筆者らは2006年11月下旬に,初冬の中国遼寧省において,廃車解体処理および中古車市場の調査を行った.今回はその調査の中から,「鉄嶺市機動車交易市場」を紹介し,地方都市における中古車市場についてレポートしたい(中国における中古車取引については,連載第21回を参照されたい.なお,瀋陽市などの廃車解体処理の現状については,稿を改めて取り上げる予定である).
鉄嶺市は,遼寧省の省都である瀋陽市の北に位置し,高速道路で約1時間ほどの距離にある.遼寧省北部の中心都市であり,人口は市部で約44万人,全市では約302万人である.周恩来・元首相の「第2の故郷」としても有名であり,著名な文化人や数多くの五輪メダリストのスポーツ選手も輩出している.
瀋陽が東北地域を代表する政治・経済・文化の巨大都市とすれば,鉄嶺市は瀋陽経済圏の一角を担う中規模の地方都市といえよう.瀋陽から車で1時間という交通の便を生かし,近年は経済も活況を呈している.今後,さらなる発展が期待される都市である.
鉄嶺市機動車交易市場
鉄嶺市機動車交易市場は,同市が管理している中古車の取引市場である.筆者らは日曜日の午前中に訪問したが,濃霧という悪天候にもかかわらず,広い敷地内には数多くの中古車やバイヤーが集っていた.
中古車市場といっても,日本で目にするようないわゆる中古車ディーラーとは異なる.同市場には,中古車の売り手とその買い手が集まり,全て相対で中古車の取引を行っている.売り手は持参した中古車の近く(あるいは車内)で待機し,買い手とその場で直接交渉を行う.小型・大型・農用三輪など全ての車種が取引きされていた.また,敷地内のオフィスには新車ディーラーも入っており,敷地の隅では新車も販売されていた.
営業は土・日のみで,開業は朝8時,終業は正午である.しかし,7時頃には売り手・買い手が集まってきて,散会するのは午後1時すぎだという.同市場の敷地面積は約1万平米である.
なお,上海や北京などの大都市の中古車市場は毎日営業しているが,東北地域の遼寧省や黒竜江省の各市においては週末のみの営業となっている.遼寧省には14の都市があるが,大連と瀋陽以外の都市は,鉄嶺市の市場と同じくらいの小規模なものだという.察するに,同市場が中国の一般的な中古車市場の姿なのかもしれない.
同市場に集う売り手も買い手も,大半が個人あるいは個人事業者で,中古車の大半は鉄嶺市内から集まってくる.市場の利用料金は,中古車の売り手が支払い(買い手は不要),乗用車は5元,大型車が10元,特大・特殊車両が20元となっている.なお,中古車市場の利用料金は各都市ごとに差異があり,各地域の経済発展状況に応じて自由に設定することができる.例えば,瀋陽の場合は1台あたり40元だという.
中古車の取引やその後の契約などは,ほとんど個人間で済ませている.契約が成立しても同市場に料金を支払う必要はない.個人間で取引きした場合には,手続きに2〜3日の時間がかかるが,事務所に手数料を支払って契約の仲介を委託した場合には,所定の手続きが1日で済む.とはいえ,わざわざ事務所を通さないことが多いという.
この日に集まった中古車は,悪天候(濃霧)ということもあり,70〜80台程度だったが,春から秋にかけての好天の日には120〜150台が集まる.冬になると大型車の取引が減少するという.また,年間の取引成立台数は,具体的な数字は把握していないが,約2000台程度で,冬期には1日数台〜10台ほどが取引されている.
中古車市場の状況
市場で売られている中古車の多くは,泥と埃で汚れており,外観がハデに傷付いているものも少なくない.市場を見渡してみると,やはり乗用車が最も多い.年式では5〜8年の中年式のものが多く,買い手にも人気があるという(ちなみに,この地域での平均的な乗用車(タクシー除く)の走行距離は年間1〜2万キロである).価格はおおよそ3〜4万元(=日本円で約50〜70万円)で取引きされている.例えば,最も普及している乗用車である上海VWの「サンタナ2000」であれば,上位モデルの9年モノで約4万元程度だという.なお,1〜3年程度の高年式車はほとんど持ち込まれることはなく,逆に10年以上経過した低年式車は,販売されていたとしてもかなり安く,数千元〜1万元程度だという.
最近多いのは9座席のワゴン車で,1〜2万元ほどのものが良く売れているようである.また,農用の三輪車も市場の中で多く見かけた.三輪車は,税金面やガス代(ディーゼル車)などの維持費が安く,中国東北地域は農業が盛んで鉄嶺市でも農家が多いため,大都市に比べると量が多い.現在でも製造されており,走行している三輪車を市内で何度か見かけた.中古の三輪車は,数千元程度で取引きされている.
メーカー別では,上海VWや一汽VWなどの国内主要メーカーが多い.日本メーカーも総じて人気があり,数はそれほど多くはないものの,ホンダ,トヨタ,日産,スズキなど,ほとんどのメーカーの車が市場に持ち込まれる.以前に,走行距離が40万キロの日本車が持ち込まれたこともあったという.
もちろん,この市場でどうしても売れないようなボロボロの車は,鉄嶺市の廃車処理工場において解体処理されることになる.
最近の動向
ヒヤリングで興味深かった点として,以下の3つを挙げておきたい.
第1に,来年にも施行されるであろう廃車期限撤廃の影響である.これまで中国では,車種や用途に応じて自動車の使用期間が制限されており,例えば乗用車はであれば,購入後15年で強制的に廃車処理しなければならなかった.しかし,その廃車期限が撤廃されることにより,中古車市場や廃車処理などに少なからず影響が及ぶことが指摘されている.この点について同市場の李社長に伺ったところ,現時点では,同市場においてはその影響はほとんど出ていない,ということであった.現在の中国では15年以上も乗用車を使用することはあまりなく,消費者の側にしても需要はそれほど大きくないのではないか,というのが理由であった.
第2に,同市場から域外への中古車の流出についてである.同市場のバイヤーの中には外地から買い付けに来ている人もおり,その中では黒龍江省からのバイヤーが多いという.西部の内モンゴル方面からのバイヤーはいない,ということだった.
特に,中古タクシーが外部バイヤーによって多く買い取られていくという.タクシーの廃車期限は8年だが,タクシーは廃車期限撤廃の対象外であるため,期限に達すると必ず廃車処理しなければならない.鉄嶺市においても,タクシーなどの営業用車両は,確実に廃車処理手続きを完了しなければ新規に車両を購入することができず,次の業務を行うことができない.つまり,タクシーなどは期限に達すると必ず廃車処理されるため,6〜7年経過したタクシーは,購入しても数年しか使用できず,同市場ではほとんど売れないのである.そのような中古タクシーは,黒龍江省のハルピン市郊外や農村部に流れていき,自動車管理が比較的緩い地域において走行しているのではないか,という話だった.昨年も上海の中古車市場において同様のことを聞いたことから考えると,中古タクシーの都市部から内陸部への流出は多くの地域で生じている現象なのかもしれない.
第3に,2005年10月からの中古車取引の制度変更(「中古車流通管理方法」)の影響である.以前は,政府管理の中古車市場でしか中古車売買できなかったが,制度変更により中古車市場が開放され,現在では,どこでも中古車取引を行うことができる.それにより,新車ディーラーや個人事業者が中古車売買ビジネスに数多く参入してきた.その結果,参入業者による中古車取引量が増加し,中古車市場での取引量が減少する傾向にあるという.
李社長は,今後はさらに,いわゆる大型の中古車ディーラー(「二手車経営公司」)が大量の中古車を取り扱うようになるだろうと予測している.鉄嶺市にもそういった企業があるが,現時点では本格化しておらず,むしろ,個人営業の中古車業者が増えてきている.彼らは中古車市場にも買い付けに来ている.例えば8000元で購入した中古車を修理して,中古車市場などで1万元以上で販売するなどしてビジネスを行っている.鉄嶺市における中古車業界については,個人企業が多いため実態はほとんど把握できていない.ただ,市場での取引量が減少していることは確かなようである.
中国の中古車市場は,大都市ではすでに大きく変貌しているが,今回の調査で,その波が地方都市にも徐々に波及していることが確認できた.今後も継続的に調査していく予定である.
(ひらいわ ゆきひろ ・ 一橋大学大学院,----------
(WU Wei ・ 埼玉大学大学院)
* 現地調査の際,鉄嶺市の何名かの関係者に大変お世話になった.お名前は割愛させていただくが,記して感謝申し上げる.なお同調査は,滑實コ商店(鴨下治郎社長)およびトヨタ財団2005年度研究助成(「アジアにおける自動車リサイクルの実態調査および国際的制度設計に関する政策研究」/研究代表・寺西俊一)より援助を受けた.
** 2006年11月時点の為替レートは,1元=約17円である.