『俺と僕で何?』
第拾壱話 訓練開始、そして(後編)
「「「ごちそうさま」」」
「で、話してくれますよね。加持さんって人のこと」
ここまで質問禁止って言われて我慢してたんだから・・・。
「もちろん、約束は果たすわ。機密事項に触れない限り質問に答えるわよ」
「綾波。綾波は加持さんって知ってるの?」
「いいえ。知らないわ」
「そう。で、まず俺から質問してもいいかな?」
「いいわ」
「初めに、三人の関係を教えて下さい」
「・・・これはまた随分と大雑把な質問ね」
「あ、すいません」
「いいわ。三人が知り合ったのは第2東京大学在学中よ。順序で言うと、ミサトと私、ミサトと加持君、で、加持君と私ね 」
「じゃ、三人の接点はミサトさんだったんですね」
「そうよ。当時はミサトが一番社交的だったわ」
「で、三人ともネルフに就職、って言うのかな?ま、入った訳ですね」
「結果的にはそう。でも、私にとっては三人ともがネルフに入ったという事は後で分かった事なのよ 」
「えっ!じゃあ入る前に相談したりとかで知ってた訳じゃないんですか?」
「そう。気が付いてみたらまた三人一緒になったっていう事」
「・・・」
・・・そんな・・・偶然だったなんて・・・。
「私は大学卒業して母さんの関係もあったから直ぐにネルフに入ったけど、ミサトはその翌年でドイツ第三支部配属、加持君は不明 」
「不明って・・・」
「そう。加持君のことは機密事項に触れるのよ、本人に直接聞いてくれる?」
「はい」
「ミサトはね、『戦略自衛隊』にも出向していたわ」
「『戦略自衛隊』・・・ですか。・・・なんでまたそんなところに?」
「それは彼女の経歴を知れば解かるでしょうね。長い話になるので後で自分達で調べてちょうだい。MAGIへのアクセス・コードを教えるわ」
「いいんですか、そんな事して?」
「心配しないで、司令の許可は取ってあるわ」
「はあ・・・なんか手回しいいですね」
「予測範囲内よ、この程度のことは」
「わかりました。俺達の行動は単純ってことですね?」
「それは違うわ。今はまだ私の方に主導権があるってだけ。この先は分からないわよ 」
「加持さん自身のことを差し支えない範囲で教えてもらえますか?性格とか・・・そのぅ、人柄とか・・・何でもいいです」
「ええ。と言っても、あんまり良くは知らないのよ。自分の事はあまり話さなかったし・・・。それに私よりミサトの方が知ってるでしょうね。性格的には・・・ねぇ・・・。普段は、ずぼら、不真面目、好い加減、チャランポラン、女ったらし、お調子者、って感じかしらね」
「・・・なんですか、それ?良くネルフに入れましたね」
・・・でも、普段は、だったよな・・・。
「彼には裏の顔があるの。そして、彼のネルフでの本業は裏稼業といっていいわね。情報収集と分析、諜報活動、破壊工作、要人警備と護衛、その他諸々・・・。性格は・・・大胆にして細心、豪胆にして臆病、冷酷無比にして情け深い、・・・。まったくナンセンスな説明だわ」
「そ、そうみたいですね・・・」
「ま、人間なんて白黒どちらかに分類できないもの。でも人柄はいいのよ。敵対さえしなければ全くもって人畜無害。それと運動神経も抜きん出てるわ。テニスのみならず、ね 」
「はい。何となく分かりました」
・・・なのかな・・・?
「碇君、いい?」
「あっ!ごめん。綾波のこと忘れてた・・・訳じゃないんだけど」
・・・ほんとは忘れてた・・・ごめん。
「いいの。気にしないで」
「うん」
「リツコさん。加持さんって女たらし、って言った」
「ああ。でもロリコンじゃないからレイは大丈夫よ。心配ないわ」
「それは構いません。ミサトさんがその加持さんを嫌っているのはそのためですか?」
おおーい、綾波さーん。俺としては構うんだけど・・・。
「さあ、どうかしらね・・・。ミサトと加持君が別れた理由は聞いてないの。私はお似合いのカップルだとばかり思ってたのよ。この辺の事情は当人達にしかわからない事でしょうね。いえ、時には本人達もわかっていない場合もあるわね。ロジックじゃないもの、男と女の仲は・・・」
「わたしはもういいわ。碇君」
うん。なんだか湿っぽくなっちゃったな・・・。あ、そうだ!
「話は変わりますけど、エヴァ弐号機とパイロットがここに来るんでしたよね 」
「そうよ」
「確か、惣流・アスカ・ラングレー・・・と言ってたわ」
綾波って記憶力いいなぁ・・・。
「その通りよ。経歴はざっとこんなもんよ、いい?2001年12月4日生まれ。日本とドイツのクォーターでアメリカ国籍。ドイツの大学を今年卒業してるわ。2005年セカンド・チルドレンに選出、以降、ドイツ第三支部所属、人造人間エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット。本部では特務機関ネルフ所属特務二尉となる予定。そんなところかしらね 」
・・・俺にはいっぺんには覚えきれないよ。
「大学出てるんですか?同い年なのに・・・」
「そうよ。あ。ちなみに女の子だからね。シンジ君」
「・・・」
俺に言うことないだろ、綾波もいるんだし。
・・・綾波は俺の反応を窺ってるみたいだ。
「それと、ドイツ語、英語は完璧。日本語も話す分には何の問題もないレベルよ 」
「ミサトさんもドイツにいたから、セカンド・チルドレンの事を知っているのね 」
「ええ。知り合いよ。加持君はミサトの後任だもの」
「そうだったんですか」
「ちなみにミサトも加持君も英語とドイツ語は大丈夫、私は英語だけでドイツ語はだめ 」
「「・・・」」
ミサトさんって本当は実力者なんだ・・・。
「もっと細かいことは本人達に聞いてちょうだい。もうじきここに来るんだから。今日は後片付けして寝ましょう。明日はテストも訓練もなし、明後日は終日テストと訓練、いいわね 」
「「はい」」
・
・
「なあ、シンジ。今日は用事ないんだろ?」
「ああ」
「じゃ、ゲーセン行かないか?まだ行ったことないだろ?」
「ないよ」
「よしっ、決まり」
「おい、トウジも行こうぜ!」
「しゃあないなぁ・・・。付き合うたるわ」
「ねえ。綾波も行かない?」
「何?」
「ケンスケやトウジとゲーセン行くんだ。綾波も一緒に行かないか?」
「ゲーセン?」
こりゃ、知らないんだろうな。
「ゲーム・センターのことだよ。シューティングや格闘やロボット戦闘なんてのもあるんだ 」
「・・・碇君が行くならいいわ」
「碇君が行くなら、か。いいな、シンジは」
「ほんま。羨ましいわい。この色男っ!」
「何言ってんだよ!妹を大事にしろって言ったのはトウジじゃないかっ!」
「ぼやくなって。じゃ、行くぞ!」
あーーあ。なんで俺がぼやかなきゃならないんだよぉ。
・
・
・
「これが・・・ゲーセン?・・・うるさいわ」
「ま、そのうち慣れるって!シンジ、何やる?」
「綾波はどれがやりたい?」
「・・・ロボットのやつ」
「おう、スパロボやね」
「ちょうどいいや。今度の新作は4人対戦モードがあるぜ」
「じゃ、それでいいかな、綾波?」
「うん。それでいい」
・
結果は・・・というと。
「なんだ、みんなぁ。全然なってないじゃないか。俺の楽勝、一人勝ちってやつだな 」
「なんや、戦い方がセコイっちゅうんや。男なら正々堂々と勝負せんかいっ!」
「「・・・」」
俺も綾波もほとんど瞬殺状態でやられた。
「負け犬の遠吠えだね、トウジのは。シンジと綾波は仕方ないさ、初めてなんだから。トウジはこりゃもう才能がないとしか言いようがないよ 」
「べ、別にええやないか。所詮ゲームやでぇ」
「まあね。でも知ってるか?この間襲ってきた怪獣と戦ってたロボットを操縦してたのって俺達位の中学生だって噂だぜ 」
ぎく!
「ほんまかいな、それ」
「だから俺もこうやって来るべき時に備えて腕を磨いてるって訳さ」
「そんなん役に立たんて」
「それこそ役に立つか立たないかなんて、操縦方法がわからないんだから、立つかも知れないじゃないか 」
「・・・もう一回」
「え?何、綾波?」
「もう一回やるの。コツ掴めたから」
「そ、そうなの?」
コツを掴むも何も瞬殺されてたのに・・・そんな暇なかったろ?
「お、おうっしっ!やったろうやんか!シンジもええなっ!」
「うん、いいけど・・・」
「じゃ、決まりだ。第2ラウンドいくぜ」
・
・
・
結果は・・・というと。
「「「・・・?!」」」
「ね。コツ掴んだって言ったでしょ」
言ったでしょ、って・・・普通じゃないよっ!綾波・・・。
「あ、ああ」
「ほんま、信じられへんわ。どないなっとるっちゅんじゃ?・・・ケンスケ・・・大丈夫か?」
「・・・大丈夫だよ、結構ショックだったけど。しかし・・・ここまで違うもんなのか 」
「何が違うんや?」
「一般人と選ばれた人間のだよ」
ぎく・・・。ケンスケ・・・気付いてるのか?それとも・・・知ってるのか?
「何や、選ばれた人間ってのは?」
「シンジと綾波だよ。な、シンジ、綾波。エヴァのパイロットなんだろ、二人ともさ 」
やっぱり・・・。
「「・・・」」
「隠さなきゃいけないのは知ってるさ。俺もはっきりと知っている訳じゃない。ネルフのデータで見た訳じゃないからな 」
「そう」
綾波・・・それじゃあ肯定と一緒だ。
「状況証拠が多いんだよ。綾波は早退や欠席が多かったし、事故のニュースもないのに大怪我してた。シンジはあの怪獣騒ぎの後に転校してきた。シンジと綾波の保護者はネルフのかの有名な赤木リツコ博士。シンジも綾波と一緒に早退した。で、明日は二人とも欠席だろ 」
別に多いって程じゃないし、綾波は実は大怪我じゃなかったと思うけど・・・疑ってたんだろうな。
「よくそれだけで結論付けられるもんだよな」
「いいじゃないか。単なる俺の勝手なやっかみなんだからさ」
やっかみって。
「・・・パイロットなんていいもんじゃないぞ」
「やっぱりそうなのか・・・」
「そうだよ。ケンスケの言う通りだ。ただし言っとくけどこのことを無闇に口外すると命の補償はしないからな 」
ごめんっ!一応これだけは言っとかなきゃいけないんだ。
「そう。わたし達には諜報部の活動を制限することは出来ない。リツコさんにも出来ないの 」
「わかってるよ」
「わしは巻き込まれただけじゃ」
「トウジ、心配すんなよ。明後日学校に行ったら自分でみんなにばれるようにすっからさ。そうすれば守秘義務もへったくれもなくなるさ 」
「え、ええんかいな?そないなことして」
「大丈夫よ。許可はとってあるから」
「悪かった。シンジ、綾波。俺は自分勝手なやつだ」
「気にするなよ、ケンスケ。いいんだ」
「すまなかった」
「ただ、これだけは覚えておいて欲しい。パイロットなんてカッコいいものじゃない 」
「第3ラウンド・・・はしないのね?」
綾波・・・結構シリアスに決めてたのに。
・
・
「今日は午前中にシンクロ・テスト、午後は訓練、ただし生身のね」
「「はい」」
・
・
・
「リツコさん。俺のシンクロ率って、上がるどころか下がってませんか?」
「そうね。最後は例の情動パターン補正装置で何とか誤魔化せたけど」
「俺は何かした方がいいんですか?」
「本当はコアの中のお母さんとシンクロするためにもっと甘えん坊、言い換えれば、依存的になれればいいんだけど、シンジ君自身にとっては良い事じゃないし、だいたい意識的に出来るもんでもないわ 」
「はあ」
「ま、仕方ないわよ。気にしないで。マヤとなんとか考えるから」
「すいません」
「シンジ君が謝る事ないのよ。こっちが一方的に押し付けている事ですもの。逆にこの状態が公になればシンジ君のパイロット解任だって有り得るのよ。シンジ君自身にはその方がいいかも知れないわ 」
「駄目ですっ!」
「!」
「だめですよ、そんなこと!綾波はどうなるんですか。綾波はこれから一人で戦うんですか、あの使徒と?」
「アスカがいるわ」
「でも駄目です。俺が許さないんです。戦闘経験のない俺がこんな事言っても迫力ないですけど・・・俺は綾波を守りたい。今度来る惣流さんも守りたい。自分の守れる人達を守りたい 」
「シンジ君・・・」
「駄目なんですよ。俺は知ってしまった。エヴァの事、ネルフの事、セカンド・インパクトの事、綾波の事、使徒の事。だから駄目なんです。逃げちゃ駄目だ。それでは傷付けるだけだ、自分を、そして、何よりもみんなを・・・」
ちょっと感情的過ぎるな・・・どうしてかな?
「シンジ君・・・強くなったのね。いえ、強いのね」
「いいえ、強くないです・・・臆病なだけかも知れません」
「それを知っていることで既に強いのよ、シンジ君」
「すいません、リツコさん。少し興奮しちゃいましたね、・・・俺らしくもない」
「そんなこと・・・ないのよ」
・
・
・
あーーーあ、情けない。
「もーうちょーーっち、体を鍛えなきゃ駄目ね、シンちゃん。レイの相手にもなりゃしないわよ 」
「はっ・・・はっ・・・いっ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・ぜえ・・・ぜぇ・・・。ん、ゴクゴク・・・」
しんどい・・・。俺って体力ないんだな。綾波や惣流さんやみんなを守るなんて偉そうな事言ったけど、とてもじゃないが有言不実になっちゃうよ。
「まずは基礎体力作り、それと併行して当面は型組手をやりましょ」
「はい」
「テニスでもいいんだけど、テニスは加持の馬鹿の担当になっちゃったから」
「はい」
「・・・しっかし、何であのぶわーーーかっ!がここに来なきゃなんないのよーーっ!腹立つなーーっ!」
「・・・。なんでそんなに加持さんのこと嫌いなんですか?」
「誰も嫌いだなんて言ってないわよ」
「へっ?」
「加持の事を嫌いだなんて言った事は一度もないつもりよ。加持がここに来るのが嫌だって言ってんのよ 」
「それってミサトさんにとっては意味が違うんだよ、って言ってるんですね?」
「そうよ!」
「綾波はどう違うか分かる?」
「ミサトさんは、・・・加持さんは嫌いじゃないけど・・・加持さんがここに来るのは嫌だ、と言っているわ 」
「・・・」
・・・意味分かんないって事なんだろうな・・・とりあえず綾波は無視だな。
・
・
・
「そう…ミサト、そんなこと言ってたの・・・。じゃあ加持君の事、まだ好きなのね 」
「どうしてそうなるんですか?」
「あら、女性が男性を男性として見る時は好きか嫌いかしかないのよ」
「え?」
「好きでも嫌いでもない男は路傍の石と同じよ。シンジ君も覚えておくといいわ 」
「は、い?」
よくわかんないです。
「リツコさん。写真ありますか?」
綾波!びっくりしたっ!いたのかよぉ。
「あるわよ。持って来るからちょっと待っててね」
「すいません」
・
「一枚でいいわね。はい、これ」
あれ?俺に渡すの?
「・・・三人一緒ですね。」
「大学時代のもんよ。どこかにドライブに行った時のね」
「わたしにも見せ。」
「あ、ごめん」
ん・・・って、綾波・・・そんなに顔寄せてくんなよ・・・。
リツコさん、笑ってる・・・仕組んだな!
リツコさんもミサトさんも若いな。
「今と随分雰囲気が違うわ」
綾波・・・頼むからその先は言わないでくれよな。
「7〜8年前の写真だもの、歳は取ったわよ」
あーーあ・・・。
・
・
『ピピピッ!ピピピッ!』
PC端末のメール着信音がする。ケンスケだ。打ち合わせ通りだね。
[[碇。碇があのロボットのパイロットだっていう噂はホントか?・・・YES OR NO]]
来たな。一応シナリオ通りに顔を上げて、ちょっとキョロキョロしてみて、と。
何人か俺の方を興味深そうに見てる。あ、ケンスケが軽く手を振った。よしっ!
YESと打って、Enter、っと・・・。
[[YES]]
『『『『『『『『『『ガタ、ガタッ、ガッ、ガタン!』』』』』』』』』』
「「「「「「「「「「エエーーーーーーッ!!!」」」」」」」」」」
なんなんだ!この反応の良さは・・・。
結局みんな知ってたんじゃあないか。
・・・極秘でも機密事項でもなんでもないよな、これじゃあ。
・
みんなが大挙して押し寄せてきて収拾が付かない。質問攻めだ。
「ねえ、ねえ。どうやって選ばれたの?」とか、
「綾波さんもパイロットなの?」とか、
「あのロボットなんて言うの?」とか、
「操縦席とかどうなってんの?」とか、
「武器は?」とか・・・。
俺はいちいち・・・。
「別に、選ばれたっていう訳じゃ・・・」とか、
「うん、まあ・・・」とか、
「みんなは『エヴァ』って呼んでるみたい」とか、
「そういうこと秘密だから・・・」とか、
「なんとかナイフってのがあって・・・」とか・・・。
もう・・・勘弁してよぅ。
・
堪り兼ねたのかな?洞木さんが立ちあがった。
「みんな!まだ授業中よ!席についてっ!」
「また!そうやって、すぐ仕切るーー」
「いーじゃん、いーじゃん」
「みんな!兄さんを困らせないで」
一瞬でその場がシンと静まり返った。それって・・・過去の綾波の雰囲気がなせる技なんだろう。
でも・・・兄さんって、俺のことだよな・・・初めてじゃぁないか?そう呼ばれたの…なんでかな?
「碇君。少し喋り過ぎだわ。・・・あなた、消されるわよ」
あれ?碇君に戻った・・・。
「あ、ごめん。つい・・・」
「謝ることはないわ。消されるかも知れないのはあなただもの、わたしじゃない 」
「・・・」
さすがに場が白けた。みんな退いて行く。
・・・ごめん、綾波。綾波一人悪者になって・・・俺を庇ってくれたんだね・・・ごめん。
・
・
・
「あの、リツコさん」
「何、シンジ君?」
「クラスメイトにパイロットだってこと、ばれちゃいました」
「ばれちゃいました、ってあなたがばらしたんでしょ」
あ、ばれてた。
「知ってたんですね」
「ネルフを甘く見ないことよ。でも大変だったでしょう?」
「ええ、まあ」
「レイに感謝しなさい。レイを悪役にしたそうじゃない」
「はい。綾波、ほんっとに、ごめん」
頭を下げて謝る。
「いいの。わたしが我慢できなかっただけだもの」
悪かった・・・結局綾波の事もばらしちゃったんだよな。
「・・・ねえ、リツコさん」
「今度は何?」
「使徒ってまた来るんですよね?そのための訓練でしょうから・・・」
「まだまだ来るはずだけど」
「使徒ってなんなんですか?」
「これはまたイキナリ、ね」
「使徒。天使の名を持つ俺達の敵・・・。何故天使の名前で呼ぶんですか?」
「・・・」
「なんで戦うんですか?どうして襲ってくるんですか?」
あ、いっぱい聞き過ぎた・・・かな。
「そういう聞き方をされると答えられるのは、最初の質問だけね。天使の名で呼ぶのは単なるコードネームと思ってもらって構わないの 」
「はあ」
「別に何でも構わないのよ。ただ、最初に南極で見つけたセカンド・インパクトの原因になった巨大人型物体を『アダム』と呼んだことに由来しているの。でもね、シンジ君はどうして使徒が天使の名で呼ばれてるって知ってるのかしらね。私達は教えてないのよ 」
「・・・」
「・・・ま、いいわ。そのうち解かる時が来るわよ、そう遠くなくね。で、その使徒と戦うのは、使徒が『アダム』に接触するとサード・インパクトが起こると考えられているの。使徒が襲ってくるのは、このネルフ本部の地下に『アダム』がいるからよ、使徒を誘き寄せる餌としてね 」
「・・・全ては予定通りということなんですね」
「そうね」
「このことを知っているのは誰ですか?」
「そうね。ネルフでは碇司令と冬月副司令、国際連合最高幹部の数人位なものでしょうね 」
「でも、リツコさんは知ってるじゃないですか」
「そうなの。本当は知ってるはずないのよ。赤木リツコは知る機会がないのよ、この段階では!」
「・・・」
「おかしいでしょ?こんなのって!」
リツコさん・・・珍しいな・・・こんなに興奮するなんて。
「リツコさん・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫。ごめんなさいね。少し感情的になったわ」
「良くはわかりませんが、俺達に出来ることがあれば言ってください。出来る範囲のことはします。な、綾波 」
「うん」
綾波も心配そうにリツコさんの顔を覗き込んでいる。
「…ありがとう、シンジ君、レイ。あなた達は真実を知る権利がある。近いうちに話せると思うからもう少し待ってね 」
「「はい」」
「もうすぐ加持君がここに着任する。そうしたら加持君とミサトを呼んで加持君の歓迎会をしましょう。その時に全てを話すわ。・・・でも、その前に次の使徒が来るの」
「えっ?」
「第四使徒・・・シャムシエルが」
・
・
「綾波っ!綾波っ!綾波っ!綾波っ!」
零号機の機体が使徒の触手に貫かれる。
「どうして動かないんだよっ!動けっ!動けっ!動くんだ、こらっ!」
『マヤっ!パターン補正、最大っ!』
『了解っ!・・・駄目ですっ!初号機、信号拒絶!』
『リツコ!一体どうなってるのっ?』
『・・・シンクロ率0パーセント・・・・・・起動確率ゼロ、です・・・』
『・・・もう駄目なのね・・・』
なんだよ、なんだよ!
綾波を守るって決めたのにっ!
なんで肝心なところで動かないんだよ!
母さん、そこにいるんだろっ!
母さんの娘みたいなもんだろうが…目の前で…いいのかよっ!
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンッンーーーーーー
どうしたんだっ!どうなってるんだっ!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ぶち!
目の前にシャムシエル・・・お前が・・・綾波をっ!
『エヴァ再起動しますっ!』
『そんな馬鹿なっ!』
『シンクロ率・・・えっ?・・・シンクロ・グラフ安定。ハーモニクス全て正常位置…。』
『コダマは零号機、マヤは初号機に専念。モニター切り替えてっ!』
『『了解!』』
・
・・
・・・
・・
・
ここはどこなんだろう?
俺はどうなったんだ?
綾波は?
使徒は?
本部のみんなは?
・
・・
・・・
・・
・
?お前は誰だ?
「僕?僕は君さ。碇シンジだよ。知ってるじゃないか」
碇シンジ?それは俺だ・・・。確かに俺は知っている。だが碇シンジって誰だ。
「何いってるんだよ。君の事じゃないか。いやだなぁ 」
じゃあお前は誰だ。
「僕は君の一部なんだ。でも一部だからって別人という訳じゃない。僕も立派な碇シンジなんだよ。そして君は僕の一部だけど僕の全てでもある 」
何を言ってるか分からない。
「んーー。どう言えばいいのかな・・・」
それよりシャムシエルは?綾波やリツコさん達はどうなった?
「ああ、それは心配ないよ。君が倒しちゃったからね 」
え?
「強かった・・・あまりにも圧倒的な強さにシャムシエルは瞬殺されちゃったよ 」
俺は覚えていないぞ。
「うん。無心だったからね。必死だったってことさ。ゲーセンでだって、これ位必死になれば楽勝なのにね 」
なんでそのことを知ってる?
「まだ判んないのかなぁ・・・。はあ。自分のことながら嫌になるよな 」
・・・エヴァは動かなかった。
「そうだね」
なぜ動かなかったんだ?
「君が、君の心が強かったからだよ。君はエヴァのコアを、母さんを必要としなかったからだよ。だからコアにシンクロ出来なかったのさ」
じゃあどうやってあの使徒を倒したんだ?
「君がエヴァだったのさ。君がエヴァそのものになって奴を倒した 」
俺がエヴァ、だって・・・?
「そうだよ、君はエヴァだ。エヴァである君にはそもそもコアは必要ないんだ 」
でもリツコさんはパターン補正装置を作ってまでシンクロさせようとした 。
「それは欺瞞さ。味方を欺いた。君がチルドレンであると思わせたかったのさ 」
何でも知ってるんだな・・・。
「そうさ、君も気付いているはずだよ 」
何をだ?
「この今の世界の本質を、さ。好い加減に目を覚ましてよ 」
俺がか?
「そうだよ、碇シンジ君」
碇・・・シンジ・・・。そうなのか?
「思い出せよ!」
何を?
「赤い海を・・・。知ってるはずだ」
赤い海・・・?
「・・・」
そうか!あの夢!
「夢じゃないさ。現実だ。逃げただけなんだよ、あの時から 」
逃げた?逃げたのは誰だ?
「誰でもない、自分自身さ」
逃げたのは自分だ。
「辛い記憶から逃げ出そうとした。自分自身を騙してまで 」
そうなのか?
「そうさ、そうして僕に『僕』を押し付けたんだよ。自分はこの居心地のいい世界に逃げ込んだ 」
この世界を信じたら、これからも生きていけるさ。
「自分をだまし続けて?」
みんなそうだよ。誰だってみんなそうやって生きているんだ。
自分はこれでいいんだと思い続けて。でなければ生きていけないよ。
「たとえばアスカとか?」
アスカは僕を拒絶した。
「自己欺瞞だな」
呼び方なんか関係ないさ。
「嫌な事には眼をつぶり、耳をふさいできたんじゃないか 」
『あいつの妹、この前の騒ぎで・・・』
『他人の事なんて関係ないでしょっ 』
『帰れ!』
いやだ、聞きたくない!
「ほら、また逃げてる。楽しい事だけを数珠のように紡いで生きていられるわけがないんだよ。特に僕はね 」
楽しい事見つけたんだ。楽しい事見つけて、そればっかりやってて何が悪いんだよぉ!
『父さん、ぼくはいらない子供なの?』
「自分から逃げ出したくせに」
ここはいやだ、一人はもうイヤだ。
「自分というのは常に二人でできているものさ 」
二人?
「実際に見られる自分とそれを見つめている自分だよ。碇シンジという人物だって何人もいるんだ。君の心の中にいるもう一人の碇シンジ。葛城ミサトの心の中にいる碇シンジ。惣流アスカの中の碇シンジ。綾波レイの中の碇シンジ。碇ゲンドウの中の碇シンジ。みんなそれぞれ違う碇シンジだけど、どれも本物の碇シンジさ 」
「君はその他人の中の碇シンジが、そして、自分自身の中の碇シンジがこわいんだ 」
だから忘れた。
「他人に嫌われるのがこわいんだよ。自分自身に嫌われるのがこわいんだよ。」
だから僕は『僕』のことを忘れた。
「自分が傷つくのがこわいんだよ」
だから僕は『僕』のことを忘れて『俺』に成り済ました。
「やっと気が付いたかい」
そうか!このことだったんだ!
・
・
ああ・・・眼が覚めたんだな・・・。
・・・久しぶりだよな、この天井・・・。
何か遠い夢を見ていたような気分だ。でも・・・現実だ、多分。
「どう、気分は?」
「・・・リツコさん。付いててくれてたんですね。ありがとうございます」
「当然の事よ。いいえ、私は事態を甘く見すぎていたわ。謝らなければならないのは私の方ね。シンジ君、ごめんなさい 」
リツコさん、本当に変わった。
「そんな・・・頭なんか下げないで下さい。・・・綾波は大丈夫ですよね」
「ええ。レイも他のみんなも大丈夫よ。零号機も見た目ほどにはダメージないわ 」
「良かった」
「シンジ君のおかげよ」
「そんなことないですよ、リツコさん。リツコさんのおかげですよ、間違いなく 」
「どうして?」
「リツコさんは、綾波を人間として認め、綾波に人間としての自覚を持たせようとした 」
「・・・」
「僕は長い夢を見ていたんです。そう思っていました。でも夢じゃなかったんですね。夢だと思って自分自身を誤魔化していたんです 」
リツコさん、驚いたような顔をした。
「シンジ君・・・、もしかして・・・思い出したの?」
「ええ、多分、なんですけど。・・・まだ多少混乱してます。リツコさんが前言ってた『俺』と『僕』がグチャグチャっとしてますね。どっちもほんとの自分なのに 」
「・・・今日はゆっくりしてなさい。後片付けはレイがしているから、大丈夫よ」
「はい。・・・で、加持さんは?」
「明日早くに着く予定よ」
「リツコさん。歓迎会、予定通りというか、明日直ぐにやりましょう」
「シンジ君、大丈夫なの?」
「お願いします」
「・・・わかったわ。別に外傷もないし・・・。退院も今日でいいかしら?」
「問題ありません」
「じゃ、夕方頃に迎えに来るわ」
「はい。すいません、リツコさん」
「いいのよ、シンジ君」
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