今回は,2006年11月に実施した中国・遼寧省の現場調査から,同省における廃車の回収・解体処理の現状についてレポートしたい.
遼寧省は,中国東北部において経済発展が最も著しい地域である.瀋陽,大連という2大都市に加え,鉄鋼の鞍山や炭坑の撫順など,古くから重工業地域として発展してきた.省全体では,人口4217万人,GDP6873億元,経済成長12.8%に達し,自動車保有台数は116万台となっている(いずれも2004年).
廃車回収解体業をみると,2000年時点の調査では,企業数25社,従業員907人,解体処理能力は4万4350台,実際の解体処理量は1万5706台となっていた(なお最新の統計によると,2005年の同省の廃車台数は1万7613台であった).省内には14の地級市があり,現在では各地級市に政府から認証を受けている解体工場が1ヶ所ずつある.
筆者らが訪問したのは,省都・瀋陽市とその郊外に位置するT市である.瀋陽市は市区の人口が492万人に達する中国第5の巨大都市で,一方のT市は市区44万人の中規模の衛星都市である.本稿では,この2つの都市にある2つの解体企業を取り上げ,両者を比較しつつ,その実態の一端を素描したい.なお,特に断らない限り,データは調査実施時点のものである.
解体工場の概要
瀋陽市の瀋陽秋実報廃汽車回収有限公司(以下,S社),およびT市のT市物資再生利用有限責任公司(以下,T社)は,ともに元々は国有企業として設立された.中国では2001年に現在の自動車リサイクル政策の基本法である「廃棄自動車回収管理方法」(以下,307号令)が施行され,それと期を同じくして有限公司化された.もちろん両社とも市内唯一の認証解体工場である.ただし,株式の大半は政府が所有しており,それぞれの市のリサイクル・再資源化事業と伝統的に密接に係っていることもあって,実質的には国有企業に近い位置付けである.
従業員の賃金水準はほぼ同じで,例えば,現場作業員の最低賃金水準でも月収1千元以上,年収2万元ほどあり,遼寧省における職工の平均賃金(約1万6千元)と比較しても,決して低い水準ではない.さらに管理職ともなれば,年収はその数倍にもなる.
S社は,廃車の回収・解体を専業としている.以前は瀋陽市内に多くの解体工場が立地していたが,1997年時点の9社から順次統廃合され,(認証工場としては)2004年に同社1社のみの体制となった.
一方のT社は,各種使用済み製品の回収・解体工場として1976年に政府および物資再生協会により設立された.1980年に廃車の回収・解体業務を開始したが,当時の廃車処理台数は年間で僅か数十台程度だったという.現在の業務内容は,廃鋼材や廃機械,廃棄家電などの回収,廃車の回収・解体処理,中古車市場経営,中古部品販売など多岐に亘っている.
両社の大きな差異の第1として,操業規模の差がある.S社は約150名の従業員を擁し,4万uの解体工場と4.9万uの廃車保管ヤードの敷地を有している.おそらく,廃車解体単体の工場としては中国国内でも最大規模であろう.それに対して,T社は従業員約50名,敷地面積1万u,年間処理台数は500台程度である.
廃車の回収・解体処理プロセス
両社とも307号令に準拠した回収・解体を行っている.すなわち,それぞれの市内で発生した廃車(使用年限切れの車両および事故車など)を回収し,5大品目(エンジン,ステアリング装置,トランスミッション,車軸,フレーム)を取り外して解体処理を行っている.T社を例にそのプロセスを紹介しておこう.
T市では,政府内の4つの部門(経済貿易委員会・監査局・公安局・工商局)が担当して「T市報廃汽車処理管理工作の意見書」が作成された.この4部門が廃車回収解体を共同で管理・統括している.車両が使用年限に達する2ヶ月前になると,交通警察が当該の車両ナンバーを地元新聞紙上に掲載し,廃車処理手続きしなければならない旨をユーザーに告知する.自走可能であればT社までユーザーが持参するが,同社が回収運搬する場合もある(運搬料金は普通車で100〜120元程度,大型車が1000元程度).
廃車手続きの際,ユーザーは各種必要書類と一緒に廃車をT社に渡し,ユーザーに対して廃車証明および登録抹消証明の発行,引取価格の支払いが行われる.事務所では,「報廃汽車回収報告書」という紙媒体の伝票に,車種や年式,引取価格などのデータを記入し,各担当者により確認が行われ,最終的に社長がサインする.一方,廃車を入庫した後の工場での解体処理はおおよそ,@販売用の中古部品の取外し,Aエンジン番号の確認と取外し,B5大品目の取外し,という具合に進む.
もちろん,地域や企業によっても多少の差異はあるが,国内のたいていの認証解体工場ではこのような流れとなっている.
廃車回収率と廃車引取価格
両社の差異にはもう1つ,廃車回収率(=実際の回収台数/市内の廃車発生台数)および廃車の引取価格がある.現地では引取価格のことを「残値」と呼んでいる.
まず回収率については,S社よりもT社の方が高い.T社では,市内の年間廃車発生台数1千台に対して,数年前までは回収率は約30%程度であったが,現在では50%まで上昇した.この背景についてT社のM社長は,瀋陽市と比較して「市の規模がコンパクトで,自動車登録台数が少ない分,2001年以降の307号令に基づく規範化がより順調に進んできたために,回収率が改善されてきた」と分析している.それに対してS社では,近年になり少しずつ上昇しているようだが,それでもようやく30%に達したにすぎない.
そこでS社では,回収率を引き上げて処理台数を増加させるために,廃車の引取価格を高めに設定するという苦肉の策をとっている.廃車の引取価格については,T市では450元/トンを基準としてT市物価局が引取価格を設定している.一般的な上海VWのサンタナであれば,およそ300元程度である.それと比較すると,S社が設定している引取価格は異常なまでに高く,普通車が約1700元,大型車が約8千元となっている.これはT社の約5倍近い水準である.S社の婁社長は,「おそらく,当社の引取価格は,中国国内で一番高いのではないだろうか」と苦笑していた.
S社におけるこうした状況(低い回収率・高い引取価格)には,瀋陽市の「規範化の遅れ」が背景にある.その最大の要因は,瀋陽市内に多数の違法解体業者,すなわち政府からの認証を得ていない業者が乱立し,廃車解体に関する不正行為が横行していることである.瀋陽の地元紙(『時代商報』2006年9月4日)によると,@瀋陽市において合法的に解体処理されている台数はわずか20%程度で,それ以外は全て違法業者によって回収・解体処理されている,A違法業者には遼寧省以外の外地出身の業者が多く,違法解体される廃車の約7割が安徽人,3割が山東人・河南人によって占められている,B瀋陽市内で発生する事故車の約3割に違法取引廃車が関係している,とのことであった.これら多くの違法業者は,不正に入手した廃車から5大品目を取り外して中古部品として販売したり,あるいは廃車を修理して違法組立車として販売したりすることにより,莫大な不正収益を得ているようである.その結果,彼らは廃車を高値で仕入れているのである.したがってS社としても,廃車を確保・回収するためには,そのような「市場価格」に合わせて高値に設定せざるをえないのである.
このように,規範化の進み具合によっては,近隣の都市間でさえ,回収率や引取価格に大きな差異が生じているのである(注1).
売上構成
両社の売上構成をみると,再生資源と中古部品の比率は,T社が8:2,S社が6:4となっており,いずれも再生資源売上の割合が大きい.これは,廃車ガラだけではなく,5大品目も金属スクラップとして売却しているためである.
まず再生資源については,主たる品目は鉄・非鉄金属スクラップであるが,それらは専門の仲介業者を通じて,近隣の製鉄メーカーや金属製錬メーカーと取引きしている.例えば鉄スクラップは,瀋陽市・TT市近辺においては1800元/トンで市場取引されている.また,廃油や廃タイヤ,廃バッテリーなども,それぞれの専門処理業者に有償で売却している .
次に中古部品販売については,5大品目以外の様々な部品を取り扱っている.両社とも部品倉庫を有しており,そこにバイヤーが訪れている.T市では,T社が市内唯一の中古部品販売店であり,同社で販売している中古部品には新規品と区別するためのシールが貼られていた.ただ,やはりS社の方が,大きな自動車市場を抱えている分だけ,中古部品売上の比率が高い.特に瀋陽市の中古部品は全国的に有名で,全国各地からバイヤーが買い付けに訪れているようである.両社とも,今後は中古部品に力を注いでいくということであった.
設備・技術
廃車解体処理の現場は,操業規模の差こそあれ,両社の状態はほぼ同様であった(つまりS社工場は,T社工場をそのままスケールアップしたような具合である).すなわち,解体処理設備は必ずしも充分とはいえず,必要な環境対策はほとんど施されていなかった.解体作業場に運ばれた廃車に現場作業員が1〜数名取り付き,工具を使って手作業で解体していく.油圧式の裁断機などはない.作業場は舗装されておらず,剥き出しの土の地面には黒いオイルが染み込んでおり,雑多なゴミが散乱していた.降水量が少ない地域ということもあって,作業場には屋根がなく野晒し状態で,降雨時には酷い環境になることが想像される.また,フロンガスの回収も行われておらず,おそらくは全て大気中に放出されているものと思われる.環境保全に対する経営者側の意識はとても高いのだが,肝心の現場の設備がそれに追いついていないという印象を受けた.今回の調査に同行した日本の廃車解体企業の社長によると,「日本の1970年代の状況に近い」という感想であった.
筆者らは2005年11月に,上海市にある中国で最も先進的な解体工場を訪問した(連載第20回参照).おそらくその企業の設備・技術水準は中国でも突出したケースであって,むしろT社やS社のような状況が「中国の廃車解体工場の平均的な姿」(T社のM社長談)であるといえよう.さらに言えば,両社のような認証解体工場でさえこの状況であることを考えると,違法業者の状況はさらに劣悪であることは容易に想像がつく.
制度改革の動き
ここまで見てきたように,同じ省内の解体企業であっても状況は必ずしも一様ではない.とはいえ,@認証工場における廃車の回収量がまだまだ少ない,A素材リサイクルが中心,B解体工場の技術・設備が未熟,といったような実態が見えてくる.
そこで最後に,瀋陽における今後の動向について若干紹介しておきたい(注2).
まず瀋陽市では国の改革に先行して,市政府とS社が協力して市独自の「瀋陽市廃棄自動車管理方法」が作成され,2007年の上半期には施行されるとのことである.市内の廃車取引などの管理・取締りを強化することで,解体事業の規範化を一層進めることを意図したものである.これらの改革が順調に進めば,当然,認証工場であるS社のもとに市内から大量の廃車が集まることになる.S社の婁社長は,市場におけるS社の独占的地位が高まることを念頭におきつつ,同社を中心とした形での瀋陽解体業界の大幅な再編を視野に入れている.婁社長は「市内に数多く存在する同業者との間で資本関係を結んだり,分業や下請けなどの協力関係を築いたりすることもできるだろう」と述べていた(婁社長はこれを「水平的協力関係の構築」と呼んでいた).
また,S社の内部改革も徐々に進んでいるようである.設備面では,2007年内に数百万元の大規模投資を行い,作業場の舗装,部品保管倉庫の新設など,解体工場を一新する計画がある.これにより,フロンガスや廃油・廃液などの問題解決を図ろうとしている.また,多くの旧国有企業のように,同社でも失敗しなければ何も変えなくて良いという国有時代特有の観念が根深かったが,婁社長は率先して従業員の意識改革を促している.
遼寧省では,これから乗用車が大量に廃車される時期が訪れる.混乱する解体業界と廃車の増大,急速な制度改革といった変動を前にして,この地域の自動車リサイクルが今後どのように進展していくのかは非常に興味深い.筆者としても引き続き定点観測していく予定である.
(ひらいわ ゆきひろ ・ 一橋大学大学院)----------
(注1)同じ遼寧省の瀋陽市と大連市と比較すると,経済規模はほとんど同じだが,認証解体工場における実際の廃車回収量は大連のほうが多いという.大連は中央政府による政策管理の影響が伝統的に強く,市内の廃車解体業は政策によって整備されており,回収範囲が区分され,規範化がより進んでいるという.S社の婁社長は,「逆に考えれば,廃車解体ビジネスとしては,混乱している分だけ,瀋陽のほうがチャンスが大きいだろう」と述べていた.
(注2)近年,中央政府による自動車リサイクル分野での制度改革の動きが活発である.307号令は改正作業が進んでおり,特に5大品目のプレス処理は撤廃される方向で検討されている.また,昨年発表された「自動車製品回収利用技術政策」では,2010年以降にEPRが導入されるなど,次の時代の中国の自動車リサイクルの青写真が提示され始めている.これらの全体的な制度改革の動きは別稿にて詳細に取り上げる.
* 現地調査の際,多くの関係者に大変お世話になった.個々のお名前は割愛させていただくが,記して感謝申し上げる.なお同調査は,トヨタ財団2005年度研究助成(「アジアにおける自動車リサイクルの実態調査および国際的制度設計に関する政策研究」/研究代表・寺西俊一)より援助を受けた.