, 2003年8月, pp. 48-50

 はじめに

 昨年の11月,筆者は夏の暑さが残る台湾の台北市にて,自動車の中古部品販売商・輸入商が軒を連ねている街路を訪れた.簡単なインタビュー調査だけであったが,日本からの中古部品の輸出先の現場を覗くことができ,中古部品の流通・市場が国際的に形成されていることを肌で実感した.

 「リサイクルの国際化」は,近年の自動車リサイクルの状況を論じるときに欠くことのできないテーマとなっている.毎年,日本で発生した500万台の廃車のうち,約70〜80万台が中古車として輸出され,さらにそれ以上の数が廃車プレスとして輸出されている.これまでの連載で何度も触れてきたように,解体業者やプレス業者,商社など廃車処理に関わる数多くの業者が,廃車から取り外した鉄スクラップや中古部品の輸出事業に携わっている.つまり,我が国は,自動車産業の動脈部だけでなく静脈部としても世界最大の輸出国の1つとなっているのである.

 しかし一方で,それらの輸出が何の問題も含んでいないわけではない.その1つとして,有害物質の国際的取引を規制している「バーゼル法」に抵触する可能性があるという指摘がなされている.今後もリサイクルの国際化が一層進展すると予想されており,解体業をはじめ,関与する業界にとっては無視できない問題となってくるだろう.

 本稿では,台北市での調査を簡単にレポートした後で,バーゼル法と中古部品輸出との関係について論じることとしたい.


 台北市の「赤峰街」

 台北駅から20分ほど歩くと,大通りの脇に「赤峰街」という道幅5メートルほどの細い通りがある(上段の写真).一見しただけでは普通の裏通りという印象だが,そこを歩くと,通り沿いに数百メートルにわたって自動車(中国語で「汽車」)中古部品の販売店が密集していることがわかる.ここには,台湾で発生した廃車から取り外された中古部品を販売している店以外にも,日本から中古部品を仕入れてきて販売している輸入商の店もある.いずれの店も,奥に数坪の作業場とカウンターがあり,通りに面した入口付近に中古部品が並べられているという程度の小じんまりした構えである.それら小さい店のそれぞれが,1つあるいは複数の部品を取扱う専門店となっている.細い路地ながらも,多くの部品商が集積した,台湾で最大規模の中古部品市場(いちば)となっている.

 通り沿いの一軒々々に写真撮影やインタビュー取材を申し込みながら歩いていると(ほとんどの店では取材拒否であったが),軒先で従業員がトラックの中古エンジンを洗浄していた一軒の輸入業者から話を聞くことができた.

 この業者ではトラックの中古部品(主に中古エンジン)を日本から輸入し,台湾国内でそれらを販売している.社長自らが定期的に日本を訪れ,取引先であるいくつかの解体業者・中古部品業者をまわり,中古エンジンなどを買い付けている.1回の訪日で約2週間ほど滞在し,取引先は大阪,神戸,名古屋,八戸,秋田など全国の主要都市に及んでいる.

 この業者が日本から輸入してくる中古エンジンの量は,最も多いときには月間でコンテナ4個分ほどであるという.店の奥には大量の中古エンジンがストックされていた.

 目の前で洗浄している中古エンジンについて聞いてみると,日本での仕入価格は日本円で5万円程度で,それを台湾では3〜4万元(日本円で約10万円)で販売しているという.中古エンジン1つで大きな利潤が生み出されている.

 さらに興味深い話は,日本から台湾に輸入されてきた中古部品はさらに別の国へと輸出されているということである.台湾に輸入された中古部品は,台湾国内で補修用部品としてリユースされたり金属屑としてマテリアル・リサイクルに回されたりするだけでなく,さらにその一部が再び店頭に並び,そこへタイ,フィリピン,インドネシアなどの東南アジアやイランなどの中東地域の中古部品業者が買い付けに来て,それらの国々でリユースあるいはマテリアル・リサイクルされているのである.彼らは直接日本に買い付けに行くことができないため,台湾で仕入れているのだ.つまり,日本から輸出された中古部品のいくつかは,一次輸出先が終着地ではなく,さらに二次,三次の輸出先へと渡り,中古部品あるいは鉄スクラップとして再利用されているのである.世界の各地に「赤峰街」のような街があり,そこでは日本製の中古部品が数多く取引きされているのである.


 中古部品輸出の問題点

 自動車中古部品が輸出される主な理由は,言うまでもなく,海外にその需要があるためである.近年は日本から年間約400万台以上の新車が輸出され,世界の至るところで日本車が走行しており,そこでは補修用部品としての需要が発生している.また,中国のような経済成長著しい地域では大きな鉄鋼需要があり,そういった地域には中古部品という名目で輸出されて,鉄・非鉄金属の原材料として利用されている.これら海外市場での日本製の中古部品の需要は,今後ますます大きくなっていき,それに伴って供給量(輸出量)も増えていくと考えられる.

 経済理論に沿っていえば,一般的に,貿易が活発になることによって取引きしている国々の経済厚生は高まると考えられている.また,ある国で使用されなくなったモノが別の国で再利用されること自体は,資源利用の観点からいえば効率的であると言えよう.

 しかしその一方で,輸出されたモノが海外で何かしらの環境問題や公害を発生させているという問題も厳然と存在している.「すべての生産物は扱い次第で有害となる潜在的な廃棄物」(朝日新聞2003年6月14日,寺西俊一・一橋大学教授談)であり,自動車中古部品が再生資源として輸出されても,その中に有害物質が含まれているならば輸出先では深刻な汚染を引き起こす可能性がある.

 実は,現在,中古部品輸出において懸念されているのは,後者の「公害輸出」という負の側面にほからなない.


 中古部品輸出とバーゼル法

 さて,有害廃棄物の国際的な取引きや処分を規制した国際的な取決めとして,1992年5月に発効された,通称「バーゼル条約」がある.我が国も1993年に加入し,国内法として「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」(通称「バーゼル法」)が施行されている.

 自動車部品関連で最初に問題となったのは,鉛が大量に含まれている廃カー・バッテリーの輸出である.1992年には1万1,000トン輸出されていたものが1994年には300トンに減少するなど,バーゼル法の施行により廃カー・バッテリーの輸出は大きく制限された.

 そして最近になり,経済産業省から「自動車中古部品の有害性調査結果について」という興味深いレポートが出された(同省のホームページより入手可能).自動車部品の中に規制物質である鉛,水銀,カドミウム,六価クロムが含まれているものがあることを指摘した上で,参考例としてオルタネーター,スターター,ワイヤーハーネスの三種に限って有害性(含有量・漏出量)の調査結果をまとめている.

 同レポートでは,その3つの中古部品のそれぞれについて,粉砕して5ミリのふるいを通過した部分を分析したところ,「溶出試験では鉛が検出され,規制基準(0.01mg/リットル)を超える場合があり,含有量についても,有害性があると判断される0.1重量%以上含有されている場合がある」としている.この結果に基づき,経産省は,「自動車部品を再生資源として輸出(取引)を行う場合には,バーゼル法に基づいた手続きが必要となることがあり」,「バーゼル法の〈規制の対象外〉あるいは〈規制の対象〉という判断をするためには,輸出しようとする部品を,各自が調査・分析する必要がある」として,関係業者に対して注意を促している.

 今のところ,この報告に対する自動車解体業界からの明確な反応は見られないが,今後,無視できない問題として浮上してくることは確かであろう.


 バーゼル法への対応

 先にも触れたように,廃車プレスや中古部品の輸出は大きな流れとなっており,実際,我が国の解体業界は輸出事業に頼っている部分が大きくなってきている.ただし,そこに違法性があるのであれば,輸出業者は法に則ったかたちで適正に対処しなければならない.バーゼル法についても,各業者が個別に取組むのではなく,業界を挙げて調査・分析を行い,対応を明確にすることがことが必要である.また,輸出事業にはほとんど触れていない自動車リサイクル法であるが,後々国際的なトラブルとして発展する可能性もあるだけに,今後は,中古部品や廃車プレスの輸出の問題も考慮したシステム設計を検討していくべきであろう.

 もちろん,これは解体業者だけが背負うべき問題ではないだろう.拡大生産者責任の精神を尊重するならば,中古部品の輸出に伴う諸問題への取組みもまた自動車メーカーの「責任」の範囲に含まれると筆者は考える.

 「赤峰街」の先,すなわち中古部品として輸出された先にも,有害物質による汚染という大きな問題が潜んでいることを中古部品輸出に関わっている業界は十分に留意しなければならない.

(ひらいわ ゆきひろ ・ 一橋大学大学院経済学研究科)
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* 台湾調査(2002年11月4日実施)および執筆にあたっては,宮城大洋氏(国立台湾大学環境工程研究所),小島道一氏(アジア経済研究所)にお世話になった.記して感謝する.

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