『俺と僕で何?』
第拾九話 備えあれば(後編)
アスカが今のアスカであるのは、アスカが弐号機のコアに母親の魂が存在していると知ったから、サルベージされた母親のアスカに対する行為とかがトラウマになっていないから、なのか?
その夢をいつ見たのか、そして、いつから母親の魂をエヴァに自覚したのか、アスカにもはっきりしていないみたいだ・・・。
ただ、前の世界の加持さんがこの世界の加持さんのとなる前だという事は確かだろう。
これは・・・加持さんに聞いてみるしかのないかな・・・?
『碇君』
?
「碇君!」
あ。
「綾波?」
「何をボーっとしているの?もう本部に行く時間だわ」
「ああ、もうそんな時間か」
今日は父さん達への対策を話し合うんだったっけな。
「うん、ごめん。行こうか?」
「ええ」
「あれ、アスカは?」
「今日は週番のヒカリのペアがお休みだから手伝いしてるわ。後で行くから先に行っててって」
「そう・・・わかった 」
・
・
・
「今日は、零号機と弐号機は模擬体によるシンクロ・テストを、初号機は再起動実験を行います。シンクロ・テストはコダマとチサトで担当、マヤと私は初号機の再起動実験を担当します、いいわね 」
「「「「「「了解」」」」」」
「じゃ、各自所定の場所に急いで」
・
何で綾波とアスカは模擬体で、俺は本番機なんだろう?
・
『起動、開始します』
『主電源、全回路接続完了』
『起動用システム、作動開始します』
『起動電圧、臨界点まで後零点5、零点2、突破しました』
『起動システム、ただいまより第2ステージに移行します』
・
『A10神経接続、開始しました』
・
『先輩っ!ちょっと来て下さいっ!』
『何?』
『これ見ていただけますか?』
『どれ・・・!こ、これは・・・』
『どうしますか?』
『シンジ君!』
「はい。何ですか?」
『ちょっとボケボケっとしていてくれるかしら?』
何言ってるんだ?
「分かりました」
『安定しました』
『数値取って。
『数値取れました』
「こんなんでいいですか?」
『ありがとう。それでいいわ』
・
『先輩。・・・この数字・・・信じられません。理論的にあり得ない数字です・・・』
何の数字だろう?
『・・・そうね・・・でも事実よ。予想を非常識に上回っているわ。マヤ、後は予定通りでいいわよ 』
『了解。初期コンタクト、全て問題ありません』
『双方向回線、開きます』
『シンクログラフ上昇。・・・絶対境界線まであと1点2・・・・・・・・・ボーダーライン、突破!初号機、起動しました。シンクロ率、43パーセント。ハーモニクス、ほぼ正常位置 』
前とあんまり変わらないんじゃないのか?
本当に起動してるのか?何か隠してるんじゃないのかな?
『了解。では、本日の再起動実験は終了。シンジ君、お疲れ様でした。着替えたら研究室で待機。いいわね』
「はい」
・
・
・
「さて、みんな揃ったわね。じゃ、今日は司令と副司令とに対する対応を話し合いましょう」
「どういう風に進めるかだが」
「いいわよ、加持君に任せるわ。権謀術数は十八番でしょうから」
「いいんじゃないの」
「俺もいいですよ」
「じゃ、皆さんのお墨付きという事で、行きますか。・・・。まず、この前のシンジ君と副司令との会見の内容をもう一度確認しておこうか。シンジ君、いいかな」
「はい。・・・要点を整理すると次の様になると思います。第一に、父さんが俺のことを『碇シンジ』ではないのではないかと疑っている事。第二に、ネルフが使徒の殲滅以外に、ある組織の計画の阻止を目的としている事と、もう一つ今は明らかに出来ない何かの目的もある事。第三に、加持さんがアダムをここに持ち込んだ事。第四に、レイは零号機の他に初号機も操縦できる事。最後に、俺が報告書と違う性格である点が何か不都合であるみたいな事。大体以上ですね 」
「シンちゃん・・・よく覚えてるわね、それだけ 」
「そうですか?」
普通だと思うけど。
「まず第一の疑いは最後のシンジ君の性格から来たものだろう」
「俺の今の性格じゃ何か困る事があるんでしょうか?」
「それに答えるのはリッちゃんの方が適任だな」
「そうね、私から説明するわ」
「はい」
「エヴァの操縦にはエントリー・プラグを介在したシンクロ・システムが使われてるの。この方式は・・・過去の実験の結果に基づいて開発され採用された 」
「失敗した実験・・・俺の母さんとアスカのお母さんの事ですね。」
「残念ながらそういう事ね。失敗の原因はシンクロ率の調節が出来ていなかったためと解かったので、その調節をエントリー・プラグで行うというものよ。でもこれは嘘ではないけど全てを説明していないの。もう一つ実験の失敗の副産物があった。それはエヴァのコアに人間の魂が定着したこと。これによりエントリー・プラグの搭乗者はエヴァに直接シンクロするのではなく、エヴァのコアの魂にシンクロする事で間接的にエヴァにシンクロする事が可能となった。シンクロの調節にはむしろこちらの有効性の方が大きかったのよ 」
「つまり・・・エヴァに直接シンクロすると調節がうまく出来なくて・・・そのコアに取り込まれちゃう場合があるって事ですか?」
「そうよ」
「それと性格にどういう関係があるんですか?」
「搭乗者がコアの魂とシンクロし易い条件があるの。・・・それは、コアの魂が搭乗者の魂を認識して協力しようという方向性を持つ事 」
「魂に意識なんてあるんですか?」
「前にも話したと思うけど、魂そのものには意識や機能はないと言っていいわ。まあ、断言は出来ないけど・・・。でもユイさんの場合もキョウコさんの場合もエヴァに取り込まれたのは魂だけじゃない、肉体も取り込まれているのよ。そして二人ともその精神、と言うよりも・・・意識を構成していたものと言った方がいいかしら、その大部分はエヴァもしくはコアに残っている。多分その影響で意識とか記憶に似たものがあるのだと推測されます 」
「つまり・・・搭乗者はコアの魂が無意識的に協力し易い人間、例えば、その子供がいい、と 」
「そうね。子供であれば認識してもらえる確率は高いでしょうね。ただ協力してくれるかどうかは別ね。これには搭乗者がエヴァに協力して欲しいと言う潜在的願望がないと協力してくれないわ。第一の条件はシンクロ率で、第二の条件はハーモニクスで測られていたのよ・・・」
「・・・。・・・そうだったんですか。」
「・・・シンちゃん、ごめんなさい。」
「ミサトさん・・・」
「シンジ君、本当にごめんなさい」
「そんな・・・ミサトさんのせいじゃないじゃないですか。それに、誰のせいでもありません」
「なんとなく分かって来ました。俺の場合依頼心が少なくて母さんが、いえ、母さんの魂が協力してくれないかも知れない、それが心配なんですね。特に父さんは」
「それは副司令も同じなんじゃないか、シンジ君」
「実はこの前の面会で副司令の言った事が気になってるんです」
「副司令がなんて言ったんだい、シンジ君?」
「それは・・・『君はここで傲慢になる必要はないし、かと言って、卑屈にある必要もない。今はまだ分からんかも知れんが、心に留め置いてくれると嬉しいよ。』という事を言ってました・・・。今の話しを考えると、副司令自身は俺がエヴァに乗れなくてもいいと思ってるんじゃないかと・・・単なる直感ですけど。本当はどういう意味だったんでしょうか?」
「本当の事なんて誰にも分からないさ」
「加持ぃ・・・そんな事言っちゃあ先に進まないわよ。とにかく司令と副司令の思惑が完全に一致している訳じゃないって事ね 」
「ま、そうだろうな。でも、何が、そして、何故一致しないのかは俺には分からない。リッちゃんはどうだい?」
「さあ・・・。少なくとも司令の最終目的はユイさんと再び逢う事。それは前回私自身が目撃したわ。その後直ぐに撃たれたけどね。副司令のはなんなのかしら?」
「副司令は俺と似ているところがある、そして、違うところもあるような気がする」
「何言ってのよ、加持!そんなのあったり前じゃないの。何の説明にもなってないわよぉ」
「いや、俺にはなんとなくわかる様な気がします」
「え?そうなの?なんで?なんでシンちゃんにはわかるのよ?」
「加持さんに前似たような事を言われたんです」
「何を言われたのかしら、シンジ君?」
「いいですか、加持さん?」
「構わないさ」
「加持さんはこう言ったんです。 『君には君にしかできない、君になら出来る事がある。俺は強要はしない。自分で考え、自分で決めろ。自分が何をすべきなのか、を。ま、後悔のないようにな。』 、でしたっけ、加持さん?」
「確かにそういった内容だったかな。しかし君の言ったのは多分一字一句そのままなんじゃないのかな?よく覚えていられたもんだ」
「でも、それで何がわかるって言うのよぉ」
「ミサトって人の心の機微にはほんと疎いのね」
「はいはい。あたしはどうせっ、ガサツで鈍ちんだわよ。いいからそのガサツの鈍ちんにも分かるように話してくれるかしら?」
「父さんは…自分の信念を他人を犠牲にしてまでも貫こうとする。他人の思いがどうであれ関係ない、自分の信念を強要するんですよ、結果的に。でも、副司令は他人に強要はしない。結果的に他人を排除する事になったとしても」
「あの言葉は・・・その意思表示、か。」
「シンジ君の考えによれば、副司令に対しては対処の可能性が少し高い、という事かしらね。彼らも、私達が今日みたいにつるんで何か企んでるのは当然知っているのに、今のところ干渉して来ない。とりあえずは使徒殲滅を優先している、という事なんでしょう 」
「そうね。リツコの言う通り、当面は大丈夫みたいね、私達」
「俺と葛城の場合は分からんぞ、他に代替が利くからな。リッちゃんはマヤちゃんが裏切らない限り安全だし、チルドレン達もしばらくは大丈夫だ」
「嫌な事をあっさりと言ってくれるわね・・・しかも、シンちゃん達、しばらくは、って条件付なの?」
・・・。
「そうだろ、リッちゃん?」
「そうよ。チルドレンの絶対条件は二つあるわ。一つ目はエヴァの適格者である事、これは最低条件ね。二つ目は司令の意図に叶っている事よ」
「一つ目は全員オッケーでしょ?二番目はアスカ以外はバツでしょうけど」
「それが・・・俺の場合はそうでもないんですよ、ミサトさん。そうですよね、リツコさん。」
「・・・気が付いていたのね、シンジ君 」
「ええ」
「リツコ、さっきの依頼心とかと関係がある事なの?」
「まあ、ね」
「あたしに教える気がない訳?」
「あら、そんな事言ってないわよ。それにあなたの作戦立案能力は意外と高いのよ。あなたの作戦に影響は出ないわ。そしてあなたの代替も当分出て来ないわよ。そんな人材いないもの。安心しなさい 」
「ありがと。それはいいから早く教えて!」
「わかったわ。シンジ君はさっき言った通常の方法ではエヴァとシンクロ出来ていないのよ」
情動パターン補正装置のことかな?
「でも今日もシンクロ率は43パーセントでハーモニクスも正常だったじゃない 」
「ああ。あれはね、嘘なの」
「う、う、う、嘘ーーーーっ?どういう事よ、それっ!」
「ダミー・データを流したのか。けっこう危ない事してるじゃないか、リッちゃん。マヤちゃんもグル、か」
「そう。今のシンジ君は保護者としての母親は求めていない。だからコアとはシンクロしない。さらにコアを誤魔化す為に導入した情動パターン補正装置すら最早役に立っていないの 」
「ええ!そうだったんですか?じゃエヴァは動かないじゃないですか!」
「気が付いていた訳じゃなかったのね、シンジ君。」
「補正装置で起動しているのかと思ってました。でも前回の感覚では起動している実感はなかったです。」
「うーん・・・起動はしてるのよ。ただ起動方法が違うの。シンジ君はコアを経由せず、エヴァに直接シンクロしているのよ 」
「「!」」
「リッちゃん。休憩にしないか?頭ん中整理させてくれ」
「了解。いいでしょ。10分間の休憩にしましょ。」
「あの・・・綾波とアスカはどうしてるんですか?」
「あの二人はもう帰ったわよ。二人で買い物あたしんちに行くって言ってたわ」
・
・
・
そうだよな・・・ミサトさんには与えられている情報が少ないんだ。
前回はほとんど何も知らされていなかった。
だから自分で調べた。・・・加持さんの死と引き換えに・・・やっと自分で自分の運命を切り開こうとした。
でも遅かった。それは・・・俺の中の『僕』のせいでもある。
・・・『俺』と『僕』・・・か。
その違いがエヴァへのシンクロ方法の差として表れたんだろうな。
・
・
・
「それでは、再開しましょうか」
「俺のシンクロ方法の差は『俺』と『僕』の違いの表れですか?」
「あら、いきなり、そこから始めるのね」
あっ!リツコさんは別の事考えてたのかな?
「あ、すいません。俺はその事ばっかり考えてて・・・」
「いいわよ。確かにその通りだと思われるわ。じゃあ、毎度毎度で悪いけど・・・シンジ君の考えた事を話してもらえるかしら。」
ほんとに、だよな。また俺が話すのか・・・って、試されているのか、俺が・・・。
「第四の点とも関係があるかも知れません。綾波が零号機の他に初号機も動かせるという点ですね。でも綾波は弐号機は動かせないかも知れない」
「いいわ。続けて、シンちゃん」
「それは何故かを俺なりに考えて、というよりも、思い出してみました。綾波は母さんが取り込まれた初号機からサルベージされた結果ですが、サードインパクトの時にはリリスとなり全生命体の核となりました。一方のエヴァは零号機と初号機はリリス、弐号機はアダムをベースとしていたんです。そうですね、リツコさん 」
「そうよ、シンジ君。まず間違いないでしょうね」
「リツコぉ・・・どうして『まず』が付いちゃうの?断定はできないという事?」
「そうね。造ったのは私じゃないもの。MAGIのデータも本物かどうかわからないし・・・。」
「悪かったわ。シンちゃん、いいわよ」
「はい。で、綾波は・・・綾波の身体と精神はリリスと母さんとの混合ですが魂はリリスのものです。綾波がエヴァにシンクロする場合、母さんの分身としてコアにシンクロ可能であると同時に、リリスとして直接シンクロ可能とも思えます。ただ・・・俺は零号機のコアがどうなっているのかは知りません 」
「「「・・・」」」
続けろという事か・・・。
「一方、今のアスカは自分の母親の魂が弐号機のコアに宿っている事を知っています。その・・・知る事になった原因が『夢のお告げ』というのは気になりますけど・・・。ですからアスカのエヴァとのシンクロ方法は父さんの思惑通りと言えます 」
「『夢のお告げ』の話は俺も聞いたよ。その件はまた別の機会にしよう」
あ、そうか・・・なかなか話がまとまらない・・・。
「すいません、話がなかなかまとまらなくて・・・。俺、考えながら話してますね 」
「気にしなくていいわよ、シンジ君。あなたしか知らない情報って結構多いのよ。だからこの形の方がむしろいいの。さ、続けて」
「はい・・・。えっと・・・で、俺の場合ですね、『情動パターン補正装置』でもシンクロ不可能という事はコアの魂、つまり母さんが『俺』の中の『僕』の事を認識していないという事です。そして、エヴァへの直接シンクロが可能という事は『俺』自体にリリスが混ざっている可能性が高い、という事・・・なんですかね?・・・これじゃ説明じゃなくって質問ですね 」
「「「・・・」」」
はいはい、続けますよ。
「もしかすると、今の『俺』は『僕』の魂ではなく、リリスの魂がベースで作動しているのかも知れませんね。とにかく方法は違うにしても、綾波と俺は零号機と初号機を動かせるが弐号機は動かせない。アスカは逆に弐号機しか動かせない。そうですね、リツコさん 」
・・・?何か大事な事を忘れているよううな気がする…なんだろう?
「そうよ。今のシンジ君はエヴァとの直接シンクロによってエヴァを操縦できるわ。作戦行動上は何の問題もないからミサトは心配する事、ないわよ」
「よかったな、葛城」
「オッケー。とりあえずは安心した」
「それと後で叱られるのは嫌だから今言っておくわ。シンジ君のコアへのシンクロ率は8パーセント、で、直接シンクロによる数値は80から500パーセント以上」
「「「!」」」
そんな!それが『理論的にあり得ない』という言葉の意味、か・・・。
「そんなにビックリする事ではないの。もともと数字の絶対値に意味がないんだから」
「「・・・」」
「やはり今のチルドレン三人の状態の違いに行き着くんだな」
「何がよ、加持?」
「いや現時点での議論の終着点が、だよ。それ以上は進めない・・・この点に現時点での何らかの結論を求めない限りね 」
「急ぐ必要があるのかしらね?誤った結論を出した結果、望まない分岐路が選択される事になるかも知れないわ」
「結論を求める事と結論を出す事、そして、それから先に進む事は全然意味と行動が違うぞ」
「あんたが言っても説得力、ないわよ」
「そうね。加持君の場合にはその三つはほとんどイコールだったものね。・・・少なくとも私達にはそう見えたわ 」
「こりゃ手?口かな?ま、厳しい事言うじゃないか。今回は慎重さ。自分だけのためじゃないからな」
「加持・・・」
あれ、なんでミサトさんが赤く・・・って、うーん、この状況で・・・はぁ。
「ミサト、加持君。続きは二人だけになってからにしてね」
「「・・・」」
「さて、時間も遅いことだし、本題の方も続きは明日にしましょう。明後日は使徒が来るわ」
あれ?日にちを覚えてたのか?俺は覚えていない・・・前回はそんな事に関心も無かった。
「よく覚えてますね、リツコさん」
「あら。覚えていた訳じゃないわよ。調べてて分かったのよ」
「・・・調べてて、って・・・この世界で、ですか?」
・・・?何も調べようがないんじゃないのか?
「それも明日教えるわ。備えは全て終了、それも明日説明するわね。だから今日は家に帰ってからも質問は禁止。それと明日は学校はお休み。いいわね」
ちぇっ!
「はーーい」
・
・
・
はあ、今日は疲れた。
綾波、アスカとうまくやってるみたいで良かったな。
問題はこの状態がいつまで続くか、だ・・・。
『僕』のそして『綾波』の望みは何だったんだろうか?
そしてそれは果たされたのだろうか?
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