自動車リサイクルの現実と課題
― 第40回:問題は「消えた」のか ―

阿部 新

『月刊整備界』 38巻11号,2007年10月,pp. 34-37

1. はじめに

 2007年7月,経済産業省と環境省は自動車リサイクル法の施行状況に関する合同会議を開催した.同法は施行から2年半が経過し,その間,様々な問題が指摘された.とりわけ施行直後に中心になっていたのは,400万台と想定された使用済自動車の発生台数に対して,引取実績が約300万台であり,残りの100万台が「消えた」ことであった.この「消えた」100万台の一部は,適正な手続きを経ない違法解体とも考えられた.違法解体は,主にリサイクル料金が預託されない状態で,一時抹消登録状態のまま解体されるものとされた.そのため,全ての保有車両にリサイクル料金が預託される2008年になると,このような行為がなくなるのかが一つの焦点になる.

 一方で,解体業者が使用済自動車を中古車として引き取る(引き取らざるをえない)状況が依然として各地で語られる.これは最終ユーザーではなく,解体業者が使用済自動車の排出者(車両の最終所有者)としての責任を負い,リサイクル料金を支払うというものである.この状況は,リサイクル料金が全て預託される2008年以降も起こりうるものである.本稿では,順調に進んでいるとされている自動車リサイクル法に関して,このような議論をどう見るかについて考察したい.


2.100万台問題は消えたのか

 まず,統計を見てみよう.「前期末保有台数+当期新規登録台数−当期末保有台数」によって得られる「廃車台数」の内訳は表1の通りである.「廃車台数」のうち,データとしてある程度わかっているのは使用済自動車台数と中古車輸出台数である.

表1:「廃車台数」の内訳
期間 「廃車台数」 使用済自動車 中古車輸出 その他
2005年1月〜2005年12月 4,821,130 2,661,935 1,090,746 1,068,449
2005年4月〜2006年3月 5,235,322 3,048,539 1,136,297 1,050,486
2005年7月〜2006年6月 5,539,151 3,245,316 1,227,333 1,066,502
2005年10月〜2006年9月 5,550,351 3,398,592 1,284,937 866,822
2006年1月〜2006年12月 5,566,893 3,507,534 1,319,755 739,604
2006年4月〜2007年3月 5,444,910 3,573,215 1,352,248 519,477
2006年6月〜2007年5月 5,161,026 3,632,464 1,388,633 139,929
出所:各種統計より筆者作成. 注:中古車輸出は貿易統計の116%を求めている.

 中古車輸出台数は,本来であれば輸出抹消登録台数を用いるべきだが,データの蓄積が不十分なため,貿易統計の116%の数値を求めている(注1).使用済自動車台数は,自動車リサイクル促進センターに報告された引取台数である.

 「その他」の数値は,(1)一時抹消状態車両の増加数に加えて,(2)一時抹消状態のまま国内市場から消えた車両も含まれる.例えば,違法解体のように適正な手続きを経ないで解体された車両が該当する.

 これを見る限り「その他」の数値は,施行から1年半程度は変わらない状況だったものが,それ以降,減少傾向にある.このような減少傾向は,預託車両の増加によって違法解体のインセンティブが減少した点が考えられる.また,廃車ガラの輸出申告時において電子マニフェストの画面印刷物を求めるなど,政策による効果も考えられる(注2).これらは上記の(2)に関わる車両の減少である.一方,違法解体とは別に,上記(1)に含まれる中古車販売店における流通在庫の増加分が縮小する状況も考えられる.この数値は数万台規模のもので,全体からすると影響は小さいと考えられるが,負になる状況もあり,そのような場合,違法解体の減少が過剰に見積もられる可能性がある.この点はまだ明らかになっておらず,今後の課題である.


3.違法解体の今後

 解体業者は,ある価格の車両から中古部品,再生資源を売却して収入を得る一方で,それらの分別回収のために費用がかかっている.また,自動車リサイクル法によって,料金が預託されている車両を中古車として仕入れる場合は,リサイクル料金を前の所有者に支払う必要がある.一方で車両を適正にリサイクルすることによって,費用の一部をリサイクル料金として受け取ることができる.これらを考慮すると,概ね下記のような数式が考えられる.

 (式1) 車両引取価格>有価物売却収入−分別回収費用−逆有償物処理費用−運搬費用−事務費用−その他費用−違反に対する罰則費用−リサイクル料金支払い分+リサイクル料金受け取り分

 この中で,違法解体においては,逆有償物を必ずしも分別回収するインセンティブがないため,その分別回収費用と処理費用,さらに事務費用を限りなく削減できる.一方で,適法解体は法によって3品目の分別回収費用と処理費用をある程度確保でき,また罰則費用もない.問題は,事務費用と3品目以外の逆有償物の回収・処理費用である.これが微小であれば,違法解体費用が相対的に大きくなり,その結果,違法解体の車両引取価格が競争上不利となりうる.加えて,廃車ガラの輸出申告時における移動報告証明のように,有償物の売却先の道を閉ざす政策によって,その市場競争が狭まり価格が不利になることもありうる.もちろん,違反に対する罰則費用とその発覚確率を上げることも重要である.これに対して,事務費用や3品目以外の回収・処理費用が大きければ,それを可能な限り低くする政策(手続きの簡素化,無償回収プログラムなど)が重要になってくる.

 一方,リサイクル料金の預託に関係なく違法解体がされる場合もある.例えば盗難車の解体である.盗難車は主に国外に輸出されるが,税関で車台番号などの入念なチェックがなされ,予防されている.しかし解体され,部品として輸出されたり,国内で解体された車の車台番号に書き換えるなどの行為がある.後者の場合でも車台番号を提供する車は,一時抹消のまま解体されると考えられ,いずれにしろ適正な手続きを経ないものと思われる.また,輸出先の関税に起因するものもある.例えばロシア向けの輸出について,7年を超えるものについては関税が高く,部品として輸入後,組み立てるという行為がある.これは日本国内で解体するのだが,そうであれば自動車リサイクル法上の許可が必要であるし,廃オイルなどの回収といった行為義務が必要になる.このような解体行為は,使用目的での輸出のため,市場が異なり,資源回収目的で仕入れる車両とは価格設定が変わってくる.高級車のように高価格で売却可能であれば,違法解体をする行為に適正解体は競争上負けうる.環境汚染を伴わなくても,適正な手続きを行って市場で競争している事業者にとっては,不公正な競争状態になる.


4.使用済自動車の排出者

 違法解体とそれがもたらす不公正競争の問題がなくなったとしてもさらなる問題はある.それは,解体業者が使用済自動車として引き取るはずのものが中古車として引き取られているということである.つまり,解体業者が使用済自動車の排出者として責任を負い,リサイクル料金を支払うというものである.車両を使用し効用を得たのはユーザーであるにもかかわらず,その使用済みの処理責任がユーザーになく解体業者が負うというのは,あまり理解できるものではない.

 「廃棄物の処理責任は排出者にある」という一見シンプルなルールは,解釈によって様々な捉え方がある.日本における廃棄物の定義は,物の性状や価値,占有者の意思など総合的に判断されることになっているが,個々の自治体の判断に依存し,往々にして有償物であれば廃棄物ではないとされる.その結果,有償物と見せかけて法の枠外で取引する行為が横行した.これに対して自動車リサイクル法では,有償,非有償に関わりなく,使用済自動車を廃棄物処理法上の廃棄物と明確にした.そして使用済自動車の排出者は,これを有償で引き渡したとしても,法制度のもとで適正な引き渡しが求められ,有償物と見せかける行為を防ぐことができるようになった.

 同法は,有償か非有償かという境界線がもたらす問題を克服できたにも関わらず,今度は使用済みか否かという境界線に直面している.法の枠外で取引をしようとするインセンティブが働いている点では従来と変わらない構図である.使用済自動車ではなく中古車として引き渡せば,引き渡し者は廃棄物の排出者としての責任が求められない.支払ったリサイクル料金も返還される.

 解体業者が車両を中古車として引き取り,解体する場合,解体業者が使用済自動車の排出者(=車両の最終所有者)となるが,このケースはどの程度あるのか現状はデータとしてわからない.ただし,解体業者が引取業者になる場合に関して,参考になるデータはある.2007年7月の合同会議で,2006年度の引取工程における引取報告件数約357万台のうち,32%程度が法律上の「引取業者単独」によるものだったということがわかった.つまり,残りの68%がフロン類回収業者や解体業者などを兼務しているということである.しかも2005年度の「引取業者単独」が45%であることから,兼務の割合が増えている.また,浅妻・阿部(2007)では,北海道における2006年度の引取業者の業態として,解体業者や破砕業者の割合が55%であり,その他45%については,新車販売ディーラー(18%),中古車販売ディーラー(16%),整備業者(11%)という数値を紹介している.これらを見ると,解体業者が引取業者となるケースはかなりあることがデータとして示される.

 ここで解体業者が引取業者を兼務している状況は3つ考えられる.

(a)販売業者や整備業者がユーザーから中古車として車を引き取り,それを解体業者に使用済自動車として引き渡す状況(排出者=販売業者や整備業者)

(b)ユーザーが直接解体業者に使用済自動車として車を引き渡す状況(排出者=ユーザー)

(c)販売業者や整備業者,ユーザーが解体業者に中古車として車を引き渡す状況(排出者=解体業者)

 これらは事実上,ユーザーが排出した車が解体され,リサイクルされるという流れでは同じことである.また,売却される市場が同じであるから,それによる解体業者の収入も同じである.異なるのは,手続き上の違いから(c)のみ解体業者がリサイクル料金を支払わなければならない.しかし,(c)はその分,車両引取価格が低く設定されるだけのことであり,車両引取価格+リサイクル料金支払い分の合計は,結局同じである.

 排出された車が使用済みか否かを最終的に決定するのは解体業者である.なぜならそれが解体されない限り,車として機能するわけであり,中古車として使用される可能性があるからである.そのため,排出時点ではユーザーは使用済自動車の排出者ではない.結果的にそれが解体されることで,中古部品,再生資源,その他不要物の「混合物」(=使用済自動車)をユーザーが排出していることが確定する.本来であれば,解体の結果を以って,ユーザーが使用済自動車の排出者か否かを決定すべきである.現実的に難しいが,検討課題ではある.

 また,ユーザーから様々な事業者を経由して,使用済自動車が解体業者に渡るということも問題を難しくしている.そのため,解体業者に中古車として引き渡すことを禁じたとしても,個人名による名義変更などで引き受けの体制を作ることも可能であると思われ,いたちごっこが続き,手続きを増やすのみである.

 中古車として引き取る場合は,抹消登録関係の手続きが必要になり,解体業者は,抹消登録や所有権の解除のために様々な書類を集めなければならず,関係者が複雑であればその分の事務費用がかかる.それはさらに車両引取価格を下げ,引き渡し者にとってもメリットがない.車両引取価格+リサイクル料金の合計が同程度であれば,できる限り手続きを簡素化する方法を選んだほうが効率的と思われる.

 一方,上記と逆の状況もある.販売業者などが中古車を使用済自動車と見せかけて引き取るという行為である.これは事実上,中古車の取引であり,本来であればユーザーにリサイクル料金を支払わなければならない.上記と同様に,使用済自動車か否かが解体の結果を以って判断されないことに起因する問題であり,ユーザーに対して引き渡し後の結果を伝達する方策(葉書による通知)が求められる.

 いずれにしろ,ユーザーは潜在的な使用済自動車の排出者であり,それが中古車として再使用されたのか,使用済自動車として解体されたのかを確認することが求められる.そして,使用済自動車として引き渡した場合は,その排出者として相応の責任を負うべきである.

(あべ あらた ・ 一橋大学)
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(注1)貿易統計は出港日に記録されたものであり,またデータも最も蓄積されているため有効だが,輸出申告書における1品目の価格が20万円以下の少額貨物を含まないという問題がある.一方,輸出抹消登録台数(登録車のみ)は少額貨物を含むことから,これに輸出前に申告される軽自動車の輸出予定届出台数(約3万台)を加え,貿易統計の数値で割ると約116%となる.表に示される数値はこれを用いており,中古車輸出台数の上限と考えられる.
(注2)これは,新潟県(東港・西港・直江津港・柏崎港)において,廃車ガラを輸出する場合は,輸出申告時に,廃車ガラの全部利用に関わる電子マニフェストの画面印刷物の提出を求めるものである.この運用は2006年12月より行われている.この背景には,自動車リサイクル法の枠外で,すなわち電子マニフェストを通さずに部品取りをし,廃車ガラを輸出するという行為がある.ただし,他県での適用はされていない.
参考文献:浅妻裕・阿部新(2007)「北海道における使用済自動車市場と流通量に関する研究」『北海学園大学経済論集』55(1),pp.55-88.

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