自動車リサイクルの現実と課題
― 第25回:ハイブリッド車のリサイクル ―

平岩幸弘

『月刊整備界』 37巻8号,2006年7月,pp. 28-31

 連載3年目にあたって

 2004年7月に始まった本連載も,今回から3年目に入る.以前の「自動車解体事業の現実と課題」から累計すると,これまでに4年間・48回分のレポートを連載してきた.周知のとおり,この間,自動車リサイクルをめぐる国内外の状況は大きく変貌してきた.国内では「自動車リサイクル法」が施行され,一方では「自動車の国際リサイクル」がますます活発になってきている.一旦回り始めた歯車が元に戻ることは決してない.むしろ,その勢いはますます加速するばかりである.しかも,その先にどのような世界が出現するのかは,予測することが極めて難しい.

 本連載では,自動車リサイクルの未来の姿を描くことはできない.しかし,現実の有り様をできるだけ正確に把握していくことにより,おぼろげながら,進むべき路が見えてくるのではないかと考えている.引き続き,読者および関係者の皆様からのご指導をお願いする次第である.

 なお筆者らが参加する研究グループでは,現在,(財)トヨタ財団より研究助成を受けて,「アジアにおける自動車リサイクルの実態調査および国際的制度設計に関する政策研究」(研究代表・寺西俊一・一橋大学教授)を行っている.そこでの調査結果の速報なども紹介していく予定である.

(執筆者一同)


 さて今回は,トヨタ自動車の「プリウス」事例から,ハイブリッド(以下,HV)車のリサイクル,より正確には,HVバッテリーユニットのリサイクルについて取り上げる.

 筆者は,今から4年前の2002年5月に,国内の某解体工場にてHV車のエンジンを見かけたことがある.当時はHV車が廃車になることは極めて珍しく,その工場でも取り扱い方が判らなかったために,来客用カウンターの脇に展示されていた.それ以来,HV車という時代の先端を走る自動車がどのようにリサイクルされるのだろうか,という疑問を抱いてきた.その素朴な疑問について考えるのが本稿の目的である.そして合わせて,「拡大生産者責任」(以下,EPR)という観点から,HV車のリサイクルに関するトヨタの取組みを評価してみたい.


 ハイブリッド車

 1997年12月,トヨタは世界初のHV市販車「プリウス」の販売を開始した.プリウスは,THS(Toyota Hybrid System)を搭載し,直列四気筒のガソリンエンジンと電気モーターの2つによって駆動する.発売以来,HV機構という先進性と低燃費,さらには「低環境負荷」,「温暖化防止」という時流にも乗って,日米の自動車市場を中心に販売台数を飛躍的に伸ばしてきた.2003年には,マイナーチェンジを経て二代目プリウスが発売され,現在に至っている.プリウスの世界全体での累計販売台数は,2005年に36万台に達した.また,2004年度の日本国内での販売台数は約6万5千台で,これはトヨタの国内年間総生産台数(約176万台)の約3.7%に達する.

 プリウスのこうした躍進は,他の自動車メーカーにも大きな影響を与えている.周知のとおり,大手メーカー各社はHV車の開発・市販化を競って進めている.HV車市場はますます拡大する傾向にある.

 しかし他方では,HV車についてはいくつかの課題や問題点も指摘されてきた.その1つが,大きな動力を生み出す電気モーターの「HVバッテリー」に関するものである.第1に,そもそもバッテリーとは,素材が何であれ,度重なる蓄・放電の繰り返しにより必ず劣化するため,長期間に亘って使用する際にはバッテリーユニットを交換しなければならない.第2に,HVシステムという新たな機構を搭載している以上,廃車されたときには,通常のガソリンエンジンの自動車に比べて余分なパーツや物質が発生する.そして第3に,以下で触れるように,取り扱いの安全性という課題がある.

 実はこのHVバッテリーこそ,リサイクルの観点からするとHV車のウィークポイントになっているのである.1997年の初代プリウスの発売開始から,すでに約8年半が経過した.華々しく時代の先端を走っている車にも,いよいよ,廃車・リサイクルの季節が訪れようとしている.


 HV車のリサイクル

 繰り返しになるが,静脈過程におけるHV車と通常のガソリンエンジン車との最大の違いは,前者に駆動用の大型バッテリー(「HVバッテリーユニット」)が搭載されているという点である.この中には,ニッケル水素バッテリーや電子機器が内蔵されている.それ以外の部分の基本設計は通常の車と同様であるため,バッテリーユニットの除去さえ行えば,既存の自動車静脈工程の一般的な処理・破砕技術によりリサイクルが可能である.

 HV車の解体・破砕処理にあたって最も問題となるのは,そのHVバッテリーユニットの取り扱いである.もし,HV車が何のケアもされずに通常の静脈工程によって処理された場合,バッテリーユニットを原因として次の2つの問題が生じうる.@バッテリーユニット内部が高電圧であるため,解体作業員に感電などの事故が発生する可能性がある.Aバッテリーユニットを搭載した状態でプレス等を行った場合,発火・発煙する可能性がある.『HVバッテリーユニットの回収・リサイクルマニュアル』には,「正しい取り扱いをしないと,生命にかかわる重大な傷害を受ける可能性がある」と明記されている.


 HVバッテリーユニットのリサイクル

 そこでトヨタでは,「プリウスの将来を見すえて(同社環境報告書)」,パナソニックEVエナジー梶iトヨタと松下電器の共同出資によるバッテリー製造会社,以下P社),西濃運輸鰍ィよびトヨタの3社により,「HVバッテリーユニットリサイクルシステム」を1998年に構築した.プリウスの販売を開始した翌年のことである.このシステムを簡略に示すと図(省略)のような流れになっている.

 まず,解体業者の下に使用済みプリウスが入庫され,指定のマニュアル(トヨタのウェブサイト上で公開されている)に沿ってバッテリーユニットの取り外しが行われる.解体業者は,プリウスが廃車された旨をP社に連絡し,P社から送られてきた引取依頼書,チェックシート等に記入した上で返送する.そして,P社から引取指示を受けた西濃運輸が,当該解体業者のところへバッテリーユニットの回収に赴く.

 次に,解体業者は,運送業者にバッテリーユニットを引き渡し,その代金として1ユニットあたり2500円を受領する.このとき有償取引となるため,解体業者には古物商の許認可が必要である.運送業者は,それを直接,静岡県湖西市にあるP社工場まで運搬する.

 最後は,P社において解体・分別作業が行われ,さらに専門再生業者によって素材リサイクルされる.ニッケル水素バッテリーは,鉄ニッケル地銀とバッテリー材料に分別され,それぞれステンレスと新バッテリーに再生されている.


 EPRからみたトヨタの取組み

 さて,EPRの観点から,上記のHVバッテリーユニットのリサイクルについて若干の評価をしておきたい.

 まず一般論として,動脈セクター側の新製品の設計や新技術の開発段階に対して,EPRは次の2つの点を要求している.第1に,リサイクル設計の導入である.新しい装置や新しい素材・物質が用いられた製品ほど,それらが廃棄されて静脈過程に入ってくると,既存の従来品にはない,新たなリスクが発生しうる.特に自動車のように,プロダクトチェーンが動脈セクターと静脈セクターとの間で分断されている(言いかえれば,事業主体が動脈・静脈セクターで異なっている)場合,両者の間には「情報の非対称性」が生じてしまう.その結果,静脈セクターにおいて予期せぬ事故や意図せざる環境負荷が発生しかねない.ゆえに,動脈セクター側は,新製品を設計する段階で既存の静脈セクターの処理技術を充分勘案し,リサイクル設計を反映させ,かつ,静脈セクターとの間で新製品に関する情報を共有しなければならない.

 第2に,充分なリサイクル設計を盛り込んだとしても,既存の静脈セクターにおいて安全かつ適正な処理が確保できないのであれば,動脈セクターの側が適切なリサイクルシステムを別途構築する必要がある.また,その費用負担が他の主体(ユーザー等)に及ぶのであれば,それらに対してその情報を提示しなければならない.

 もちろん,いくらEPRが時代の要請とはいえ,EPRによって企業の新製品開発やイノベーションが過度に圧迫されることは避けなければならない.仮に,ある新規的技術とリサイクル性が相反するとしても,企業が前者を選択することを否定するものではない.しかし,「作った以上は,廃棄された後も最後まで責任を持って面倒を見よ」という原則だけは貫徹されるべきである.

 次に,以上の点に照らして,トヨタのHVバッテリーリサイクルについて評価してみよう.

 先にも述べたように,HVバッテリーユニットには,既存の静脈セクターでは安全性を確保できないほどの危険性が内蔵されている.その点だけ見れば,プリウスにリサイクル設計が徹底されているとは言い難い.しかしトヨタでは,それを補うために周到なリサイクルシステムを独自に構築した.ヒヤリングによると,トヨタでは,HV車の開発とほぼ同時進行で,上述のようなHVバッテリーユニットのリサイクルシステムについても「開発」を進めてきたという.2004年からは,HVバッテリーユニットの取り扱いやリサイクルについてのマニュアルをウェブサイト上で公開している.このシステムが,今後のHVバッテリー・リサイクルの業界標準となることは言うまでもない.こうした取組みは,まさに,EPRの理念に基づいた,メーカーの責任ある姿勢であると評価することができよう.

 とはいえ,いくつかの疑問も生じる.例えば,販売されたプリウスについて,現場の解体業者に取り扱い方法が周知徹底されているのかどうか.HVバッテリーユニットを全て回収できているのかどうか.さらには,回収・リサイクルに係る費用を誰がどのように負担しているのか.今後,HV車が世界各国で走行し始めたとき,それらの地域でも同様のリサイクルシステムを担保できるのかどうか.これらの点については今後も消費者の側が注視していく必要がある.


 最近,某社のテレビCMで「燃費こそ環境性能」というフレーズをよく耳にする.筆者はそれを否定するつもりは全くない.ただし,新製品・新技術なればこそ,リサイクル性にも徹底した配慮が求められることを,敢えて主張しておきたい.当然のことであるが,「環境性能とは,燃費だけではない」.

 HV車の先には燃料電池車が控えている.開発に勤しむメーカー各社においては,実用化・市販化を目指すのであれば,今の時点から,そのリサイクルについて責任を持って考慮していただきたい.

(ひらいわ ゆきひろ ・ 一橋大学大学院)
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* 本稿執筆にあたり,関係者に大変お世話になった.記して感謝する.なお執筆にあたっては,トヨタ自動車(二〇〇五)『環境報告書』,「クルマとリサイクル 二〇〇五〜〇六」「HVバッテリーユニットの回収・リサイクルマニュアル」を参照した.

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