『俺と僕で何?』
第拾伍話 アスカとミサト( 後編)
「シンジ君は最後の最後で元の世界、つまり、他人の存在を受け入れて、LCLの世界を拒絶したのね。でも、気が付いた時には、シンジ君とアスカしかいない世界だった。で、アスカもLCLの海に還ってしまった 」
「シンジ君、なぜアスカはLCLに還ってしまったんだい?」
「・・・わかりません。」
「最後の一言が、『気持ち悪い』、か・・・どういうつもりだったのかしらね、アスカは?」
「シンジ君は心当たりないの?というよりも何故アスカの首なんか絞めちゃったの?」
「・・・」
「言いたくないの、シンちゃん?」
「正直なところ・・・自分でもうまく説明出来ないんです」
「では、あたしの考えを、いえ、知ってる事を言ってもいいかしら」
「どうぞ、いいですよ。ミサトさん」
「・・・あたしの最後の記憶。シンちゃんをリフトに乗せた後、あたしは倒れて思ったわ。『・・・こんなことならアスカの言う通りカーペットを換えときゃよかった』ってね。この『カーペット』の意味分かるわね?」
「・・・はい 」
「シンジ君。シンジ君も言ったわよね。『アスカに酷いことしたんだ。カヲル君も殺してしまったんだ。』・・・だっかかしら?」
「良く覚えてましたね」
「どういう事、ミサト?」
「シンジ君・・・二度目だったのよ。アスカの首、絞めたの・・・」
「・・・アスカは二度とも抵抗しなかったんです 」
「「「・・・」」」
「すいませんが、ミサトさんと二人っきりで話させてくれませんか?お願いします」
「了解」
「いいわよ、シンジ君。もともとそういう約束だったしね。二人には後であたしから話すから。リツコ、あんたの話したい事も、状況によってはあたしから話すから。いいでしょ、そういう事で 」
「まあ、いいでしょ」
「あんまり脚色するなよ、葛城。じゃ、また後でな」
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「さあ、シンちゃん。二人っきり!になれたけど。何したいのかなあ?」
こんな状況でもそんな事言えるなんて・・・。
「何考えてるんですか?話をするんですよ」
「シンちゃんこそ、何考えてるのかなぁー?なんちゃって。悪い、悪い。マジな話だもんね」
「・・・」
「ごめん・・・自分でも判ってるんだけど・・・この性格直んないみたいなのよね。・・・で、本題に入るけど、結局はアスカの気持ちとシンジ君の気持ちの問題だと思うわ。多分、一度目と二度目では意味が違った、そうなんでしょ?」
「ええ、そうだと思います・・・」
「はっきり、しないわね」
「一度目は発作的なものですね。アスカに拒絶されカッなってやったもの」
「アスカも自己嫌悪に陥っていたわ」
「僕は・・・僕は自分の事を解かってくれる人間が欲しかったんです。アスカの言う通り、それは誰でも良かったのかも知れない。アスカでも綾波でも父さんでも・・・ミサトさんでも、誰でも良かったんですね。自分は他人の事を解かろうともしなかったくせに。アスカは解かってくれていたんだろうと今はそんな気がします。でも僕を拒絶した。アスカのエゴでもあり、優しさでもあったんです・・・だからアスカは抵抗しなかった。そうじゃないかと思ってます 」
「そう、なの・・・あたしもあの頃は余裕、なかった。すまないと思ってるわ・・・」
「そんな事ないですよ。ミサトさんの置かれていた状況を思えば当然です」
「ありがと」
「・・・二度目のは・・・アスカにもう辛い哀しい想いをさせたくなかったからだと思います 」
「どういう事かしら?」
「僕はあの時、最後の決断をしました。でも決断するのが遅かったのかも知れない」
「・・・」
「元の、みんながいる世界を望んだのに…結果はアスカと僕だけが個体とした残ったんです。ほかのみんなはLCLの海から還って来なかった」
「・・・」
「アスカは僕と一緒にいちゃいけない。だからみんなと一緒にしようと思ったんです。でもそれは僕のエゴです。アスカは多分生きたかった。だから僕の頬をそっと撫ぜたんだと思います。その後、僕はどうにも遣る瀬無い気持ちになって泣きました。その時ですよ、アスカが『気持ち悪い』と言ったのは。・・・そしてアスカもLCLの、あの赤い海に同化しました。僕の願いそのままに・・・」
「シンジ君はそれで良かったのかしら?」
「良かったと思いましたよ。これでアスカも幸せ、っと言うか、補完されたんだと」
「それは嘘ね」
「本当ですよ、少なくともその時には・・・心底そう思ってました」
「でもその後は違ったのね」
「ええ。カヲル君の最後の言葉の意味が判ったんですよ。カヲル君はこう言ったんです。 『生と死は等価値なんだ。自らの死、それが唯一、僕の絶対的な自由なんだよ。』 とね。あの時は何を言ってるのか全然分かりませんでした。いえ、分かろうとしていなかった。しかしアスカが消えた後、身を持って識る事になったんです」
「何を知ったのか、どういう事か説明してくれる?」
「ええ。使徒は生命の実を、人間は知恵の実を手に入れました。そして二つの実を両方手に入れる事はなかった」
「・・・」
「でも例外が出来てしまったんです」
「綾波レイと渚カヲル・・・そしてシンジ君、ということか・・・」
「その通りです。ヒトは一人では生きて行けないんですよ。心があるからです」
「レイはその為にアスカをシンジ君と共に残したのかしら?」
「さあ、そうでしょうか?僕はアスカと共にいる事で補完されたかも知れません。でもアスカはどうでしょうか?それじゃあ僕の補完の道具でしかない事になりませんか?」
「・・・そういう事、か。」
「ですから、僕がアスカの首を絞めたのはそういう気持ちだったんでしょう。それが僕の本当の最後の決断だったんですよ」
「問題はアスカの気持ちね。アスカはどう思っていたのか」
「ミサトさん」
「ん、何?」
「今更ですけど・・・その、僕の事を想ってくれて、本当にありがとうございました。そして、それに応えられなかった・・・申し訳ありませんでした 」
「別に謝る事なんてないのよ、お互い様なんだし。それにさ、こうしてまたみんな一緒になれたじゃない」
「そうですね。・・・でも、どうしてなんでしょう?」
「そりゃあ決まってるじゃない。シンジ君が望んだからよ。シンジ君の願いを神様が叶えてくれたのよ」
「僕が望んだんですか・・・やり直す事を」
「うーーーん、色々と都合があったんじゃないの。シンジ君だって細かい設定を指定した訳じゃあないんでしょ?神様だって何の神様かで能力に制限もあるわよ・・・多分 」
ちょっと疲れた。当初の目的は果たせたし、もういいかな。
「皆さん。お待たせして済みませんでした。俺の用は終わりです。もういいですよ、部屋に戻って頂いて」
「気が付いてたの、シンちゃん?」
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「しかしねえ、ミサト、シンジ君の話聞いてるだけで結局肝心な事は何も話してなかったわね」
「仕方ないさ。色々聞けてかえって良かったじゃないか」
「まあ、いいわ。変にミサトの脚色が付いた話を聞くよりは確かにましね」
「あーーによぉ、人のこと馬鹿にしてない?」
「事実よ」
「まあ、まあ、葛城も。餅は餅屋って言うじゃないか、な」
どうしてこの人達は掛け合いみたいな事をしないと先に進まないんだ?
「もうぅっ!」
あっ。ミサトさん、膨れた。
「で、リツコさん。この後どうするんですか?」
「シンジ君はどうしたいのかしら?」
「良くわからないんです。俺は未だに『俺』と『僕』が同じなのか、どこかに境目があるんじゃないか、前の『僕』はどこに行ったのか、とか思う時があるんです。でも、自分の事はいいです。今一番気になっているのは アスカです。一体・・・あの前のアスカはどこに行っちゃったんですか?」
「シンちゃんの疑問はもっともだと思うわ。確かにそうよね。アスカは前のアスカではないし、かと言って、サードインパクト直前のアスカでもない・・・あたし達の知らないアスカだわ 」
「確か加持さんはドイツで今の加持さんになったんですよね」
「ああ、そうだが」
「その時のアスカはどうだったんですか?」
「・・・いいのか、リッちゃん?」
「別にいいでしょ?調べれば解かる事なんだし・・・」
「そうだな。シンジ君。今の俺がこの世界で最初に会ったアスカは前のアスカだった」
「えっ!そうだったんですか!」
「そうだ」
「じゃ、じゃあ、いつ今のアスカになっちゃったんですか?」
「第参使徒が来る一週間前だよ」
「・・・でも、どうして?」
「その時行った弐号機の起動実験の前は前のアスカだったよ。だが、その実験は失敗だったのか、その後で変わったんだよ、アスカは」
「失敗って・・・何が起こったんですか?」
「原因は全く解からなかった。アスカの変化は精神汚染による記憶障害とされたわ」
「大変だったんだぜ、実際。リッちゃんと葛城の事を知ってたからパニックにはならないで済んだけどな」
「そう言えば、三人はお互いが同じ状態だって、前の事を知ってるって、いつわかったんですか?」
「ああ、それはね。私がレイを引き取ったって聞いた加持君が私に電話してきたのよ、もしかしたらって、探りを入れて来たのね」
「ああ、今までのリッちゃんの行動から考えると不自然だったからなあ」
「ミサトの事は直ぐに気が付いたわ」
「何でかはわかった気はしますけど、一応礼儀として聞いておきましょう。どうしてですか?」
「そうよ!どうしてよ?あたしにはわかんないわよっ!」
「そういうところでわかっちゃうのよ。ね、加持君」
「そこで何で俺に振るんだぁ?」
また始まったよ。
「で、当面の方針とか決めてあるんですよね」
決めてねぇって言ったら俺は怒るからな。
「そうねぇ。やはりシンジ君の希望を優先するしかないわ」
「へ?・・・俺の希望、ですか?」
俺の希望、いや、『僕』の希望、か。
「でも・・・『僕』の希望って何だったんでしょうね?」
「「「・・・」」」
「そ、それはシンジ君しか知らないことだろうが。俺達にはわからないさ。特に俺達三人はサード・インパクトすら経験してないみたいだからな」
「シンジ君。サード・インパクト経験者でその時の記憶を無意識にでも持っているのは、あなたとアスカ、そして・・・レイ、この三人。そしておそらくはこの三人だけじゃないかしら 」
「リツコ。で、具体的にはどうするのよ、これから?」
「まあ、さしあたっては・・・アスカとレイの記憶を戻す努力をしましょう」
「その方法は?」
「とりあえずシンジ君のケースを参考に考えてみるわ」
「俺のケースって、何かわかったんですか?」
「まだ・・・想像の域を出ないから言えないけど。ここはミサトの協力が必要ね」
「どうして葛城なんだ?」
「アスカの今の心理状態や性格は、ミサトの少女時代に近い。もちろん今のミサトは違うわよ。でも、その心理状態や性格を知っている事は非常に有利だと思われる。彼女の心の一部を補完出来るかもしれない 」
「それが記憶回復のキーワード・・・キーアクション、ですか?」
「リツコがそう言うからあたしがアスカを引き取ったのよ。そしてレイはシンジ君にお願いするわ」
「俺がですか?」
「そうだよ。シンジ君がレイちゃんの心に一番近いからね」
「俺が一番って、どうして分かるんですか?」
「だってね、シンジ君。あなたが補完計画の拠り代になったのなら、あなたは『神』に一番近い存在なった事になるわ、少なくとも事の間はね。『神様』ってレイの事よ」
「良くわかんないけど・・・もういいですよ。レイは俺の妹だし。それよりミサトさん、アスカの事よろしくお願いします」
「もっちのろんのろんよ!まっかせなさいって!」
「大丈夫かよ、葛城」
「何かね、前の時と違って妹みたいな感じがするの」
「それってアスカが変わったからですか?」
「違うわよ。あ・た・し・が、変わったのよ。シンジ君のお蔭だけどね」
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