『俺と僕で何?』
第弐拾六話 カヲル、来襲
「おはようございます」
「おはよう、シンジ君」
「リツコさん、俺、今日は本部に行きます」
「あら、どうして?今日は学校でしょ」
「何言ってるんですか!カヲル君に会う方が大事ですよ」
「だったら尚更学校に行かなきゃだめよ」
「え?」
「彼は今日からシンジ君のクラスメイトになるのよ。レイが監視を兼ねて学校へ彼を案内する事になっているのよ」
「え、えっえーーー?」
「あら、夕べ言わなかったかしら?」
「・・・」
聞いてませんよ、リツコさん。
「そうね、言い忘れたかも知れないわね」
「わざと言わなかった癖に・・・」
「ま、そういう事だから今日は学校に行きなさい」
「はい、わかりました。しかしカヲル君が学校に通うとは思ってもみなかったな・・・でも綾波、大丈夫なんでしょうね?」
「そうね。一応護衛もたっぷり付けてるわよ。ただ彼が本気を出したらなんの役にも立たないでしょうね。」
「・・・」
そりゃそうだろ、使徒、なんだからな、カヲル君は。
・
・
・
「あ、碇君、おはよう」
「おはよう、あや、レイ」
「あ、おはよう、お兄様。危なかったわね、『あや、レイ』」
「な、何がだ、レイ?それよりも大丈夫だったか?カヲル君に変な事されなかったか?」
「ええ、問題ないわ。彼、とても親切だっもの」
「そうか、ならいいんだ」
カヲル君はいったい何を考えているんだ?
「お兄様、今日は早いのね。まだ誰も来ていないわ」
「そうだな。レイの事が心配で時間の事は考えていなかったからな」
「お兄様」
「なんだい、レイ」
「レイ、心が暖かくなった感じがする。嬉しいのね、わたし。それはきっと、お兄様がレイの事を思ってくれているから」
「レ、レイ」
「お兄様」
『ガ、ガタン!』
なんだ?
「あ、ヒカリ。おはよ」
「あ、お、おはよう、洞木さん」
「お、おはよう、お二人とも」
「どうかしたの、ヒカリ?」
「あ、あの。なんでもないわ」
「そう。ならいいわ」
「レイ」
「なあに、お兄様」
洞木さんがヒクヒクしてる、なんか一人で勘違い、と言うか、妄想状態になってるような気もするけど。
「ところでカヲル君は?」
「今は校長室。校長先生から日本の教育システムについて講義を受けているわ」
「はあ?」
「彼、学校通うの初めてみたい」
「で、色々質問した、と」
「そうよ」
「難しい質問だった、と」
「さあ、どうなのかしら?でも、担任の先生は彼を校長室に連れて行ったの」
そうか。きっと哲学的な発言でもしたんだろうな。
「お、今日は早いな、碇」
「綾波さんも早いのね」
みんなが登校してきた。
「よう、シンジ」
「やあ、おはよう、ケンスケ」
「おはようさん、シンジ」
「おはよう、トウジ」
・
・
・
「さて、今日は転校生をご紹介します。さ、入ってきなさい」
『ガラッ!』
・・・。
一瞬教室内は静寂で満たされた。
「さ、挨拶したまえ」
担任は場の雰囲気に全く動じていない。
「渚カヲルです。以後よろしく」
いやにあっさりとした挨拶だな。
で、周りからは、「かっこいいじゃない」とか、「すかした奴」とか、「渋くっていいわ」とか、「きざだな」とか、「素敵・・・」とか、いろんな感想が聞こえて来る。
総じて女子生徒の受けはいいみたいだ。
「で、渚君の席だが・・・」
「先生!」
「何かね、渚君?」
「出来ればシンジ君のそばがいいなあ」
な、なにを言ってるんだよっ!
『・・・ザワザワッ・・・』
今度は、周りから、「碇君の彼なの?」とか、「それって・・・おホモ達?」とか、「渚君もパイロットなのかしら?」とか、「薔薇族だったのね・・・」とか、「いや、不潔よ!」とかいった感想が聞こえて来た。
「・・・」
これからどうなっちゃうんだろ・・・。
・
・
・
あ!カヲル君がアスカに近付いて行く。何をする積もりなんだ?
「やあ、惣流さん」
「何か用?」
「僕はカヲル、渚カヲルだ。おんなじエヴァのパイロットなんだ。これから宜しくお願いするよ」
「・・・あんたねぇ、それが人に物をお願いする態度なの?」
あ、アスカ怒っちゃった。
「あれ?いけなかったかな?」
「態度でかいわよ、あんた」
「気を悪くしたのなら謝るよ」
カヲル君、わざとやっとるのかな?アスカ、もっと怒るんじゃないかな?
「それも人に謝る態度じゃあないわね。・・・は ぁ、まあ、いいわ。あんたも日本は慣れてないんでしょうから、あかしみたいに、徐々に慣れていけばいいわよ、日本人の習慣や心情にね」
げ!アスカはあれで慣れた積もりだったのかぁ?
「で、惣流さん。早速お願いなんだけど、校内を案内してくれないかい?」
「な、なんであたしがあんたにそんな事しなくちゃいけないのよ!」
「別にしなくちゃいけない訳じゃないよ。だからお願いって言ったじゃないか。」
「・・・」
「駄目なのかい?」
「学校の案内なら委員長のヒカリがいるじゃない!」
「でも洞木さんは今は忙しそうだからね」
あ!まずいよ、カヲル君。
「じゃあ、あんたはあたしが暇だってぇの?」
・・・ほらぁ・・・。
「洞木さんよりは暇なんじゃないかな」
「ぐ、し、しょうがないわね」
え?
「じゃあ、付いて来なさい。駆け足で行くから遅れるんじゃないわよ!」
え、えっえー?
「わかったよ」
「さあ、レディ・・・ゴー!」
バタバタガッタアーン!
・・・。
「行っちゃったわね」
「うん」
「アスカ、楽しそうだったわね」
「そ、そうなのかな?」
「アスカと渚君ってお似合いかも知れないわ」
「レ、レイがそんな事言うなんて珍しいね」
「そう?」
「そうだよ、前はそういう事には無関心だったじゃあないか」
「それはお兄様も一緒だわ、だってお兄様は・・・」
「俺が、何?」
「・・・何でも無いわ 」
何が言いたかったんだろう、綾波?
・
バタバタバタガタガタバッタアーン!
・
「あら、二人が帰って来たわ。お帰りなさい、アスカ。楽しそうね」
「あ、レイ・・・はぁはぁ・・・ぜぃぜぇ・・・。まあ、まずまずと言ったところかしらね。渚の足がそこそこ速いのは認めてあげざるを得ないわね・・・はぁはぁ 」
・・・校内の案内じゃあなかったのかぁ?
「やあ、シンジ君」
「カヲル君・・・」
「心配する事はないよ。惣流さんは校内全てを案内してくれたんだ」
「あ、そうなの?」
「ああ。・・・男子トイレや女子トイレの中に案内された時には流石がに少しドキドキしたけどね 」
「!」
「!」
「アスカ、そんなところまで案内したの?」
「行き掛かり上よ、行き掛かり上!」
はぁ、ま、楽しくしてくれる分にはいいんだけどね・・・。
・
綾波はカヲル君との初対面であんな目に遭ったのに平気なのかな?
そう言えばあの時、何があったのか詳しいことはまだ聞いていなかったんだっけ・・・。
・・・やっぱり気になるのは・・・カヲル君のことだ。カヲル君はこの状況について何かを知っている、いや、全てを知っているに違いない。
リリスと同化した綾波と最後まで一緒にいたのは間違いなくカヲル君だっただろうからな・・・。
彼は明らかに自分が全ての記憶を持っていることを隠そうとしていないように思える・・・。自ら積極的に話すことこそしないが、こちらから聞けば教える意図みたいなものが感じられる、そんな気がしてならない。
カヲル君は、俺達を、綾波をどうしたいのかな?
・・・綾波はどうしたいのかな?
綾波の魂自体は一人目も二人目も三人目もおんなじなんだと思える。
ただ、記憶は微妙に違う、今の綾波の記憶は二人目のものだ・・・いや、正確に言えば二人目のものだった。
綾波は今の自分が二人目だということを知ってるし、前の世界では三人目まで移行したということも知ってしまっている。その時点で前の世界の二人目の綾波とも違う綾波になってしまっているんだ。
いや、リツコさんが色々と前とは違う事をした時点でもそうだし、俺なんかと一緒に住んでいること自体が前の綾波とは違う綾波を形作っている。
この綾波は綾波で掛け替えのない綾波に違いないんだ・・・。
リツコさんの行動が綾波を変えたんだろうけど、それはそれで仕方ないことだ。リツコさんも当時は不安な気持ちで、綾波に綾波自身の状況を確認したかったんだろうし、綾波に対する贖罪の気持ちもあったんだろうからな。
あとはミサトさんやリツコさんや加持さんなんかのこともある。
あの人達は、カヲル君が全ての記憶を持っているかも知れないと知ったら、何が何でも真相を聞き出そうとするだろう。
リツコさんは・・・微妙かな・・・自力で探りだそうするかも知れないだろうな。
・・・気を付けないといけないのは・・・アスカだ。
アスカの夢枕に立ったのはやはりカヲル君だったんだろう。
学校でのカヲル君のアスカに対する態度は、カヲル君がアスカを知っている事を感じさせた。
でも、前の世界ではカヲル君はアスカに会っていなかった筈だ。
・・・。
「シンジ!」
「ん?何、アスカ」
「何じゃないわよ!何ボケボケッとしてるのよっ!もう授業終わっちゃったわよぉ」
「今日のお兄様はなんか変・・・」
「そ、そっかな?」
「そっかな、じゃないわよ!レイ、これはね、ぜぇーたい、あの渚っていう奴の所為よ」
「渚君の所為?彼はいい人だわ」
「それよ、それ。レイ、あんたがそんな事を言うから気になって仕方ないのよ、シンジは」
「どうしてそういう発想になるのさ!」
「うふふふふ・・・わかんないの?」
「何がだよ」
「ほんとにあんたは馬鹿ね。わかんないんなら、このあたしが教えてあげるわよ」
「・・・」
「シンジ、あんたはね、焼き餅を焼いてるのよ」
「はぁ?」
何を言い出すんだ、惣流は・・・。
「なあに頼りない声だしてんのよ」
「だってさ、俺が一体全体誰に焼き餅を焼くっていうのさ?」
「そんなの決まってんじぁあないの!」
「全然わかんないよ。何が決まってるんだよ!」
「あんたってつくづく鈍感なのねぇ・・・レイに焼き餅を焼いてるに決まってんじゃないの!」
「え?わたしに?」
「そうよ!愛しい可愛い妹に、ポッと出の転校生が色目を使ってきたらさ、普通兄貴としては放って置けないでしょ!」
「あのね、惣流。俺とレイとは兄妹なんだぜ。百歩譲って俺が気にしてるとしても、焼き餅ってのは日本語として間違ってるぞ」
「あら、全然間違ってないわよ。だってあんた達は本当の意味では兄妹じゃないじゃないの」
「え?」
なんで惣流がそんな事を知ってるんだよ。ミサトさんか・・・。
「ほーら図星じゃない」
「はぁ・・・アスカ、俺とレイとはそんないじゃないんだ。ミサトさんから何を聞いたか知らないが、俺とレイはそういう感情を持つ事はないんだよ 」
「そんなのわかんないわよ。人間は機械じゃない、理性だけじゃ生きて行けないんたから」
「・・・」
まさか・・・惣流からそんな言葉を聞けるとは思わなかったな・・・。
「アスカ、わたしはお兄様はアスカに焼き餅を焼いてるんじゃないかと思った」
「「え・・・・・・、えっえーー?」」
「「なんで俺(あたし)が?」」
「・・・変?」
「「変、変!」」
「そうかしら?最近のお兄様はアスカと渚君の事ばかり考えていたみたいだもの」
綾波は相変わらず鋭いところがあるな。
「なんやなんや、三人揃って何話しとるんや?」
「まさか碇、痴話喧嘩か?碇と綾波と惣流、あと渚カヲル。さしずめ複雑な四角関係といったところだな」
いかん・・・話がだんだん変な方向に行ってしまう。
「そうじゃないの、相田君」
「え?違うのか、綾波」
平和な会話、こういう学園生活がずっと続くのもいいんだけどな。
そうはいかないんだ。
使徒はまだ来る。前の世界とは変わってしまったけど、まだまだ戦いは続くんだ。
「みんな、何を話しているんだい?」
「カ、カヲル君」
「授業が終わっても直ぐには帰らないんだね、君達は。それは仲が良いっていう事なんだね、きっと」
「そ、そうなのかな?」
「それはそうなんじゃないのかと思うよ。それとも、シンジ君は嫌いな人達とも会話を楽しめるのかい?」
「いや、そういう意味じゃないんだけど・・・」
「まあいいじゃない。そろそろ帰りましょ」
「僕も一緒に帰らせてもらってもいいかな?」
「あんたの好きにすればいいんじゃないの。いちいち断ることないわよ」
「そうかい。じゃあ勝手に付いて行くことにするよ」
・
「あのさ、カヲル君」
「なんだい、シンジ君?」
「カヲル君は本部の宿舎に住んでいるんだろ?」
「ああ、そうだけど」
「それじゃあ方向が違うんだけど」
「ああそういうことなら心配する必要はないさ。今日は何の予定もないからね。僕はただみんなと一緒にいて交遊を深めたいんだよ」
「ふーん。あんただったらクラスの女子が色々と相手してくれると思うけど」
「そんな冷たい事言わないでくれないか、哀しい気持ちになるじゃないか、惣流さん」
「まあ、いいじゃないか、アスカ」
「そうよ、これから一緒に戦う戦友なんだから仲良くしておくに越した事はないわ」
「ところで、惣流さん」
「なにかしら、渚君?」
「惣流さんってさ、僕達と話す時と他のクラスメイト達と話す時では言葉遣いや態度が全然違うんだけど、どうしてなのかな?」
「ああ、その事?」
「そっか、やっぱりカヲル君は気が付いたんだね。そのうちアスカに聞くんじゃないかと思ってたよ」
「はぁ?何よシンジ。あんたもおんなじ疑問を持っていたってぇのぉ?」
「ああ、最初はブリッ子してたけどさ、俺達には地を出すようになったじゃないか。でも、他のクラスメートには地を出していない。相変わらず『私は』とか『です、ます調』でやってるだろ。なんでかなって思ってたんだよ 」
「それは俺も気が付いていたさ。それはトウジだって同じだろ、な?」
「まあ、わいかて気は付いとったけどな。そんなもん、別にわざわざ理由を聞く必要もあらへんしな」
「そうなのかい?みんなは理由を知ってるのかい?」
「わいやケンスケは何となくわかっとる。綾波もおんなじやろ」
「そうなのかい?シンジ君はどうなんだい?」
「え!俺?」
* 感想をお願いします。