自動車リサイクルの現実と課題
― 第55回:アラブ首長国連邦における中古品貿易 ―

阿部 新

『月刊整備界』 40巻1号,2009年1月,pp. 44-47

 2008年11月,筆者らは,アラブ首長国連邦のドバイ,シャルジャを訪れた.アラブ首長国連邦は7つの首長国から成っており,ドバイ,シャルジャともに7つの首長国の1つである.双方は距離が近く,渋滞がなければ,車で30分程度の移動距離である.

 このドバイ,シャルジャには,日本からの中古車や中古部品が多く集まっている.ドバイの中古車貿易については,よく知られているように,フリーゾーン内で巨大な中古車マーケットが成立している.一方,シャルジャについては,あまり知られていないが,大小さまざまな中古部品販売店が集積している地域がある.今回は,アラブ首長国連邦において,中古車や中古部品がどのように流通しているのかについて,シャルジャの中古部品貿易を中心に整理をする.


 シャルジャにおける調査

 これまでの調査で,日本から輸出される中古車は,輸出先または第三国で車として使用されることがわかってきた.つまり,解体・部品取りされる目的で車が輸出されることはあまりない.中古部品を調達する場合は,車そのものが国境を越えるのではなく,往々にしてバイヤーが日本を訪れ,解体された使用済み自動車から必要な部品を輸入するという形態を取る.

 このような形態は,シャルジャの中古部品貿易も同様である.店舗を見るとノーズカットなどのものも目にするが,解体工場が並んでいるわけではない.多くが日本で解体され,部品として輸入されていることがわかる.

 このシャルジャは,筆者がこれまで訪れたニュージーランドやロシアとは異なった特徴を持っている.それは,再輸出目的で中古部品が輸入される点,現地での販売はパキスタン人,アフガニスタン人などの外国人が担っている点である.アラブ人がこのビジネスを動かしているわけではなく,また,部品は,自国ではなく,第三国のマーケットに販売するために集められる.これらの特徴は,中古車についても同じことが言える.

 筆者らが今回の調査で絞ったテーマは(1)シャルジャの中古部品販売業者は何社ほどなのか,(2)どこに再輸出されているかであった.(1)については,歩いて地道にカウントすることを想定しており,(2)についても可能な限り歩き回り聞き取るつもりでいた.

 しかし,予想が大幅に外れ,(1)(2)ともに十分な調査ができなかった.まず,シャルジャの集積地に着いたときに,その地域の広さに驚いた.灼熱の中,半日で回れるほどの広さではなく,業者数を一つ一つ数えることはできなかった.(2)についても,15社ほどは回れたものの,輸出先はどこかという質問にまず出てきたのは「All countries」という回答ばかりであった.さらに具体的な国名を挙げるように求めてもありとあらゆる国名が出てきた(表1:省略).日本の富山県の中古車輸出業者がロシアに特化しているように,特定の国の名前が出てくる訳でもなく,シャルジャからの流通について,どの国が重要なのかが見えてこなかった.


 3WMとシャルジャの中古部品市場

 このようなシャルジャの集積地には,パキスタン人やアフガニスタン人に囲まれて,日本人が一人で切り盛りしている中古部品販売会社がある.その会社は,3WM(スリー・ダブリュ・エム)の現地法人であり,現地ではジャパンコーストという看板を掲げている.3WMは,名古屋に本社を置き,シャルジャのほか,チリにも支店を持っている.以前本連載でニュージーランドに拠点を持つジャパンオートパーツについて執筆したことがあるが,3WMは同社と同様の数少ない自動車リサイクルの多国籍企業である.筆者らはシャルジャの地で同社の久世氏と面会し,同地の中古部品貿易の実態についてレクチャーを受けた.

 久世氏によると,シャルジャの集積エリアは,大きく3つに分けられているという.それらは,カレッジ裏,アルハン,JNPと呼ばれており,カレッジ裏,アルハンにはアフガニスタン人が,JNPにはパキスタン人が集積している.久世氏独自の調査によると,シャルジャの中古部品販売会社の数はおよそ600社(カレッジ裏150社,アルハン150社,JNP300社)とのことだった.

 また,久世氏によると,このエリア内には,同じように見える中古部品販売業者が無数にあるが,彼らには役割分担があるという.大きく分けて4つあり,(a)輸入会社,(b)大規模会社,(c)小規模会社,(d)ブローカーに分けられる.輸入会社は,コンテナで中古部品を輸入し,ブローカーや小規模会社がこれを買い取る.輸入会社のコンテナ前には,ブローカーや小規模会社の従業員が集まり,簡単な競売が行われる.ブローカーは,調達した部品をシャルジャ内の販売会社に販売する.小規模会社は,それぞれ扱う部品を特化しており,それをアフリカや中央アジアなどの顧客に販売するほか,シャルジャ内の同業他社に売る.大規模会社は日本から輸入もするし,自ら輸出もする.輸出の際には,シャルジャ内のブローカーや小規模会社から部品を買い取って品を揃えることも多々ある(図1:省略).

 実際に,カレッジ裏の大規模業者を訪れると,日本(千葉や名古屋の名前を聞いた)に買い付けに行き,部品を調達していると述べていた.彼らの敷地は広く,部品だけではなく,中古トラックや建設機械も並んでいた.さらに,解体も行っているとのことだった.経営は,アフガニスタン人であり,この地に来て15年から20年とのことである.聞き取りの最中には,オマーンから来た客や,欧州のマルタから調達に来た客にも会った.

 このような役割分担の中,3WMは(a)の輸入会社の位置づけである.たまたまわれわれが訪れたときに,同社の前には日本から送られてきたコンテナが置かれており,税関当局の立会いのもと,そのコンテナが開かれる状況だった.コンテナの前には,ブローカーや小規模会社の従業員が多く待っていた.アフガニスタン人とも思えたが,皆若く,10代のように見えた.

 ところで,このような地になぜ日本企業が立地するのか.久世氏によると,「情報」であるという.マーケットの状況などの日本で入らない情報が入ってくるし,それを瞬時に把握することが可能であるという.また,日本人が経営していることは,行政側にとっても信用があるようで,特別な優遇はないにしろ,日本人ということで対応が変わることも多々あったという.同様に,現地では,日本企業というブランドが作用し,取引上の信用を得やすいというメリットもあるという.

 ただし,そのような状況になるまでには多大な労力を要する.店舗を設けるにしろ,まず,行政との折衝がある.どのようにして土地を借りるのか,どのようにして顧客とのネットワークを築いていくのかなどの多国籍企業が向き合わなければならない課題がある.それを克服することによって,他の企業にはない優位性が生まれる.


 ハンドル付け替え工場

 筆者らは,限られた時間の中で,ドバイの中古車フリーゾーンであるDUCAMZにも訪れた.ここには,中古車販売店が集まっているのだが,その敷地内の片隅に“Workshop”と名づけられたエリアがあり,主として右ハンドルを左ハンドルに付け替える工場があった.

 この“Workshop”にある工場は,14社から15社ほどとされるが,我々が見た限りでは6??社だった.その6社のうち,5社を訪問し(1社は代表者が不在だった),ハンドル付け替え後の行方に焦点を置いて聞いた.主として若いアフガニスタン人が切り盛りしており,多くの従業員が一生懸命ハンドルを付け替える作業を行っていた.

 付け替えられた中古車の行き先は,シャルジャと同様,様々だった(表2:省略).このような回答が出てくるということは,輸出会社が自ら特定の販路を開拓したというよりは,仕向け地のバイヤーが中古車を求めてアラブ首長国連邦に集まってきた結果のように思った.実際に,DUCAMZを訪れたバイヤーが,同地の販売店で購入した中古車のハンドル付け替えを依頼するようだ.

 ハンドルを付け替える理由は,輸入国でハンドル規制があるからである.部品の費用や手間をかけても,その中古車が生む便益のほうが大きいのである.規制がなければ,あるいは究極的にはハンドルが世界的に統一されていれば,このような費用や手間はかからない.古い車は大気汚染などの環境問題を引き起こしやすく問題だが,このように丁寧に一生懸命に改造して使用しようとしている姿を見ると,中途半端に物を廃棄する現代の日本の状況は本当に最適なのか疑問に思う.


 まとめ

 中古車にしろ,中古部品にしろ,アラブ首長国連邦向けに輸出されたものは,同地を経由して第三国へと再輸出される.今回の調査で,その再輸出先は,特定された国や地域があるわけではないことを実感した.それが不特定多数のバイヤーが集まる中継貿易拠点の特徴なのかもしれない.今後,これらを加味しつつ,データ上でその行方を追うことが重要になってくるだろう.

 また,このような中継貿易が今後どうなっていくか考える必要がある.現状は,不特定多数の販路を持つビジネスだとしても,今後,販路を特定したビジネスが主流となるかもしれない.あるいは,このような中継地を経由せず,直接日本と中古品の需要地が貿易をする可能性もある.これらの動向を見ながら,中古車あるいは中古部品の行方を追っていきたいと思う.

(あべ あらた ・ 山口大学)
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注:調査にあたっては,株式会社3WMの久世氏にお世話になった.記して感謝する.なお,本調査は,日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(c) 廃車フローの国際化とリサイクルネットワークの形成に関する経済地理学的研究」(代表:浅妻裕)より補助を受けた.

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