『俺と僕で何?』


第弐拾話 アスカとレイ( 前編)


「ねえ、ねえ、シンジ。学校終わったらショッピングに付き合わない?」

「何で俺が付き合わなきゃなんないんだ?綾波と行きゃいいだろが」

「あら、レイも当然行くのよ。でも今日はあんたも必要なのよ、ね」

ね、って言われても、わかんないぞ?

「わたしもショッピング・・・わたしからもお願いするの」

綾波まで?何なんだ?

「一体何買うのさ?」

「「ひ・み・つ」」

はあ?

またこのショッピング・センターか。

「ねえ。ここってさ、『ショッピング・センター』としか看板に書いてないけど、名前ないのかな?」

「あんたねえ。この街にはショッピング・センターって一つしかないんだから、名前なんて付けても意味無いじゃん!」

「そういう問題かなあ?」

「そういう問題よ!」

ま、いいや。逆らって何か言われるも癪だしな・・・

「で、何を買うのさ?」

「アスカに付いて行けば分かるわ」

どのフロアへ行くのかな?

家具売り場?

・・・ベッドを買うのか?

・・・

「何でこんな物買うのに俺が必要なんだよ」

「わたし達に気を遣っているのよ、碇君」

「今一つわかんないんだけど、ちゃんと意味が分かる様に説明してくんないかな?」

「あんた等の家の調和とかあるでしょ?家具類のセンスとか色合いとか、ね」

あれ?何言ってるんだ?

・・・まさか・・・そんな、ことはないよな?

「もしかして・・・綾波のベッドを買い換えるとか、なのかな?」

「違うわ(よ)」

「あはは。やっぱり?」

アスカのベッド・・・と、いう事は・・・やっぱり・・・と、いう事だな。

「ねえ、惣流。本気でリツコさんとこに来るのか?」

「そうよ。この前そう言ったでしょ?」

・・・サトさんは。ミサトさんは、どうなるんだよ。ミサトさん、折角・・・その、家族が出来て喜んでたと思うのに・・・

「へえー。・・・シンジって意外と優しいんだ。もしかしてミサトのこと・・・だったりして 」

「そ、そんなんじゃないよ!」

「むきになって、碇君、怪しいわ。」

・・・綾波までそんな事を・・・

「ま、冗談はさて置いて」

・・・冗談かよ・・・疲れるんだけど。

「冗談じゃなきゃ何だよ」

「ミサトってさ、夜勤とか徹夜とか多いんだよね」

あっ!

「それで?」

「だからさ、ミサトもあたしに気を遣ってるのよ。まるで一人で放って置いてるみたいじゃない」

そういう事なのか。

「つまり、ミサトさんが夜勤で帰って来ない日は俺達の家で寝る、と」

「ま、そういう事ね」

「碇君、反対しないでしょ?」

「うん・・・そういう事なら、わかったよ」

反対できる訳ないだろ。

「ありがとねっ、シンジ!」

「碇君、ありがとう」

「いや、別に礼を言われるようなことじゃないよ」

俺の考えが足りないんだ。

・・・綾波だって、俺やリツコさんだけじゃなくって、アスカみたいなおない歳の同性の女の子と一緒に過ごしたいだろう・・・特に今の綾波は。

「やっぱ、ダブルベッドにしよっかな?別にシンジと一緒に寝てもいいんだし」

「何言・・・

「良くない」

・・・あ、綾波?

「どうしてよ?」

「だって・・・物置の寸法しか測ってないもの」

・・・やっぱり綾波の思考には付いて行けないや。

「で、まだ何か買うのか?」

「えへへ。次はねえー・・・洋服ダンス。それと机もいるわね 」

・・・おい、たまに寝に来るだけじゃないのかよ」

「だってあんた達んとこに泊まる時は学校か本部から直行だもの。家具一式と中身だっているわよ。わざわざミサトんちから持って来る訳にいかないじゃん」

ま、それはそうだけど・・・何で俺が付き合わなきゃいけないんだよぉ。

「いやあー、久し振りにいいショッピング出来たわ。ありがと、レイ、シンジ」

「わたしも楽しかったわ。アスカの見立てでわたしの洋服も買えたし」

結局4時間も掛かったんだぞ。

ベッド、タンス、勉強机、ランプ、学用品一式、洋服、パジャマ、・・・下着。

ほんとに恥ずかしいったらないよ・・・

「シンジも楽しかった?」

・・・まあ、あんまりある事じゃないからな。ま、いい経験なのかな?」

「そうよ!将来恋人が出来た時の予行演習出来たと思って感謝するのね」

「はいはい」

「碇君の恋人?誰なの?」

「将来のよ、レイ。安心しなさい」

「安心なの、わたし?」

「まあ、可能性の話よ」

あれ?アスカって俺と綾波の関係を知ってたっけ?


しかしアスカがここに泊まる話って、俺だけが知らなかっただなんて、みんな意地悪じゃないか。

・・・

アスカって、俺と綾波の関係を知ってるんだったっけ?

俺は話してないと思うんだけど。

一度頭の整理をしておかないと・・・失言しそうだよな。

『ピン、ポーーーン!』

あれ、誰だろ?・・・まだ9時だけど。

『はーーい!』

・・・

『ガチャ』

『おはよう』

『お邪魔するわ』

あ、アスカと洞木さん。

『いらっしゃい。どうぞ、上がって』

『コンコン』

「どうぞ」

『ガチャ』

・・・碇君。アスカとヒカリが来てるの」

「うん。知ってる。声聞こえたからね」

「じゃあ、何故迎えに出なかったの?」

「だって綾波が出たもの。それに綾波に会いに来たんだろ?」

「アスカもヒカリもわたし達の友人よ。わたしだけの友達じゃないわ」

「それはそうなんだけど。普通はさ、女の子の友達なんだから女の子に会いに来たと思うじゃないか」

「そうなの?」

そうか・・・そういう事も覚えていかなくちゃいけないのか。

「もう。二人して何やってんの!シンジなんか放っといてこっち来なさい」

「アスカ。それは碇君にあんまりじゃない?」

「いいのよ。シンジには別の用事が出来る筈だから」

別の用事?

『トゥルルルルッ、トゥルルルルッ・・・

あ、電話だ。

「はい。赤木です」

「はい。碇君ですか?います。今替わります」

・・・誰だろ?

「碇君、電話」

「うん。・・・誰?」

「出れば分かるわ」

・・・そりゃそうだろ。

「はい」

・・・

「はい、碇ですが」

「悪かったな、シンジ君。折角の休みに呼び出したりして」

「いえ、いいんですよ。別にする事もなかったですから」

でも、何の用なんだろ。

「そうか」

・・・

「珍しいですよね。前は一度だけスイカ畑に招待して頂きましたけど」

「そう言やそんな事もあったな」

「俺はこの世界で楽しい事を見付けられるんでしょうか?」

「意外と弱気なんだな、シンジ君は」

「よくわからないんです」

・・・

「自分の存在が。この存在の意味が」

「自分の意味は自分にしかわからない。他人が知っている自分は自分の一側面でしかないからな。自分自身だって自分の全てを知っている訳じゃない」

「自分の中の自分、他人の中の自分。そのそれぞれでさえも沢山の側面を持っている。自分の絶対的な価値を論じる事にはさほど意味はないんでしょうけど、存在意義は見出したいと思ってます 」

「そうか。ま、今の俺達は極めて特殊な立場にあるからな。特にシンジ君とレイちゃんにはこの世界で果たすべき役割があるかも知れない」

・・・

「でも、そんなに肩肘張る必要もないんだぜ。他の人間もいるんだからな」

「そうですね」

「他人の存在意義は認めてるんだろ?」

「ええ。多分その為に俺はここにいるんですから」

「だったらいいじゃないか。それも楽しい事なんだよ」

「『辛い事を知ってる人間の方が、それだけ人に優しく出来る』、でしたよね」

「そうだよ。偉そうに言ったけど、自分自身に対する自戒でもある」

「もうミサトさんを悲しませないで下さい」

「大丈夫さ。葛城と一緒にいる事も俺の楽しい事の一つだからな」

「他にもあるんですか、楽しい事」

「そりゃあるさ。こうやってシンジ君と話をしてるのもその一つさ」

・・・そう言えば、加持さん」

「ん?」

「今日は何で俺を呼び出したんですか?」

「こうやって楽しい時を過ごすためさ。シンジ君は楽しくないのかい?」

「いえ、そんな事はありません。楽しいって言えるかどうか・・・わかりませんけど、気持ちは楽になったような気がします 」

「そうだろ。どちらかって言うと女護が島にいるみたいだからな、シンジ君は」

「そう言えば、そうなんですよね」

「たまには男同士もいいもんだろ」

・・・

「どうした?」

「呼び出された理由、まだ聞いてません」

「いや、厳しいな」

・・・

「わかった。悪かった。言うよ。言うからそんな顔しないでくれ」

「アスカの事、ですね」

「あ、やっぱ、わかっちゃうか?」

「わかりますよ。アスカが俺の家に来てる時に俺を呼び出したんですから」

「察しがいいな」

「で、何が知りたいんですか?今のアスカの事なら加持さんの方が俺より良く知ってると思いますけど」

「そんな事はないさ」

「俺は今のアスカにどう接すればいいのかわからないんです。どうしても前のアスカの事、思い出しちゃって」

「無理もないさ」

「嬉しいんですよ。元気なアスカ、明るいアスカ。でも・・・

「でも?」

「いつかはアスカも識るんでしょうか。前のアスカの事を。今はレイともうまく行ってるみたいです。でも・・・もしアスカが記憶を取り戻したらどうなるのか・・・

「不安なのかい?」

「わかりません。前の世界での事は今のアスカとは関係の無い事ですし・・・

「記憶を取り戻させたいのかい?」

「よくわかりません。でも・・・気になることはあります 」

「ほう。何が気になるんだい?」

「アスカはエヴァ弐号機にアスカのお母さんの魂が宿ってる事、知っています」

「そうか」

「素っ気無いんですね、加持さん」

・・・

「アスカは夢の中で誰かに教えてもらったと言ってました。アスカはそれが誰なのかは今でも知らないそうです。でも、その教えてもらった事自体は加持さんにも話したと言ってます 」

「そう・・・だったな」

「何故俺に隠すんですか?調べたんでしょう、それが誰だったのかを」

・・・別に隠していた訳じゃないんだ。何にせよ、夢の中の話だからな・・・調べようもなかったのさ 」

・・・情報不足、という事ですか?」

「ま、そういう事、かな?」

・・・

「シンジ君が望むなら、シンジ君なら調べる事も可能かも知れない」

「意地悪ですね、加持さん」

「おい、おい。そりゃぁないだろ」

『ガチャ』

「んー、何のお話ぃ?」

ミサトさん!・・・まさか、泊まってたのか?

・・・ミサトさん、居たんですか。・・・聞いてたんですね、今の話」

「何言ってるのよ、シンちゃん。今あたしは『何の話』って聞いたじゃないのぉ」

「俺にそういう話術は通用しませんよ、ミサトさん」

「ど、どういう話術よ・・・

「葛城。シンジ君には下手な誤魔化しは効かないって事さ」

「加持まであたしを虐めるぅ・・・

「ま、聞いていなかった事にしておきましょう」

「大人だな、シンジ君は」

「別にいいですよ。俺も加持さん一人だと確認した訳じゃありませんでしたからね。で、今話してたのは・・・アスカがエヴァ弐号機のコアがお母さんだって事を知っていて、知っている理由は夢の中で誰かが教えてくれたからだ、という事。で、その誰かというのは一体誰なのか、という事ですよ 」

「シンちゃんはその夢の人物について聞いたの?」

「いえ、積極的には聞いていません。それに・・・アスカもはっきりとは覚えてないみたいだったし」

「じゃあ、いくら加持でも調べようないわよ」

「そうですよね。ただ・・・夢の中での話と言っても内容が内容ですからね。・・・アスカの潜在意識が夢の中で語ったのか、何者かがアスカの夢に干渉したのか 」

結局は何も変わらないのか・・・

あ!

「そう言えば・・・。ミサトさん!」

「な、何よ。・・・急に大きな声なんか出しちゃったりしてさ 」

「昨日、アスカの買い物に付き合わされたんです。4時間も」

「知ってるわよ」

「ミサトさんの外泊が多いからって」

「そうよ。夜勤なんだからしょうがないでしょ」

・・・

俺の勘違いなのか?

・・・

加持さん、俺だけに聞こえるような声で。

「シンジ君。葛城はそんな事はしないよ」

「すみません。早とちりでした」

加持さんだけに聞こえるような声で。

・・・

「男同士の内緒話って不気味よ。ま、いいわ。アスカの事はレイや洞木さんに任せて置けば?特にレイは前のアスカの事聞いて知ってるんだし、何かあればシンジ君に相談して来るわよ 」

「そうだな。今の俺達じゃ情報不足でいかんともし難い。葛城の言う通りでいいんじゃないか?レイちゃんにはシンジ君の心配な気持ちを伝えて置けばいい」

「そうですね。わかりました」

「ただいまー」

あれ?誰もいないのか・・・

「「「ニャー」」」

「ただいま、トト、チャチャ、ミミ。ご飯あげるね」

本当にどこ行っちゃったんだろ、みんな?

俺の飯は?

アスカとレイ、か・・・

外見も性格も全く違う二人。育った環境も違えば、もちろん・・・文字通り生まれも違う。

言葉は悪いが、明と暗、陽と陰・・・太陽と月みたい、なのかな。


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