言葉


 荊州・新野───
 未だ領土を持たぬ乱世の寄生虫劉備は、伏龍と称される天才・諸葛亮を得た。
 が、この諸葛亮、字は孔明という男、天才というよりも、異形の才の持ち主と言った方が正しかった。
 身も蓋もない言い方をすれば、かなりの奇人……いや、はっきりいって変態であった。
 女たちと淫らに戯れていたり、連れションに割り込んだり。初対面の時なんか、いきなり股間を見せられた。
 旗下に入ってくれたのはいいが、今のところ、彼の奇行に振り回される日々が続いている。
(本当に曹操に対抗できるようになるのか?)
 劉備の根拠のない自信はいつものことだが(?)、孔明の件ではこれまで以上に悩んでいた。
『玄・徳・様♪』

 ふう
 びくぅ!

 突然、無駄に長い耳たぶに生暖かい息を吹きかけられ、飛び退く劉備。
 振り返ると、案の定、羽扇をひらひらさせている孔明がいた。
「そんなに照れなくても」
「照れてるんじゃねえっ!!」
 孔明と話すのは、かつて『幽州の北斗七星』と大ボラをこいていた劉備の図太さをもってしても、かなり疲れる。
「こんなに慕ってるのに〜」
(むさい男や、変態に慕われてもな……)
「ここにいらしたのですか」
 現れたのは趙雲、字は子龍。義兄弟の関羽、張飛と並んで頼りになる将である。
「関羽殿らがお探しでしたよ」
「お、おう」
「ところで、趙殿は妻子はいらっしゃるのですか?」
 腰を上げようとした劉備にはお構いなしで、趙雲に話しかける孔明。
「い、いえ、まだですが……」
 若い印象のある趙雲だが、正史によるとどうやら劉備と同世代。結構な歳のはずである。
「それじゃ、しっかりまぐわって、趙子龍の血を残さないと」
「ま、まぐわ……」
「孔明!」
「なんなら、私の女たちから何人よこしましょうか? 手取り足取りお教え致しますよ☆
「…………」
 趙雲は立ったまま気絶していた。
「しっかりしろ、趙さん!」
 劉備は無駄に長い両腕で趙雲を揺さぶるが、彼が正気に戻るには時間が掛かりそうだ。
「てめえ、言葉で人を殺す気か!」
「ほんの、色事談義じゃないですか」
「てめえにかかったら、『ほんの』じゃなくなるんだよっ!!」
「まあまあ。そんなこと言わずに♪」
 怪しく身体を密着させてくる孔明。
「あ、あんまり絡んでくるな!」
「なっ!?…何やってんだ?」
 運悪く、その場に人がやってきた。
「あなた方でしたか」
「ち、長兄……」
 鼻を摘んでいる張飛と、赤い顔を青くしているはず(笑)の関羽がいた。
「……ご歓談中のようなので、後程」
「そ、そういや、俺も新入りの調練があったんだった」
 『見てはいけないものを見てしまった』と言わんばかりに、気絶したままの趙雲を引きずってその場を去っていく二人。
「関さんー! 益徳ー! おいらを一人にしねえでくれよぉぉぉ〜!!」
 ……新野城は、今のところ平和である……多分。


 初めての『蒼天航路』SSがこんなんでいいのだろうか?(^_^;)
 テーマが『言葉』ということで、劉備に「てめえ、言葉で人を殺す気か!」と言われた孔明絡みで、ちょっと妖しげな話を書いてみました。
 私も多分に漏れず、孔明が『蒼天』に本格登場した時は並々ならぬショックを受けた1人です。
 全世界の孔明信望者・三国志ファンを敵に回しかねない言動の数々……いや、冗談抜きでイメージを粉々に崩してくれました。
 蒼天孔明を知ってしまった今、この先どんなトンデモ系三国志が出てきても、許容できそうな気がします。いや、マジで。

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