自動車リサイクルの現実と課題
― 第16回:北陸の自動車リサイクル事情 ―

平岩 幸弘

『月刊整備界』 36巻11号, 2005年10月, pp. 32-34

 自動車リサイクルの事情が,地域によって多少異なることはよく知られていることである.われわれは,これまで主に関東地域の自動車リサイクル事業者を見てきたが,去る8月下旬に,新潟・富山の両県に訪れる機会があった.本稿では,それぞれの県の有力事業者である2つの企業を紹介し,この地域特有の事情について若干の所見を述べたい.


 富山物産 新潟オートリサイクルセンター下越

 新潟オートリサイクルセンター下越は,新潟県上越市に本社を置く富山物産鰍フ工場の1つである.富山物産自体は,シュレッダー機を保有し,鉄スクラップ回収などを手がける大手リサイクル事業者である.2001年には,自動車リサイクル工場として,上越市に新潟リサイクルセンター(上越工場)を設置している.

 今回訪れた下越工場は,上越工場に続いて2004年に作られたものである.新潟市内に位置し,新潟駅から車で十数分のところにある.工場の敷地は約1万3000uと広く,ヤードには平置きで多くの廃車が並べられている.解体作業所も天井が高く,空間が広い.

 新潟県全体の廃車発生量は,月間7000台程度で,このうち1000台は主としてロシア向けに中古車として輸出されているという.残りの6000台のうち,同工場が扱うのは約1000台である.主に新潟市周辺のディーラーから廃車を仕入れている.

 同工場の売上構成は,新潟という土地柄から輸出向け,とりわけロシア向けの輸出が多いのではと想像していたが,部品販売とスクラップ販売が半々程度である.部品販売は,国内向けが7割,輸出向けが3割である.輸出もロシア向けではなく,大半がドバイ向けであり,しかも新潟港ではなく横浜港までコンテナを運んでいるという.必ずしも地の利を生かしているというわけではなく,むしろ,貿易における取引きの信用性が鍵となることを痛感した.

 タイヤは,下越工場では地元の処理業者に委託している.一方の上越工場では,自前のタイヤ破砕工場があるため,直接セメント会社に引き渡している.以前のレポート(第14回)で,タイヤ破砕工場を紹介したが,近年は同社のように自動車リサイクル工場においてタイヤ破砕をする事業者が見かけられるようになった.また,バッテリーと廃油は,それぞれ無償で処理業者に引き渡している.

 廃車ガラは,ほとんどが全部再資源化向けにプレスされ,TH,ART両チーム向けに分けられている.全部再資源化のメリットの1つは,コンソーシアムの認定で,これは,国からの「お墨付き工場」を意味する.同社では,これを積極的にPR材料としており,新車ディーラーからの信頼も厚い.また,ISOの認証も14001,9001の両方を取得し,地域への貢献も積極的に行うなど,公的な評価を重視している印象を持った.


 解体工場のレイアウト

 同工場で対応していただいた管理課長の谷口氏は,元大手装置メーカー出身で,工場設計の専門家である.

 近年の自動車リサイクル工場の傾向について,「新規の工場では装置やレイアウトをかなり凝っており,一方,古くからの工場では,後からの付け足しが多いために,工場内の(廃車が流れる)動線が混雑しているところが多い」と述べていた.それに対し谷口氏は,「解体工場では,よりフレキシブルで,動線がより短くなるようにレイアウトすべきであり,今後は解体工場といえども,製造業のような工場設計への発想の転換が必要である」と指摘する.

 新潟オートリサイクルセンターの2つの工場では,谷口氏の経験とリサーチから得られたノウハウが随所に活かされているのである.


 日本オートリサイクル

 次に,われわれは新潟市内から一路,富山市に向かった.日本オートリサイクル鰍ヘ,富山駅から車で30分もかからない程度の富山市エコタウンの一角にある.

 エコタウン内に同社の工場が開設されたのは2003年のことである.工場に着いてまず驚くのは,工場敷地を囲むように,廃車を4段で積む車輌棚である.まるで,コレクターが色とりどりの廃車をショーケースに入れて展示しているようにも映る.また,芝生や木といった緑も目に留まる.エコタウンという関係から環境教育の材料の役割をも担う必要性があり,「見せる工場」というのが第一印象であった.

 同社の仕入れエリアは,富山県内の同工場近辺である.昨年は月間2000台〜2500台をほどの廃車を処理してきたが,今年になって2〜3割ほど集荷台数が落ちているという.一方で,部品販売については,国内向け輸出向けともに,売上高は対前年を上回っている.国内部品は国内の有力ネットワークグループに参加している.

 部品輸出先は,中東やニュージーランド,アジア,ロシアと幅広い.ただし,お話によると,中古自動車としてのロシアとの貿易では,少なからず取引上のリスクもあって,なかなか難しいという.周辺にはロシア人が非常に多く往来しているにも関わらず,そう易々とビジネスには直結しないようである.同社は,エコタウンという行政が関わっている企業である点,もしくは取引先からの要望という点もあって,あまり不明瞭なビジネスはできないのである.

 また,同工場ではアルミの溶融炉も保有している.タイヤ破砕機もあり,破砕後はセメント会社や製紙会社に引き渡している.現在,エコタウン内にタイヤのリサイクル工場が立ち上がった.富山市エコタウンは,まだ第二次整備の段階である.エコタウンの利点である工業団地内のゼロエミッションは,今後,事業を拡大するにつれて,徐々に確立されてくるのだろう.

 エコタウンの利点として感じたのは,行政が介在,指導するために,地域からの信頼を得やすいという点である.富山市エコタウンは,住宅街が隣接しており,産業団地として隔離されているものではない.そのため,地域住民との対話が極めて重要になってくる.富山市は,地域住民とエコタウン参画事業者との意見交換の場を設けている.そのため,同社も住民と交流し意見を聞く機会があり,よい関係を維持できているようだ.


 ニブラの分業

 同工場の特徴は,ニブラを多用し,3台で「分業」している点である(通称「重機リレー式解体」).ニブラで処理されるのは,前処理をされ,エンジンやリサイクル部品などの解体を終えた車である.

 まず1台目で,エンジンルーム及び運転席側のラジエータ,ハーネス,モーター,コンデンサー,エンジンコンピューター等の非鉄を含む部品が回収される.そこで各素材ごとに4〜5つのコンテナに分別される.次に2台目で,助手席側,トランクルーム,フロアー,ルーフ部の非鉄金属の回収をする.さらに3台目で,エンジンや足廻を回収した後うまく折り畳んで,サイコロプレス機に投入する.これらの「連携」はまさに職人技である.

 これはもしかすると「ニブラによるセル生産」を目指しているかもしれない.このシステムでは,ニブラのオペレーターの熟練度と相互の連携が,この作業の完成度を左右していると思われる.また,プレスがART,TH,それ以外に分けている点も興味深い.これは前処理に入る段階から分けているようだ.要は,きちんとニブラで解体する段階から,どちらのチームなのか車体番号のレベルで正確に把握して作業しているということである

 その作業風景をじっくり見学させてもらったが,重機での処理は,一見すると効率性を重視し,分別が大雑把なのようにも映り,手分別とは程遠い印象がある.しかし,よく見ると,鉄やアルミも細かく拾い,見事に金属類を分別しており,手分別との距離の遠さはそれほど感じなかった.オペレーターの能力や分業方法によっては,効率性と分別徹底が両立するのかもしれない.


 まとめ

 今回調査した2つの工場は,偶然にも,有力リサイクル業者が関係する工場だった.数時間の訪問であったが,非常に多くの勉強をさせていただいた.

 とりわけ印象深かったのは,日本海に位置し,近隣に有力な貿易港があるという土地柄にもかかわらず,意外にもそれが生かされていない点である.ロシアは,周知のとおり,日本の中古車の重要な輸入国になっている.そのため,部品の輸出需要も増えていると思われるのだが,両社の場合は,必ずしもロシア輸出に特化しているという状況ではなかった.大企業であるほどリスクには慎重になるのが最近の流れであることを考えると,逆に,ロシアビジネスのリスクの高さを感じざるを得なかった.

 一方,自動車大国になりつつある中国についても,北陸は地の利を生かすことのできる地域にも関わらず,貿易政策の影響からか,日本からの中古車あるいは中古部品ビジネスはまだ芽生えていない.しかし,ロシアや中国は今後とも有力なマーケットであることは明らかである.現状のさまざまな障壁がどのように推移するかによって,ビジネスが広がる可能性を感じた.

 日本オートリサイクル訪問後,われわれは伏木港に立ち寄った.ここでは,おそらくロシア人と思われる船員が,数多くの中古車を船積みしている光景を見ることができた.また,その隣の置き場には,プレスされた廃車が山積みにされていた.これらが輸出先でどのように扱われるかは興味深いところである.同時に,北陸地域発の環日本海の自動車リサイクルビジネスがどのように発展していくかについても重要な調査課題となるだろう.

(ひらいわ ゆきひろ ・ 一橋大学大学院経済学研究科)
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* 調査および執筆にあたって,新潟オートリサイクルセンター下越の谷口公氏,日本オートリサイクル鰍フ担当の方に大変お世話になった.記して感謝する.

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