新連載にあたって
今,わが国の「自動車リサイクル」は,新しい時代へと移り変わろうとしている.半年後の自動車リサイクル法の本格施行を控えて,全国各地では第3回目の説明会が開催され,関連する企業,業界,団体,官庁の動きも慌しくなってきた.自動車静脈産業の構図も劇的に変化しつつある.果たして,新たな自動車リサイクルの仕組みは青写真どおりに機能するのだろうか.そこにはどのような障害や問題が待ち構えているのだろうか.自動車産業の動脈・静脈セクターはどのように進化していくのだろうか.そして,21世紀のテーマである「循環型社会」の形成へ向けて,わが国の自動車リサイクルはどうあるべきなのか.
今回から始まる新連載では,そういった素朴な問題意識を念頭におきつつ,自動車リサイクルをめぐる動向をつぶさにスケッチし,関連するトピックスを取り上げ,その課題や論点を検討し,学術的視点も織り交ぜながら考察していきたいと考えている.
連載に当たっての基本的なスタンスは,これまでと同様に「現場主義」であり,その手法は,企業や工場の「現場」を歩き,聞き取るという「現場調査」である.「現場」を巡って対話を重ねるたびに,我々は予想もしなかった新たな発見と,数多くのヒント得ることができる.自動車リサイクルをめぐる複雑な現実やそのダイナミズムを読み解く上で,「現場」こそ,最大の教材といえよう.限られたスペースではあるが,我々が「現場」から学び,そこから考えたことを,丁寧に記述していきたい.本連載が,激動する自動車リサイクルの現実と課題を考える際の一助になれば幸いである.
なお,我々の過去3年間に亘る研究成果の一部が,『自動車リサイクル ―静脈産業の現状と未来―』(東洋経済新報社刊)として出版されている.先の連載「自動車解体事業の現実と課題」と合わせてご参照いただきたい.
さて,第1回目の今回は,整備業者における自動車リサイクルについて取り上げる.整備業者は,@ユーザーからの廃車の引取り,Aユーザーへのリサイクル部品の販売,という2つの局面で「自動車リサイクルの窓口」としての役割を担っている.本稿では,具体的事例として給ハ野自動車を紹介しつつ,特に整備業者におけるリサイクル部品の利用について考えてみたい.
玉野自動車の概要
給ハ野自動車(横浜市神奈川区西寺尾)は,1974年に創業し,1978年に民間車検指定工場の認定を受けた,地元では比較的大きな整備業者である.現在,従業員数は10名,月間の入庫台数は乗用車を中心に平均190台ほどである.年商は1億2千万円程度で,整備事業による収入が9割以上を占める専業整備工場である.
社長の平林潔氏は,ASK net(全国自動車整備事業者環境団体)の会長であり,同社では中小企業向け環境ISOである「エコアクション21」(環境省)の認証取得,フロン回収・代替フロンへの切替え,「エコ車検」,そしてリサイクル部品の利用促進など,環境に配慮した整備事業を積極的に推進している.こうしたユニークな取組みには,「今後は整備工場においても環境対策が必要であり,それが経営強化に繋がる」という平林社長の認識が反映されている.
廃車の取引き
同社における廃車の取引を簡単にまとめておこう.
まず,ユーザーからの廃車(使用済車)の引取台数は,車販を行っていない分比較的少なく,おおよそ月間3〜4台程度である.引取料金は乗用車の場合に約2万円で,内訳は@抹消登録手数料7000円,Aフロン券2580円,B印紙代350円,C廃車処分費1万円(近日値下げ予定)となっている.
次に,解体業者への廃車引渡しについては,2002年より啓愛社金沢工場と取引きしている(現在は無償).その際,民間の自主的電子マニフェストシステム「ELV Japan」を利用している.このシステムは,廃車引取りから最終的に処分されるまでの流れを画面上でリアルタイムに確認することができ,利用している整備業者も多く,しかも啓愛社やマテックなど大手解体業者と提携していることもあって,導入以来,効果的に機能しているようである.
一方,最近の傾向として,使用済車を輸出している海外バイヤーが同社に買付けに来るケースが増えてきたという.それまで彼ら海外バイヤーは,解体業者のもとへ廃車を買付けに行っていたが,その一段階前の整備業者のもとへ買付けにくるようになってきたのである.このことは,海外バイヤーによる廃車獲得競争が激しくなっていることを窺わせる.
平林社長が「自リ法への対応は整備業者として必須条件」と話すように,同社における廃車引取・引渡業務を見る限り,自リ法への対応は万全という印象を受けた.それは同社が,法施行を見越して入念な準備を行ってきた結果である.
しかし,整備業界が全て同社のような状態ではない.例えば,自リ法においてモノの移動報告の実務処理は電子マニフェストを基準としているにも関わらず,全国の整備業者のうち,オンライン処理が可能な業者はわずか2割程度に過ぎないという.自リ法の全国説明会の解説を聞くと,確かにオンライン処理に習熟すれば非常に効率的なシステムにはなっているが,その現場レベルでの実効性には疑問を持たざるを得ない(引取業務上の問題については稿を改め議論することにしたい).
リサイクル部品の利用
先に触れたように,玉野自動車ではリサイクル部品を積極的に利用しており,90年代後半以降,ユーザーに対しては修理の際に新品とリサイクル品の両方の見積もりを提示している.品質水準・保証内容の観点からジャプラシステムを活用しており,納期も新品部品とほとんど変わらず,リサイクル部品を勧めればほとんどのユーザーがそれを選び,十分に満足しているという.
さて,整備業者がリサイクル部品を利用するメリットについては,以下の2つに尽きるだろう.
第1は,新品価格の約4〜6割というコストパフォーマンスによって,既存ユーザーからの支持が得られるだけでなく,新たな顧客獲得にも繋がるという点である.特に,低年式車のユーザーほど,品質よりも価格を重視する傾向にあり,リサイクル部品の需要も大きくなる.また,平林社長によると,最近では「環境への配慮」という要素も効いているという.つまり,リサイクル部品は,低価格+環境配慮という2つが相俟って,ユーザーにとってより魅力ある商品となっているのである.
そして第2に,整備業者にとっては,リサイクル部品利用によって部品単位当たりのマージンが大きくなるという点である.整備業者の新品部品のマージン率は7〜10%である.例えば,フロントバンパーの修理の際,新品の小売価格が約3万円でマージン率が10%とすると,この部品から得る整備業者のマージンは3000円である.それに対して,リサイクル品の場合には,卸値が約9000円程度であるため,仮に新品の半値の1万5000円で販売してもマージンは6000円となる.もちろん,より状態の良好な部品であればさらに価格を上乗せできるだろう.大雑把な計算ではあるが,新品よりもリサイクル品の方がビジネスとしては大きな魅力があることは確かである.
さらに,以上2つのメリットの影響は,整備業界全体にとってもプラスに作用しうる.例えば,新品部品の利用に偏っているディーラー業界に対して,整備業界はリサイクル部品を使うことによってコスト面で差別化を図ることができ,競争上優位に立つこともできよう.近年はアフターマーケットにおいて整備業界は押され気味であるが,リサイクル部品利用は業界にとってシェア回復の大きな武器となりうるのだ.
整備段階における問題点
もし,整備業界全体が,上記のような認識を持って積極的に取組んだならば,リサイクル部品市場の将来展望は明るい.しかし,現実はそう上手くいっていないようである.
では,ユーザーへの窓口である整備業者の段階において,どのような問題があるのだろうか.以下に論点を整理しておこう.
第1に,「リサイクル部品を使いたがらない」という整備業者が少なくないという点である.この背景には,ユーザーからの要求が依然少ないという需要サイドと,リサイクル部品の品質基準や保証内容が整備業者の望む水準に十分達していないという供給サイドの,2つの要因がある.またそれ以外にも,これまで長年に亘って車検制度で護られてきた整備業自体の保守的な経営体質にも原因があるのかもしれない.
第2に,リサイクル部品の需給のマッチングの問題がある.一般的に言われているように,高年式車の部品の品薄状態も影響している.他方,解体業者の生産現場では高年式車の部品が中心であるのに対し,整備の現場では低年式車用の部品需要の方がより大きいということも原因となっている.玉野自動車におけるリサイクル部品のヒット率は約5割程度にとどまっているが,その主たる理由は後者にあるという.
第3に,リサイクル部品を新品と偽って取り付けるという不正行為が,一部の業者で現在も行われているという点である(こうした行為を「モラルハザード」という).先の数値例でいうと,9000円のリサイクル品を新品バンパーと称し3万円で販売することで,2万1000円の利益を不正に得ることができてしまう.しかも,ユーザーから見分けがつきにくく,リサイクル品と新品の価格差が大きくなるほど,この不正行為を行う誘因が大きくなる.こうした不正行為が横行した結果,統計上では,整備業・リビルト業・解体業などそれぞれの業績が向上し,あたかもリサイクル部品市場が拡大したかのように映るだろう.
しかし,ユーザーの立場からすると,こうした不正は絶対に容認することはできない.昨今,様々な市場において不正行為に対する消費者の反応が極めて厳しいことを考えれば,不正を働いた整備業者だけでなく,整備業界および関連業界のイメージは大きく損なわれ,結果的にリサイクル部品利用へもマイナスの影響を及ぼすことになる.こうして失われたユーザーからの信頼がなかなか回復しないことは言うまでもない.
整備業者におけるリサイクル部品の利用促進に向けて
では,整備業者におけるリサイクル部品利用を促進するために,どのような方策が必要なのだろうか.この点を整理して,本稿のまとめとしたい.
整備業者における利用促進策としては,国土交通省による「自動車リサイクル部品の利用促進に向けた課題と方策」(2003年8月)に要約されている.すなわち,
@ユーザーに対して積極的にリサイクル部品を利用するよう提案する,
A慢性的に在庫が少ない部品が存在することを理解し,その上で入手しやすい部品を中心に積極的に利用する,
B廃車を長期間保管しないよう,自リ法の徹底を図る,
という3つである.さらに筆者としては,不正な取付けを防ぐための,モラル向上,補修内容の透明化なども付け加えておきたい.これらは,まさに玉野自動車の取組みそのものであるが,残念ながら,同社のような先進的業者による自主的な動きにとどまっており,大半の業者では認識すらされていないのが現状である.今後,業界を挙げて周知徹底が図られることを期待する.
同時に,先に挙げたようなメリットがあり,リサイクル部品の利便性も急速に向上していることを,整備業界に敷衍させる必要があるだろう.ひと昔前に比べれば,納期や品質,保証などこれまで言われてきた欠点は克服されつつあり,部品ネットワークも徐々にではあるが統合されつつある.そういった動きがまだ整備業界に十分に伝わっていないのかもしれない.
もちろん,業界の自主的取組み以外の,より包括的な方策も重要である.その1つは,ユーザーのリサイクル部品の認知度向上や,潜在的ニーズの喚起など,需要サイドの方策である.というのも,整備業者のリサイクル部品利用の誘因を最も高めるのは,窓口で聞くユーザーからの「リサイクル部品はありますか?」という一声だからである.その意味では,グリーン購入法が今年3月に改正された際,新たに自動車リサイクル部品が追加されたことは大いに評価できよう.
平林社長も言うように,個人・企業問わず,幅広いユーザーがリサイクル部品を要求するような風潮が醸成されるならば,整備業界におけるリサイクル部品利用も本格的事業へと成長していく.それと同時に,整備業者には,ユーザーに対してリサイクル部品を普及させる「窓口」としての積極的な役割が求められているのである.
(ひらいわ ゆきひろ ・ 一橋大学大学院経済学研究科)----------
* 玉野自動車見学(5月14日)の際,平林潔社長に大変お世話になった.記して感謝する.