『俺と僕で何?』
第四話 家族の意味
「お早うございます」
「お早う。シンジ君」
「お早う。碇君」
「綾波って、朝早いんだね」
「そう?早いの?」
「早いよ。まだ7時だもん。って、この家では俺の方が遅いってことか・・・」
「シンジ君と違って二人とも低血圧なだけ。早寝早起きじゃないと通常の時間に活動できないのよ」
「そうなんですか?」
「そういうこと。だから気にしなくていいのよ。遅刻さえしなければ良くってよ、学校もネルフもね」
「はい。で、今日の予定はどうなってるんですか?」
「今日は三人とも本部よ。一緒に出掛けましょう。ヒトマルマルマル出発でいいわ」
10時ってことか・・・。
・
・
・
「シンちゃん。昨日はレイとデートだったんだってぇ。憎いわね、い・ろ・お・と・こっ!」
「そんなんじゃ無いですよ」
「照れること無いじゃない。どうせ同棲してんだから」
「同棲じゃありませんっ!リツコさんも一緒なんですから」
「あら、両手に花じゃなーい。それともリツコはお邪魔虫かなぁ?」
「もう、なんてこと言うんですか。それじゃ俺に逃げ道無いじゃないですか!」
「ミサト!好い加減にしなさい。はっきり言ってあなた実験の邪魔よ」
「へいへい、済んませんねぇ、下世話で」
・
「マヤさん。ミサトさんって、いっつもあんな感じなんですか?」
「そうよ。葛城さんがボケで赤木先輩がツッコミって感じかしらね」
「・・・聞こえてるわよ、マヤ」
「いっけないっ」
はは。そのまんまだね。
「そうよ、マヤちゃん。先輩に対して失礼よぉ」
失礼なのはあんたの方ですって・・・でも自分のことは自覚があるってことか。
・
「しっかしぃ・・・リツコがシンジ君を引き込むとは思わなかったわ」
「引き込むって、人聞きの悪い・・・。レイも一緒なんだから問題無いでしょう」
「そうなのよね。レイのこともあたしは知らなかった・・・」
「そうだったかしら?確かに話したことはなかったかも知れないわね。聞かれたこと無かったもの。でも、調べればわかったことなのよ。別に隠してた訳じゃ無いんだから」
微妙な会話のような気がする・・・。
この二人は仲がいいのか、そうでないのか・・・。
「今日は何をするんですか?」
「レイは初号機の再起動実験を、シンジ君は身体検査ね。レイはマヤの指示に従って。シンジ君は私に付いて来てちょうだい。いいわね」
「了解」
「はい」
「じゃ、レイちゃんはプラグスーツに着替えて20分後にケイジに来てね」
「シンジ君、シンジ君は私の研究室に行きます 」
・
・
・
「取り敢えずそこの椅子に座っていてくれる」
「はい。・・・身体検査って何するんですか?」
「学校の身体測定と健康診断を一緒にしたようなものよ」
「・・・」
「まずこれを読んでちょうだい。質問にはまとめて答えるから後にしてね」
「わかりました」
ファイルだ。表題は・・・。
「『サードチルドレンに関する報告書』、ですか」
おっと。質問は後回し、だったよな。
・
・
・
それは驚きの内容だった。
俺に関する個人基本情報はもとより、経歴、交友関係、性格、身体能力、病歴などが項目毎に記入されていた。書類で調べれば判る項目もあるが、その記入内容を見る限り監視されていたとしか思えなかった。
そしてそこには俺の知らない事も記されていた・・・。
・
・
・
「待たせたわね、シンジ君。質問いいわよ」
「まずこの報告書は俺のエヴァに対する適性については何も書かれていません。何のための報告書なんですか、これ?」
「結構鋭いわね、シンジ君は。とても中学生とは思えないわ。・・・この報告書は碇司令が自分の手元にいない息子の事を心配して作らせたもの、と言ったら信じる?」
「信じませんね。いくら立場上の問題があったって数年振りの再会にただ『来い』の一言ですからね・・・」
「やっぱりそうよね。・・・その報告書はね、あなたの『性格』と『交友関係』に意味があるのよ。そしてそれが『エヴァへの適性』でもあるの・・・」
「何故『性格』と『交友関係』が・・・?」
「今度はこっちを読んでみて。はい」
今後は単票だな・・・。
「!これって綾波の個人データじゃないですか!いいんですか?俺なんかに見せて・・・」
「いいのよ。どうせこれから家族になるんだから。シンジ君も昨夜言ってたじゃない」
「それはそうですけど、なんか綾波に悪いです」
「それは読んでから言ってちょうだい」
「はい」
って!
・
氏名:綾波レイ
性別:女
年齢:14歳
生年月日:不明
家族構成:該当無し
・・・
・
「何ですか、綾波の経歴欄、白紙になってますよ」
「そのまんまよ。過去の経歴は抹消済みってこと・・・」
「・・・綾波も俺も、両親が身近に居なくって、性格は内向的、交友関係はほとんど無いってことですね」
「そう、それがエヴァへの適性なの」
「・・・」
「本当は今更身体検査の必要なんてないの。教えるわ。エヴァのこと、ネルフのこと、セカンドインパクトの真実、そして・・・レイの経歴を・・・それがここにあなたを呼んだ目的 なんですもの」
・
・
・
休憩をかねて食堂で昼食をとることになった。
「あ、シンジ君!もう終ったの?身体検査」
「まだ全部は終ってないわ」
「あ、そうなの」
「そんなに簡単なもんじゃないのよ。エヴァはデリケートなのよ。慎重に準備しても慎重過ぎることは無いの」
「へいへい。いいわよねー、シンちゃん独占できて」
「・・・」
リツコさん、完全に無視してるよ・・・。
・・・。
綾波は・・・本当にラーメンが好きなんだね。
綾波は自分のことどう思ってるんだろう。
自分のことを何て思ってるんだろう。
・・・わからない。これからどう接すればいいのか・・・。
・
・
・
「今日のところはこれ位にしましょう。お疲れ様」
「でも何故俺に話したんですか?みんなには秘密にしておかなきゃならないんでしょ?」
「他の人から聞いてしまえば秘密にする必要はないのよ」
「そりゃあそうですけど・・・誰から聞いたかなんてそのうちわかんなくなっちゃいますよ」
「大丈夫よ。シンジ君は自分で考えているほど馬鹿じゃないわ」
「そうですか?良くわかんないけど」
「それよりも、レイのことよろしくお願いするわ。あの子、私には今一歩心を開いてくれないわ。シンジ君ならうまくいくと思うの。言ってみれば兄妹みたいなものよ」
「そう…ですか?お話だとむしろ母子じゃないですか・・・。でも本当に驚きました。今でも信じられないですけど・・・。そもそもエヴァ自体がとんでもないものなんですね。 ・・・。大丈夫ですよ。クラスも一緒なんだから何とかなります」
「そう言ってもらえると助かるわ。でも母子じゃないのよ。兄妹でもないの。そこのところは間違えないで。悪いわね、シンジ君。押し付けるようで・・・」
「そんなことないです。俺も綾波には幸せになって欲しいと思うから」
・
・
・
結局本来するべきだった身体検査は身長や体重といった身体測定と血液の採取で終ってしまった。
綾波は無事に初号機の再起動実験を終了したそうだ。リツコさん曰く、常に準備は怠り無く、だそうだ。
でも、必要ないよ、綾波。初号機には俺が乗る。俺が乗らなきゃいけないんだ・・・。
・・・。
・・・これから家に帰るんだけど・・・リツコさんが帰ってくるまで綾波と二人っきりなんだよな・・・。ああは言ってみたものの、正直どう接すればいいんだろう。
ちょっと気が重いのかな?
ま、なるようにしかならないんだけどね。
・
・
・
「お帰りなさい、碇君」
「あ、ただいま、綾波」
「時間、かかったのね」
「うん。リツコさんに色々と質問しちゃったからね」
「・・・そう・・・。食事、まだでしょ。用意、出来ているわ。赤木博士は今日は遅くなるって、連絡あったわ。それと、お風呂もわいてる・・・」
「ありがとう。じゃ、悪いけど、風呂先に入らせてもらうよ」
「問題ないわ。わたしはもう入ったから」
相変わらずだよな、綾波って。
・
・
・
「これ全部綾波が作ったの?」
「ううん、わたしは温めただけ」
「そっか。でも、肉料理もあるけど、綾波は大丈夫の?」
「平気よ。肉は碇君と赤城博士の分。わたしは他のもの食べるから」
・・・。
「ねえ、綾波」
「何?」
「その『赤木博士』って言うのやめないか?」
「どうして?」
「だって、おかしいよ、家に帰ってまで肩書きで呼ぶのは。家に帰れば仕事を離れたプライベートな時間だろ。しかも一緒に住んでるのに。なんかそれって他人行儀過ぎるよ」
「他人行儀。碇君、昨夜も同じこと言ってた。説明受けたんでしょ、わたしのことも」
「うん。聞いたよ、綾波のこと。他のとこも色々・・・」
「わたしは誰とも血縁関係がない、赤の他人。いえ、それどころか人かどうかもわからない」
「やめろよ、そんな言い方は」
「でも、本当のこと」
「綾波は綾波だろっ。俺の家族じゃないか。哀しい事言うなよ」
「碇君とわたしは家族・・・?」
「そうだよ。家族なんだ。リツコさんだって家族なんだよ。いきなり家族って言われても戸惑うかも知れないけど、綾波も徐々に受け入れて欲しいな。だからまず、リツコさんのことはリツコさんと呼んで欲しい。これは俺からのお願いだよ 」
「わかったわ。碇君の願いなら。これから赤城博士のこと、リツコさんと呼べばいいのね」
「うん。ありがとう、綾波」
ちょっと違うような気もするけど、・・・最初からは無理だよね、綾波。
「じゃあ食事にしよう」
・
・
・
綾波と一緒の食事は楽しかった。それが何故か嬉しかった。
そう言うと綾波はちょっと赤くなって照れていたようだ。
綾波との会話は相変わらず間が持たなかったけど、大丈夫、きっとうまく行くさ。
綾波は後片付けをしている。手伝った方がいいのかな?
しかし、今日も疲れた。精神的に・・・。
・・・。
* 感想をお願いします。