『俺と僕で何?』


第参話 奇妙なデート


・・・あ、朝か。

・・・知らない、天井だ、って。当たり前か。初めての家だもんな。・・・

「あら、シンジ君。お早う。・・・。本当に早いわよ」

「あっ。お早うございます。リツコさんこそ、お早いんですね。まだ、7時なのに。ネルフ、行くんですよね」

「家は8時半に出れば間に合うけど、習慣よ。それとも歳、かしらね」

「そんな、歳だなんて・・・

「30歳の独身よ。ミサトは29だけど・・・

「そ、そうですか。」

どういう反応を期待してんだよ・・・

「ご馳走様でした。料理お上手なんですね」

「意外だった?」

「いえ、そんな意味じゃないですよ。本当に美味しかったです」

「同じ料理でも一人で食べるよりは美味しいってことよ」

・・・。俺のこと色々と調べてあるんですね・・・

「そうよ。シンジ君は気を悪くするかも知れないけど、その事を隠されるよりはいいでしょ。どうせ判ることなんだから」

「当然ですよね。あ、それに別に気にしてる訳じゃないです」

「それは結構。私もネルフのみんなのこと教えてあげるわ。私自身や司令のこともね」

「父さんのことも、ですか」

「それこそ当然のことよ。最高責任者のことわからないでは安心して働けないでしょ」

そうだった・・・。昨夜、リツコさんからネルフについて簡単な説明を受けた。

一応給料も貰えるし、訓練とか戦闘とか不安がない訳じゃないけど、現に女の子もやってるんだし今更先生のとこに帰れないしな・・・

「今日来るあなたの案内人だけど、やっぱり来る前に教えておくわ」

「誰なんですか?まさかミサトさん?」

「それこそまさかよ。ミサトは車の運転はプロ級、というより正真正銘のプロ。でもね、方向音痴なのよ」

「なんか分かっちゃいました。」

「お楽しみの案内人はレイよ。10時にここに来るわ」

「綾波・・・さんですか・・・

「嫌だったかしら?同い年の方がいいでしょうに。ちょっと取っ付き難いんだけど、良い子よ、レイは」

「まだ良くわかりませんよ・・・どんな子かなんて」

昨日の戦闘を思い出した。いくら俺が素人だからって素っ気無いにも程があるんじゃないか?

「レイは生まれ育ちにちょっと訳ありでね。本人の所為じゃないのよ。だから今日のところは目をつぶって付き合ってあげてちょうだい。お願いするわ」

「はぁ」

って、案内してくれるのは綾波さんの方じゃないか・・・

「じゃ、私は行くから。出かける前に猫のトイレと餌をお願いね」

「はい。わかりました。いってらっしゃい」

綾波レイ、か。昨日は素っ気無かったけど、戦闘中だったからかも知れないよな・・・

でもリツコさんも取っ付き難いって言ってたな・・・

俺、女の子と付き合ったことないし、ちょっと緊張してきたかも・・・

というより、そもそも友達いなかったもんなぁ。

考えててもしょうがない。ま、なんとかなるさ。

それより猫の世話しなくっちゃ・・・

ピン、ポーーーン。

あ、来たみたいだ。

ガチャ。

「おはよう、綾波さん。今日はわざわざ悪いね」

「おはよう、碇君。別に碇君が謝る必要はないわ 」

やっぱ調子狂うな・・・

・・・よろしくお願いするよ」

「うん。・・・わたしのことは『綾波』でも『レイ』でもいいけど、『さん』付けの必要はないわ」

「うん。わかったよ、綾波」

「で、なんで制服なの?」

「問題ないわ」

やっぱ変だよ、この子・・・

「で、どこに行くの?」

あ、ポケットから手帳、生徒手帳を出した。

「今日のスケジュール。まず、碇君が通うことになる第壱中学校を見学。市内のショッピングセンターにて食事。同ショッピングセンターで碇君に必要な物資の調達。そののち、商店街と繁華街を経由して市郊外のマンモス団地に到着。その後帰宅。予想終了時間は ヒトハチマルマル。時間調整は綾波宅にて実施。以上よ」

「了解」

って、思わず返事を返してしまう・・・まるで行動予定表の棒読みじゃあないか。それってなんか哀しいかも。

「さ、時間よ。行きましょ」

「うん」

「ここが今度から通う学校か・・・。で、綾波もここなの?」

「そうよ。2年A組、わたしと同じクラス」

「へえ、そうだったんだ」

「じゃ、次行きましょ」

「えっ!中入んないの?」

「時間、無いから。それにどうせここに通うのよ」

そういう捉え方するかなぁ・・・。でも、何故かここが懐かしい気がした。大切な感じがした・・・

「ここがショッピングセンターよ」

第三新東京環状第七号線のリニアに乗ってきた。

リニアの中でも綾波との会話は弾まなかった。

なんていうのかな。受け答えはしてくれるんだけど、綾波は受け答えで終ってしまうんだ。自分から話題を提供したり発展させることがない。

「ふーーん。結構大きいんだね」

「そう?わからない」

「大きいと思うよ」

「そう。わたしここしか知らないから・・・

「ご、ごめん」

なんか悪いこと言っちゃったみたいだ。

「何故謝るの?碇君は何も悪くない」

「うん。そうだよね」

「じゃあ、買い物をしましょ。何を買うの?」

「いや、特に決まってないから適当に見て廻って気に入った物があれば買おうかな」

「そう。わかったわ」

机や寝具はリツコさんの家にあったので、買うもんと言っても学用品や衣類位しか無かった。

「だいたいこれで大丈夫だと思うよ。食事にしよう」

「うん」

綾波が首を縦にコクンと振る。・・・なんか可愛い・・・のかな。

「な、何にしよっか?」

「わたし、肉嫌いだから・・・。出来ればラーメンがいい」

「わかった。じゃあ、行こっか」

肉嫌いだから、か・・・。どっかで聞いたような台詞だなぁ・・・

結局、綾波はにんにくラーメンのチャーシュー抜きというややマイナーな注文をしていた。

俺は普通のチャーシューメンにした。

綾波の家はリニアで市郊外に出たところにあるマンモス団地にあった。

朝行った学校に近いところのようだ。

まだ全体の位置関係がわかっていない。

高層団地が何十棟も建っているが、いずれも相当古い。いや、古いというか、人の住んでいる雰囲気がないから手入れがされていない結果なのかも知れない。

エレベーターが無いので階段を上る。

案内として綾波が先に行くので意識しないのに視線が上に行ってしまう。

・・・これは意識しているからだ。

「綾波、ここにはどの位?」

「一年ちょっと」

「他にも誰か住んでるのかな?」

「わからない。誰にも遇ったこと、無いもの」

「そうなのか・・・

・・・

・・・402号室。

「さ、入って」

え、綾波!

「綾波・・・。鍵掛けてないの?」

「必要ないから」

!?

「さ、どうぞ」

「あ。お邪魔します」

そこは1LDKだ。本来だったら狭い筈なのにそこは広く感じられる。

調度品や荷物類が極めて少ないのだ。

これだったら鍵はいらないかもな・・・。綾波自身にはどうせ警護が付いているんだし。

でも・・・

「綾波、ここ寂しくないかい?」

「寂しい?・・・わからない」

綾波がチョコンと首をかしげる。その仕草がまた可愛らしい。

「綾波は何もわからないんだね」

「そう?・・・そうかも知れない・・・

「そうさ。綾波は学校の友達いるかい?」

「友達・・・クラスメートはいる」

「そりゃいるだろうよ。クラスメートがいないんじゃ学校に行く意味ないもの」

「そうなの?」

「そうだよ。・・・俺もあんまり偉そうなこと言えないんだけどね。前の学校じゃあ友達そんなにはいなかったから」

自分から作ろうとしなかった癖に・・・

・・・

「綾波・・・俺と友達になろう。同じパイロットという同僚としてだけじゃなくってさ。学校とか放課後とか一緒に遊ぼう」

「でも訓練があるわ」

「毎日って訳でも無いってリツコさんからは聞いてる。なら時間はあるさ」

「なら、そうすれば」

・・・ま、取り敢えずはいっか

結局、俺達の会話のパターンは変わらなかった・・・。

さすがにネタ切れになったころ帰宅時間になった。

「時間よ。行きましょ」

綾波につられて立ち上がる。

ずんずん先に歩いて行く。

って、鍵・・・。ま、いっか・・・

(バタン

綾波って歩くのが結構早い。脇目も振らず目標一直線って感じだからだろう。

こういう状態の時は話しかけても受け答えはしてくれるが俺の方を見ないで話す。

いきおい、こちらも口数が少なくなる。・・・悪循環だよなぁ、これって。

でも、さっきの綾波の部屋、それから今の綾波の後ろを追いかけている俺・・・、前にもこんなこと無かったっけ?変な気分・・・。懐かしいような・・・。既視感、デジャビュ、記憶の混乱いや混線、か・・・

駅に着いた。

きっかり6時だ。

「着いたね。綾波は知ってたんだね、リツコさんの家」

「ええ」

何か不思議そうな顔をしている。

「ここにこるのには地図をちっとも見なかったからね」

ショッピングセンターまでは綾波は地図と首っ引きで、しかも、途中の商店街と繁華街は歩いて通過しただけだった・・・。多分、綾波もほとんど来たことが無いって感じだった。

「そういえばリツコさんは何時に帰ってくるんだろう・・・。綾波、綾波はこれからどうするの?」

綾波は台所で紅茶を入れているみたいだ。いい匂いが立ち込めている。

この家には多分何回も出入りしているのだろう。どこに何があるのかわかっているみたいだ。

「はい、碇君。紅茶が入ったわ」

「ああ、ありがとう」

久しぶりだな、紅茶飲むの。悪くない。

「綾波、紅茶入れるの上手だね」

「そう。・・・ありがとう・・・

「ほんとに美味しいよ。お母さんが入れてくれる紅茶もこんな感じなのかな?だとしたら綾波はお母さんってことか。」

何気無い台詞、考えの無い言葉。

でも・・・綾波・・・赤くなってる。

「な、何を言うのよ・・・

照れてるみたいだ。

綾波は多分アルビノだ。肌の色が透きとおるように白い。けど不健康さが感じられない。

ちょっとでも赤くなると直にわかるな。

「赤木博士は普段は7時頃には帰って来る。今日は特別遅くなる理由はない筈よ」

「良く知ってるんだね」

「わたしの方が帰るの、早いもの」

「え?綾波の方が早いんじゃ、リツコさんの帰る時間は判んないんじゃない?」

「どうして?」

「どうしてって言っても、そうだろ。リツコさんが綾波にこれから帰るっとか電話でもしなきゃ判る筈ないじゃないか」

綾波、また首をチョコンとして考えている。

・・・そういうとこは可愛いなぁ 。

・・・碇君、勘違いしている」

「何が?」

「わたし、ここに住んでるの」

「えっ?ええーーーーっっっっっ!」

「そしてわたしはこれからどこにも出掛ける予定は無いわ」

ど、どういう?え?ええっ?

「どういうことだよ!」

「そんなに大きな声出さないで。ちゃんと聞こえているわ」

「いや、そういう問題じゃあないんだけど・・・

「何が問題なの?」

「だって・・・、ついさっきあの綾波の団地に行ったろ。あれは綾波の家じゃないのか?それに昨日は綾波この家にいなかったじゃないか?今日だって迎えに来てくれたろ。昨夜はどこで寝たんだよ。あの家にいたんじゃないのか?」

「ずいぶん一度に沢山の質問をするのね」

「そういう積りじゃないけどね。ちょっと、いや、かなりかな、ビックリしたもんだから・・・

「わたしはあの団地に住んでいるとは一言も言っていない。あの団地はわたしが住んでいたことのあるところ・・・。今は赤木博士と一緒に住んでいる。昨夜はわたしの方が帰りが早かっただけ。碇君も赤城博士も手続きで遅かった。二人が帰宅した頃にはわたしは眠っていた筈。今朝は赤木博士に頼まれて学校に書類を届けて帰って来ただけ。チャイムを鳴らしたのは碇君を驚かせないように、と赤城博士に言われたとおりにしただけよ。何もおかしなことはないわ。 ・・・ふぅ・・・

・・・

綾波が自分の言葉でこんなに長い台詞をしゃべったの・・・初めて聞いたような気がする・・・

「ごめん・・・確かに俺の早とちりだったみたいだ。でもリツコさんの作為を感じるね」

綾波が言った通り、リツコさんは7時過ぎに帰宅した。

食事中、俺が少なからず文句を言ったのは当然のことで、リツコさんが確信犯だったことも明らかになった。

「悪かったわ、シンジ君。でも実際ここまでハマってくれるとは思わなかったわよ」

「ほんとに、もう・・・勘弁してくださいよ。綾波のこと、真剣に悩んじゃったんですから」

「でも、レイはあそこに1年ちょっと一人で住んでいたの。本当はもっと早く何とかしてあげなければいけなかったのだけど、色々事情があってそうもいかなかったのよ。レイには申し訳なかったと思ってるわ 」

「いえ、赤木博士には本当に良くして頂いてます」

「この子は、リツコでいいって言ってるのに。どうしても言えないのね」

「そうなの?綾波」

・・・今までずっとそう呼んでいたから・・・」

「まあ、いいわ。急に呼び方を変えろっていう私の方に無理があるのよ」

「綾波。家にいる時くらいは博士ってのは止めようよ。堅苦しくて他人行儀じゃない」

「そう?でも赤木博士は他人だわ。碇君だって他人・・・

「確かに他人ではあるんだけど、一緒に住んでるんだから赤の他人じゃない。家族みたいなもんさ」

・・・家族?良くわからない」

「まあいいわよ、シンジ君。その辺りの事情は一度シンジ君に説明するから。レイ、そんなに気にする必要はないのよ」

「はい」

「じゃあ、MAGIの決定に従って、各自後片付け。お風呂に入って今日は寝ましょう。いいわね」

「はい」

「わかりました」

「そう言うシンジ君もしゃべり方は結構堅苦しいわよ」


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