<<前のお話 | メニュー | 次のお話>>
皆さんは、グレオという猫が、神様に言われて修行の旅に出たのを、覚えていますか。 グレオは長い修行生活で身も心もたくましく成長して、以前の美しさに精悍さを備えたすばらしい猫になっていました。 そして拳銃を持たせたら、グレオに勝つ者はいませんでした。 いつしか猫たちは「早撃ちのグレ」と呼ぶようになりました。
早撃ちのグレは、メルキドと呼ばれる小さな町に立ち寄りました。
その町はグロスと呼ばれる茶色の毛足の長いボス猫とそのいちみが支配していて、善良な市民たちは毎日おびえながら暮らしていました。 グロスは、乱暴物で、酒も料理もお金を払わずにたらふく食べて、弱いものいじめをして暮らしていました。 市民たちはグロスを恐れて店にはいりません。 かつては小さいながらも活気のあったその町は、いまはすっかり荒れ果てて見る影もありません。
早撃ちのグレのうわさを聞きつけた市民たちは、グレにグロスいちみをやっつけてくれるようにと頼みました。 グレもだまって見過ごすわけにはいきません。グロスと決闘をする事になりました。
その町には法律のようなものはありませんでしたが、1つだけ、昔から伝えられてきた掟がありました。 その掟とは、「争いに銃を用いてはいけない」というものでした。いくらグレが早撃ちでも銃を持たずに勝つ事は大変でした。
グレも猫の中では大きいほうでしたが、グロスときたら、犬のような姿態とするどい牙をもっていました。 あの牙でがぶりと咬みつかれたら、命はないかもしれません。 以前のグレならしっぽを巻いて逃げ出すところですが、早撃ちのグレになってからは、どんな相手にも果敢に立ち向かっていきました。
グロスとグレの決闘は町の広場で行われました。 町の市民とグロスの仲間が見守る中、2匹の猫は必死の形相で戦いました。 2匹はからみあったまま、砂の大地をころげまわりました。 グレは命がけで爪をたてて、グロスの首筋にかみつきましたが、その瞬間、あのするどい牙で頭をがぶりと咬まれていました。 頭から血が滴り落ち、次第に意識が薄れていきました。 グロスもその場にばったりと倒れました。
市民たちはこんなすさまじい決闘は見た事がないと、声を震わせました。 グロスのいちみたちは、グロスの倒れる姿を見て、一目散に、逃げていきました。
痛手を負い、仲間に逃げられたグロスは、この町を出て行く約束をしました。
グレはある酒場の木のかおりのする、ベッドの上で、目を覚ましました。 美しい雌猫がかたわらで、心配そうに見つめていました。
「気がついたのね。よかったわ。グレさんは、勝ったのよ。 グロス達は町を出ていったわ。 安心してゆっくり休んでください。 私の名前は、カノジョ、グレさんの傷が治るまで、ずっとおそばにいます。」
カノジョは、この町の人気者の歌姫で、以前はカノジョの歌を聞くために、この酒場には、たくさんの市民が集まっていました。 グロスいちみがやってきてからは、市民が店にこなくなったので、カノジョは歌うのをやめていました。 グレのベッドのまくらもとで、カノジョは、美しい歌声を披露してくれました。 グレは、すっかりカノジョのとりこになってしまいました。 カノジョの献身的な看病のおかげで、グレの傷はどんどんよくなりました。
そんなある日のたそがれ時、2匹は湖畔を散歩していましたが、グレは思い切ってうちあけました。 「僕は君を深く愛してしまった。僕はこの傷が治ったらまた旅にでる。いっしょについてきてほしい、」 カノジョはしばらくだまっていましたが、やさしくほほえんで言いました。 「グレさん、私をそんなに思ってくれてありがとう。 でも私はこの町を出て行くことはできません。 私には、待っている恋猫がいるのです。 その恋人は遠いところへ旅立ったの。 私はここでいつまでもまちつづけて暮らしていきます。」 「その恋人はどこへ旅立ったの」 グレはやっとの思いで聞きました。 「天国というところよ」 カノジョの目には涙があふれていました。
グレは、ニャオーと一声ないてみました。 するとこらえきれなくなった涙がどっとあふれてきて、ニャオー、ニャオーとなきつづけました。 グレの泣き声は遠くの山々にこだまして、空のかなたに消えていきました。
つづく