『俺と僕で何?』


第九話 訪問の成果


・・・

俺は碇シンジだろうか?

そう自分に問いかける俺が自分は碇シンジであると思っていることは間違いない。

そして、間違いないと思っている自分がここにいるのは確かだ。

でも、リツコさんは、この『俺』とは違う碇シンジ、『俺』ではない碇シンジ、『僕』で代表される碇シンジがいると言う。

何か大事なことを忘れている『俺』、碇シンジ。

では、そのことを思い出した碇シンジも碇シンジなのだろうか?

『僕』のことを知らない『俺』も碇シンジで、『僕』のことを思い出した『俺』も碇シンジなのか?

では、『俺』のことを知らない碇シンジ、『俺』のことを知っている碇シンジは碇シンジなのか?

綾波・・・。最初出会った時と今とでは随分と変わったように思う。

そのことは、ヒカリやケンスケやトウジ、それにクラスのみんなも同じように感じていると思う。

でも・・・本当にそうなんだろうか?

単に、俺達は綾波のことを知らなかっただけなんじゃないのか?

だって、綾波は綾波であって、別人になった訳ではない。

綾波にもともとあった別の側面が表面に出てきただけじゃないのか?

でも・・・碇シンジの『俺』と『僕』の問題は綾波のケースとは明らかに違う・・・

もしかすると二重人格?

・・・違うな。

二重人格の場合はお互いの人格の存在を知覚できない。

そもそも二重人格、人格の分裂は記憶を分断させる為の自己防衛的手段であることが多いからだ。

リツコさんは、きっかけがあれば思い出すかもしれない、と言っていた。

であれば『俺』は『僕』の交代人格という訳ではないだろう。

では、単純なる記憶喪失か?

・・・

多分、リツコさんは知っている・・・少なくとも何か心当たりがあるに違いない。

でも、はっきりと言ってくれないのは何故だろう?

・・・分からないですよ、リツコさん。

きっかけ、か。

なんてことを考えているうちにもう朝だ。

なんだか夢と現実との境目が曖昧な感じだったな。

「おはようございます」

「「おはよう」」

綾波が横に立ってリツコさんの手元を見ている。もしかして・・・

「綾波、もしかして料理手伝ってるの?」

綾波は振り向いて、驚いたように首をフルフル横に振る。

「シンジ君、さすがにまだレイには無理よ」

「見てるだけ」

「覚えようとしてるんだね」

綾波は首をコクンと縦に振る。

「リツコさん、リツコさんが作れない時は俺が作りますよ」

「そうね。シンジ君はお料理出来るんだったわね。お願いしようかしら」

「碇君も料理出来る…出来ないのはわたしだけ・・・

綾波・・・俯いちゃった・・・悲しいのかな?

「あっ、大丈夫だよ、綾波。これから覚えればいいんだよ。生まれながらに料理できる人間なんていないんだからさ」

「それはそうね。シンジ君、いいこと言うじゃない。ね、レイ、気にすることなんて全然ないのよ」

「うん」

「そろそろ仕度が出来るわ。二人とも学校の用意しなさい」

「「はい」」

「お帰りなさい。リツコさん」

「ただいま、シンジ君。レイは?」

「今、風呂です」

「そう。シンジ君は?」

「先に頂きました」

「ところで、学校の方はどう?」

「楽しくやってますよ、俺も、綾波も」

「レイも?」

「ええ。前お話した洞木さんて言う学級委員長と仲良しになったんです」

「あら、うまくいったのね。良かったわ」

「明日、彼女の家に料理を教わりに行く約束してましたよ」

「へえ、随分な進歩ね・・・これもシンジ君のお陰ね」

「いえ、綾波の努力ですよ。リツコさんから借りて読んだ本のせいもあるかも知れませんが・・・


「レイ一人で大丈夫かしら?」

「大丈夫ですよ、そんなに心配しないでも」

「でもあの子は何も知らない子供みたいなものなのよ」

「分かってますけど、そもそも俺達は中学生なんですから、みんな子供ですよ、リツコさん」

「そうね」

「それに洞木さんは綾波のこと大事に思ってくれていますから」

「わかったわ…。あ、そうそう、ミサトがね、明日私達を自宅に招待したいって言ってるのよ」

・・・で、なんですか?」

「なんですか?って・・・

「俺はミサトさんのことは良く知りませんから、同意を求められても困りますよ」

「そ、そうだったわね。シンジ君は知らないんだったわね」

「何を言ってるんですか。リツコさんらしくないですね」

珍しく動揺してる・・・のかな?何故?

「やっぱり断ろうかしら・・・

「いいんですか?せっかく招待してもらってるのに断っちゃって。友達なんでしょ?」

「だからよ。いくら友人でも踏み越えてはいけない一線ってものがあるのよ!」

何言ってんだか、ぜーーーんぜん解からん!変だぞ、リツコさん。

「何か問題があるんですか?」

「今回はどちらかと言うとシンジ君メインのご招待だから、シンジ君に判断してもらうことにするわ」

「だから!何が問題なんですか?」

・・・ミサトはね『オヤジ』なのよ。」

・・・ミサトさんのキャラクターは何となく分かりますけどね」

「そうじゃなくって、もっと想像を絶するものがあるの」

「言いにくいんですか?」

「そうね、はっきり言わないと判断できないわね」

「はい」

「じゃ言うわよ!一つ、ミサトは生活能力がない」

「なんすか、それ?」

「ごめんなさい。言い直すわ。 一つ、整理整頓が出来ない。よって、家の中はゴミ溜めと化している。 二つ、味音痴である。よって、まともな料理が作れない。 三つ、アルコール依存症である。よって、後片付けも出来ない。 四つ、ジョークもオヤジ。よって、18才未満禁止ギャグも連発される。 五つ、車の運転はプロ級。よって、公道を160キロでとばす。 あら?いくつ・・・言ったかしら?」

「五つですよ」

「あら、まだそんなもの?百位はありそうなんだけど」

「まあ、さしあたっての問題はゴミ溜めと味音痴ですかね」

・・・掃除する覚悟と料理の用意を考えるべきね」

「はい。綾波にも協力してもらいましょうよ」

「そうね。そうしましょう。じゃ、ミサトの招待受けていいのね?シンジ君」

「ええ、お願いします。料理の件はちゃんとミサトさんに言っておいて下さいよ」

「了解」

「そう。明日ミサトさんの家へ行くのね」

「綾波の意見聞かないで決めちゃったけど良かったかな?」

「いいの。リツコさんも碇君も行くんでしょ。家族で招待されたんだったらわたしも行くのが当り前」

「綾波・・・ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」

「ところで綾波、今日は洞木さんに何を教わったの?」

「いろいろ。レシピ作ったわ。ちょっと待ってて」

綾波が自分の部屋に行き・・・戻ってきた。

「これ」

と言ってノートを見せる。中をぱらぱらっと見る。

・・・そう。わかった」

それでいくか・・・


「リツコさん。ミサトさんの招待は6時でしたよね?」

「そうよ」

「料理は俺達が作るって言ってくれましたね」

「大丈夫よ。私の健康問題でもあるんだから。作る時間がいるから4時に行くことに変更してあるわ」

「そうですか。じゃ、俺達は食材の買出しに行ってきます」

「行こう。綾波」

「わかったわ。碇君」

「昨日のレシピ、持ってきたね」

「ええ。持ってるわ」

「綾波。今日誰が招待されてるか話したっけ?」

「いいえ。まだ。でもわたし達だけじゃないの?」

「うん。俺達3人の他にマヤさんと後2人来るんだって」

「そう・・・それだとミサトさんを含めて7人になるわ 」

「ちょっと多いよね。バイキング形式にするしかないな」

「バイキング形式って何?」

「大皿に盛付けた料理を各人が自分の取り皿に取って食べるんだよ。大人数のパーティーの時とかに多いんだ。一人分ずつ盛り付けなくて済むから用意する方も楽だし、食べる方も自分の好きなものが選べるしね 」

「でも、それだと人気の無い料理は余ってしまうわ」

「うん。だからどの料理をどういう風に盛付けるかがポイントになる。一緒に考えよう」

「うん」

目指す店に着いた。

「じゃあ、食材を選ぼうか」

「うん」

「「ただいま」」

「お帰りなさい。レイ、シンジ君、お疲れ様」

「済みません。ついたくさん買っちゃいました。余るかも知れません」

「いいわよ。足らなくなるよりは」

「メニューは決まったのね」

「ええ。綾波と俺との分担も決めました。もしかするとリツコさんにも手伝ってもらうかも知れませんが・・・いいですか?」

「もちろんよ。遠慮しないで言ってね。何しろこちらの命に関わる問題だもの」

「はあ。よし、綾波。下拵えしちゃうから手伝ってくれるかな?」

「了解」

・・・了解、ねえ・・・まあいいか 。

「「お邪魔します」」

「お邪魔するわ、ミサト」

「ミサトさん、今日はご招待下さってありがとうございます」

「ありがとうございます」

「お礼と言っては何ですが、今日の料理は俺達に任せて下さい。お気に召すかどうかは分かりませんが・・・」

「碇君なら大丈夫。問題ないわ」

綾波が言うことじゃないぞ。

「リツコから聞いてるわ。なんかかえって申し訳ないことしちゃったわね」

「気にしないで下さい。好きでやることですし・・・

リツコさんも綾波も頷いてる。

「ということで済みませんがキッチンお借りします。ミサトさん」

「ええ、もちろん。どうぞ、こっちよ」

「まあ、ちょーっち、散らかってるけど気にしないで」

あれ、そんなに散らかってないじゃないか・・・まあ、俺達が来るんで片付けたんだろうけど、まあ普通なんじゃないかな。ちょっと臭いがするのが気になるけど・・・

6時になった。そろそろみんなが来る時間だな。料理は何とか間に合った。

でも、綾波は本当に頑張ってくれたよな。洞木さんの指導もあるかも知れないけど、綾波自身にも素質があるんだろう。

ピンポーーーン!

あ、来たみたいだ。

「これでみんな揃ったわね。では・・・えー、本日はお忙しい中、この葛城邸にお越し頂きありがとうございます。本日のメインゲストは碇シンジ君です。2001年6月6日生まれ。A型。人造人間エヴァンゲリオン初号機専属パイロット。 特務機関ネルフ所属特務尉。今日はシンジ君の歓迎会であると同時に、ネルフで一番身近になる同僚の親睦会でもあります。明後日からシンジ君の戦闘用訓練が始まるわ。周りの人のことを予め知っておいた方が気を遣わなくっていいと思ってね。だから今日は無礼講でいくからそのつもりで。あたしからは以上です。あと適当に自己紹介してね 」

・・・結構まともに喋ってる、って当然か。大人なんだもんな。作戦部長なんだし・・・

「じゃ、正式な自己紹介はまだでしたので、最初はわたしからいきます。わたしは伊吹マヤです。ネルフ本部の技術開発部技術局1課所属で直属の上司は先輩です 」

「先輩ってだけじゃシンジ君わかんないんじゃない?」

と、知っててわざと聞くミサトさん。

「あ、済みません。赤木先輩です。で、わたしの階級は二尉になります。仕事は、エヴァの開発と運用の全般に関することと、MAGIの運用管理やプログラミングも担当してます。戦闘時にはエヴァの制御関係のオペレーターを務めます。マヤ、って呼んでくれていいわ。これからよろしくね。シンジ君 」

「はい。こちらこそよろしくお願いします。マヤさん」

女子大生で十分通る気がする・・・とても社会人には見えないけど・・・幾つですか、とは聞けないしな。でも・・・マヤさんのどこが危ないんだろう、わかんないな?

「次は、俺でいいかな。日向マコト、だ。俺はネルフの中央作戦 指令部作戦局第一課所属で二尉。葛城さんの作戦立案を補佐する。戦闘時には作戦行動の指示も補佐するので中央作戦室のオペレーターも兼務しているんだ」

「よろしくお願いします。日向さん」

眼鏡だ。

「次は俺だな。青葉シゲルだ。中央作戦室付オペレーターで階級は二尉。担当は情報収集と状況分析だ

「よろしくお願いします。青葉さん」

ロンゲだ。

「あたしも一応自己紹介しとくわ。葛城ミサト。ネルフ本部戦術作戦部作戦局第一課課長。一尉。ネルフの前身のゲヒルンに入所して、ドイツ第三支部勤務を経て今になってるわ

「はい。改めてよろしくお願いします。ミサトさん」

あ、笑った。

「わたしもするのかしら?」

「せっかくだからしといたら。リツコ」

「赤木リツコ。ネルフ本部技術開発部技術局1課所属。特務一尉。E計画主任MAGI保守責任者。ゲヒルンのE計画勤務を経て現職。以上

リツコさんらしいや。

綾波レイ。過去の経歴は抹消済み。2002年3月30日生まれとの流説あるも、真相は定かではない。人造人間エヴァンゲリオン零号機専属パイロット。特務機関ネルフ所属特務二尉

・・・みんな固まっちゃったよー。綾波。

・・・ま、まあ。一応自己紹介は済んだから食事にしましょ、ね、ね 」

かなり不自然に場を取り繕うミサトさん。

リツコさんは頭が痛いらしい。

「あ、言い忘れてたけど、今日の料理はシンジ君とレイが作ってくれたの。主賓に作らせるのもって思ったんだけど、どうしてもって言うから」

「え?すごいですね。これ全部シンジ君とレイちゃんで作ったの?」

マヤさん、本当にビックリした顔をしている。

「私も手伝ったのよ」

「ええ、そうですよ。誰が何を作ったかは内緒です。当ててみてください」

ふふふ。こう言えばみんな全部食べざるを得ないだろう。ね、綾波。

「こりゃ、ほんとにすごいぞ」

「ああ、生半可なレストランじゃ太刀打ちできないかも知れないな」

お世辞でも嬉しいな。

「私も手伝ったのよ」

リツコさんの発言は可哀相に無視されている。

「さ、食べてください。出来れば感想もお願いします」

「もちろん。さ、いただきましょう」

「「「「「いっただっきまーーーーすっ!」」」」」

しばしみんな声も無く、黙々と食べている。

料理が見る間に無くなっていく。

綾波はというと、自分の手は止まっていて、みんなの食べる様子を心配そうに見ている…。

「マジうまいっすよっ!」

「ほんと、美味しいよ」

「とっても美味しいわ!・・・わたしより断然上手よ・・・ちょっとショックかも 」

「ほんと・・・美味しいわね」

「でしょう」

よかった。綾波もやっと安心したんだな、笑ってる。よかった。

「ミサト・・・もしかしてつまみ食いしてたのね」

「へっへー。だって本当に美味しそうだったから」

「ミサトさん、全種類味見したんですよ」

「そう。作る端から横取りしてた。お陰で足らなくなって作り足したもの・・・

「そ、そんなに食べてないでしょう!」

他のみんながジト目で見ている。

「ずるいっすよ、それって」

「太りますよ、葛城さん」

「葛城さん。ひどいです」

「無様ね」

・・・ま、いーじゃん、いーじゃん。料理は食べるためにあるんだから。気にしない、気にしないっと 」

開き直ったな。

「綾波。よかったね。じゃ俺達も食べようぜ。早くしないとほんとに無くなっちゃうよ」

「うん。でも、みんなが食べてくれればわたしはそれでいい」

「何言ってんだよ。俺は食うぞ」

「でも、レイちゃんって随分雰囲気とか変わりましたよね。あ、もちろん好い意味でよ」

「そうっすよね」

「これもやはり赤木さんのお陰ですよね」

レイが心持ち顔を赤くしている。

「そうなのよねぇ・・・。最初リツコがレイを引き取ったって聞いた時は正直不安だったわ」

「何が不安だったんですか?」

「あ、シンジ君は来たばかりで、しかも最初からリツコんとこに住んだから聞いてないのね?」

「だから何のことですか?綾波はかるの?」

「いいえ、からない 」

オペレーター3人衆はかってるみたいだけど・・・

「リツコわね、実はネルフ内では密かに『マッドなリツコ』、正式コードネーム『マッド・サイエンティスト』って呼ばれてんのよ」

「ええっ!そうなんですか?そうなの、綾波?」

綾波は首をかしげただけだ・・・知らないらしい。

・・・ミサト。正式コードネームなんてものは存在しないし、そんな風に呼ばれてもいない。それに誰もそう呼んでいないわよ。 この子達を誤解させるようなこと、言わないで欲しいわね」

ちょっと、いや、結構かな?怒ってるみたいだ、リツコさん。

「まあ正式コードネームなんて確かにないんだけど、みんなも納得できるでしょ?このコードネーム?」

あ、日向さんと青葉さんが頷いた。・・・マヤさんまで 。

・・・マヤ、あんたまで・・・

「あ、先輩!すいません。ついつられちゃいました」

「あら、そうなの。マヤの本心がよーーくっ!分かったわ」

マヤさん、おろおろモードだね、完璧に。

「せ、せんぱーーーい。誤解です。マッドって科学者にとっては誉め言葉じゃないですかぁ」

・・・マヤさん。それって墓穴掘ってますよ。

日向さん、青葉さん。助かりましたね。

「日向君と青葉君の納得したような頷きも見たわよ」

・・・

「上司の発言です」

「無礼講とは言え上司の発言は絶対だもんな。特にマコトにとってはな・・・

青葉さん、最後の発言はなんか含みがあるんですよね。俺には分からないんだが、みんなは分かるのかな?

「あの、俺は今一つ話題に着いて行けてないみたいなんですけど・・・

「あ、シンちゃん。ごめん、ごめん。話題がそれちゃったもんね。リツコの誘導で」

「別に誘導なんてしてないわよ」

「で、何でマッドかって言うと、リツコって怪しげな発明が趣味でね、何か発明すると直ぐに本番試験や人体実験に走っちゃうのよ。そこがマッドって訳」

「ちょっと!人聞きの悪いこと言わないでくれない?」

「だって、本当のことよ」

「言い方が誤解を招くわよ。いいこと。怪しげな発明って言うけど、エヴァが使用可能で使徒に有効と想定される武器類をMAGIに計算、設計させた結果よ。発明者はMAGIであって私じゃない。それに本番試験って言うのも、テストする前に使徒が来ちゃったんだから仕方ないでしょ。そもそもテストの環境設定はミサトに頼んでたのに、あなた、全然考えてなかったじゃないの。私個人の趣味でも何でもないわよ。仕事よ。同僚に恵まれなかった身の不運を同情されることはあっても、マッドと言われる筋合いはないわ。特にあなたからはね。・・・ふぅ」

一気だよ・・・誰も口を挟めなかった。

「ところで、シンジ君」

「何ですか?ミサトさん」

「あなたはレイのことどう思ってるの?」

なんだよ、いきなり。

「どうって、妹なんだから当然大切に思ってますよ」

「でも、シンちゃーーん。妹で残念だったんじゃあないの?」

「何言ってるんですか、ミサトさん。何を言わせたいのか知りませんけど、綾波が妹で良かったと思ってますよ」

「ミサト!質問が下衆よ」

・・・不潔」

「可愛い妹でよかったじゃないか」

「そーっすよ」

「俺もそう思います。綾波は俺の大事な妹です。妹だからこそ、ずっと変わる事の無い繋がりがあると思うんです」

「そうよ。ミサトも見習いなさい。シンジ君の方がずっと大人じゃない」

「へい、すんません。ごめんね、シンジ君。ちょっと軽率だったわ。許してね、レイも・・・

あれ。今日は素直じゃないか?

あの後、綾波がビールを飲まされそうになったり、日向さんがミサトさんに管巻いたり、青葉さんが歌唄い出したり、ミサトさんがお手製のカレーを振舞ったり・・・しっちゃかめっちゃかだった。

みんな寝ちゃったな・・・。起きてるのは俺達三人だけだ。

でも楽しかったよ。綾波も楽しかったみたいだし、良かったんじゃないか、ここに来て。

「ねえ、綾波。今日は楽しかったかい?」

「うん、楽しかった。楽しいってこういう気持ち、なんだと思った。大勢で集まって何かするのは楽しいことなのね」

「そうだね」

「でもレイ、シンジ君。この状況下だと、後片付けは私達がせざるを得ないわよ」

「楽あれば苦あり、ですね」

「そうなの?みんな寝ちゃってずるい」

「無理も無いのよ、レイ。みんな疲れてるのよ。あなた達が安心して戦えるようにそれぞれが頑張ってるのよ。徹夜にアルコールはこたえるの」

「そうでしたか・・・

「ごめんなさい」

「いいのよ。みんな当然のことをしているだけ。あなた達みたいな子供を戦場に出さなきゃいけないんですもの」

「俺たちしかエヴァに乗れないんだから仕方ないですよ。気になんかしなくていいですよ。な、綾波」

「うん」

「綾波、俺達は食事の後片付けをしよう。リツコさんは申し訳ありませんが寝ている大人達を何とかしておいて下さい。俺達じゃ重くて何ともなりませんから」

「「了解」」

「何とか片付いたね、綾波」

「ええ。リツコさんの方は大丈夫だったかしら」

居間に戻ったけどリツコさんがいない。みんなに毛布を掛けたんだ。

「リツコさん。どこですか?」

「あ、シンジ君。こっちよ!」

リツコさんの声のした方に行ってみる、と、ここは多分ミサトさんの部屋・・・

「なんだよこれー」

・・・物置?ゴミ置き場?」

「ひどいよ、言い過ぎだよ、綾波。布団が敷いてあるじゃないか」

「まったく・・・女性の面汚しよ、ミサトは」

「こりゃひどいですね」

率直な感想しか言えない。

「まあ・・・この部屋は見なかったことにしましょう。そろそろお暇しましょうか」

「そうですね。結構遅くなっちゃいましたから」

「碇君。明日は学校よ」

「そうだね。ただでさえ早退が多いんだから、こんなことで休むわけにはいかないよな」

「あら、レイ。余った食材持って帰るの?」

「はい。ここに置いて行っても無駄になるだけだから・・・

「ははは・・・

綾波って結構言葉に棘があるな。

「じゃ、メモを書いて置いていきましょ。多分マヤが一番先に起きるでしょ」

帰りは面倒だってんでタクシーで帰って来た。

三人とも軽くシャワーを浴びるだけにした。

「二人とも今日は楽しかったかしら?」

「ええ、楽しかったですよ。大勢で騒いだのは何年振りって感じでした。みんな良い人達でしたし」

「わたしも楽しかった」

「それは結構。断らなくて良かったってことね。ミサトのカレーは余計だったけど」

「ほんと、どうやったらレトルトのカレーをあんな味に出来るんですかね?でも綾波が他の料理を美味しそうに食べて楽しそうにしてるのを見ていて俺も嬉しかった。なんだか心が暖かくなった感じがした 」

「そ、そう?なんだかわたしも嬉しい感じだったと思う」

「食事は栄養を採ることだけが目的じゃない。味や彩り、食器や食事中の会話とか、色々と楽しめる要素があるんだ」

「そうね。レイにもそれが分かってきたんでしょう。誰に教えられたという訳ではなくね」

「うん」

「以前みたいなサプリメントとか栄養剤とかを採るだけの食事じゃ駄目なんだ。そういう意味ではあれは食事とは言えないよ」

「えっ?」

・・・

「何?綾波」

・・・どうして?どうして碇君が栄養剤のことを知ってるの?碇君は知らないはず。それともリツコさんから聞いたの?」

「なんだよ、綾波ぃ。この前、綾波が昔の部屋を案内してくれたじゃないか。部屋に置いてあったろ、薬とかビーカーなんかと一緒にさ」

「いいえ。置いてなんかなかったわ。引越しのときに片付けたもの」

「勘違いだろ。俺はあの時にしか知りようがないんだから。・・・それとも二度目の時だったのかな?」

「その時にも無かったわよ。シンジ君」

・・・


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