自動車リサイクルの現実と課題
― 第29回:欧州の自動車リサイクル事情 ―

阿部 新

『月刊整備界』 37巻12号,2006年11月,pp. 42-45

 2006年9月,筆者はドイツと中欧諸国(チェコ,ポーランド,ハンガリー)の自動車リサイクル関連のヒアリング調査を実施した.中欧諸国は2004年5月より欧州連合(EU)に加盟し,それに伴いEUの廃車指令に基づいた自動車リサイクルの法制度化を進めている.また,EUの廃車指令は2007年1月より,新車だけではなくすべての廃車に適用される.それが経済に及ぼす影響はどのようなものか興味深い.今回は中欧諸国の動向を含めて,欧州の現状を整理しておきたい.


 自動車メーカーの処理責任

 まずドイツの制度について,改めて整理しておこう.制度は大きく生産者向けのものと,リサイクル業者(解体業者や破砕業者)向けのものとに分けることができる.前者は1998年に自主規制,後者は同年に法的規制(政令)という形で成立した.その後,EUの指令を受け,前者の自主規制の箇所が政令に加えられる形で,両規制が統合された.それが2002年に成立した改正廃車政令である.

 筆者はまず,ドイツ北部のヴォルフスブルグにあるフォルクスワーゲン社に訪問した.ここでは,主として生産者(自動車メーカーや輸入業者)の処理責任に関して話を聞いた.

 よく知られているように,ドイツでは1998年の自主規制で生産者の無償引取制度が始まった.この制度は自動車の最終所有者(廃車の排出者)が引取所に持ち込んだ廃車について,生産者が無償で引き取るというものである.そのため,本来ならば,逆有償で取引されるような無価値の廃車についても,最終所有者は費用を負担する必要がない.

 以前にも述べたが,生産者が廃車を引き取るということは,生産者が引取所や解体工場を設けて,そこで廃車を引き取るというわけではない.実際には既に存在する販売業者や解体業者などを引取所として認定し,それに委託するという傾向が多い.つまり,生産者による委託先の管理が重要になってくる.

 同政令では,第2条において,廃車(Altfahrzeug)は,循環経済・廃棄物法上の廃棄物と定義されている.同法では5条,11条で,廃棄物の占有者に対して処理(リサイクル,処分)責任を規定し,また,第26条において,廃棄物を引き取った生産者に対する処理責任を規定している.そのため,生産者が廃車を無償引取することで廃棄物の占有者になり,同法のもとでの処理責任があるといえるのではないかと考えられる.言い換えれば,委託者が起こした環境汚染などの損害に対しても責任を問われることがあるのではないか,ということである.

 このような疑問についてフォルクスワーゲン社の担当者に聞いてみたところ,委託先の解体業者が引き起こす環境汚染に自動車メーカーは関係がないだろう,という見解だった.解体業者の引き起こしたものは解体業者が責任を負うのみ,とのことである.今回は担当者が海外出張から帰国した直後で,筆者の質問事項を十分に吟味できなかったようだが,この回答は非常に興味を覚えた.

 まず担当者の言うように,仮に法的な責任がないのであれば,生産者はどういう根拠で解体業者を選んでいるのか,ということになる.これについて担当者に聞いてみたところ,新車販売や部品供給などで長期的な取引関係があり,総合的な信頼関係で選ばれているという回答だった*.生産者は半径50キロメートル範囲内で1社契約すればよいのだが,この1社についてはある程度の人間関係によって選ばれるのだという.例えば,同じようなレストランが並んでいて迷っているときに,知り合いが経営するレストランを選ぶようなもの,という表現をしていた.そして,そのような信頼関係のある会社は不適正処理をすることはない,とのことだった.ただし,不適正処理を軽視しているわけではなく,仮にも不適正処理をする可能性があるのならば,企業の社会的責任の一環でそのような会社は選ばれない.このように考えると,法的責任がなくても,単純に契約料の安い事業者を選ぶ方向には行かずに,自然に適正な事業者が選ばれる,ということがわかる.

 これに対して法的な責任があったとしたら,なぜ上記のような回答になったのだろうか.もしかすると,この問題は生産者にとっては小さなことであり,それに気にかける必要がないほど,ドイツでは不適正処理の問題は起こっていない,ということも考えられる.つまり,ドイツでは解体業者はそもそも環境汚染を引き起こさない,あるいは引き起こしたとしてもすぐに発覚し,問題が委託した者に及ぶ前に解体業者への処分などによって改善されるということである.

 ドイツでは,歴史的に廃棄物の不適正処理がなかったわけではない.1980年代に大手製造業が不法投棄に関わり,不買運動が起ったとも聞く.また,豊島事件と同じ規模の50万トンもの廃棄物が不適正に埋め立てられ,州が原状回復をしたという事例もあるという.廃車にまつわる事件とは限らないが,これらを聞くと,ドイツでもいくつかの社会問題を経験して現在に至っているという印象を持つ.

 日本ではここ数年で大規模な不法投棄事件が次々と明らかになり,その原状回復について,投棄実行者に支払能力がなく,委託した排出者や政府がこれを負担するという事例が続いた.それは,社名の公表を伴うもので,排出者にとって企業イメージを損ねる恐れがあり,大企業を中心として廃棄物の排出に慎重になってきている.一方で,行政側も過去の反省から,多大な負担を避けるために違法処理に対する対応を早め,監督を強化していると言われる.このような動きは,もしかするとドイツで過去に経験されたものであり,現在では,同じような問題が起こった際は深刻になる前に改善されるのではないかとも感じた.いずれにしろ興味深い内容だ.


 ドイツの事情

 次に訪れたのは,ドイツ南部のウルムにある解体業者であるベック(Boeck)・リサイクリングである.同社は,1933年に創業した老舗であり,当初はトラックのリサイクルを行っていた.

 昨今の動きの中で,ドイツの解体業者に対する規制は1998年の廃車政令の施行,2002年の改正廃車政令の施行である.さらにこの廃車政令は,2007年より,すべての廃車を対象とする.筆者はそれらの解体業者への影響を聞いてみた.対応してくれた創業者の孫であるマルティン・ベック氏は,たしかにこれらの年次は重要であるという認識を持っていたが,一言では語れないという回答だった.たとえば,1998年の廃車政令では,解体業者は公的な認定を求められ,ある程度の基準が設けられた.これは同じ土俵で公正に競争する素地ができたという点で評価できるものだったという.その背景には不公正な競争があったのだろう.しかし,ふたを開けてみると,公的な認定はそれを担う認証会社によって認証基準が異なり,必ずしも公正な競争が実現できなかったようだ.

 ドイツの問題は,かねてから言われているとおり,中古車輸出の増加である.これについては,先のフォルクスワーゲン社でも言及された.出所がわからないので改めて確認しなければならないが,同社によると国内で使用されない自動車が300万台あり,このうち230万台が輸出され,70万台が国内で解体されるという**.輸出が多い要因としては,ポーランドをはじめとした中東欧諸国との賃金格差が背景にあり,EU加盟による自由貿易が拍車をかけたという.

 このような輸出の増大はドイツ国内の解体業者の事業を圧迫する.廃車を獲得できないことから廃業する事業者もいるという.ただしそれは一部であり,大半は処理実績を減らして生存しているという.廃業するのは中小のいわば家族経営の事業者であり,跡継ぎがいないなどの理由で自主的に廃業するものであり,倒産とは異なるという.ドイツではもともと5000社程度あったとされるが,1998年の廃車政令により公的な認定を受けた解体業者の数は,1000社程度となった認定されなかった企業の大半は,1年で数台規模の小規模企業が多く,廃業や倒産したのではなく大半は生存していて形を変えるなどして事業を継続しているとのことだった.なお輸出増の影響はベック社も例外ではなく,自動車メーカーの試験車の解体を引き取ったり,フランスに拠点を設けたりすることによって,なんとか廃車を確保しているという.

 興味深いのは,フォルクスワーゲン社の担当者が中古車の輸出を問題視し,ドイツ国内で処理する必要性を述べていたことである.生産者としてグローバル化しており,同社にとっては,ドイツでもポーランドでも同じことのように思える.しかし,ドイツの解体業者と顔の見える信頼関係がある立場からなのか,ドイツ国内で処理されることを望んでいたのである.


 中欧諸国の状況

 一方,輸入側となるチェコ,ポーランド,ハンガリーはどういう状況なのだろうか.チェコでは,自動車産業連合(AIA)に訪問したが,やはり中古車の輸入の増加について言及があった.ただしそれは新車販売側の立場であり,中古車輸入の脅威は別の意味での問題である.ポーランド,ハンガリーではそれぞれ解体業界の団体(FORS,GOE)に訪問した.解体業者の立場として,古い車が流入することは問題というよりむしろ歓迎するのかと思ったが,特にそういう印象はなかった.ポーランドの解体業界の団体では,環境問題の観点から排ガス対策を十分にしていない古い車が大量に流入することの問題点を言及していた.

 このような中欧諸国の最大の問題は,策定された廃車処理制度がまだ地についていないことである.2004年のEUの加盟により,これらの国々はEUの指令に基づいて廃棄物処理関連の法律を作り,その一つに廃車処理制度を位置づけている.チェコは2004年3月,ポーランドは2005年1月,ハンガリーは2004年9月に制度が制定されたが,それが十分に浸透していない.その結果,正式な手続きを経て処理される廃車の数は非常に少なく,大半は正式な手続きを経ていない.

 例えばチェコでは,認定を受けた解体業者は政府に対して解体したことを報告しなければならないのだがそれを怠り,結果的に,わずか5000台しか報告されていないという.大半は非認定の解体業者に引き渡される傾向にあるのだが,認定業者も義務を怠っている.これに対して2007年に入り,コンピュータを用いて政府がモニタリングをしてくことになるという.

 ポーランドでも鉄スクラップビジネスの好調から廃車がブラックマーケットに流れる傾向にあり,FORSは抹消される車の10台のうち9台が正式な手続きを経ていないとしている.この数字をどのように算定したのかはわからないが,これを根拠として政府に改善策を求めるとのことだった.

 ハンガリーでも同様で,全体の廃車が14万台とされ,そのうち正式な手続きを経たものはわずか1割強の16500台である.全体の8割にあたる約1500社もの解体業者は認定されていない.政府は,これまでは認定業者のみ取り締まりをするのみで,非認定業者への取り締まりは十分ではなかったという.これに対して,最終所有者に対するペナルティを設ける方向で改善しようとしているが,最終所有者が国外であればペナルティを課すこともできず,それがどの程度の効果があるのかは定かではない.


 EUの強みは,国境を越える中古品や廃棄物について同じ枠組みで処理することができる点にある.ただし以前の連載でも記述したが,同じ制度を作ったとしてもその執行に差があれば意味がない.今起こっているのはまさにその状況であり,同じ制度はできつつあるが,それを十分に執行できておらず自由貿易下で古い車が東に流れ,処理のインフラが追いついていない状況にある.

 EU指令は,これまで2002年以降に販売された車を対象としていたが,2007年1月よりすべての廃車に対象が拡大され,本格化する.これは無償引取の対象が増えるということであり,自動車メーカーや解体業者の負担が増えると思われ,その動向が注目された.しかし,ベック社でも言っていたが実際は2007年の1月の影響はあまりないと予想される.その背景として,廃車が有償化している現状が考えられる.周知のとおり,廃車が有償化している一因は金属スクラップ市場の好況である.そのため,これが,不況になったとき,無償引取制度により関係主体の負担が増えるのだが,現状はそういうことはない.

 廃車が有償であれば中古車と見せかけて取引をすることができ,抹消登録制度の如何により非認定の事業者にも廃車が流れることになる.そのため,日本でもそうだが廃車処理制度には,抹消登録制度が機能していることが前提にあり,その動向についても注意していかなければならない.

 欧州の廃車処理制度は,日本と異なる形で生産者責任が制度化されており,その比較は日本の制度を見るうえでも大変重要である.その実態は次第にわかってきており,欧州の制度のほうがよいとする声も最近ではあまり聞かなくなった.しかし,まだわからないことばかりである.例えば金属スクラップ市場が不況になったとき,日本,欧州でそれぞれどういう問題が起こるだろうか.欧州型の生産者責任制度を評価するにはまだ議論の余地があるといえよう.

(あべ あらた ・ 一橋大学大学院)
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本調査は,トヨタ財団2005年度研究助成(『アジアにおける自動車リサイクルの実態調査および国際的制度設計に関する政策研究』研究代表・寺西俊一)より補助を受けた.
*フォルクスワーゲン社は,よく知られているとおりコールパーツというサービスプロバイダーと契約をして,直接には解体業者を選んでいないため,これはあくまでも個人的な見解と思われる.
**ドイツの輸出中古車台数や廃車処理台数について正確に出されている数字は現状見当たらず,調査中である.この結果次第だが,これらの数字のいずれかに不透明な形で違法処理される台数が含まれる可能性がある.なお,輸出の「増加」というが,それは一般に言われていることであり,実際にどの程度増加したのかは確認できていない.

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