『俺と僕で何?』


第拾八話 備えあれば(前編)


「今日のテストは終了です。三人ともお疲れ様。着替えが終ったら解散、各自自由、帰宅しても構わないわ。」

「「「分かりました」」」

「じゃあ、わたしはアスカにヒカリとのショッピング、一緒にどうかって誘われたの。これから行ってくるわ」

「わかった。折角だからゆっくり楽しむといいよ 」

「うん、そうする。・・・でも、なんだか、アスカに悪いわ。騙してるみたい・・・

「仕方ないよ、綾波。アスカにはまだ事情を話せないんだから 」

「でも・・・嘘は良くないわ。心が痛いもの 」

「そ、そうだね。時期を見て話さなくちゃいけないよね 」

その事も確認しておかないとな 。

「いつもいつも寄り道させて悪いわね 」

「仕方ないですよ。他の場所じゃMAGIの監視下だし、自宅でやるにも全員が早退って訳にもいきませんしね 」

「まあ・・・シンちゃんの言うことは尤もなんだけど 」

「私達の動きを見ていれば疑わない方がむしろ不思議、という事ね」

「ま、いいじゃないか。シンジ君と副司令の面会も大した問題も無く終わったんだろ?」

「加持さんがどの程度を問題って言うのか知りませんけど、当事者としてはかなり緊張したんですよ」

「悪かった。そういう意味じゃないんだけどな 」

「正に、腹の探り合い、って感じね 」

「で、リツコ、今日は何するの?」

「第一には、シンジ君が昨夜私に話してくれた事とその続きをみんなに聞いてもらう事。第二に、これからの使徒に対する対応策を検討する事。今日はこんなものかしらね。時間に余裕があれば司令や副司令に対する対応も考えておかないとそろそろいけないわね 」

「わかったわ 」

「いいだろう 」

「じゃ、シンジ君。悪いけどもう一度話してくれる?」

「わかりました 」

どこから話そうか・・・

「「「・・・」」」

「ここに最初に呼ばれた日、使徒が来て駅で足止め食った時・・・道路に立っている制服姿の綾波を見ました。今になって思えば、その少女が綾波だって事を判っていたような気もするんですが・・・俺が気になったのは、その綾波が・・・その・・・サード・インパクトの後、俺がアスカの首を絞める直前に赤い海で見た綾波のその後の姿だったんじゃなかったかって・・・

「「「・・・」」」

「もしそうだとすれば、リツコさんが考えていた通り、この世界はサード・インパクト後の世界で過去の情報に基づいて再構成された可能性が高いって事なのかも知れない。ただ・・・

「ただ?」

「実は・・・駅で綾波を見たのは今回だけじゃないんですよ 」

「どう言う事だい、シンジ君 」

「前回も入院していた筈の綾波をその駅で見ているんです。この『僕』の記憶に間違いがなければ、ですけど」

「どう言う事なの、リツコ 」

・・・

「つまり、だ。前の世界もこの世界みたいにさらに前の世界の繰返しだったかも知れない・・・という事さ。な、シンジ君」

・・・

・・・さらっと言ってくれるわね、加持 」

「えっ、そうだろ、シンジ君?」

「それはそうなんですけど・・・あまり驚かないんですね、加持さんは 」

「ま、こんな商売やってるとね、大抵の事じゃ驚かなくなるもんさ 」

「あ、あんたねぇー 」

「ハア。なんだか気が抜けちゃったわ 」

「リツコさんなんか、昨日俺が話した時にはしばらく放心状態でしたよ 」

「シ、シンジ君!なにも・・・

「いいじゃない、リツコ。それが普通の反応なのよ。ま、加持のお蔭で冷静になれたわよ」

・・・そうね。私もこの件に関しては前の前の事は考えない事にしたの。この世界の成り立ちを考える上ではヒントになるかも知れないけど、今現にこの世界に存在している私達にはあまり関係のない事だものね。だって前回は今回みたいに前の記憶なんて無かったんだし 」

「賛成だよ、リッちゃん 」

「あたしもよ。リツコの言った通り、あたし達はこの世界で死ぬまで生きなきゃいけないんだものね。過去をほじくり返してもしょうがないわ。前に進む為に過去を参考にする事はあってもね 」

「後悔だけしても意味はないって事ですね、ミサトさん 」

「そっゆう事。解ってきたじゃない、シンちゃんも 」

「さすがに・・・二度目ですから・・・

ミサトさんの最後の言葉、覚えてますよ。今度こそ・・・

「俺も同じ気持ちだ、シンジ君。たとえこの世界がヴァーチャルだろうと、この記憶が偽物だろうと、も、葛城、君達と共に歩むよ」

「「「・・・」」」

・・・加持さん・・・一言余計ですよ。

「そ、それじゃ、第一点は一応みんなも覚えておく事にとどめておきましょう。何かの時の参考になるかも知れないし。まさか前の前の記憶が・・・ま、止めときましょう 」

ほら・・・リツコさん、動揺を隠し切れない・・・

「そ、堂々巡りよ、それじゃあ。で、次は第二点の今後の使徒に対する対応策の検討よね。あたしの出番だわ」

「大丈夫なのか、葛城ぃ?」

「まっかせなさい!これでも色々考えてんだから。無駄に二度目はやってないわ!」

「はいはい、頼もしい事で・・・

「バカは無視してっと。今度の使徒は例の六角形の奴よっ!」

・・・ラミエル、よ。 しかも六角形じゃなくて正八面体よ」

ミサトさんも忘れてたんだ、使徒の名前。

リツコさんはさすがだな。

「よく覚えてるわね、リツコ 」

「あら、忘れる方がどうかしてるわよ 」

・・・

相変わらず辛口だな。

「で、次回の戦法はだいたい決まってるの。リツコと作戦練ってたのよ、そのラミエルの後とかもね」

「前回とは違うんですか?」

「似てるけど、ちょーーっちアレンジしたの 」

「じゃあ、またポジトロン・ライフル使うんですね 」

「そうよ」

「盾もですか?」

「一応の用意はするわ 」

「戦法は?」

「じゃ、説明するわね 」

「はい」

・・・あれ?・・・そっか、加持さんはもう聞いてるんだ。

「前はシンジ君が過粒子砲にやられた後にやったんだけど、今回は最初から敵の攻撃範囲を調査、分析するわ」

「どういう事ですか?」

「前回も威嚇攻撃で調べたんだけど、水平方向の攻撃能力しか考えてなかったのよ。今考えるとあの構造から見て上下への攻撃能力はほとんど無いんじゃないかしら。ですから、まずその点を確認します。こちらの見込み通りの状況だったら即時攻撃開始。で、お終い、という訳 」

「そんなに簡単にいきますか?」

「具体的には、あらかじめ地下にエヴァ3機を配備。使徒のボウリングが始まったら威嚇攻撃による調査と分析。見込み通りだったら2機がATフィールドの中和といざという時の盾による防御。残りの1機がポジトロン・ライフルの打ち上げ射撃で使徒殲滅。これでいいでしょ?」

「なる程。うまくいきそうな感じですね。リツコさんや加持さんも一緒に検討したんですね?」

「ああ」

「全く前回何故思い付かなかったのか、と思うくらいね 」

それはそうだ・・・でもなぁ・・・

・・・

「どうしたんだ、シンジ君。何か不安な要素でもあるかい?」

やっぱ言っといた方がいいよな・・・

「あの、今回は随分と前回とは違う事しちゃってますよね、俺達 」

「そりゃそうよ。前回の教訓があるから、同じ轍は踏みたくないもの 」

「そういや俺も結構気ままにやったな・・・

「私も、ね」

・・・

「ね、不安要素あるでしょ?」

「あーにが不安要素なのよ?」

・・・わかんないのか、葛城?」

「わっかんないから、聞いてんでしょうがっ!」

「ミサトは競馬馬みたいなものね 」

「?」

「目標が決まると脇目も振らずに一直線、って事よ 」

「ひっ、人の事、バカにしてんの?」

「違うわよ、誉めてるんじゃないの 」

「う・・・ま、まあ、いいわ。で、何が大丈夫なのよ?」

はぁ・・・ミサトさんだけは気が付かないのか・・・

「過去に逆行した訳じゃないからどうなるか分かりませんが、SF小説なんかであるじゃないですか、過去を変えると未来に影響が出るって」

「あっ!」

「そうです。俺達が勝手気ままにやったせいで、もしかしたら全然違う形態の使徒が出て来るかも知れない。でも、おんなじ奴が出てくるかも知れない」

「そりゃ困ったな。」

「リツコ、あんたどう思う?」

「そうね・・・前回の一連の使徒達は一見無関係のようにだけど、完全に無関係でもないようにも思えるし 」

「あーもうっ!はっきりしないわねっ!」

「仕方ないわよ、私が使徒を創った訳じゃないもの 」

「まあ、今回は大丈夫なんじゃないか?」

「一応前回よりは色んな武器や防具、開発してるわよ。どうせ出来る事しか出来ないのよ」

「そうですよね・・・すいません。余計な事言っちゃったみたいですね 」

「いいのよ、シンジ君。色々な可能性を検討する、そのためにみんなが集まっているのよ」

「はい」

「で、どんな物を作ったか、聞きたい?」

「あ、今はいいです。それより父さんたちの事話しません?」

リツコさん、ごめんなさい。怒ったかな?でも、いずれは聞かされるよな。

「ふん」

あ、やっぱり。リツコさんでも子供っぽいところ、あるんだなぁ 。

「シンジ君。今日はもうこんな時間だ。残念だけど明日にしないかい?」

「そうですね 」

「明日はシンちゃん達の訓練はお休みな の・・・だから明後日ね」

「はい。わかりました 」

「ところでミサト。あなたまだ仕事残ってるんじゃない?」

「げっ!忘れてたわ。でも多分日向君が片付けてくれてるんじゃないかと・・・

「あなたは暢気でいいわね。日向君は報われないのに・・・ま、前回みたいにはいかないなんて知らないものね 」

「こらっ!リツコっ 」

あーあ・・・加持さんのいるとこで言わなくても・・・絶対にわざとだよなぁ・・・、リツコさん。

『ガチャッ・・・

あれ・・・靴が多いぞ。誰か来てるのかな?・・・綾波の友達?

『きゃー、可愛いっ!』

『ねぇ、こっちも見て、見て!』

あ、あの声はっ!アスカと洞木さん・・・

ここで立ち止まっててもしょうがないよな。

「ただいまーっ!」

『『『おっかえりなさーーーいっ!』』』

「ただいま。みんな来てたんだ 」

「ええ、わたし達も今帰ったとこ。うちの猫の話したら見に来たいって 」

「そうだったんだ 」

「でもほんとに可愛いわねぇ。レイとシンジが羨ましいわ 」

「しかも三匹もよ。みんな種類が違うし、性格だって違うもの。飽きないわよ 」

「洞木さんとこは何か飼ってないの?」

「うちは何にも。父が嫌いなの 」

「ふーん。そうなんだ 」

「あたしには聞かないの?」

「えっ?だって・・・惣流んとこはペンペンがいるだけだろ?」

「知ってても一応は聞くの。それがレディに対する礼儀なの。ね、アスカ 」

綾波・・・なに訳の わからない事言ってんだよ・・・

アスカが腕組んでうんうんと頷いている・・・絶対にアスカの悪影響だな。

「ねえねえ、何、ペンペンって?」

「ああ。ヒカリは知らなかったわね。ミサトが飼ってる温泉ペンギンの名前よ 」

「温泉ペンギン? 」

「ミサトが勤めてたどっかの研究所が実験で開発した新種のペンギンなんだって。用済みで処分されるところを頼み込んで引き取ったらしいわ」

「外見はイワトビペンギンみたいだよね 」

「名前にたがわずお風呂が好きなのはまあいいのよ、温泉ペンギンなんだか ら」

それだけでも充分異常だと思うんだけど 。

「まだなんかあるの?」

「なんと!ペンペンはね、人語を解するのっ!」

「ええーーっ!うっそーーっ?」

まあこれが普通の反応だよね。

「アスカの言ってる事は本当よ。聞いただけじゃ信じらんないと思う。でも実物を見たら納得するわ」

うん。そうとしか言いようがないもんな。

「あーああ。トトにチャチャにミミかぁ。いいなあぁ 」

「ペンペンだって可愛いじゃないか 」

「それはそうなんだけどねぇ」

「じゃ、いいじゃないか 」

「あたしもリツコんとこに居候しようかしら?」

なっ!

「だ、だめにきまってるだろっ!」

「なんで?」

「もう余ってる部屋なんてないよ 」

「早速ミサトに聞いてみよ!」

「聞くのはミサトさんじゃなくて、俺達にだろう?」

「うだうだ言わないっ!備えあれば、覆水盆に返る、って言うじゃないの!」

・・・

間違ってるよ、それって、備えあっても憂いは絶えず・・・、だったっけ?

なんだか・・・この頃のアスカって前とあんまり変わらないんじゃないのか?

加持さん、どうなんてるんですか?


「おはよう、ケンスケ、トウジ 」

「おう、シンジ。おはようさん 」

「おはよう、碇 」

「ア、・・・惣流は?」

「ああ、惣流やったらいいんちょと職員室行ったでぇ。なんでも資料取りに行かなあかん言うてたで」

まさか、抜き打ちじゃないだろうな・・・ここんとこ勉強どころじゃなかったからな 。

「碇。テストじゃないから心配しなくていいぜ 」

・・・

ケンスケってなんでこう鋭いんだ?

「惣流の事が気になるのか?」

「別にそんなんじゃないけど」

「ほんと羨ましいよ 」

「何が?」

「何がって・・・エヴァンゲリオンに乗れて、綾波みたいな可愛い妹がいて、おまけに惣流が同僚かぁ」

「ケンスケ・・・おまえ、そんな事が羨ましいのか?」

「そりゃ、スーパーロボットと美少女、ヒーローの条件じゃないか 」

・・・はぁ。

「あら。グーテンモルゲン!シンジ!」

「ああ、おはよう、惣流 」

「愛想ないわね。せっかくドイツ語を披露してるのにぃ 」

「仕方ないだろ、俺は日本人なんだから。咄嗟にドイツ語なんて出てこないさ 」

「ふん」

あ、行っちゃったよ。

「なあ、シンジ。惣流の奴、随分とくだけてきたんとちゃうかぁ?」

「シンジ。お前、あいつと何かあったのか?」

「別に何もないよ。あれが地みたいだもの。初日は猫被ってただけだろ 」

『聞こえてるわよーっ!』

・・・地獄耳。

『キーーン、コーーン、カーーン、コーーン・・・

「今日はどうしようかな 」

「今日は!これからみんなであたしんちに来るのよ 」

ええっ!いきなり、かよ・・・

「な、なんでそうなるんだよ!」

「みんなって誰の事や?」

「みんなって言ったらみんなでしょうが!」

「だから、それじゃ わからへんつうとるんじゃい!」

「わ、悪かったわよっ。ヒカリ、レイ、シンジ、鈴原、相田、とあたし、これがみんなよっ!」

こういうアスカって前のアスカそのまんまじゃないのか?

加持さんはアスカのどこをどう指して前と違うって言ってるのかな?

あの発言のあった時の状況はジョークを言える雰囲気じゃなかったし 。

「もしかすると、アスカ、みんなにペンペンを見てもらいたいの?」

なーるほど。綾波、鋭いぞ。

「さっすが、レイ。そう言う事よ」

俺は鈍かったかも知れないけど、レイとヒカリは分かったかも知れないけど、ケンスケとトウジには絶対に分からないと思うよ、と心の中で言うしかない俺、って小心者か?

「それは分かるって思う方に問題があるよ。でも・・・

偉い!って言うか、まだ知らないんだなケンスケは・・・

・・・俺は全然問題ないよ。惣流の家に行けるんだったら理由なんて何でもいいさ 」

ケンスケ・・・

「やっぱ相田は来なくていいわ。」

ほら…言わないでもいい事を言うから。

「さ、上がって。・・・。って、なんで相田もいるのよ?」

知ってるくせに、言うんだからな・・・

「そんな事言わないでくれよ。反省してるからさ 」

「まあ、いいじゃないの。折角ここまで来たんだから。ね、アスカ」

「はいはい。ヒカリに免じて許可しましょう。相田、ヒカリに感謝しなさい 」

「わかりましたっ!この相田っ、この御恩、一生涯忘れませんっ!」

「相田君。いいのよ、今感謝してくれれば。別に一生覚えてなくても 」

ケンスケも本気で言ってないって。洞木さん、真面目だよな。

「とにかくここにみんな立っていても仕方がないわ。入りましょう、碇君 」

「そうだね。みんなお邪魔しよう 」

「「「はーーい」」」

「ペンペーン?」

「「「「「・・・」」」」」

「ペンペーーン!」

「寝てるんじゃないの?」

「一体どこで寝とるんや?」

「あ、台所の冷蔵庫の中だよ 」

「なるほど、ペンギンなんだから当たり前と言えば当たり前か 」

「相田、何勝手に納得してんのよ!」

「そうよ。ペンペンは温泉ペンギンなの 」

「え?綾波、なんだよその温泉ペンギンって 」

「ああっ!いちいち面倒だわっ!論より証拠よ!しばらく待ってなさい 」

そうか。アスカの奴、風呂入れてるんだな。

「わし腹減っとるんやけど、なんか食いもんあれへんか、惣流?」

「鈴原っ!はしたないわよ」

「いいわよ。何かあると思うから、少し待ってて。シンジ 」

「え、何?」

「あんたはあたしの手伝い 」

「へ・・・なんで?」

「ごちゃごちゃ言わない!」

「はい、はい 」

「レイ。」

「何?」

「みんなでテレビゲームかなんか適当にやってて 」

「わかったわ。じゃあ・・・

アスカ・・・手引張るなよ 。

・・・

「じゃ、シンジ。ホットケーキ作るわよ。手伝いなさい 」

「なんで俺なんだよ。洞木さん か綾波でいいじゃないか?」

「何言ってんのよ。ヒカリはお客さんでしょ。それにレイに手伝わせたら女の子がヒカリだけになっちゃうじゃない」

あ!

「そうか・・・

「少しは考えなさいよ 」

「うん」

アスカは俺なんかよりもずっと大人だ。伊達に大学出てないんだな。

・・・あれ?大卒自体は前回と変わりないじゃないか?

何か違うのか?

「はい。ぼーっとしてないで始めよっ!」

「了解っ!」

「さあ、召し上がれ!」

「おおきに!ほな、頂くで!」

「うまそうだな。惣流が作ったのか?」

「ええ、そうよ 」

粉捏ねたの俺なんだけど。

「焼き加減も絶妙よ、アスカ?」

「ありがと、ヒカリ 」

焼いたのも俺なんだけど。

「このシロップ変わってるね?でもすごくうまい・・・。どうしたの、これ?」

それはアスカが作ったんだ。

でも・・・なんでわざわざ自分で作ったんだろう?

「ケンスケ。いい事言うじゃない。それはね、あ・た・し・が作ったの 」

「へー。アスカが?本当に美味しいわよ。やっぱり市販品とは全然違うわね 」

「へっへー。ヒカリに誉められるとちょっと照れちゃうわね 」

「ほんとだ、美味しいよ、アスカ」

「あら?碇君もアスカの事アスカって呼ぶの?」

「ああ、シンジはね、その時の気分で呼び方変わるんだって。変でしょう?」

「ほう。どんな時にアスカって呼ぶんだ?」

「別に・・・深く考えてる訳じゃないよ 」

ボケっとしてるとつい出ちゃうだけだよ、なんて言えないもんな 。

「あ、碇君。ペンペン 」

「あ、ほんとだ 」

「ペンペン。ホットケーキ食べる?」

「クワッ!」

「じゃ、いらっしゃい。」

「クワッ!」

「ほー。綾波になついとるのう、このペンギン 」

ペンペンだってば。

「ホットケーキを食べるだけじゃないわ。ペンペンの部屋にはテレビもあるのよ 」

前後の関係が・・・脈絡がないよ、アスカ。

「ペンギンにテレビかいな?それって無駄とちゃうか?」

「ペンペンはね、ぬわーんと!人語を解するのよっ!見てなさい。ペンペン!お風呂!沸いてるわよっ!食べたら行くのよっ!」

「クワーーーッ!」

『ペタペタペタン・・・ガラッ!』

「よっしゃあ!みんな行くわよっ!」

「「「?」」」

『『『『『『バタバタバタッ!』』』』』』

「ペ、ペンギンが・・・風呂入っとるでぇ・・・

「だから温泉ペンギンなのか 」

『クワーー!・・・バシャバシャバシャン・・・

相変わらず、風呂が好きなんだ。

・・・でも、ごめんね。今回は温泉行けるかどうか分かんないよ。

あ、温泉目的に温泉旅行に連れて行けばいいんじゃないか!

「変わったペンギンじゃのう 」

・・・可愛い。可愛いじゃないの、アスカ。」

「えへ。ありがと、ヒカリ 」

・・・そう言えば、うちの猫達はお風呂に入らないわ。・・・負けたのね、ペンペンに 」

綾波ぃ・・・一体どこからそんな発想が・・・

「レイ。猫は泳げないのよ。お風呂に入ったら、それは自殺行為よ 」

「じゃあ、アスカ。また明日。あ、明後日か。明日は訓練だったわね 」

「じゃあな、碇 」

「ほんま、ええもん見せてもろたわ。おおきにな、惣流 」

「これってお金取れるかな?」

アスカ・・・それは無理だと思うよ。

「で、惣流。明日の訓練の事で話があるから残れって何だよ?」

「何か打合せなの、アスカ?」

「いえ、そう言う訳じゃないのよ。ちょっとあんた達に聞いておきたい事があってね 」

「「・・・」」

「な、ここじゃなんだから、リビングに行きましょ 」

「何だよ、聞きたい事って 」

「レイとシンジはなんでエヴァに乗ってるのかって 」

・・・

「これはまた・・・いきなりだな。何故そんな事を聞くんだい?」

「シンジ・・・あんたが加持さんの真似しても似合わないわよ 」

一応似てはいたんだな・・・でもこの話題、出来れば避けたいよな・・・

「俺の場合、最初の時は、父さんに呼び付けられたと思ったら使徒が来て、ロボットみたいなエヴァに綾波と一緒に無理やり乗せられて、綾波に邪魔だから目つぶって何も考えるなって言われたからそうしてたら綾波が使徒倒してたんだよな。だから何が起きたんだか、どうやって倒したのかも知らない。ただ目つぶってたから車酔いみたいで吐くのを必死に我慢してたのは覚えてるな。良く言うじゃない、運転してる時は大丈夫なのに、他人の運転で助手席に座ってると酔っちゃうって話。あれみたいなもんなのかな?」

「「・・・」」

アスカも綾波も呆れてる のかな?まあいいや。

「で、二度目は俺が足手まといになったせいで綾波が危なくなって、何とかしなくちゃって必死にレバーいじってたらエヴァが暴走して使徒を殲滅。その間の俺の記憶はなし、だろ 」

「そんな事は記録見たから知ってるわよ 」

「じゃあ聞く必要なんてないじゃないか 」

「シンジはその後もテストでエヴァに乗ってるじゃない。なんでよ?」

「それは・・・綾波やアスカは乗るんだし、俺だけ逃げる訳にはいかないんじゃないか?」

「それだけなの?」

「アスカは碇君に何を言わせたいの?」

「本当の理由が知りたいの。レイがエヴァに乗る理由もね 」

「わたしはわたしが自分であるために、自分であり続けるために乗るのよ。それが碇君やみんなとの絆でもあるから」  

「『絆』って何よ?」

「『絆』、家族や友人などとの結び付きを離れ難く繋ぎ止めているもの。または、動物などを繋ぎ止めておく綱のこと 」

・・・レイ・・・。あたしは言葉の意味を聞いてんじゃないのよ。あんたにとっての絆って何、て聞いてるのよ

わたしはこれまでの時間と他の人達との繋がりによって、わたしになったの。他の人達との触れ合いによって、今のわたしが形作られている。そして、人との触れ合いと時の流れが、わたしの心の形を変えていくの。それが絆。そう、綾波レイと呼ばれる今までのわたしを作ったもの、これからのわたしを作るものよ

そ、そうなの・・・なんか哲学的ね…難しくて分かったような分かっていないような・・・まあいいわ。で、シンジはどうなのよ?

「アスカが俺に何を言わせたいのかよく分からないんだ。だから逆に聞くよ。アスカは何故エヴァに乗ってるの?」

「あたし?あたしはね、あたしのため、ママのため、そして、みんなのためよ!」

なんだよ、それ?俺やレイと大して違わないじゃないか!

「それじゃあ、わたしと同じ理由だわ。碇君の理由もきっと同じよ、ね。」

「アスカ、ママのためってどういう事なの?」

「あたしのママはね、あたしがまだ小さい頃、エヴァ弐号機のシンクロ実験中に事故で精神汚染を受けたの。廃人のようになっちゃったのよ。でも本当はママはエヴァに取り込まれて、ママの肉体とほんの少しの精神がサルベージされただけだったのよ。ママの魂はエヴァ弐号機の中にいるの。そしてあたしを見守っていてくれている。エヴァはあたしを守ってくれるけど、あたしもエヴァを守ってあげるの。だから・・・あたしはエヴァに乗る。・・・そういう事よ 」

・・・

アスカ、知ってたんだ。でも何故知ってるんだ?前と違う。

でも、これがアスカを前のアスカと違う感じにさせている理由なんだ。

「俺の母さんもエヴァに取り込まれている。リツコさんから聞いたんだ。でもエヴァに乗っても母さんを感じる事はないな。だから惣流のような気持ちではないと思う。惣流は誰かに聞いたの?惣流のお母さんの事 」

「うん」

「誰に聞いたの?」

「わからないのよ 」

「わからない、って?」

「だって・・・夢の中での話なんだもの・・・

・・・

眠れないな。

無理もないか。アスカの話が気になる。

夢の中での話と言っても内容が内容だからな・・・

アスカの潜在意識が夢の中で語ったのか、何者かがアスカの夢に干渉したのか。

まさか加持さんが催眠療法とかした訳でもないだろうし・・・

一体何が起こったのかな?

ま、今考えてもしょうがないか。

綾波の事がうやむやに終って善しとするか。

零号機のコアの魂に話が行ってたら・・・綾波は何て答えたんだろうか?

零号機のコア、俺も知らないんだよな。


第拾七話 へ  第拾九話 へ

目 次 へ  「創作小説」へ戻る  トップページへ戻る


* 感想をお願いします。