今年の5月下旬に,筆者は中国・大連市で開催された『2007 中国大連市 ジャパン・ウィーク』という日中交流イベントに参加する機会に恵まれた.5月24日にはその開幕式が行われ,日本からも大連市と縁の深い自治体から多数の関係者が参加して盛大に催された.翌25日にはその一環として『大連・金沢 ビジネス交流会』が開催された.金沢および大連から建築・環境・食品の各分野の業界関係者ら約200人が集い,活発で熱気あふれる交流が行われ,成長著しい大連経済の一端を垣間見ることができた.
このイベントに合わせて,筆者は日本の自動車リサイクル業者の現地視察に同行し,大連市の中古車市場と廃車解体工場を訪問することができた.本稿ではその様子を簡単にレポートしたい.
大連市の中古車市場
25日の午前中に,市街から車で40分くらいのところにある「大連市機動車交易市場有限公司」を訪問した.同社は大連市内最大の中古車市場で,民間資本および市の公安機関,自動車に関係する行政部門との協力により1998年に設立された.ここは単に取引の場というだけでなく,中古車の売り手と買い手に対して車両の情報提供や取引後の登録,アフターケアなど,中古車の取引に係わるあらゆるサービスを提供しており,顧客はこの市場内で全ての手続きを済ませることができる.約10万uの広大な敷地の中には,数万uの屋外車両展示場や車両検査場,新車販売のスペースなどがあり,正面には中古車オークション会場を内設した巨大なオフィス棟がある.週末ともなると,市内はもちろん,周辺の地域や北京からも中古車や客が集まってくるという.
ほぼ毎日営業しているが,取引のほとんどが週末の土・日に集中しており,平日の取引量はごくわずかだという.中古車取引の仕組みは週末と平日では若干異なっている.週末の場合,売り手が中古車を持参して屋外展示場に展示し,買い手はそこで希望の車を探し,その両者による相対取引によって売買が行われている.週末の取引台数は土・日合計で約4000台に達する.その際,同社では売り手から展示料金を徴収しているが,買い手や取引成立自体には料金を課していない.平日の場合,同社が売り手から中古車を預かってきてそれを展示場にて展示し,買い手は同社との間で中古車の売買を行っている.平日は中古車取引手続きの各段階に応じて手数料を徴収している.
週末の取引に限ってみると,車種の割合ではほとんどを乗用車が占めており,トラックなどの大型車両は約1割である.中古車の年式では,トラックの場合,国内のトラック物流がフル稼動の状態にあるために新車から中古車になるまでの期間が比較的短く,5年以内の年式のものが多い.一方の乗用車はおおよそ7〜8年式が大半だが,最近は年式がだんだんと新しくなってきている傾向にあるという.また,他の地域同様,高級車種や日本車(現地では,日本系メーカーのエンジンや機能部品を搭載している車も全て「日本車」と呼ぶようである)の人気は高い.中には廃車寸前のボロボロの中古車が持ち込まれることもあるが,同社の方針として,そういった車両であっても可能な限り修繕や部品交換を行い,できるかぎり市場に展示するようにしている.ただし,エンジンやトランスミッションなどの5大品目の部分が損耗していた場合は,やむをえず同社から廃車解体工場(次節参照)に出している.
今後の展望として同社関係者は次の4つを挙げていた.第1に,既存の包括的な中古車サービス提供に加えて,さらに新車に関するサービスへと拡張しようとしている.すなわち,ユーザーが新車を購入する段階からその後の中古車取引までの全てのサービスをセットで提供するという,新車分野と中古車分野を統合するようなビジネスモデルである.さらには,いったん同社を介して取引された車両については,メーカーに関係なく「それは同社ブランドの車である」という意識で顧客に接していくことを徹底していくという.
第2に,一般的に中国の消費者は自動車に関する知識をそれほど持っておらず,中古車に対しても不安が大きいという問題があるため,今後は事業規模よりも顧客サービスを重視し,消費者が安心して購入できるような体制を構築する必要があるとしている.特に,国の基準に基づいた中古車の査定システムや,車両の状態や車暦といった詳細な中古車情報の提供などがその対象である.
第3に,同社で扱っている中古車情報を全てウェブサイト上で公開するといった,インターネットの積極的な活用である.我々が訪問した際に,ちょうど新しいウェブサイトの試験公開を実施していた(www.ddlcar.com).
第4に,今後は他都市の中古車市場との連携が必要になってくるだろうと予測している.中国は広く,都市や地域ごとに中古車の需給や価格が大きく異なっているため,相互の中古車市場が連携することにより,より効率的に中古車を流通・販売できるようになるだろうとしている.
2001年以降は中国の中古車市場をめぐる政策や状況は大きく変化してきた.大連市においてはまさに同社が中古車ビジネスのリーディングカンパニーであり,今後の事業展開が注目される.
大連市の廃車解体処理工場
25日午後のビジネス交流会において,「大連市廃棄自動車回収解体有限公司」副社長の張万著氏とお会いし,翌26日に同社を訪問することができた.
大連市では,2000年9月に「大連市機動車両報廃管理規定」が制定されている.張副社長は,以前に大連市政府に勤務していたときに同規定を作成した当人であり,中央政府の「廃棄自動車回収管理方法(307号令)」の作成にも携わっていた.
同社は大連市唯一の政府認証の廃車回収解体企業である.元々は市内に数社の解体企業が存在していたが,2000年にそれらが連合して大連市全体で1つの有限公司となった.同社は市内の9つの工場から構成されており,廃車回収から5大品目破壊工程までは同一の基準や方法で行っているが,それ以降のビジネスは各工場単位で行い,その収益も各工場のものとなっている.こうした連合方式は中国のいくつかの大都市に見られる組織形態である.
我々が訪問した工場は大連市区を担当する解体工場で,敷地面積は約5万uほどあり,9工場の中では最大である.年間売上高は約1000万元で,鉄・非鉄金属などの再生資源売上が約7割,中古部品売上が約3割となっている.解体処理能力は年間1万台だが,実際の処理台数は設立以来,約3000台程度で推移している.
同社における解体処理工程や環境対策,作業現場の現状などは以前に紹介した瀋陽市のケース(本連載の第35回を参照)とほとんど同じであるためここでは省略するが,以下では同じ遼寧省の瀋陽市との比較の観点から同社の状況について紹介しておこう.
まず,経営面での状況も瀋陽のケースとよく似ている.大連工場でも年内に新工場の開設を計画しており,新工場のレイアウト,環境対策,作業効率,安全対策といったハード面や,経営管理,従業員育成,政策対応などのソフト面の両方に関して検討している最中であった.
次に,廃車の回収率についても,瀋陽同様に低い水準(約30%)に悩まされている.以前の瀋陽のレポートには「大連の方が廃車回収量が多い」と書いたが,張副社長によると,それは約10年前のことだという.その当時,大連市内の廃車回収率は約9割に達しており,国内で最も成功した地域とされ,モデル地域として全国的に注目されていた.当時の廃車政策は大連市経済計画委員会が管轄しており,市内の廃車解体業の現状や自動車政策を熟知して政策運営を行っていた.しかし,2000年ごろに政府改革が行われて管轄が現在の経済貿易委員会に移された後は,廃車に関する状況把握が十分に進まず,当時新たに施行された307号令への対応も遅れてしまったという.以降,回収率が低迷し現在に至っている.実際,違法な廃車が公安当局に摘発されたという新聞報道がいくつかある.現在では当局と同社との間での情報交流や連携も進み,徐々に状況は改善されていくだろうと見込んでいる.
こうして見ると,廃車の回収に関しては解体企業の裁量の幅は小さく,むしろ当局の政策運営に大きく左右されることが確認できる.それに対して張副社長は,やはり廃車回収においても企業の自主性を重視した市場原理を導入し,瀋陽のケースのように現在の規定価格よりも高い水準で廃車を買い取るといった取り組みが必要だろうと指摘していた.
大連鈞誠車業集団
実は,ここで紹介した中古車市場と廃車解体工場の2つの企業は,2003年に設立された「大連鈞誠車業集団」という企業グループ傘下の企業である.同グループは,その名の通り大連市を中心として自動車に関連する様々なビジネスを行っており,新車販売・タクシー・レジャー・中古車取引・廃車回収解体など,2つの大型取引市場を含む14社から構成されている.すなわち,新車―中古車―廃車の各段階での事業をゆるやかに垂直統合した企業グループである.先述した新車サービスと中古車サービスの統合も,同グループ内としての経営戦略の一環といえよう.ちなみに同グループの李建軍会長は大連市の人民代表でもあり,政治的影響力も強い.
筆者は中国国内のいくつかの認証解体企業を見てきたが,資本形態で分類すると,いわゆる独立系の企業と,上海宝鋼集団や大連鈞誠車業集団のような地域の有力企業集団傘下の企業という2つのタイプが存在しているようである.後者のようなタイプが登場してきたのは,2001年の307号令施行が契機になっているのかもしれない.中国の廃車回収解体を把握する上で,フォーマル(認証企業)・インフォーマル(違法業者)というセクター間比較や,地域間の政策・制度比較という観点に加えて,こうした産業組織的な観点にも注目する必要がありそうである.その意味で,大連市のケースは非常に興味深く,今後も注視していきたい.
(ひらいわ ゆきひろ ・ 一橋大学大学院)----------
* 本調査にあたり金沢市の会宝産業(株)より援助を受けた.現地では,会宝産業の近藤典彦社長,鶫謙一顧問,富山大学の龍世祥教授,および訪問先の方々に大変お世話になった.記して感謝申し上げる.
参考文献 : 『大連鈞誠車業集団』(グループ紹介パンフレット)