はじめに
2005年に施行された日本の自動車リサイクル法は,施行当初,統計上輸出中古車としても使用済自動車としても計上されない不透明な車両が100万台もあり,その行方に関する議論が絶えなかった.その後,3年を経て,このような統計上の不透明な車両はほとんどなくなった.それは,リサイクル料金が預託されたことで,脱法行為をする旨みがなくなったことも関係していると思われる.また,これと並行して中古車輸出台数もさらなる上昇を示し,貿易統計上の数値では,2005年の96万台から,2007年は130万台にもなっている.
一方,同時期に自動車リサイクル制度が始まったヨーロッパでは,同じように中古車輸出が増大し,また,統計上説明できない車両数も多く,違法解体に対する不満や不平が起こるなどまるで日本の施行当初のような混乱が見られる.今回は,そのヨーロッパの状況を概観してみたい.
ヨーロッパの制度
ヨーロッパでは,欧州連合(EU)が2000年に使用済み自動車(ELV)指令を採択し,それに基づいてEU加盟各国により法制度が整備されている.多くの国では生産者が使用済み自動車を無償で引き取るような制度となっている.施行当初は2002年以降に販売された車両を対象としたが,2007年に全ての車両を対象とするようになった.
このような中,周知の通り,金属スクラップなどの再生資源の価格が上昇した.これにより,使用済み自動車に価値が生まれ,わざわざ生産者が無償で引き取る必要性がなくなった.その結果,法制度に頼ることなく,使用済み自動車自体の不法投棄のインセンティブはなくなっているといえる.
ただし,新たな問題がある.認定されない解体業者へ引き渡されるという問題が起きている.使用済み自動車には,中古部品や再生資源のほか,処分される不要物が含まれる.そのため,再生資源価格がどのような水準であれ,不要物の処分費用を節約しようとするインセンティブは消えない.認定されない解体業者は十分な設備を持っていない状況が考えられ,認定業者よりも有利な価格で使用済自動車を手に入れることができる.
日本では,施行当初は同じような状況があった.無許可の事業者が一時抹消状態の車両を中古車として引き取り解体するという行為が施行直後にあったとされた.その背景には,使用済み自動車の引き渡し時にリサイクル料金を払わなければならず,それを回避する違法解体のほうが有利な価格で仕入れることができたからである.これに対して,法が浸透していくにつれ,リサイクル料金が預託されることで,同じことをやるとむしろ違法解体のほうが不利になってきた.
非認定業者への引き渡し
このような非認定業者への引き渡しは,ヨーロッパ各地で起きていると考えられる.筆者の2006年9月の調査によると,ポーランドでは使用済自動車の9割が認定されない処理施設に引き渡されるとのことだった.2008年5月にハンガリーのセゲドで開催された自動車リサイクルの国際会議においてポーランドの自動車リサイクル業界団体のFORSに再会したが,現在でも状況(9割が非認定処理施設へ流出)は変わらないと言っていた.また,同会議ではホストであるハンガリーの自動車リサイクル団体GOEなどがディスカッションをしていたが,ハンガリーでも同様に非認定の解体業者への引き渡しが大多数を占めるとされ,その議論ばかりであった.中東欧の事情については,かつて本連載でも紹介したが(2006年11月号),事情はさほど変わっていない印象を持った.
一方,ハンガリーやポーランドのような中東欧諸国ではなく,西側でも同様なことがある.たとえば,環境に優しい車の使用を求める団体であるクリーン・グリーン・カーズの記事によると,イギリスでは,スクラップとなった200万台の自動車のうち,半分以上が統計で示されず,「レーダーから消えた(vanished from the radar)」とある.これについては,自動車関連のメディアであるMotor TraderやAuto Industryの記事(ともに2008年5月6日付)でも取り上げられている.
これらは,リサイクル制度に起因する問題にあるが,抹消登録制度や自治体の監督などモニタリングの問題でもある.EU各国が同じようなレベルの制度を設けても,モニタリングの程度により,差が出てきてしまう.モニタリングが弱ければそこに脱法行為者が流れるのはどの国でも同じである.
ドイツの状況
ヨーロッパの中でも,ドイツは,自動車保有台数,販売台数が多く,日本の比較対象として注目される.現地のニュースやかつての筆者のヒアリング結果を見る限り,ここでは,国内の違法解体の問題よりも,国外への流出の問題が深刻なように思える.ドイツでは,連邦環境庁が2007年2月に中古車輸出に関連した報告書を発表している(Buchart et al., 2007).これは,貴金属製造会社のユミコアと環境研究機関のエコ・インスティトゥートを中心に行った調査である.彼らは,以前に共同で貴金属類のマテリアルフローの調査を実施している.今回の中古車輸出の調査はその発展形であり,環境問題というよりも,ドイツが失う資源はどの程度かという資源問題に重きを置いている.なお,同報告書はハンブルグ大学の大学院生の修士論文がベースとなっている.
同報告書は,既存論文サーベイ,統計の整理・分析,ヒアリングという手法でまとめられている.これによると,日本と同様に,ドイツでも貿易統計に計上されない数量があることがわかる(p.11).しかも,個人によるEU域内の移動であれば計上しないなど日本以上に統計がカバーできていないことがわかる.この報告書では,2004年の数値として,約300万台の乗用車の抹消登録のうち,統計上は使用済み自動車が54万台,中古車輸出が58万台となっており,約200万台が統計で説明できないとしている.貿易統計は,ドイツ連邦統計庁によって提供されているが,同庁のヒアリングより,説明できない数値はEU圏内への輸出であるという見解を示している.
使用済自動車台数は,ドイツ連邦環境・自然保護・原子炉安全省のホームページに掲載されている.これによると,2006年は320万台の抹消登録車両のうち使用済み自動車はわずか14パーセントの45万台となっている.1990年代後半の使用済自動車台数は180万台とされ(Recycling International, 2008),それと比べると大幅に減少したことになる.その背景として,中東欧諸国のEU加盟による貿易障壁の撤廃,ロシア,アフリカ諸国の経済成長が考えられる.また,金属スクラップ価格の増加,環境規制の強化により,使用済み自動車(中古部品,再生資源,残余物の混合物)としての移動も想定されるが,その実態はわからない.
日本では,中古車輸出が増加しているとはいえ,まだ抹消登録車両の7割以上が使用済み自動車として国内で解体される.ドイツが日本と異なるのは,近隣諸国と陸続きであることである.そのため,中古車としてではなく,解体目的の使用済み自動車としての輸出も日本より起こりやすいと言える.ただし,輸送の効率性を考えると,未解体のまま輸出するよりもドイツ国内で解体・分別したほうがより効率的なように思える.土地代や人件費の差が鍵になるが,もし差がなければ,使用済み自動車というより純粋に使用目的の中古車としての輸出であるかもしれない.
いずれにしろ,ドイツでは,日本以上にタマ不足が起きており,国内の自動車リサイクル産業は厳しい状況であることが想定される.このような中で収集エリアの拡大のために,各業者はどのような事業戦略を立てているのかは興味深い.
EGARA
ヨーロッパにも,日本と同様に,自動車リサイクルの関連団体は存在する.同時に,EUの関係機関との交渉窓口として,EGARA(European Group of Automotive Recycling Associations)というヨーロッパの統括グループが存在する.これは1991年に設立され,各国1団体が加盟しており,現在は16ヶ国の各業界団体からなる.この16ヶ国は,名簿によると,アイルランド,イギリス,エストニア,オランダ,スイス,スウェーデン,スロヴァキア,デンマーク,ノルウェー,ハンガリー,フィンランド,フランス,ベルギー,ポーランド,リトアニア,ルーマニアである.かつては,ドイツやオーストリアの名前もあったが,現在はない.同様にイタリアやスペイン,ギリシャも加盟していない.
現在のEGARAのチェアマンはイギリスのリサイクル団体MVDAのポール・フォックス氏となっている.先のハンガリーで行われた国際会議では,同MVDAの事務局のダンカン・ウィームズ氏が報告を行っていた.同氏の報告によって,ヨーロッパの現状を非常に良く理解することができた.
ウォームズ氏は,ヨーロッパ各国の自動車リサイクル制度を,積立方式(Funded Systems)と非積立方式(Non-Funded Systems)に大きく分けて説明していた.積立方式は,認定施設に引き渡された場合のみに最終所有者にある程度の金銭が支払われ,適正に使用済み自動車が流通し,違法行為を避けることができるとする.それは,生産者責任の制度下で使用済み自動車が管理され,リサイクル率の達成に貢献するという.そして,EGARAは,この方式は金属スクラップ価格が低下したとしても持続可能であると主張し,好意的に捉えている.
これに対して,非積立方式は,認定施設へ引き渡したとしても最終所有者にメリットは生まれない.そのため,認定施設に車両を引き渡すインセンティブがなく,車両は「定着しない」ディーラーなどに引き渡されると述べている.このような非認定業者は,抹消登録作業を回避し,事前処理をしないことで費用を削減し,車の仕入れ競争には有利となる.EGARAは,このような違法操業によって生産者責任の範囲にある車両が非常に減少し,その制度の意義を減少させているとする.そして,違法に引き渡された車両の汚染物質や廃タイヤの処理はどうなっているのかといった環境問題を訴えている.
EGARAのこのような主張は,EU委員会に対して継続的に行っているようである.ドイツやイタリアなどの自動車大国が加盟していないところは気になるところだが,業界代表として実態に即したロビー活動,政策提言を地道に行っている印象を持った.今回の報告で,ヨーロッパの制度では,使用済み自動車の排出時の金銭的な支払いが議論の的になっていることがわかった.彼らの主張は積立方式を望ましいとするように感じたが,今後,それがどのように政策に盛り込まれるのか関心が高い.
調査の必要性
ヨーロッパは,日本にとって中古車や中古部品の主要輸出先でもなく,また,距離的な遠さからどうしても関心度は低くなる.また,制度や技術においても同等レベルと考えられ,一見学習する必要性はないようにも思える.しかし,そういう状況であるからこそ比較対象としてヨーロッパの調査は重要であり,継続的に行う必要がある.とりわけ,日本では中古車輸出の勢いが止まらない状況で,各解体業者は,将来的な使用済み自動車の減少にどう対応すべきかという課題があるが,ヨーロッパの事情はもしかするとそのヒントを与えるかもしれない.彼らは,どのように使用済み自動車を確保しようとしているのだろうか.あるいは車両数が少ない状況で別の何らかの事業多角化のアイディアが生まれているのだろうか.継続的に分析する意義はあるだろう.
(あべ あらた ・ 一橋大学)----------
* 本研究は日本生命財団平成19年度環境問題研究助成(若手研究助成)より補助を受けた.
参考資料
[1] Recycling International (2008), “Car Recycling: still striving for top gear”, Recycling International, April 2008, No.3, p.32
[2] Buchert M., A. Hermann, W. Jenseit, H. Stahl, B. Osygus and C. Hageluken (2007), Verbesserung der Edelmetallkreislaufe: Analyse der Exportstrome von Gebraucht-Pkw und-Elektro(nik)geraten am Hamburger Hafen, Forschungsprojekt im Auftrag des Umweltbundesamtes FuE-Vorhaben Forderkennzeichen 363 01 133
その他クリーン・グリーン・カーズ,ドイツ連邦環境・自然保護・原子炉安全省,EGARA他ホームページを参照した.