『俺と僕で何?』
第弐拾伍話 ガギエル、来襲
「おはよう、シンジ君 」
「おはようございます、リツコさん」
「おはよう、碇君」
「おはよう、綾波」
「おはよ、シンジ!」
「あ、おはよう。早いんだね、アスカ!」
「あーっ!シンジってあたしの事、寝坊助だって思ってるんでしょう?」
「あ、いやっ!別にそういう意味で言ったんじゃあないよ」
「ふーーーん・・・ま、いいけど」
・・・ほっ。
「・・・あら、シンジ君?」
「はい。何ですか、リツコさん?」
「いったい、いつからアスカの事『アスカ』って呼ぶようになったの?」
「え、と・・・いつからだったかなぁ?」
「何よ、それっ?」
「へぇー・・・どういう風の吹き回しなのかしらねぇー?」
「別にいいじゃないか、その方が良かったんだろ、アスカは」
「まあね・・・理由なんかどうでもいいわよ。これからもそう呼んでくれるんなら 」
あ、あれ?突っ込んで来ないんだぁ・・・なんか調子狂うような・・・。
「ああ」
「・・・碇君?」
「ん、何、綾波?」
「碇君がアスカの事をアスカって呼ぶということは・・・碇君は、わたし以外の人の事は名前で呼ぶ、ということ 」
「・・・」
何を言いたいのか・・・?
「レイ、あんたの言いたい事はあたしには分かるし、リツコも分かってると思うわ。でも、このシンジには、はっきりと言ってやんないと分かってもらえないわよ!」
「あ、あのさ、綾波。・・・もしかして、その、綾波も俺に名前で呼んで欲しい、とか、なのかな?」
「・・・」
あ、綾波・・・赤くなって、俯いちゃったよ・・・当たったんだな。
「あら、シンジ君も結構女心が分かってるじゃないの、感心、感心」
「だいたいさぁ、何で兄妹なのにお互いに苗字で呼び合ってんのかねぇ・・・。そっちの方がなんだかかえって怪しい感じよねぇ 」
「って、仕方ないだろ、妹がいるなんてそもそも知らなかったし、兄妹だって聞いたのも会った後だったんだから・・・分かったからって急に呼び方変えられないよ」
「・・・でも、アスカの呼び方は今日から変えるって、碇君言ったわ 」
え?綾波、って・・・そんな事言うんだ。そんなぁ・・・なんでみんなそういうジト目で俺を見るんだ・・・。
「ほら、シンジ。レイもそういってるんだからさぁ・・・呼んでやんなさいよ、『綾波』なんて他人行儀な呼び方じゃなくってぇ、親愛の情を込めて『レイ』ってさぁ 」
あーあ・・・なんでそうなるんだよ、ったく!
「そうね。シンジ君も好い加減に観念して『レイ』って優しく呼んであげるのね」
げ・・・リツコさんまでかよ。今日はそんな事言ってる日じゃないだろうが・・・。
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「「おはようございます、ミサトさん」」
「あ、おはよう、シンジ君、レイ」
「なんだかすいません、我が侭言っちゃって」
「あーら、気にする事は全然ないのよ。あたしはその方が心強いし。だからシンジ君さえ良ければいいわよ」
「ええ、心配ありませんよ。俺は大丈夫です」
「そう、吹っ切れているのね?」
「はい」
「なら、あたしから言う事はないわ。よろしく頼んだわよ」
「わかってます」
あれ?ミサトさんの雰囲気が変わったような…嫌な感じだよなこれって。
「それにねぇ・・・」
そらきた!
「レイも嬉しいんじゃないのぉ。愛しのシンちゃんと一緒にデート出来るんだもんね」
「何言ってるんですか、そんな状況じゃないでしょうが」
「だってぇ、レイにすればこんな状況もそんな状況も関係ないじゃない。前のことなんて知らないんだからさ。ね、レイ」
思わず綾波を見ると、おーい、何赤くなってるんだよぉ・・・。
「それにさ・・・」
ミサトさんの攻撃はまだ続くのか?
「聞いたわよ、シンちゃんったらぁ・・・」
「誰に、何を、聞いたんですか?」
「リツコから、シンちゃんが今日からレイの事を『レイ』って呼ぶ、って宣言したんですってぇ・・・」
おい、おい、リツコさん・・・そりゃあないんじゃないですかぁ・・・。
「でも・・・碇君、まだわたしの事、『レイ』って呼んでくれないの 」
「し、仕方ないだろ。今のところ名前で呼ぶ機会なんてなかったんだからさ」
「いいえ、違うわ。碇君がわざと避けてたからよ」
「ねえ、レイ?」
また・・・ミサトさん、もう勘弁して下さいよ。
「何ですか、ミサトさん?」
「あ、いえね、余計な事かも知れないけどね・・・」
「じゃあ言わないで下さい」
「碇君は黙ってて」
「は、い」
ちょっとぉ・・・怖いんですけど、綾波さん。
「レイ、それよそれっ!」
ん?
「それって?」
「だからぁ・・・レイもシンちゃんの事を『碇君』って呼んでるじゃない。ここはレイもシンちゃんの事を『シンちゃん』とか『シン様』とか『あ・な・た』とかって呼んじゃえばいいのよぉ。そうすればきっとシンちゃんも自然に『レイ』って呼べるわ 」
「な、なんて事言うんですかっ、ミサトさん!」
綾波が・・・『シンちゃん』とか『シン様』とか『あ・な・た』とか、ブツブツ呟いてる・・・。
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綾波はヘリの中でもずっとブツブツ呟いて、時たまニヤリ笑いを浮かべたりして、相当に怪しい雰囲気だった。
「ミサトさん」
「なあに、シンちゃん?」
「今回もあの艦長と副長なんですかね?」
「さあ、どうかしらね?」
え?調べてないのか!
「・・・」
「なんで調べないんだ、って顔ね」
「あ、やっぱわかります?」
「わかるわよ、そりゃあね・・・付き合い長いもの」
「でも、いくら二度目だからと言っても、加持さんほどじゃないでしょう」
「ま、まあね。あいつは比較になんないわよ!いっつも嘘ついて・・・自分の事なんか喋りもしないし、分からせようともしないんだから、ったくぅ 」
「はぁ・・・」
「でも、シンジ君、前と印象変わったわね。なんか、その、明るくなった言うか・・・前向きった言うのか・・・んーーーん・・・うまく言えないんだけど 」
そうか、ミサトさんははっきり分かってないんだな…あの『魂』の話しを。
「ミサトさん、好い加減に行かないと、ブリッジに」
あ、あれ?綾波はもう妄想状態から立ち直ってたのか?
「さ、早く行きましょ、お兄様」
え?えええーーーっ!!
な、なんだよ・・・その『お兄様』って・・・。
「あーら、レイったらそういう呼び方にしたんだぁ・・・。良かったじゃあなーぃ、シンちゃあーん 」
綾波、ちゃんとニュアンスわかってるのかなぁ・・・。
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「ミサトさん」
「なーに、シンジ君」
「艦長と副長、おんなじでしたね」
「そうね」
「でも前と印象が違いました」
「ああ、あたし達の事なんかどうでもいい、って感じだったわね」
「そうでしたね・・・どうしてでしょうか?」
「彼等に与えられた情報と命令が違うからよ」
「問題は何が違うのか、ですね」
「そうよ。今のところあたし達が知ってるのはパイロットが違う、という事だけよ」
「そうなんですけど・・・パイロットにはいつ会えるんでしょう?」
「さあ、ね・・・そもそも会わす気あるのかどうか?」
・・・。
「お兄様!」
?・・・あ!俺の事だ!
「どうした、あ・・・」
「「・・・」」
あ!こ、困った・・・。
「だめじゃなーい、シンちゃんったらぁ」
「どうしたの、お兄様?『あ』って何?わたしの呼び名、考えてくれたの?まさか・・・『綾波』の『あ』じゃないでしょ?」
・・・もう年貢の納め時って事か・・・。
「はぁ・・・どうかしたのか、レイ」
「おおーーーーっ!」
「ちょっと黙って!」
その口調とは裏腹に顔が、にんまり、としているよ、綾波ぃ・・・。
ミサトさんはいじけちゃってるけど・・・。
「この上に誰かいるわ」
「そりゃあいるでしょうよ。仮にも航空母艦なんだから、見掛けよりもうじゃうじゃいるのよ、乗組員って」
うーーん、そういう意味で言ってるんじゃないと思うけどな。
「違うわ、そんな事知ってるもの」
ほーら、言わんこっちゃない。
・・・でも、まさか・・・分かるっていうのか?綾波には・・・。
「ええ。そうよ」
!え?俺、今の声に出てたのか・・・。
「でも、どうして?」
「だって、その人、わたしと同じ感じがする」
やっぱり渚カヲル、彼がパイロットなのか。
「ど、どうしよう・・・シンちゃん・・・」
「・・・」
「ねえ、レイがそう感じるってことは多分彼よぉ・・・」
「そうですね」
「そ、そおです、って!」
「何を慌てているんですか、ミサトさん。俺はそのために、彼に逢うために今ここにいるんですよ」
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・
・
艦内の長いエスカレーターを昇った先、巨大航空母艦のだだっ広い飛行甲板の先端のさくの上に彼は立っていた。
・・・。
・・・相変わらず、非常識な奴だな、カヲル君。
普通の人間が見ればギョッとする光景だよ。
現にミサトさんも、いや、綾波ですら・・・唖然と言うのかな。
・
『・・・♪♪♪♪♪♪♪♪・・・』
・・・好きなんだね、やっぱりその曲なのか・・・。
近づいていく・・・ゆっくりと。
不思議だ。
・・・なんでこんなに気持ちが落ち着いているんだろう?
自分が自分のこの手でコロシタのに。
俺がナニモノであれ、その記憶は残っている、その手の感触とともに・・・。
・
ミサトさんと綾波は少し遅れて、俺の陰に隠れる様にしてついて来ている。
二人とも彼が使徒である事を知っている、無理もない、か。
・
彼はもう俺の目の前にいる。
俺達の存在にはとうに気が付いている筈だが・・・前方の海を見つめているのか・・・鼻歌だけが辺りを支配している。
彼が柵から軽く跳躍し、文字通り音もなく、甲板に降り立った。
「君が碇シンジ君だね」
「・・・」
咄嗟に返事が出来ない。
「僕はカヲル、渚カヲル。君と同じ仕組まれた子供、チルドレン、だよ」
「ああ、聞いてるよ。俺が碇シンジだ。そして・・・」
「想像していたシンジ君とは少々イメージが違うんだね。意外だったな」
何を・・・何を言ってるんだ、彼は?
「・・・」
「そちらが葛城一尉と綾波レイ、零号機のパイロット、ファースト・チルドレン、だったかな?」
「その通りよ、渚カヲル君。私がネルフ本部作戦部所属、葛城ミサト一尉。最初に言っておくけど、あなたの今の立場はネルフに関して言えば部外者です。従って我々の指揮命令系統にないわ。ただし・・・」
「有事の際にはネルフの権限が最優先、でしょう?わかってますよ」
やっぱりすごいな、ミサトさんは。もういつもの自分を取り戻している。
まあ、カヲル君も相変わらず、か・・・ミサトさんのこめかみがピクピク震えてるんだけどなぁ。
「あなた、何故わたしとおんなじ感じがするの?」
「やあ、レイちゃん」
あれ、綾波がちょっとムッとした顔になった?
「初対面のあなたにいきなり『レイちゃん』なんて呼ばれる筋合いもないし、許可した覚えもないわ」
あ、怒ってるんだ、綾波。
「ま、そう冷たい事言うなよ。葛城さんの了解さえ得られれば、僕も晴れて『フォース・チルドレン』になるんだよ。君達の戦友になるんだ。ね、ヨロシク」
と言って極自然に手を差し出す。
「な、何勝手な事言ってんのよぉー!」
ミサトさん、切れたな。
え?
「そう。わかったわ。こちらこそよろしく」
綾波がカヲル君と握手してる・・・。
微笑むカヲル君・・・。
?
「あ、綾波ぃーー!」
どうした?何があったんだ?
綾波がカヲル君と握手した姿勢のまま力なく崩れ落ちていく。
あれ?・・・俺のイシキが・・・ミサトさんが何かサケンデ・・・あれ?・・・オレハシットシテイルノカ?イッタイダレニ?
・
・
・
ここは・・・俺の部屋、か・・・。
まだ頭が混乱しているのか・・・。
・・・結局のところ、俺は何のためにあそこに行ったんだろう?
・
選ばれた参号機のパイロットは渚カヲルだった。
参号機に第拾参使徒バルディエルは寄生していなかった。
第六使徒ガギエルは現れた。
第拾七使徒タブリスも現れた。
そして・・・。
第六使徒ガギエルは第拾七使徒タブリスにより即時殲滅殲された。
それは正しく瞬殺というべきものだった…誰も何も出来なかった。
国連もネルフですらそもそも使徒の出現を感知していなかったのに・・・。
カヲル君は参号機を一瞬で起動し、B型装備のまま海中に潜行し、使徒を殲滅。
・・・。
カヲル君、いや、第拾七使徒タブリス、イッタイナンノタメニキミハアラワレタノダ?
『コンコン』
!
「は、はい!」
「シンジ君、いいかしら?」
「ええ、どうぞ、リツコさん」
『ガチャ・・・』
「どう、具合は?」
「あ、大丈夫ですよ。すみませんでした、ご心配お掛けして」
「そう、まあ私が診断したからそう心配してた訳じゃないんだけどね」
「本当にすみませんでした。結局俺は何もしてないし、出番もなかった」
「ああ、レイに聞いたのね」
「ええ」
「ま、彼がやったのだから、予想されて然るべき結果よ。シンジ君が気にする事じゃないわ」
「はい」
「それよりも気にすべき事があるわ」
「カヲル君の異常な能力の事ですか?」
「何寝惚けた事言ってるのよ、シンジ君!」
「へ?」
「そんな事はいいのよ、彼は使徒なんだから」
「・・・」
ま、そう言えばそうだよな。
「私が言いたいのは、何故あなたとレイが気を失ったか、という事」
「あ、はい。本当にどうなったんでしょうね?」
「彼が原因である事には疑いの余地はないでしょう。問題は彼がレイに、そして、あなたに何をしたのか、という点ね」
「レイは何と言ってるんですか?」
「・・・」
「・・・」
「レイについては…あとで話します。まずはシンジ君の覚えている事や感じた事を話してくれるかしら」
「はい、いいですけど」
なんでレイの事は後回しなんだ?さっき俺が話した時には変わった様子はなかった、よな?
「・・・」
「そうは言っても、実のところ何も覚えてないんですよ。レイがカヲル君と握手して、俺も、と思ったところまでは覚えてるんですけど・・・その先は、さっぱり。気が付いたらネルフの病室でした 」
あれ?・・・そうだったっけ?
何か違うような気もするな・・・記憶が混乱しているのか?
「シンジ君、意識を失う直前の記憶、もう一度良く思い出してみて」
「違うんですね、リツコさん」
「そういう事」
「俺も今、自分で話していながら、これは違う、っていう気がしてました。記憶の外的操作・・・ですね 」
「そうかも知れないし、そうではないかも知れないわ。シンジ君が気が付いていてそれなんだったら、もういいわ」
「そうですね・・・やっぱりカヲル君なんでしょうね。彼は今どうしてるんですか?あ、あと綾波は?」
「渚カヲル君は碇司令と面会してるわ。レイはミサトと本部で待機中」
「じゃ、俺も行きます」
「そう言うと思ったわ。止めても無駄なんでしょうから、止めないわ」
「ありがとうございます」
「ただね、シンジ君。もう電車もバスもないわよ」
「・・・」
「明日にしなさいな」
「・・・」
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