1. はじめに
福島県は県の南北方向に阿武隈山地,奥羽山脈が貫いている.その関係で,地理的には東から浜通り,中通り,会津と3つの地域に区分されている.この地形上の制約によって,特に浜通り地域の自動車リサイクル関連業界は狭いエリアの中で,商圏の重複がありつつも興味深い発展を遂げている.筆者らは2006年2月〜3月にかけて現地を訪問して,いくつかの関連企業を調査したので,ここにその結果の一部を紹介したいと思う.なお,本稿は主として当時の現地調査の結果に基づくものであることをあらかじめお断りしておきたい.
2. 潟iプロフクシマ
我々は福島県双葉郡にある潟iプロフクシマを訪問した.福島県では,新車登録台数等から推測すると毎年約100,000台の廃車が発生している.しかし地形的な制約から浜通り地域の解体業者が福島全県の廃自動車を対象とするのは難しく,海沿いの狭いエリアでの廃車の奪い合いの状況が発生している.このエリアではいかに廃車を収集するか,ということが他の地域に比べてより大きな課題となっていると思われる.
そのエリアの中部を広範にカバーして事業所を展開しているのが潟iプロフクシマである.同社は1996年福島県原町市にて設立され,その後,事業の拡張を繰り返して現在に至っている.現在は本社が双葉郡浪江町にある.ここでは中古部品生産を行い,また国内向けの大型部品倉庫がある.販売フロントや,後ほど触れる廃車買い取りネットワークの事務局等本社機能を集約している.
原町リサイクル工場は2002年に新設され,自動車解体,リサイクル素材の分別と,輸出向け部品分別作業を行っている.2005年に新設された広野工場も同様である.またエンドユーザーへの販売は,Hot Garage Odaka(同県小高町)で行っている.
現在,同社では上記の事業所合計で月間約1,000台の廃車を集めている.集荷エリアは工場等が立地する浜通りの中部地域をはじめ,いわき市,宮城県南部までをテリトリーとしている.また処理能力としては,福島県で発生するものの4分の1の処理が可能とのことである.国内向け,海外向けにそれぞれに中古部品販売,再生資源を販売している.少数ではあるが,中古車輸出も行っている.
同社の特徴としては,まず廃車の買い取りに対する意欲的な取り組みが挙げられる.現在,各地の自動車解体業者では中古車オークション市場の発達と輸出の増加の影響で,従来では解体業者に出荷されていたような廃車が集まらなくなってきている.
同社では自動車リサイクル法施行以降のこの状況をいち早く見越して,RUMアライアンスが立ち上げた廃車.comに加入している.現在30社が加盟しているこのネットワークは廃車買い取りの専用サイトの先駆けである.現在,廃車.comの事務局機能を担っていることから考えると,このネットワークの立ち上げには同社の存在も大きかったと思われる.この事業のスタートや,テレビやラジオでCMを流すことによって,廃車がお金になることを個人が認知したとのことであった.インターネット上のアクセスも非常に多く月間100〜200もの問い合わせがあるとのことである.
これによって法施行以降は個人からの入庫が増え,現在では入庫台数の15〜20%程度を占めるようになった.しかしディーラーや整備工場からの入庫が減少している現状では,オークションからの仕入れが20〜30%を占める状況である.入庫台数の全体的な傾向としては,法施行以前と比べると30%減となっているとのことである.
そのような中,同社は再生資源の市況を背景として,再生資源卸を業務の一つの柱にしたいと考えている.中古部品の国内向け,海外向けの販売は利幅が薄くなっているという現状認識があり,そういった中で自社から発生する非鉄スクラップや近隣の鉄工所から排出されるミックスメタルを集荷して輸出を行うビジネスに注目し始めている.丁度我々が訪問した当日に,広野工場で産業廃棄物中間処理の許可を取得し,非鉄スクラップの中間処理を行う新工場の準備を始めているところであった.銅,モーターなどの非鉄を集めて輸出を行う計画である.
とはいえ,従来からの部品輸出部門にも経営資源を注いでいることは無視できない.現在,ロシア,ヨルダン,マレーシア,ガーナなどからバイヤーが来ている.ロシア向けの場合,輸出港である小名浜への船舶寄港の状況にもよるが,40フィートコンテナを輸出している.同社ではバイヤーとの長期的な関係を重視し,単純に単体部品に高値を提示するバイヤーよりも,様々な部品をミックスして一定量を購入してくれるバイヤーを重視している.また,原町市にはバイヤー向けにナプロハウスという快適な寄宿舎を保有しているが,こういったところからもバイヤーとの良好な関係を長期的に維持していこうという同社の姿勢が感じられる.
最後に,最近では自動車解体業者の多くがwebサイトを保有しているが,ナプロフクシマのwebサイトには従業員が頻繁に搭乗する.ブログや日記のページを作成するだけでなく,有意義な情報も日々流し続けている.これは経営上非常にポジティブな効果をもたらすと考えられる.例えばユーザーにとっては,廃車を出す機会は数年,あるいは10年に1度あるかないかというごく希なものである.その際に,その企業がどのような姿勢で顧客に対応してくれるのか,というのがあらかじめ明らかになっていることの安心感は極めて大きい.同社のこういった姿勢は,同業他社に良い意味での刺激を少なからず与えていると考えられる.
3. 潟Vマ商会
自動車部品解体・販売の国内最大手,シマ商会は福島県浜通り北部の原町市内,国道6号線沿線に事業所を展開している.同社は現在も代表取締役社長である島一氏が,社員数3名の体制で設立した会社である.
事業内容は幅広い.自動車リサイクルパーツの国内外販売,中古自動車・トラック・建設機械の買取販売(国内・外),使用済自動車(廃車)買取・引取・適正処理,エンジン・パーツ・中古自動車・トラック・建設機械の輸出,製鉄原料の回収および非鉄原料の回収・販売,自動車整備工場を手がけている.以下では同社の特徴を紹介したい.
まずは,同社の中古部品販売事業についてである.同社は当初から国内向け部品販売において積極的な取り組みを行ってきた.特に販売ネットワークの重要性を早くから認識しており,自動車解体部品同友会の立ち上げを行い,後のホンコングループ,ビッグウェーブへと発展する礎をつくった.1980年代後半からは国内向け部品に加え,海外向けのエンジンなどの部品を積極的に輸出しはじめた.現在,中古車も含めれば世界約160カ国と取引をしている.そのため,同社の解体ヤードには多数の外国人バイヤーの姿を見ることができる.出身は中南米,アセアン諸国,アフリカなど多様である.貿易相手国を増やせば,様々なコストやリスクが発生する可能性も高くなると考えられるが,それ以上に多様な国・地域にネットワークを広げて事業を行った方が有利だという同社の判断である.
ただし,この判断を行うための重要な条件がある.それは品質である.同社はこれには絶対的な自信を持っており世界的にも高い評価を得ている.例えばアフリカのガーナでは,シマ商会はすでにパーツの有名ブランドになっている.何よりも,シマ商会で生産された良質な部品が世界中で利用されていることについて,会社全体で誇りをもって事業を行っているという印象を受けた.
もう一点同社の特徴をあげるならば,それは質の高い人材確保に成功しているということだろう.自動車解体業は解体そのものの技術はもちろん,部品の検査のための技術も非常に重要であり,熟練度が要される.島社長によれば,特に商品の最終検査の能力の備わった技術者の確保が重要で,同社には2級整備士の資格を持った社員が20名いるという.同時に,こういった優秀な人材を育てていくためには10年はかかるという.しかし,同社は原ノ町市界隈では非常に魅力的な就職先であり,優秀な人材が確保できるのはもちろん,定着率が極めて高い.これによって,十分教育された従業員が良質な部品を生産し,それが企業の業績はもちろん,同社に対する評判を高め,新しい優秀な人材確保につながるという好循環となっっている.
なお,同社は集荷範囲を北海道から東京エリアと広域に亘り集荷していることも関係し,リサイクル法施行以降の入庫台数の減少という事態には直面していないようである.しかし,やはり個人からの買い取りを増やしていこうという姿勢はあり,一方でオークションからの調達は減らしていたきと考えている.
さて,同社はこの4月から国内の解体業界では珍しいシュレッダー設備を備えた解体工場「自動車リサイクルゆめ工場」の稼働を開始する.処理台数の大幅な引き上げと,鉄・非鉄の原料供給に本格的に乗り出すことを意味し,同社の歴史にまた新たな1ページが付け加えられる.
4. まとめにかえて
本稿では福島県浜通り地域を代表する2社の紹介を行った.必ずしも廃車を集めるには好条件とはいえない立地環境の中,それぞれの会社では廃車の集荷システムや商品の品質の向上,さらには質の高い従業員の獲得と育成,国際的な展開をいち早く始めるなど,限られた条件の中で独自の戦略をとってきたことが特筆される.
この地域は小名浜港や相馬港を中心に海外との貿易も盛んであり,外国人による自動車の解体や輸出も見られ,国際リサイクルの窓口として機能している.また,ASRリサイクルの小名浜精錬所が立地しているなど,自動車リサイクル関連セクターの立地分析には非常に興味深い地域である.
我々はこの間,国内の各地の自動車リサイクルの現場を訪問しているが,元来,廃車発生量が産業立地を大きく左右する業種であるだけに,その地域的な特徴も際立つ.当該地域の業界の基礎データの収集と実態把握を行い,その特徴を分析し他地域と比較することで,その地域がグローバル化の時代に重層的に形成されているリサイクルのネットワークのどこに位置するのか,という考察も可能であろう.こういった点からも,我々は今後継続して各地の現場を訪問し,本連載でその成果を発表していきたい.
(あさづま ゆたか ・ 北海学園大学)----------
* この福島県浜通り地域調査(2006年2月28,3月1日実施)および本稿執筆にあたり,関係者に大変お世話になった.記して感謝申し上げたい.