『俺と僕で何?』


第拾話 訓練開始、そして(前編)


 

・・・

・・・どうして?どうして碇君が栄養剤のことを知ってるの?碇君は知らないはず・・・

・・・

二人の話し振りからすると、あの綾波の部屋に以前薬とビーカーが置いてあったのは確かだ。

問題なのは、どうして俺がそのことを知っていたかだ。

深く考えて言ったことじゃない。自然に口から出ていた。

今改めて考えてみるとあの部屋に以前薬とビーカーが置いてあったかどうか・・・覚えていない。

これは・・・リツコさんの言う『僕』の記憶なのか?

そうだとしてもおかしい・・・

俺であろうが、俺が忘れてしまった『僕』だろうが、第3新東京市に来たことはない筈だ。

否、来たことはあった。

母さんが初号機に取り込まれた時、3年前までの母さんの墓参り。

でも、その時は綾波のあの部屋はまだ無かったんだ。

綾波があの部屋に住むようになったのは綾波が中学1年に編入した時だ。

そしてそれは今から1年少し前だ。

だから、『俺』も『僕』も知る機会はあり得なかった・・・

わからない。何がどうなっているんだ?

・・・

リツコさんはどうやら『僕』の正体を知っているみたいだからまだいいが、綾波はびっくりしてた。

リツコさんが適当に誤魔化してくれたけど、綾波も頭の良い娘だから、多分誤魔化された振りをしているだけだろうし、それはリツコさんも解かっている筈だ。

結局みんな俺のことを気遣ってくれているだけなんだ。

なんとかしなくちゃいけないけど、今の俺にはどうしようもない。

思い出すことがあるなら思い出したいが、その方法がわからない。

・・・きっかけが掴めていないんだ。

これじゃ袋小路だ。

ま、リツコさんを信用するしかないってことだな。

寝よ、寝よ。

うーーーん。

げっ!寝坊だ!

昨夜はもともと遅かったのに、色々考えちゃって寝付かれなかったからな。

「すいません!寝坊しちゃって!」

「あら、おはよう、シンジ君。寝坊ってほど遅くはないわよ」

碇君、おはよ。さ、朝食、食べましょ。あとこれ、お弁当」

「あ、うん。ありがとう」

「シンジ君。今日のお弁当は感激ものだから楽しみにしててね」

「?」

「洞木さん、お早う」

「おはよう、碇君。おはよう、レイ」

「おはよ、ヒカリ。一昨日はどうもありがとう。早速昨日から役に立ったわ」

「昨日お呼ばれしたんだけど、綾波が料理を作ったんだ。みんな美味しいって言ってくれて、本当にうまかったんだよ!」

・・・碇君の説明じゃ良く事情が解かんないけど、碇君にも喜んでもらえたようね。早速成果が出てわたしも嬉しいわ 」

「うん。ヒカリ、ありがとう。また今度教えてね」

「もちろん!優秀な生徒を持てた先生も鼻が高いわよ」

「さっ!飯や、飯や!」

「トウジ・・・お前は飯食うために学校来てるのか?」

「それと昼寝もやで。そない言うお前だってデジカメで写真撮る為に来とるようなもんやないか 」

「トウジもケンスケも、平和そのものって感じだね」

「まあ、平和の真似事だけどな。シンジも知ってるだろ、この前の怪獣騒ぎ。ここの住人は大抵がネルフ絡みだから表面上平静を装っているけど、内心は穏やかじゃないさ 」

「そや、実際家族だけでもって疎開させたもんもおるんや。シンジみたいにあの後転校して来るっちゅうんはほんま珍しいで 」

「そ、そうかな」

「ああ。ちょっと怪しいよな」

「相田君、鈴原も。そろそろお弁当にしましょ。時間が無くなっちゃうわよ」

「そうや、飯、飯」

「って、飯じゃなくてパンだろ、それ」

ケンスケっていちいち突っ込むよな・・・

「碇君。そこの二人は放っといて、とにかく早く食べましょ」

「ああ、綾波」

自分の弁当箱を開ける。

・・・あれ?これって・・・

「いっただっきまーす」

うん、美味しいよ、綾波。ほんと出来の良い生徒だね。

「どう?碇君」

「うまい!うまいよ、綾波。これ、綾波が作ったんだろ」

「うん・・・どうしてわかったの?」

「分かるさ。盛り付けとか特に作る人の個性が出るからね」

「そう・・・

あ、いけない!

「綾波。勘違いするなよ。ほんとうにっ!うまいんだからね」

「「どれどれ」」

って、取るなっ!あーあ。

「「・・・(モグモグ)。うまいっ!」」

「ケンスケもトウジも・・・。勝手に取るなよ、もう」

俺の食う分減ったじゃないか。

・・・じゃ、わたしも少しもらっても・・・いいかな?」

「ヒカリ。わたしのあげるから」

「あ、ごめんね」

「どう?」

「美味しいわ!レイ!」

「そう。良かった!」

「ほら。本当に美味しいんだよ」

「うん。嬉しい」

「レイ。素質あるわ。わたし、追い抜かれちゃうかも」

「そんなこと・・・ないわよ」

綾波、照れてる。そういうとこ可愛いよな・・・

『キーーン、コーーン、カーーン、コーーン・・・

「やべっ!昼休み終っちまう・・・

「しっかし、綾波がシンジの弁当作ってくるなんて、以前だったら想像も出来なかったな 」

「ほんまやで。兄貴が出来て綾波も変わったんやな」

「そうかも知れない。でも、それも綾波が本来持っていた資質なんだと思う。俺はただのきっかけだよ 」

「いいや、シンジが兄貴やったからや。ほかのもんやったら違ったかも知れん 」

「そうかな」

「シンジは優しいからな」

「そっかな?」

「そうだよ」

「明日は綾波も俺も学校に来られないんだ」

「そうなのか?」

「なんや二人してデートか?」

「何馬鹿なこと言ってんだよ。兄妹でデートなわきゃないだろが」

「どうかな?二人は最近になってからだろ、兄妹だって知ったのは」

「まあ、初めて聞いた時には驚いたのは確かだけど、良いとか悪いとか、好きだとか嫌いだとかって問題じゃないからな」

「そりゃそうだ」

「おお、妹は大事にせなあかん。わしにも妹がおるさかい」

「ねえ。トウジが突っ込みを入れたんじゃあないか」

「そうやったか?」

「いいよ、もう。じゃ、俺たちこっちだから。また、明後日ね」

「おう」

「じゃあな」

「レイ。またね」

「さよなら」

「ところで、綾波。俺は今日買い物してくるから、先帰ってていいよ」

「碇君。何を買うの?」

「ちょっと、テニス道具をね」

・・・わたしも付き合っていい?」

「いいけど。つまんないよ。人の買い物なんて」

「いいの」

「そう?じゃ行こっか!」

「うん」

首をコクンとした。こういうとこ可愛くて好きだよ。

「確かこのショッピング・センターにあったはずなんだけど。あ、ここだ」

「碇君。ここにどんなお店があるのか覚えてたの?」

「ああ、せっかく綾波が案内してくれたんだから、ボケボケしてたら悪いだろ 」

「そんなことないわよ」

「これで大体一式揃ったな」

「碇君・・・わたしも買いたい」

「えっ?綾波。テニスするの?」

「うん。これから始めるの」

「じゃ。初心者なんだ」

「そう・・・。でも、碇君に教えてもらう」

・・・

・・・迷惑?」

いかん!しばし呆然としてしまった・・・

「あ、いや、そうじゃなくって!俺もテニスはしたことないんだ。俺も誰かに教わらないといけないんだよ。だから教えられないな、と思って・・・

あんまり悲しそうな顔するから焦った。

「どうして?」

「何?」

「どうして碇君はテニスをしたいと思ったの?」

「それが良くわかんないんだ・・・。なんとなく、かな。テニスだったら好きになれそうな気がしたんだ・・・。うまく説明できないけど」

「誰か教えてくれる人の当てはあるの?」

「いや。リツコさんかミサトさん達に誰か紹介してもらおうと思ってるんだ。なんたってネルフには大勢の職員がいるんだから、テニスの上手い人だって必ずいるさ。本部にテニスコートだってあるんだしさ 」

「本部にテニスコート?あったかしら?」

「あったよ。実際には見たことないけど、案内板があったもの。綾波は知らなかったのか?」

「うん。知らなかった。興味なかったもの」

「ま、いいや。せっかく綾波もやろうと思ったんだ。綾波の分も揃えよう」

「ええ!」

嬉しそうだ。そうか・・・綾波と一緒にテニスできる!素晴らしい事かもしれないぞ。

なんだかわくわくしてきた!

「ただいまー」

「ただいま」

リツコさんは未だ帰ってない、か。

「にゃーーん」

「みゃ」

「きゅるーん」

「お、ただいまー、トト、チャチャ、ミミ」

「みんな、今ご飯をあげるわ。ちょっと待ってて」

「じゃ、俺は食事の仕度するよ。悪いけど綾波は風呂頼む」

「わかったわ」

「ただいま。今帰ったわ」

あ、リツコさんだ。

「今日は少し遅かったんですね」

「ええ。ミサトから明日のシンジ君の訓練内容の相談を受けてたのよ」

「あ、そうだったんですか。すいません」

「別にシンジ君が謝ることないわ。ぎりぎりになって相談してくるミサトが悪いのよ 」

「そりゃまそうですけど・・・

「けど、何?」

「ミサトさんはミサトさんなりに俺達のことを思ってのことでしょう?」

「それはそうよ。でも、それだけでもないの」

「はあ?」

「ところで、レイは?」

「いますよ。今食事を温めてます」

「今日はレイが作ったの?」

「俺が作ろうと思ったんですけど、結局二人で作りました。綾波、料理に目覚めたみたいですよ 」

「それはいい傾向よ」

「リツコさん、お帰りなさい」

「ただいま、レイ。今日のお弁当、本当に美味しかったわ。とても初めてとは思えない。マヤなんか羨ましがってたわよ 」

「そう言ってもらえると、・・・嬉しい」

綾波、少し赤くなって俯いた・・・。ほんと、綾波の反応ってわかりやすいよな。・・・っていうか反応のパターンが少ないっていうのかな?

「俺なんか学校で綾波の作ってくれた弁当のおかずを取られちゃいましたよ」

「あら、もうそんなに仲の良い友達ができたの?」

「ええ。ケンスケとトウジって言うんです」

「相田ケンスケ、君と、鈴原トウジ・・・

「あれ?知ってるんですか?二人のこと」

「あ、ええ。ちょっとね・・・。じゃ、先に着替えてくるわ。すぐ戻るから、仕度お願いね」

「「はい」」

「へえ。シンジ君がテニスをねぇ」

「変ですか?」

「いえ、変じゃないわ。ただ、意外だっただけ」

「どうして意外なんですか?」

「言い方が悪いかも知れないけど、今までのあなたのデータからは予想できないもの 」

「そう・・・ですか?」

「シンジ君、今までスポーツやったことないでしょ。あ、体育は別よ」

「そうなんですよね。綾波にも聞かれたんですけど、何でテニスなのか、って 」

「で、どうしてまた始めてやろうと思ったスポーツがテニスなの?」

「良くわかんないんですけど、なんとなくですね。もしかすると本部のテニスコートの案内板が頭に残っていたのかも?」

「そう?で、レイもシンジ君に付き合うってわけ?」

「ええ。いけませんか?」

「そんなことないわ。と言うより、むしろ歓迎よ。娯楽の少ないこの街だもの、気晴らしにはいいんじゃない。それに健康的だし 」

「でも、そんな時間的余裕があるかどうかの方が心配なんです」

「ああ、それは大丈夫。あなた達さえ良ければ、私からミサトに訓練メニューとして組み込むよう進言するわ。実際、反射や運動神経の訓練になるもの 」

「ありがとうございます!」

・・・あとはコーチの人選ね」

「そうなんです・・・誰か当てありませんか?」

「そうねぇ・・・・・・ないこともないわね。明日聞いてみるわ」

「「お願いします」」


「今日からシンジ君にも戦闘訓練に参加してもらうわ。みんなよろしく頼むわよ 」

「「「「了解っ!」」」」

「シンジ君。日向二尉、青葉二尉、伊吹二尉は紹介の必要ないわね。あともう一人のこちらは洞木コダマ三尉。主にエヴァの制御系担当でマヤを補佐している 」

「よろしくお願いします。碇シンジ君」

「こちらこそよろしくお願いします。で・・・洞木さん・・・

「あ、わかった?そうよ。ヒカリの姉なの。でもヒカリはシンジ君がパイロットだってことは知らないから、安心して 」

「はあ」

「それに関して言っておくけど、シンジ君達自身には自分達がパイロットであることを隠す義務は今後ないものとします。ですから、無理に隠す必要もないし、逆に、無理に話す必要もありません。ただし、シンジ君達以外の職員の守秘義務は継続されますので、別途解除されるまで気を付けること。なお、洞木三尉に対する解除はレイまたはシンジ君それぞれが解除権限を持つこととします。以上よろしい?」

「「「「「「了解」」」」」」

「で、今日の訓練はシンジ君の基礎データの収集をメインとします。リツコ、あとよろしくっ !」

「よろしく、って。まったく!・・・今日はエヴァの物理的操縦についてのパイロットのインダクション・モード対応の基礎データを収集します。シンジ君、とりあえず概略だけ説明するわ。今日は初日だから自分のイメージで動かしていいわよ。緊張する必要はないけど集中はしてね 」

「わかりました」

「碇君。頑張ってね」

「レイ。そんなこと言うとシンジ君、緊張するわよ」

・・・ごめんなさい」

「いえ。お言葉通り楽にやらせてもらいますよ。綾波、心配いしなくていいよ」

とは言ったものの…結構ややこしいんだな・・・

思考伝達システムと手動操縦システムの使い分けが難しい。

えっと・・・目標をセンターに入れて、スイッチ。

(カチッ!)

目標をセンターに入れて、スイッチ。

(カチッ!)

目標をセンターに入れて、スイッチ。

(カチッ!)

・・・ああっ、もうぅ!何で上下にぶれるんだぁ?

『シンジ君!シンクロ落ちてるわ。あんまり深く考えずにマークだけ見てスイッチを押すの、ね 』

「はい。マヤさん」

!。スイッチ・オン。

(カチッ!)

!。スイッチ・オン。

(カチッ!)

!。スイッチ・オン。

(カチッ!)

おお!当たるじゃん!

『コツが掴めて来たみたいね。じゃ、ちょっとパターンを変えてみるわよ』

「了解」

お!敵の出現位置が変わった・・・

!。スイッチ・オン。

(カチッ!)

!。スイッチ・オン。

(カチッ!)

!。スイッチ・オン。

(カチッ!)

いい調子だね!・・・これってケンスケやトウジの方が向いてるかも知れないな。ゲームセンターのシューティング・ゲームみたいだもんな。

コン、コン。

「綾波とシンジです。入ります」

「お疲れ様。レイ、シンジ君」

「お疲れ様ぁ。シンちゃん、レイちゃん」

「あ、ミサトさんもいたんですね。で、どうでした?」

「そうね。初めてにしては上出来よ。命中率60%・・・

「そんなもんですか?」

もっと当たってるかと思ったのにな・・・

「でもね。シンジ君。60%っていうのは全弾の平均よ。後半だけ取ればほぼ100%なの・・・これはどういうことかしらね」

「そうなんですか。俺って才能あるんですね」

・・・才能、ね。ま、いいわ。今日はこれで終了。上がっていいわよ」

「え?もういいんですか?」

「リツコ、データ、十分でしょ?」

「ええ。これ以上は必要ないわ。シンジ君、お疲れ様」

「は、はい」

・・・ほんとにいいのかな、こんなんで?

あ、そうだ!

「ミサトさん!」

「何?」

「えーと、その、あの・・・

「なーに?シンちゃん。お姉さんにデートの申し込みでも?」

「え?何言ってんですか!違いますよ!」

「じゃ、デートすっ飛ばしてその先かな?」

な、なんてことを言うんだ!この人は・・・

「そんな訳ないじゃないですか?俺まだ中学生ですよ!」

「ミサト!性格悪いわよ。シンジ君、これでも純情なんだから」

これでも、ってなんだよぅ・・・リツコさん。

「ごめん、ごめん。ジョークよ、ジョーク」

「品がないわよ、ミサトは」

「テニスの件でしょ?シンちゃん」

「え、ええ。そうですけど」

「リツコから聞いてるわよ」

あ、そうだった!

「全然問題ないわよ、シンジ君。もちろん、レイもオッケー」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます。葛城一尉」

「ねえ、レイ。あたしのことはミサトでいいのよ、シンジ君みたいに。あなた達は中学生なんだから階級で呼ばなくてもいいのよ 」

「わかりました。・・・ミサトさん」

「ありがと」

綾波ってミサトさんのこと階級で呼んでたんだっけ?

「二人への戦闘訓練スケジュールはリツコに伝えてあるから、今後全てのスケジュールはテニスも含めてリツコから聞いてね 」

「「はい!ミサトさん」」

ハモっちゃったよ。

「で、シンジ君」

「なんですか、リツコさん?」

「頼まれていたコーチの件なんだけど・・・

「誰かいい人見付かりましたか?」

「それがね・・・

・・・見つからないのね」

綾波ががっかりしてる・・・

「これだけの職員がいながらコーチ出来る人材がいないなんて、私も意外だったわ 」

「あ、テニス出来る人がいないって言うんじゃないのよ。きちんとコーチ出来そうな人はいないってことなの。リツコ、どうせやるならいい加減にはやらせたくないみたい 」

「ありがとうございます。でもいいですよ、別にプロになろうって訳じゃないんですから・・・。ね、綾波」

「うん」

「実は一人いい人材がいるの」

「ほんとですか!」

「ええ」

「リツコ、あたしは聞いてないわよ、そんな話」

「当然よ。話してないもの」

「ぶーー」

ミサトさん、ふくれてる。これでほんとに作戦部長かぁ・・・

「誰なんですか?・・・でもネルフの職員ではないのね・・・どうするの?」

「ネルフの職員よ、一応。・・・でも今はドイツ支部勤務なの。だから彼をここに呼び寄せることにするわ」

「ちょ、ちょっとー、リツコ!それって、まさか・・・

「まさかはないでしょうに・・・ドイツ支部勤務でテニスのコーチが出来る人材で私が知ってる人間なんて一人しかいないわよ 」

「えっ、えーーーーっ!加、加持なのーーーっ?」

「そうよ」

「なんでそんな奴わざわざ呼び寄せなくっちゃいけないのよっ!」

「いいじゃないの、ミサト。レイとシンジ君のためになるのよ」

「リツコさん、いくら俺達のためだからって、ドイツにいる人をわざわざ呼ぶって言うのは大袈裟過ぎますよ。綾波だってそう思うだろ?」

「ええ。いくらなんでもやり過ぎ。でも、気持ちは嬉しい」

「あたしはっ!ずぅぇーーーったいにっ!反対!断固反対!なんでも反対っ!」

「ミサト・・・大人気ないわよ。子供たちの前で」

「だ、だってーー」

「リツコさん。ミサトさんとその加持さんでしたっけ、仲悪いんですね?」

「どうかしらね?加持君は別に悪い人間じゃないわよ。ミサトが勝手に嫌ってるだけよ。気にすることはないわ 」

なんか訳あり、って感じだけど・・・やっぱ聞かない方がいい、よな。

「それならなおさら無理に呼ばなくたって」

「ああ。別に無理に呼ぶ訳じゃあないの。もともと呼び寄せる予定だったの。だから呼び寄せる時期をちょっと早めるだけだ・・・

「ちょっと!リツコっ!あたし、聞いてないわよ!その話!」

「ミサト!人の話を中断しないでよ。たかが元カレでしょう。それともまだ未練でもあるのかしら?」

「そ、そんなのある訳ないじゃない!」

「そう。じゃあ、しばらく黙ってなさい。嫌ならこの部屋から出て行ってもらいます 」

「へい、へい」

あ、拗ねた・・・。子供だよ、ったく。

「話が全然前に進んでいないわ。ミサトさんのせいで」

あ、綾波ぃー。怒ってるの、かな?

「で、テニスコーチはその加持リョウジ一尉にお願いすることにします。いえ、しました。ミサト!これは、碇司令も了解の決定事項です 」

「了解・・・

「加持君の任務は、エヴァ弐号機の本部への輸送とそのパイロットであるセカンド・チルドレン、惣流・アスカ・ラングレーの護衛です。本来は来月9月20日の予定でしたが、9月早々とします。弐号機とセカンド・チルドレンおよび加持一尉は本部到着と同時にドイツ支部から本部への転籍となります。着任後の所属及び階級は現段階では公表出来ません。ただし、レイとシンジ君のテニスコーチ就任は決定事項です 」

「「はい。ありがとうございます」」

・・・ぶう・・・

「でも、テニスコーチ就任とか着任時期を早めたりとか、リツコさんが父さんに進言してくれたんですか?」

「そうよ」

「リツコさんって、偉いんですね」

「別に偉くなんかないわよ。碇司令は国連直属組織特務機関ネルフの総司令官、私は単なる本部技術開発部技術局1課所属の特務一尉。比べ物にもならないわ」

「でも、父さんに言う事聞かせるなんて」

「そうよ!不自然だわ、リツコ!」

「なんてことないのよ。職務柄司令の弱みを一杯握ってるだけだから。情報の有効利用よ 」

「な、なんて危ないことを・・・

「リツコさん、気を付けて。碇司令に消されてしまう」

「あ、綾波っ!」

「大丈夫よ、レイ。碇司令も私の言う事を聞くための口実にしてるだけだから。むしろ困ってるのは副司令ね、間違いなく 」

ミサトさんは何か真面目に考えるような顔をしている。さっきとはえらい違いだ・・・

俺には何のことだかさっぱりわからなかった。多分、綾波にも・・・


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