『俺と僕で何?』


第拾七話 探り合い


「じゃあ、行って来ます」

「シンジ君、無理はしないでね」

「はい、わかってます」

「シンちゃん、なんかヤバそうになったら助けに行くからね」

「大丈夫ですよ。無理はしませんから」

・・・だいたい連絡しようがないですよ。

「碇君」

綾波まで・・・

「俺はただ父さんに会うだけだよ。何も喧嘩しに行く訳じゃない。心配ないって」

「ねえ、シンジぃ」

おわ!アスカもいたのか。

「な、なんだよ、惣流?」

「アスカでいいって言ってるのに」

聞こえるように独り言、言わないでくれないかな・・・とりあえずは無視、っと。

・・・

「なんでシンジが父親に会いに行くのにみんながそんなに心配しなくちゃいけない訳?」

ギクッ!そうだよな・・・アスカは事情を知らないんだから・・・

「それは俺に聞かないで、心配してる当人達に聞いてくれないかな?」

「あっ!それもそうだわ」

ごめん・・・みんな。

「じゃ、俺、行って来ます」

『シュウゥッ・・・

「ねえ、ねえ、なんでシン・・・

『バシュッ!』

本当にみんなゴメン!

「碇シンジです。総司令に面会に来ました!」

「許可を確認している。入りたまえ」

「はい」

『シュウゥッ・・・バシュッ!』

『カッ・・・カッ・・・カッ・・・カッ・・・カッ・・・

なんでここはこんなに無駄に広いんだろう?

「やっと来たかね」

「冬月副司令!」

「ほう・・・私を知っているのかね?碇シンジ特務二尉・・・初対面だと思ったがね 」

ヤバ!まずったか?

「いえ、お写真でお顔は存じておりました」

「そうかね?…まあいい。堅苦しいのは好かんのでな、シンジ君と呼ばせてもらうよ。構わんね?」

「ええ、けっこうです、副司令」

「父親に面会と言う事だが、今日は会えないと言っておる」

「どうしてですか?」

「碇は総司令だからな、色々と予定が立て込んでおる。むしろ、当日面会したいと言われて予定が空いている方がおかしいのだよ。だが、折角の機会なので、今日は私が代役で面会を受ける。何か伝えておく事があれば必ず伝えるし、何か質問があるのなら私で答えられる限り答えよう 」

「そう・・・ですか 」

「その代り、と言っては何だが、私も幾つか質問させてもらう。それに答える答えないは君の自由だし、その結果何か処罰するといった事もない。また、このまま何もせずに帰っても構わない。どうかね?」

・・・一種の取引・・・か。

・・・わかりました。まず副司令のご質問からどうぞ。俺は別に質問しに来た訳じゃありませんので 」

「そうか。ではそうさせてもらうよ」

ちょっと緊張するな。

・・・

「まず、君は本当に碇ゲンドウと碇ユイの息子の碇シンジ君かね?」

いきなり核心から来たか。

「何をいきなりおっしゃるんですか?ここに僕を呼んだのは父ですよ」

「報告書にあるシンジ君の人物像とここにいる君とは予想外の乖離がある、という事なのだよ」

「そう言われても報告書を書いたのは僕じゃありません」

「なるほど。・・・報告書によれば、『性格は内向的、交友関係はほとんど無し、学業は上の中』とある。しかし実際の君は、自分の意見を言う事が出来、新しい学校での友人も直ぐに出来た。そして、物の考え方や言い様は極めて論理的で理解力と判断力は相当のレベルと言っていい。もちろん、シンジ君が二重人格であるという事でもない。これは何を意味するのかね?」

「そういう事は赤木博士の領分じゃないんですか?僕の遺伝子なんかも調べたんでしょう?」

「もちろんだ。その点では君は正真正銘の碇シンジである事は証明されている」

・・・どうする・・・このまま議論を続けるのか・・・

正直言って、前の世界でも副司令の印象はあまり強くない。イスラフェルとの初戦で怒られた時くらいかな?

「僕にはこれ以上お答えできる事はないと思いますが」

「確かにそうかも知れないな。しかし・・・一つ言っておこう。君はここで傲慢になる必要はないし、かと言って、卑屈になる必要もない。今はまだ分からんかも知れんが、心に留め置いてくれると嬉しいよ 」

なんか分かんないけど・・・

・・・わかりました。ところで、副司令 」

「何かね?」

「父はこのネルフで何をしようとしているんですか?」

「ほう。今度はシンジ君の質問の番かね?」

「ええ。それと僕の役割も聞いておきたいですね」

「いいだろう。このネルフには幾つかの目的がある。まず第一の目的は使徒の殲滅。第二は使徒に便乗したある組織の計画の発動を阻止する事。最後の目的は今は話せんな」

「使徒。使徒って何なんですか?」

「使徒とは2000年に南極で発見されたアダムと呼ばれる生命体からイレギュラーな事態によって派生したものだよ。それらはアダムに回帰しようとする。しかし使徒とアダムの接触は先のセカンド インパクトをはるかに超える莫大なエネルギーの放出を伴い、地球上の全生命を絶滅させると考えられている」

「だから接触する前に殲滅する訳ですね」

「そうだ」

「セカンドインパクトの原因は?」

「南極で発見したアダムの調査中に発生したイレギュラーな事故だ」

「そのアダムとはなんなんですか?」

「アダムはこの地球に存在した最初の生命体だと考えられている。だが、どうやって誕生したかについては不明だ」

「そのアダムはどこにあるんですか?」

「このネルフ本部にある。ついこのあいだ加持君がドイツから持ち込んだのだ」

加持さんが?でも・・・

「でも・・・それって・・・俺がここに来た日、最初の使徒が来た日にはアダムはドイツにあったってことじゃないですか?それに次の使徒の時だって・・・何故使徒はここに現れるんですか?アダムがなくともここに来るんだったら何も危険を冒してアダムをここに持ち込む必要はないんじゃないですか?」

・・・

「いや。むしろアダムを消滅させてしまえばいい。何故そうしないんですか?」

「アダムがここに来る前に使徒がここに来たのはアダムに似たものがここにあったからだし、今のアダムは封印されているため使徒はアダムを感知する事が出来ない。むしろアダムに似たものを目指すよりほかはない状況にあるのだ。アダムを消滅させないのは消滅する事が不可能だからだ 」

「欺瞞ですね、副司令。いつかはお話頂けるんでしょうか?」

「話せる環境が整えば、としか今は言えん」

「では、俺のここでの役割は何ですか?」

「エヴァ初号機の操縦者として使徒を殲滅することだよ」

「どうして俺なんですか?」

「君が適格者だからだ。この世界でエヴァ初号機を操縦出来るのは君とレイしか存在しないのだよ」

「母さんですか?」

「赤木君から聞いたのかね?」

「いいえ。先ほど副司令は初対面と言いましたが、初対面ではありません」

「ほう」

「母さんの実験の時、俺はここにいました。父さんも副司令もいました。そして実験は失敗し母さんはエヴァになった」

「覚えていたのか・・・いや、思い出したのか?」

「実験が失敗した事やその事で父さんが裁判にかけられた事は覚えていました。でも、エヴァに母さんを感じたのは第四使徒戦の時です」

・・・そうか・・・そういう事だったのか 」

・・・

「うーーん・・・シンジ君にとって・・・ユイ君や碇の事はトラウマでも何でもなかったという事か・・・

「トラウマ、ですか?俺の?」

「そうだよ、シンジ君」

「考えた事もなかったな」

「普通は意識しないものだ。しかし、理性で乗り越えたつもりでいても、また、全く忘れていたとしても消し去る事は出来ない。必ず心のどこかに残っている心的外傷なのだよ」

「はあ・・・

「君の場合は、そもそもが心的外傷にすらなっていなかった、という事なのか・・・報告書の内省的というのはトラウマとは別のもの・・・

「副司令」

「ああ、すまん。独り言になってしまったな」

「はあ」

「実はな・・・碇の奴は、君はシンジ君ではない、と言い張っておってな 」

「なんで父さんがそんな事を・・・

「奴はシンジ君が・・・内向的で人の顔色を伺い他人の言うままに流される、そんな少年に育っている筈だ、と思い込んでいるのだよ 」

「なんでそんな思い込みを・・・父さんと最後に会ったのは三年も前なのに 」

「人間は他人を評価する際に無意識に自分の尺度を使ってしまう。その相手が自分の息子なら尚更だ」

「それは父さんがそうだからという事ですか?」

「そうかも知れんな」

「もういいでしょうか?そろそろ戻らないとミサトさんやリツコさんに怒られそうですから」

「なるほど、彼女達が心配する、か。色々と根掘り葉掘り聞かれているんじゃないかとね」

「まさか?俺にそんな情報価値があるとも思えません」

「そうかね?シンジ君、君は・・・まあいい。今日はこの位にしておこう 」

えー、言いかけて止めるのって・・・気になるぅ。

あっ!そうだ。

「最後にもう一つだけいいですか?」

「何だね?」

「副司令と父さんってどういう関係なんですか?」

・・・初対面から話すと相当長い話になるぞ 」

「いえ、そんなんじゃなくて・・・言い方が悪かったですね。その、ネルフでの司令としての父さんとの関係です」

「それは階級通りの関係だ。私は通常は司令の補佐、助言役だ。従って実権はない。司令不在の時には代行や代理をするが、それとても越権行為をするものではない。そういう関係だよ。・・・こんなのでよいかね?」

「はい。ありがとうございました、副司令」

「では、下がりたまえ。碇シンジ君」

「はい。失礼します」

『カッ・・・カッ・・・カッ・・・カッ・・・カッ・・・

『シュウゥッ・・・バシュッ!』

・・・はぁー・・・疲れたよぉーーー。もう金輪際いいよぉ、俺は・・・

『シュウゥッ・・・バシュッ!』

「ただいまー」

・・・碇君の意地悪」

「え、何、綾波?」

「ほんっと!苦労したわよ、アスカを誤魔化すの!」

「そ、それは・・・みんながアスカの前で不用意な発言をするからいけないんじゃないですか。俺のせいじゃありません 」

「ま、まあそれはそうなんだけど・・・

「じゃ、この件はお終いです」

「「・・・」」

「で、どうだったの、シンジ君?」

「結局、父さんには会えませんでした。けど、副司令が面会してくれまして、色々と話をしましたよ」

「副司令かぁー。あたし・・・あの人苦手なのよねぇ」

ミサトさんが少し考え込んでいる。

あれ?肝心のアスカは?

「アスカはどうしたんですか?」

「ああ、アスカはね、私達がさっきの事を適当に誤魔化してるって文句言って、加持君に聞くって出てったわ」

加持さん、か・・・前回は結局アスカの事ほったらかしだったんだよな、あの人。

ま、今回は大丈夫だと思うし、そもそもアスカは前のアスカじゃないんだしな・・・

でもアスカや綾波ってどうなってるんだろう?俺とはパターンが違うのか・・・

それにアスカが変わったっていうのは、最初会った時の言葉遣いや物腰じゃないんだよな、あれは加持さんの悪戯だったんだし。

・・・もしかすると・・・アスカにもトラウマがなくなったんじゃないのか?

エヴァの適格性とトラウマって関係があるのかな?

うーーーーん。

「なーにぃー?シンちゃん、そんなに深刻な顔しちゃってぇ」

あ、ミサトさん?

「そうね。何考え込んでいるの、碇君?」

あ、綾波ぃ・・・

「アスカが加持君と一緒で不安なのかしら?」

リツコさんまで・・・

「ち、違いますよっ!」

「あーら、ムキになっちゃって。ますます怪しいわよーん」

はあぁ・・・どうしてこの人達は、いつもこうなるんだ?

「違いますって!ただ・・・加持さん、前回のアスカの最後直接は知らないんだよな、って思って 」

「「「・・・」」」

「あ、もちろん。大丈夫だと思ってますよ。前回は俺も随分と勇気付けられたし」

「そうよ、シンちゃん。加持の奴をもう少し信用してやって。あいつはあいつなりにケジメを付けようとしているわ。それに・・・今回はあたしもちゃーんと見張ってるからね。大丈夫よ・・・

・・・ミサトさん・・・

「はい。ごめんなさい、ミサトさん」

「いいのよん」

「碇君、今日は疲れたでしょ。先にお風呂入って」

「あ、うん。ありがとう、綾波。じゃ、先入るよ」

「ええ。私は食事の用意してるわ」

「うん」

『ジャッバーーン・・・・・・

「ふぅうっ!」

ほんっとうにっ!気持ち、いいやぁ。

・・・

・・・

でも、そろそろ次の使徒、えっと・・・あのサイコロみたいな、何つったっけ?

・・・・・・・・・。思い出せそうで思い出せない、・・・気持ち悪いよな、こういうのって。

とにかく、 あれを倒さないといけないんだけど、ミサトさん何か考えてるのかな?

あん時だよな、綾波が笑ってくれたのは。

だけど今回は何としても安全にいきたい。

リツコさんに聞いてみよう。

『ザバーッ!』

「綾波っ!風呂、出たよっ!」

『はーーいっ!』

「綾波も先に入るといいよ」

「レイ。たまには一緒に入りましょうか?」

「リツコさん。帰ってたんですか?」

「ええ。食事の用意は済んでいるから、お風呂上がるまでゆっくりしててちょうだい」

「じゃあ、お言葉に甘えて。お風呂もゆっくり入ってくださいね」

「「「ごちそうさま」」」

「今日はわたしが洗うから」

「あ、うん。悪いね」

「いいの。碇君、リツコさんと話、あるんでしょ?」

「良く分かるね?」

「碇君の事見てれば分かるもの」

「そうなんだ」

「じゃ」

そう言えば…綾波って前から鋭いところがあったよね。

「リツコさん」

「何、シンジ君?」

「昨日の話の続きなんですけど、いいですか?」

「もちろん」

「リツコさんはこの世界がサード・インパクト後の世界で過去の情報に基づいて再構成された可能性が高いって言ってましたよね」

「ええ、確かにそう言ったわ。それが?」

「俺も気になっていた事があるんです」

「気になっていた事?」

「ええ、父さんに呼ばれた日、モノレールが止まって駅で足止め食ったんです」

「そうだったわね。それでミサトはシンジ君と落ち合うのに苦労したんだわね」

「そうです。で、その駅を出て電話を架け終わった時に・・・アスファルト道路に立っている綾波を見ました。制服姿でした。

「それはおかしいわね。レイは入院中だったのよ?」

「そうです。おかしいんです。俺はその時、その少女が綾波だって事を識っていたような気がします。でも・・・その後あまりに色んな事があって忘れていました 」

「それで?」

「思い出してみて思ったんです。あの綾波はサード・インパクトの後、アスカの首を絞める直前にあの赤い海の上に立っていた綾波と同じ綾波だったんじゃなかったかって・・・

・・・

「そうだとすればリツコさんが考えていた通りなのかも知れない。ただ・・・

「ただ?」

「駅で綾波を見たのは今回だけじゃないんですよ」


第拾六話 へ  第拾八話 へ

目 次 へ  「創作小説」へ戻る  トップページへ戻る


* 感想をお願いします。