静かな湖畔の森の陰にてタイヤパンク
友人Kとふたりでスコットランドからオックスフォードまでイギリス縦断ドライブをしたことがある。
湖水地方を周遊し、その日はKの運転でダーウェント・ウォーター湖畔をのんびり走っていた。
片道一車線の湖畔道で脇に寄せすぎて走っていたらしく、湖を囲む柵から飛び出た針金が突然タイヤを突き刺して、ヘンな音と共にハンドルがとられだしたのだ。
うわーパンク?!と二人で青ざめたが、よし仕方ない、徐行運転でウィンダミアにあるAVISオフィスまでなんとか頑張って行こう、そこで見てもらおう、と無理してノロノロ進んでいく。
しばらく行くと、カランカラーンと音をたてて何かが後方へ飛んでいき、車の下がすごい金属音を立て始めた。私は後ろを振り返って状況を報告する。「Kちゃん!ホイールが吹っ飛んでった!!」
車はすでにアスファルトを削るようなすごい音をたてており、タイヤのゴムもべらんべらんになって地面をたたいている。道の端に車を停めて私はホイールを拾いに走っていった。
錆びてがたがたに変形したホイールをだっこして駆け戻るところを、湖でのんびりカヌーイングしているおじさんたちに‘なんか大変そうなことになったねェ、がんばりな!’みたいな眼差しで眺められ、ちょっと哀しかった。
途方に暮れたけど私はもともとハプニングも楽しんでしまうタチなので、さぁこれからどうするかー、どうなるのかねえ、などと車内で言っているうち、前方でブルーの小型車がキュキュッと不自然に停車した。
あの車停まったね、どうしたんだろう、と思っていると、その車から金髪の若いイギリス人カップルが降りてきて、まっすぐ私たちの車に向かってきたのだ。
「どうしたの?」 「パンクして・・・ホイールもこんなことに」「わかった、大丈夫だよ。直そう」
びっくりしたが天の助けと私たちも車から降りる。
彼女さんの「ここにあると思うわ」との指示により、金髪の彼が私たちの車の後部トランクのマットをめくって工具をひっぱり出す。また彼女さんの指示により、彼はさっさとスペアタイヤもはずしてくれる。
当の私たち無能ジャパニーズがただ呆然と見守る中、頼まれもしていないのにそのカップルはジャッキで車を持ち上げ、下を覗き込みながら二人でそこだあそこだと手早くタイヤを交換してくれたのだ。
作業が終わっても、私たちはお礼を言うのと、ウェットティッシュを差し出して油だらけの手を拭いてもらうことしかできなかった。
デート中だったと思われるそのジェントルなカップルは、「なんでもないことよ。じゃあ気をつけて良い旅を!」と、また車に乗り込んで颯爽と行ってしまった。
何一つできなかったのになぜかKのほっぺたは機械油で黒く汚れていた。
さて、ばっちり修理してもらったのだが、何しろいかにも頼りなく見劣りのするスペアタイヤだったので、やはり手近なAVISオフィスでもう一度見てもらおうということになった。
数十分おっかなびっくり走り、ウィンダミアにある最寄のオフィスにたどりつく。
「パンクして、これはスペアタイヤなの。まだ長旅だから心配なので、ちゃんとしたタイヤに替えてほしいのですが」と言うと、そこの気の良さそうなおっちゃんは、付け替えたタイヤをちらっと一瞥し、ニカッと笑って「これでオッケー!」「え、でもまだオックスフォードまで行くんだけど・・・」「このままでオッケーッ!(親指まで立てる)」
なら大丈夫か、と私たちはあきらめて最初のうちはびくびくしていたものの、だんだん調子に乗って高速道路ではずっと140キロくらいで(流れに乗って)走っていた。
やっぱりAVISのおっちゃんが言ったとおり、その後の道中でもまったくまったく「オッケー!」だったのだ。
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