「休みの日はいいが、会社のある日は朝からどうもお腹の具合がおかしい」
 「学校でじっと座って授業を受けていると、お腹がゴロゴロ言ってすぐトイレに行きたくなってしまう」…
 みなさん、こんな経験はありませんか?
 いつもは何ともなくても、大切な用事がある日にお腹の調子がいつもと違うのを感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
 このような、緊張やストレスに伴って普段よりもお腹が動いたり、お通じがゆるくなったり、ときにはお腹が痛くなったりするような症状は、腸そのものの異常が原因ではなく腸の働きに関係する「神経」の働きの変化が原因になっている場合が多いのです。ですからこのような症状がある時には、「胃カメラや大腸内視鏡検査、胃や腸のレントゲンなど検査を受けたが何も異常がなかった」―という方が多いのです。

 前の項で「自律神経失調症」についてお話ししたのですが、このようなお腹の症状もじつは「自律神経失調症」と似たようなメカニズムで起こってきます。そして医者の側から見た診断名としては、症状がある程度の期間続いた場合に限り『過敏性腸症候群』という名称を使っているのです。
 いわゆる「自律神経失調」が原因となって体の各部分に現れる症状は様々ですが、とくに腸に関係した症状で悩まされる方が多いこともあって、適当な診断名が考えられたのだと思います。あたかも腸が過敏になってしまったような状態になるのですから、なかなかイメージしやすい名前だと言えるでしょう。

 ただ問題なのは、このような診断名で呼ばれた時に「あなたは神経質なたちだから、人よりも腸が過敏で症状が出やすいのでしょう」と言われたように感じてしまう方もいらっしゃるということです。
 しかし性格的なものと、腸の働きに関係する神経の状態とが直接結びつくわけではありません。むしろ私たちの方でそれらを必要以上に関連付けて考えてしまうことで余計に自らの脳や神経を疲れさせ、そのことがいわゆる自律神経失調を助長してしまう可能性が考えられます。
 一般の方の言葉の使い方をみていますと、「精神的」なことと体の一部である「神経」のことを混同してしまっている場合が多いようです。おそらくそのようなことが、先の現象へとつながってしまうのではないでしょうか。

 過敏性腸症候群の治療には主に、腸に作用する薬と神経に作用する薬を用います。
 過敏性腸症候群には、下痢をくり返すタイプや便秘になりやすいタイプ、ガスが出やすくなるタイプなどがあります。腸に作用する薬としては、整腸剤や止痢剤(下痢を止める薬)あるいは便秘薬が使われることも多いのですが、下痢や便秘が続く方には便に含まれる水分量を調節してお通じの状態を正常に近づける働きをする薬が有用な場合があります。
 神経に対しては、抗不安薬を用いることで過敏になってしまった神経の状態を落ち着かせることは大変有効な治療法です。症状によっては漢方薬が効果を示すこともありますが、腸や神経に対して様々な治療を行ってもなかなか改善しない場合には、抗うつ薬を用いることで症状が劇的に改善する場合があります。
 このように、過敏性腸症候群の症状に対しては腸と神経の状態を並行して考慮に入れながら治療してゆくことが大切です。
 症状そのものは腸に表れるのですが、腸の検査では異常がつかめない場合が多く、むしろ腸の働きに関係する神経の状態に問題がある場合が多いからです。

 ですから治療をされるにあたっては、ぜひ個別の症状や生活状況に合った治療を検討してもらえるような、ホリスティック(=包括的・全体的といった意味。一部分しか見ないことの逆を指す。)な立場をとる医師を選択したいものです。そういった意味で、心療内科を受診してみるのも一つの選択肢だと思います。

6. 過敏性腸症候群