自動車リサイクルの現実と課題
― 第60回:ロシア極東地域における中古車・中古部品輸入の現状 ―

浅妻 裕

『月刊整備界』 40巻6号,2009年6月,pp. 24-28

 はじめに

 今回はロシア極東地域における中古車・中古部品輸入の現状を紹介する.本年4月号の本連載(担当:阿部)でも紹介したように,ロシアは2009年1月12日に中古車輸入関税の引き上げを実施した.高関税政策の対象が7年超の中古車から5年超のものに広がり,税率や税額も上がった.世界経済危機の影響など,他の要因も複合的に作用してこのビジネスの環境が急激に変化している.現在は日本からの中古車輸出ビジネス全体が低迷しているが,ロシア向け輸出についてはそれが一層際立って見える.筆者らは,2009年4月23日〜26日にかけて日本からの中古車輸入拠点となっているウラジオストクを訪問し,現地の状況を把握した.なお,筆者は2007年9月にも現地を訪問している.


 統計から見るロシア向け中古車輸出

 グラフ1(省略)は日本からロシア向け中古車輸出の推移である.ロシア向け中古車輸出は2008年に過去最高の563,369台を記録し,日本の中古車輸出市場の41.8%を占めた.2007年に比べても18%の増加である.グラフからも分かるように,2008年10月までは対前年同月比でプラスとなっているが,それ以降,12月にややプラスとなっている以外は対前年比で減少している.とりわけ,2009年1月以降の落ち込みは極めて大きい.ロシア向け中古車輸出減少には複数の原因があるが,1月の輸入関税引き上げがいかに大きな影響をもたらしたかがわかる.

 輸出単価については,日本国内のオークション相場とも連動して2008年7月までは上昇,高止まりしていたといえるが,それ以降大きく落ち込んでいる.ただし,1月の輸入関税引き上げ,同時に実施された年式規制強化の影響は,車種や年式によって程度が異なっているとも考えられるので,車種・年式別の輸出価格の変動を同時に見ていく必要もあるだろう.

 グラフ2(省略)では,中古車輸出と新車輸出の前年同月比の増減率を示した.2008年9月を境に新車・中古車とも増減率が減少傾向となり,2008年末からは対前年比マイナスという状況が発生していることがわかる.興味深いのは2008年12月における新車輸出と中古車輸出の増減率の差である.理由として考えられるのは関税引き上げに伴う駆け込み需要の有無である.今回の関税引き上げは中古車に対してより厳しいものとなっている.表1(省略)は今回の関税引き上げに伴う2000tの乗用車(ガソリン車)の関税の変化を示している.新車の場合5%の関税率引き上げに留まる(注1).

 一方中古車は,@関税率の引き上げ,A排気量に対する関税額の大幅な増額,B年式規制の強化(7年→5年へ),と大幅な強化となっている.このため駆け込み需要の発生は中古車により多く見られ,2008年12月の輸出台数が前年とほぼ同じ程度に留まったものと考えられる(注2).

 もう一つの理由は新車輸出に為替レート変動の影響がより明確に現れたのではないかということである.ルーブルの相場は2008年9月時点で1ルーブル=4.5円前後であったが,2009年2月時点では1ルーブル=2.5円前後と急激なルーブル安に見舞われている.阿部(2009年)で指摘されているように,為替レートの変動は中古車輸出には厳しい影響を与える.当然新車に対しても同様であり,12月にはこの為替レートの変動が輸出に厳しい影響を与えたと推測できる.これら両方の理由によって,2008年12月の増減率の大きな差が発生したと考えられる.これは推測であり,どのような要因がどの程度中古車や新車の輸出に影響を及ぼしたのか,ということについてはより慎重な考察が必要である.


 中古車輸入ビジネス

 沿海地方には日本からの中古車輸入がなされている港湾がいくつかあるが,ウラジオストク商業港はその中でも最も輸入台数が多い拠点となっている港湾である(注3).

 我々は港湾周辺の様子を視察した.ちょうどFESCO社のフェリー(ニコライU世号)が接岸しており,自動車が船腹から走り出てくるところであった.日本製中古車かどうかは確認できなかったが,輸入が全く止まっているわけではないということを実感するには十分であった(写真1:省略).

 しかし,周辺の保税倉庫を見て厳しい現実も認識した.関係者によると保税倉庫はウラジオストク商業港周辺には6カ所あり,そのうち1カ所は輸入台数の増加のため2008年に建てられたものだという.我々はウラジオストク駅にほど近い10層式の巨大な立体式の保税倉庫の近くまで行ってみた.このような立体式の保税倉庫は,従来は遠目にも倉庫いっぱいに中古車が留置されていたことがわかったものだが,今回は上層階には自動車が見られず,下層階にのみ留置されている状況だった(写真2:省略).しかも,それらの自動車は関税引き上げ実施前に輸入されたもので,税金が払えないなどの理由でそのまま留置されているという.通常,輸入後2ケ月経過して所定の手続きが行われなければ極東税関が対象車両をオークションにかけるそうだが,4月時点でもそのような車両がそれなりの数残っているということは,相当数の中古車の輸入手続きがなされないままだったのだろうと想像できた.

 輸入中古車の取引現場はどうなっているのだろうか.市中心部から北東方面約3kmの丘陵地に「ゼリョーヌィ・ウーゴル」(緑の区画,グリーンコーナー)と呼ばれる巨大な中古車市場があり,ここを訪問してみた.ここでは乗用車のみならず,トラックやクレーン車,フォークリフトなども展示される.現地関係者によれば,市場に並ぶ中古車台数は11,000〜12,000台とのことだ.自動車は2007年の前回訪問時と同様丘陵地に広く並べられていたが,客は非常に少なく,いつから増えたのだろうか野犬の群ばかりが目立った.構内の交通も,以前は狭い通路を行き交う自動車で大混雑であったが,今回は極めてスムーズに入構できたほどだ.

 筆者らは販売業者にインタビューしてみた.現在の厳しい経済情勢の中でビジネスの状況は思わしくないようだ.現在かろうじて利益が出るのは1500tの中古車で,おおよそ200〜300ドル程度の利益が出る.それ以上の排気量では適正な利益が得られないという.しかし,昨年からの在庫が多くあり,販売業者もそれらを早く売りさばき現金化せねばならない.在庫のうち,実に95%が昨年からのものだと教えてくれた.毎日80ルーブル(筆者ら訪問時レートで約240円)程度の駐車料金もかかってくる.

 このような状況なので,多くの中古車がディスカウントで取り引きされている.以前と比較して平均して2,000ドル程度取引価格が下がっているという.すでに収益が上がるビジネスとはなっておらず,原価割れで販売されている自動車も多いようだ.筆者らが確認したごく少数の自動車もほとんどが原価割れであった.例えばエスティマ(2001年式,2400cc)が12,000ドルで2,000ドルの原価割れ,ハリアー(2002年式,2400cc)が31,500ドルで3,500ドルの原価割れといった状況である.

 ディスカウントでの販売が一般化する中で,ささやかながら個人ユーザーによる購入が見られている.以前はシベリア方面から多くのバイヤーが訪れ,卸売り市場としての機能が大きかったが,現在は95%が小売りだという.シベリア方面では,この間のロシア政府の日本製中古車への厳しい対応から右ハンドル車への規制を懸念して左ハンドル車へ切り替える動きも見られるそうだ.シベリアの業者への転売が難しいため,ウラジオストクの販売業者が自ら車をシベリアまで運んで販売するケースもある.

 販売業者達は,在庫を処分した後,このビジネスを続けるのか気になった.小さなディーラーはすでに在庫を処分し,現地から去っている.大手のディーラーも在庫が捌け次第撤退するようで,業者の9割が撤退するのでは?と話す業者もいた.この業者自身は在庫の処分が終わればカナダに移住するかモスクワで仕事をすると言っていた.遠目にはさほど変わらなかったが,在庫処分期に入っていることを考えると,市場にある中古車台数も実際には相当減っているのかもしれない.

 なお,この市場の厳しい状況は2009年1月の関税引き上げ時からではなく,2008年秋から顕在化していたものでもある.報道によれば,10月の時点で中古車需要が従来の30%に落ち込み,在庫が捌けない状況が発生していた.価格はドルベースで8〜10%下落している.価格の引き下げを余儀なくされたのは,2008年10月からウラジオストクの銀行が自動車ローンの貸し付け条件を厳しくし,また融資利率を引き上げたためである(注4).世界的な金融危機の影響が広がる最中,1月からの関税の引き上げがさらに大きな影響を与えたということである.

 中古車販売業者や関連するビジネスを行っていた業者は今回の危機をどの時期から感じ始めたのだろうか.インターネット上での中古車の電子市場を管理しビジネスを行っている現地のある業者(A社とする)にインタビューしてみたところ,9月までは全くそのような危機感を感じなかったということだ.10月に入ってからコンストラクター(自動車を分解し,部品として輸入して関税を軽減する輸入方法)の輸入関税が大幅に引き上げられることが分かってからこのビジネスの先行きに不安を感じ始めたとのことである.なお,今回の聞き取り時点では,そのサイトを利用していた現地の中古車販売業者の多くが中古部品や建設機械の輸入・販売に業態をシフトした模様だ.


 中古部品輸入ビジネス

 今回,現地の中古車雑誌「アフトイズルカプリュク」(沿海地方版,2009年4月15―22日号)の内容を見て驚いた.乗用車の掲載は以前と比べて非常に少なくなり,トラック・建設機械が多くを占めていた.また,自動車の中古部品,ハーフカットの部品取り車なども掲載されている.さらに上記のA社が2009年3月末からハーフカット車の電子市場を開始したり,上記のようにサイトの利用業者が中古部品輸入販売にシフトしたりという状況がある.ハーフカット車が部品取り車であると考えれば,中古車輸入ビジネスと比較して中古部品輸入ビジネスは,相対的にではあるが堅調であるといえよう.

 現地の自動車解体業者のヒアリングからもこの傾向を明確に感じ取ることができた.自動車解体業者も中古部品輸入へとシフトしているのである.

 浅妻(2005年)で指摘したように,現地の解体業者は3つのタイプに分けられる.@現地で廃車を仕入れ,解体する業者,A(解体業者とは厳密には言えないが)日本の解体業者から中古パーツを購入し輸入する業者,B日本からハーフカット車両を輸入し現地で解体する業者,である.阿部・浅妻(2008年)では,@とAの競合関係を指摘している.わざわざ現地で解体部品を生産する必要がないということなどから,どちらかといえばパーツ輸入の業者が優勢であると読みとることができる.

 しかし,今回訪問して従来の@に属する業者がBの形態のビジネスを始めている状況を目の当たりにした.筆者らが以前にも訪問したことのある@に属する解体業者2社が,いずれもBのタイプの事業も並行して行っていた.うち1社の経営者によれば,主に1998〜2003年製,彼ら曰く高年式自動車のハーフカットを輸入するそうである(注5).筆者が知る限り,極東地域の解体工場で輸入ハーフカット車を見たのは2005年が最後(ナホトカ市にて)であり,またその時点で現地関係者からはハーフカットはあまり見られなくなっているという話を聞いていた.これが約4年ぶりに復活したことになる.

 これは3月末から4月にかけての直近の動向であり,ビジネスとして成功するかどうかはわからない.しかし,@に属する業者がBの事業も並行して行い始めたことが意味するのは,中古車輸入が激減している中で,極東地域において相対的な高年式車を中心としたパーツへの需要が高まっているということではないかと推測された.実際に筆者らが訪問した解体業者の経営者もそのようなニュアンスのコメントをしていた.

 今回,従来から中古部品の輸入・販売を行っている業者にもインタビューを行ったが,現在日本からの部品輸入を積極的に行いたいと考えており,部品毎の買い取り価格のリストを日本の解体業者に送るなどしている.2008年9月頃には中古車オークション価格の上昇が影響し,中古部品輸入を維持するのが困難となったが,2009年1月から風向きが変わったようだ.


 中古車・中古部品輸入の今後

 これまでもロシアでは中古車の輸入関税が引き上げられたことはあったが,今回の関税引き上げは相当厳しいものであったといえる.地域産業として大規模化していたことから,その影響も広範囲に渡る結果となった.現地のウラジオストク日本センター(外務省の関係組織)に聞いたところ,現地では15万人もの人々がこの中古車輸入ビジネスに従事しているという.今回の措置に対して,彼らが大規模な抗議活動を行っているのは日本のマスコミでも広く報道されたところである.現在もロシア政府に対して毎月14日に組織的な抗議デモを行っている他,筆者らの訪問中も,小規模には見えたが関係業者らによるデモが行われていた.彼らを取り巻く圧倒的な人数の警察官が威圧感を感じさせた.ロシア政府は国産車をヨーロッパロシアから極東に輸送する際の運賃を無料化するなどの措置を取り,この地域における国産車の普及を狙っているようだが,現地を走る乗用車は96%が右ハンドルの日本車であり(注6),市民も日本車に対して高い信頼を置いているので簡単には国産車の普及は進まないだろう.

 このことを考えると,少なくない中古パーツ需要が今後も継続して発生すると思われるので,日本側の解体工場に対する従業員派遣や,ネットワークを利用したパーツの注文は一定の規模で存続してくであろう.また,関税引き上げが恒久的に続くかは分からず,当然景気動向も変化していくので,再度中古車輸入ビジネスの環境が変わる可能性はある.さらに,現地の道路事情がよくなるなどの条件が必要であるが,中古車の多くが排気量に対する課税となるため,軽自動車の輸入ビジネスが現実味を帯びるかもしれない.

(あさづま ゆたか ・ 北海学園大学)
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(注1) 輸入価格を日本円に換算し,200万円とした場合である.旧関税50万円であったものが新関税で60万円となり,10万円の関税額の増加に留まる.60万円という金額は2009年5月3日の時点の為替レート(1ユーロ=131.48円,ロイタージャパンによる)では,4,300ユーロ(2000cc×2.15ユーロ)を上回っているので,排気量に対する課税はなされないのである.
(注2)例えば,製造後5年までの中古車で,輸入価格を80万円とした場合,価格に対する35%の税率は適用されず,2000ccの排気量に対する4,300ユーロが課税される.
(注3)やや古い資料であるが,極東税関ホームページより.http://dvtu.customs.ru/ru/statistics/detail.php?=9&id695=3019&i695=31
(注4)『ダーリニ・ボストーク通信』771号(2008年10月20日),774号(2008年11月10日)
(注5)2009年1月12日の輸入関税の引き上げ,2008年11月14日に実施されたコンストラクター輸入規制の実施により輸入が困難となった自動車の年式と重複すると思われる.ハーフカットの輸入業者によれば,これらの自動車のオークション価格は30〜50%も下落しているとのことで,ハーフカット輸入・部品生産ビジネスが十分にペイする状況が生まれつつあるとも考えられる.
(注6)ウラジオストク日本センターによる
追記:今回の調査は,科学研究費補助金基盤(C)「廃車フローの国際化とリサイクルネットワークの再編に関する経済地理学的研究」を利用して実施した.また,現地では(株)コマゼン駒屋禮子氏,(有)竹内環境リサイクル研究所 竹内啓介氏より多大なご支援をいただいた.記して感謝申し上げる.
参考文献:
浅妻裕(2005年)「ELV処理・リサイクル産業の再編に関する検討―自動車リサイクル法施行の影響を中心に―」『開発論集』第75号,pp.65-81
阿部新(2009年)「貿易統計から見る中古車輸出の動き」『月刊整備界 カーメンテナンス・マネジメント』2009年4月号,pp.28-32
阿部新・浅妻裕(2008年)「中ロ国境地域における廃車リサイクルと資源循環の実態調査」『開発論集』第81号,pp.89-117

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