本年1月より自動車リサイクル法が施行され,事業環境の変化と事業者間の熾烈な競争が始まりつつある.今回は,自動車リサイクル事業への新規参入企業組ながら,短期間で事業を軌道に乗せた,潟Iートセンターモリ・エコワールド事業部を取り上げる.同社の高効率かつ高収益を目指すビジネスモデルについて概観しながら,同社の競争力の源泉について考えてみたい.
オートセンターモリの概要
潟Iートセンターモリ(三重県伊賀市安場)は,新車・中古車の販売を中心として,車検・修理,板金塗装,自動車買取,中古部品の販売,自動車リサイクルまで総合的に事業を手がけている.
同社の原点は,森剛会長が1976年に5台で始めた中古車販売業である.業容を拡大させながら,陸運局指定工場の認可により本格的な整備業へ進出し,そして最新鋭の板金塗装設備の導入などを経て,中古自動車の買取や販売だけでなく,それらを補完する分野へと事業領域を拡大させていった.その延長として,2002年より同社はエコワールド事業部立ち上げ,自動車リサイクル事業へ参入した.本格的に取り組んでからまだ3年も経たないが,すでに事業部ベースでは今期で累損の一掃を見込んでいると森会長は語る.いったい,どこに同社の強みがあるのだろうか.新規参入したビジネスを短期間で軌道に乗せた秘訣について探ってみよう.
特徴的な解体システム
リサイクル処理される自動車は,遠くは愛知や大阪からエコワールド事業部へと集められる.月間の処理台数はすでに1000台を超えており,多い月では約1500台が処理されるという.処理数は多いものの,搬入される自動車は2段や3段に積み重ねられるのではなく,敷地内に平置きにされており,かなり回転率は高いようである.解体処理される自動車は,前処理工程として,タイヤ,バッテリーなどが外され,フロンガスが回収される.次に,エンジンオイル,ミッションオイル,パワーステアリングオイル,不凍液などの廃液が抜き取られる.ここでは最新鋭の液抜き機により,徹底した工程時間の短縮と廃液の分別貯蔵が図られている.
前処理が施された自動車は,11カ所ある解体ブースへと運ばれる.驚くべきことに,ここには我々が見慣れたニブラのような重機は見あたらない.手作業で解体しているのである.エンジン,ボディパーツ,サスペンションをはじめとして200品目にのぼるパーツが粛々と取り外されていく.この解体ブースは1人で1台を担当し,その作業時間は40分程度だという.最後に残ったガラはすでに「ホワイトボディ」と言っても差し支えない状態であり,これが三方締めされて電炉メーカーのもとへと向かう.徹底した手作業の結果,納入されるプレスはCu値(銅含有値)0.1パーセント未満とのことであり(2003年10月現在),有利な条件で電炉メーカーに納入することが可能である.一連の作業は前述のように手作業中心であり,省力化や効率化といった潮流からは反しているように思われるが,実はここには様々な競争力向上のヒントが隠されている.
同社では解体工程において効率化を目指したライン方式ではなく,1人が1台の解体を担当するセル方式を採用している.この点は生産性の点から考えると興味深い取り組みである.動脈の製造業においては,モジュール化された部材を少人数のチーム(いわゆるセル)で組み立てるという,セル生産方式が近年では注目されている.ご存じの方もおられるだろうが,複写機メーカーには,プリンターや複写機の生産において1人の従業員が最後まで組み立てる方式を採用しているところもある.分業して流れ作業をするよりも,セルで少人数が作業するほうが生産効率の点で有利であるという考え方なのである.これを自動車解体で応用しているのが同社の解体システムといえる.
ただし,漫然と1人で解体するのでは昔とまったく変わらない.ではどこに違いがあるのか.それは工程管理と時間管理の概念の導入である.経営学のテキストにあるような,テイラーの「科学的管理法」の実践といってもよいだろう.日本の大手メーカーを例に出すまでもなく,時間と工程の管理による改善が効率性を高めているのである.
しかしながら,工程において効率性を追求したとしても,解体作業が労働集約的作業である現実は否定できない.そこで同社では,海外から仕入れにやって来るバイヤーに解体ブースを解放し,また中国からの研修生を招くことで彼らを戦力として活用している.彼らには,同社が解体技術にとどまらず経営ノウハウに至るまで提供している.これによって,彼らが母国で自動車リサイクルビジネスを営むことも可能であり,森会長がグローバルな社会貢献として目指すところでもある.
「川下からの展開」が意味するもの
同社の強みは,こうした解体工程の精緻化だけにとどまらない.すでに触れたように,同社は中古車販売からスタートし,現在では買取や板金塗装,そして自動車解体へと業容を拡大している.森会長曰く「川下からの展開」というものである.自動車の解体をメインに考えた場合,このような事業展開は「入口」と「出口」において解体専業の事業者にはないアドバンテージが存在するのである.
まず「入口」とは,処理をおこなう自動車の仕入れ(引き取り)ということになる.最近では自動車リサイクル法の施行を見越した,新規参入,あるいは既存企業の処理能力拡大などにより,「タマ」となる自動車の確保に頭を悩ます事業者も少なくない.しかし,同社では中古車販売業を中心として発展してきた企業であり,いかにして「タマ」を集めるかというノウハウを持っており,安定した仕入れルートの開拓と確立に腐心してきた.安定仕入れが可能であるということは,同社が他の事業者よりも有利な競争ポジションを獲得しているといえる.
では「出口」についてはどうだろうか.同社の自動車リサイクル事業への取り組みでは,「4つの柱」と呼ばれる収益源を位置づけている.それは,海外コンテナによる中古部品の輸出,国内向け中古部品,素材,そして買取と販売である.ご存じのように,自動車リサイクルビジネスは,性質上「鉄(の価格)に左右されるビジネス」となりがちである.これを避けるために,付加価値を生み出す収益源を確立することが必要となってくる.そこで同社では,海外・国内向けの中古部品の販売や,買い取った使用済み自動車の販売を収益源として加えて「出口」を強化している.そのためには売るための努力が求められ,「正確な価値判断を下す能力」が必要となる.
この能力と,それを生かす能力は,同社のグループ内の有機的な繋がりによってもたらされている.価値判断が適切におこなわれれば,引き取り車両を解体するか,あるいは修理を施すことで中古車として販売するか,どちらが価値を生み出すかという判断が可能となってくる.同社が中古車販売をコアとしたビジネス展開をしてきたということが,この「価値判断能力」育成に有利に働いているのである.
グループ内で自動車リサイクル部門を持つことは,同社の事業展開において相乗効果もたらしていることもわかる.たとえば解体によって得る中古部品をグループ内の店舗で顧客に販売することができる.あるいはそれを自社で販売する中古車に取り付ける,または板金塗装部門で顧客の要望に応じて利用することもできる.グループ内が有機的なつながりを持つことで,収益源を拡大させることが可能になる.このような,グループを最大限に使ったメリットの追求,すなわち「範囲の経済」の追求によってもたらされる競争力が同社の強みなのである.
アライアンスと今後の展開
最後に,今後の同社の目指す展開について触れてみたい.同社も会員企業の1つである,NPO法人RUMアライアンスという,ボランタリーな共同組織が存在する.これは,理念を同じくする優良自動車リサイクル事業者が連携し,適正処理への啓蒙活動や勉強会を通じて,自動車リサイクル法施行以降の生き残りをかけた活動をおこなっている.事業者がこのような形で連携する理由は,同社の強みとしてすでに指摘した「入口と出口」の確立を目指すためである.事業者が連携することで,安定した仕入れと供給が可能になり,流通の面でも相互にメリットが発生する.
同社ではこれをフランチャイズとして発展させることも考えている.本稿で紹介したような運営ノウハウの提供や,また同社がネットワーク中核企業となることで,同社もフランチャイズ企業もスケールメリットを追求することが可能になる.
環境を守るという理念を,いかに永続的なビジネスとして成功させるかという課題に対し,1つの答えを出したのが同社の取り組みである.工程の精緻化やグループ一体となった事業運営は他の事業者も参考になるであろう.しかし,同社のコア・コンピタンスともいうべき競争力の源泉は,「価値判断」の能力であり,これは真似の出来ないものなのである.
(なかたに ゆうすけ ・ 一橋大学大学院経済学研究科)----------
* 本執筆にあたって,潟Iートセンターモリ エコワールド事業部(2005年1月27日)の森剛会長,北川克也企画・開発次長に貴重なお話を頂戴した.記して感謝したい.