『俺と僕で何?』


第参拾壱話 三人目の記憶


渚君が最後に碇君にした質問。

『シンジ君は僕の事、好きかい?』

・・・

・・・あの質問の意味はなんだったのだろう?

碇君は少し戸惑って・・・、そして、少し哀しそうに泣き笑いしていたけど・・・

ミサトさん達は・・・何だか優しい感じで嬉しそうにしていた。

その後ミサトさんと加持さんは帰って行ったけど、渚君は碇君の部屋で一緒に仮眠するって。

彼は使徒なのだから本当は仮眠の必要なんてないのに・・・

二人で何を話したのかしら・・・気になるわ。

前の碇君と渚君の関係って、何か特別な事があったのかしら?

わからない・・・

・・・

こんな事を考えていると、なんだか眠れなくなってしまったわ。

それに少し嫌な・・・感じがする。

何故?

わたしは何をしたくてここに居るの?

今のこのわたしはどうなっていくの?

・・・ピピピピピピピ)

ん?

・・・わたし、いつの間にか眠っていたのね。

(モゾモゾ)

あ!もうこんな時間・・・

完全に遅刻だわ。

碇君は?

(カチャン)

(パタピタパタピタ)

・・・誰もいない。

メモ?・・・碇君のメモ。

『リツコさんは本部、僕はアスカと一緒に学校に行きます。学校には欠席にしとくから、綾波は今日は無理しないでゆっくりしているといいよ。冷蔵庫に、朝食用のサンドイッチとお昼用のお弁当が入っているから食べてね。お弁当箱の方はそのままレンジで3分温めてね 』

碇君が作ってくれたサンドイッチとお弁当・・・嬉しい。

(ぱくっ!あむあむ・・・

・・・美味しい。

(ぱくぱく・・・ごっくん)

美味しい・・・

ごちそうさま、碇君。

シャワーでも浴びよ。

・・・気持ち良かった・・・

・・・繰り返すこの世界・・・

・・・こんな世界で、これからのわたし達は何をすれば良いのだろう?

今のアスカは前の事を何も知らない。

でも・・・アスカはいずれ思い出すかも知れない。その可能性はあるもの。

リツコさんも、ミサトさんも、加持さんも全ては知らない。

でも、あの三人は前の事を全て覚えている。ただ三人ともサードインパクトの前に死んでしまったんだだけ。

そしてわたしも全ては知らない。

それは・・・わたしは、それよりももっと前に死んでしまったから。

もし記憶が肉体に宿るものならば、わたしはこれでもう全てを思い出している事になるわ。

あの三人と同じ。

三人目のわたし、サードインパクトを経験した筈のわたし・・・彼女は今はまだあの水槽の中。

本当にサードインパクトまでの結末を最後まで知っているのは、今のところは碇君と渚君だけ。

・・・

碇君・・・あなたは何を望んだの?

そして三人目のわたし・・・あなたは何を望んだの?

渚君、あなたが守ろうとしているリリスとの約束って何?

わたしは結局何も判っていない・・・

今のままのわたしでは何も出来ないわ。

・・・碇君・・・

ん?

・・・

わたし、いつの間にかまた眠っていた・・・

枕が濡れてるわ。

泣いていたの、わたし?

「お帰りなさい、碇君」

「ただいま、綾波。ゆっくり休めた?」

「うん、ずっと寝てたみたい・・・

少し恥ずかしい。

「そ、そう、もう大丈夫なの?」

「ええ。あ、食事、ありがと。美味しかったわ」

「ホント?良かったぁ・・・

「碇君が作ってくれた物は何でも美味しいわ」

「まあ、何でも、って言うのは言い過ぎだよね」

「そんな事はないわ」

思わず首を横に思いっ切り振ってしまう。

「そんなに喜んでもらえるとホント作った甲斐があるよ」

「明日はわたしが作る。碇君、食べてくれる?」

「もちろんだよっ!」

「リツコさん、遅いね。そろそろ晩ご飯の買い出しに行かないといけないんだけど」

「ええ。いつもならもう電話くらいあってもいい時間だわ・・・何かあったのかしら?」

「リツコさん、今日はもしかしたら泊まりになるかも知れないって言ってた。電話かメールくれるって」

「徹夜だったのにまた泊まりだなんて・・・大丈夫かしら?」

「大丈夫だよ、大人なんだから。多分適当に仮眠とかしてると思うよ」

「そう・・・そうかも知れない 」

「今日の晩御飯はどうしようか・・・何か食べたい物ある?」

「ラーメンがいい」

「ラーメン?いいけどさ。そんなんでいいの?」

「うん」

「何ラーメンがいいの?」

「『前』ミサトさんに食べさせてもらったラーメンがいい」

「うーーんと『前』って・・・あ!落ちて来る使徒をみんなで受け止めたご褒美で奢ってもらった屋台のやつか 」

「そうよ」

「確か・・・『ニンニクラーメンチャーシュウ抜き』だったっけ?」

あ、覚えてくれてた!

・・・嬉しい。

「覚えてくれてたのね」

「あ、うん」

「嬉しいわ」

あ!赤くなった。

「え、だって、思い出したのはつい最近だし・・・

「でもサードインパクトの後でも覚えていてくれたんでしょ」

「あ、そうだね。でも僕は食べてないから綾波が食べたのとおんなじ味にはならないと思うけど、いいの?」

「いいの。碇君が作ってくれるから」

「えーっと、とにかく買い出しに行ってくるから少し待っててね」

・・・わたしも一緒に行く 」

「え?いいけど・・・つまんないよ 」

「いいの」

碇君と一緒なら。

「そう?じゃあ行こっか!」

「ええ!」

碇君と一緒にお買い物。

ラーメンの材料って何かしら?

わたしはただ碇君の後ろを付いていくだけ。

「麺は生の細いやつでいいかな?」

「私は良くわからないの。碇君がいいと思うのであればそれでいいわ」

「じゃあ細麺にしよう。そのかわり汁は薄口にするから」

何か関係があるのかしら・・・良くわからない。

(プルルルルゥ・・・プルルル・・・プルル)

碇君の携帯?

リツコさんかしら?

「リツコさんから、今日はやっぱり泊まりだって」

「そう」

「だから材料は二人分でいいね。早めにわかって良かった。」

「他には何を買うの?」

「ダシとスープは家にあるもんで何とかなりそうだから、後は具だね」

「具?」

「そうだよ。綾波はチャーシューがダメだから、何にしようか?」

「碇君は何にするの?」

「うーん・・・僕はチャーシューと醤油玉子、海苔、メンマかな。あ、サラダはまた別に作るからね 」

「じゃあわたしはチャーシュー以外は碇君と一緒でいいわ」

碇君が具とかサラダとかを作ってる。

わたしは何をすればいいのかしら?

「碇君、わたしも何か手伝いたい」

「ありがとう。でも二人で作るほどのもんじゃないよ」

「でも、わたしも何かしたいの、碇君、教えて」

「うーん、そうだね・・・あ、じゃあ綾波は麺を茹でてくれない?」

「ええ、いいわ。で、どうすればいいの?」

「うん。そこの大鍋にお湯が沸いてるから、そこにざるの麺を入れてくれるかな」

「わかった」

「あ!入れる時は両手で軽く揉みほぐす様にして、後は麺がくっつかない様に箸で軽く掻き混ぜてね」

「わかったわ」

碇君の手真似の通りにやってみる。

麺がくっつかない様に、と。

「あ、綾波」

「何?」

「そんなに目一杯掻き混ぜないで、軽〜く掻き混ぜればいいんだよ」

「こんな感じかしら?」

「うん、いいね。あ!もう時間だからさっきのざるにあけて軽く水切りしてから丼に入れてくれるかな?」

「水切りってなあに?」

「ああ、ざるに入れてから流しの上でチャチャット振ればいいんだよ」

「こんな感じ?」

「そうそう」

「出来たね。・・・汁を入れて麺をほぐして・・・具をのせて、っと 」

「完成?」

「ん、出来たよ。やっぱり二人でやると手早く出来るね。ラーメンは手早さが命だからね!さあ食べよっか」

「うん」

(フゥフゥ)

(ツルツルチュルン!)

(ハフハフ)

(チュルチュルツルン!)

熱い・・・暑い・・・でも美味しい。

「美味しいわ、碇君」

「ングアグ・・・はあ、美味しいね、綾波 」

前に食べた屋台のラーメンもいいけど、家で食べるラーメンも美味しい。

「ごちそう様、碇君」

「お粗末様でした」

「ううん!そんな事はない、とても美味しかったわ」

「ありがとう」

「後片付けはわたしがするから、碇君はお風呂を入れて」

「わかった」

「じゃ」

今日は碇君と二人きり。今までにもあった事。

リツコさんが本部に泊まるのは良くあるもの・・・

あ!そうだ。

・・・でも・・・今碇君に聞いていいのかしら?

その前に赤木博士に相談した方がいいのかしら?

わからないわ・・・

案ずるより産むが易し、だわ・・・

(ガチャ・・・パタン)

(パタペタパタバタペタン)

(コンコン)

『はーい。って、綾波。開いてるから入っていいよ』

(ガチャ)

・・・お邪魔します 」

(パタン)

「珍しいね、綾波が僕の部屋に来るなんて・・・どうしたの、綾波?」

「碇君に聞いて置かなきゃいけない事があるの」

「どんな事なの?」

・・・前のわたしの事 」

「え?前の綾波の事?」

「ええ」

・・・と言っても・・・二人目の記憶は取り戻したんだから、三人目の綾波の事だよね 」

・・・うん 」

「ううーーん・・・話してもいいんだけどさ、綾波はそれを聞いてどうするの?」

・・・

「確かに『前回』の記憶の全てを取り戻せていない綾波にとって、気になる事だって言うのは僕にも分かるよ」

「うん」

「でも今大切なのはさ、今の綾波がこれからどうしていくかだよ。だから、今の綾波が前の綾波の事を聞いてほんとにどうしたいのかが大事だと思うんだけど・・・

・・・うん、それは判ってるつもり・・・

「まあ気になる気持ちは分かるから、もう少し具体的に聞くけどね。前の綾波の何が知りたいの?」

「わたしが思い出したのは、今の二人目の綾波レイが自爆したところまで・・・だから、三人目の綾波レイの記憶はないの」

・・・うん、それはそうだろうけど。で?」

「『二人目の綾波レイ』と『三人目の綾波レイ』って・・・碇君から見て同じ『綾波レイ』だった?」

「難しい事を聞くんだね」

・・・ごめんなさい 」

「本当ならリツコさんに聞く方がいい事だと思うんだけどな」

・・・

それは判ってるの。

この質問が碇君を困らせている事も解ってるの。

・・・困ったな・・・

・・・

・・・逆に僕から綾波に聞くけど、その・・・『一人目の綾波レイ』と『二人目の綾波レイ』って・・・同じ『綾波レイ』だった?」

・・・良く分からないわ・・・と言うよりあまり覚えていないの、まだ小さかったから 」

「うーーん・・・じゃあ、カヲル君に会う前の『前回の記憶を取り戻す前の綾波』と『前回の記憶を取り戻した今の綾波』とは同じなの?」

・・・多分同じだと思う。自分ではそう思っているわ 」

「なら『二人目の綾波レイ』も『三人目の綾波レイ』も基本的には同じ『綾波レイ』なんじゃないかな」

「そう」

「ホントの事を言うと、僕には分からないんだよ。僕にはそういう経験がないからね」

「それは・・・そうかも知れない・・・

碇君を困らせてしまったみたい。

・・・碇君は『三人目のわたし』に何か言いたい事がある、って言ってた。でも、今のわたしは『二人目』・・・

碇君の願いを叶えられない。

でも・・・もし『三人目の綾波レイ』が同じ『綾波レイ』ではないわたしなのなら、わたしがわたしで無くなるのは怖い。

以前だったら・・・リツコさんや碇君と一緒に暮らす前、ヒカリさん達とお友達になる前のわたしだったら、こんな疑問や不安は感じなかったんだろうと思う。

わたしの何が変わってしまったのだろう?

「どうしたの?」

「わたし・・・三人目になるのが不安なのかも知れない・・・

「!」

あ、碇君の目がビックリした様に大きく見開かれた?

「どうしたの、碇君?」

・・・

・・・今度は考え込んでしまったわ。

「どうしたの、碇君?」

もう一度聞く。

・・・あのね、カヲル君に会う前の『前回の記憶を取り戻す前の綾波』と『前回の記憶を取り戻した今の綾波』とにはさ、記憶に違いがある、と言うか、記憶に重複みたいなのがあるでしょ?・・・何て言うかな・・・前回と今回とで変わって来てるよね 」

ん、・・・どういう意味かしら?

・・・どういう事を言いたいのか良くわからないわ?」

「ええーーと・・・うーーん・・・あのさ、綾波は、少なくとも・・・今の綾波がリツコさんの家に住むようになってからは、前の綾波とは違ってるよね、それは解る?」

「ええ、解るわ」

「それとはある意味反対みたいなんだけど・・・『二人目の綾波レイ』と『三人目の綾波レイ』とにも記憶に違いがあったんだ・・・その違いは何だと思う?」

二人目と三人目の記憶の違い、って、記憶の差?

・・・

「あっ!」

「解ったみたいだね。」

解ったわ、・・・

・・・『記憶の欠落』?」

「そうだよ・・・

碇君が微笑んでる。

・・・『二人目の綾波』も『三人目の綾波』も基本的には同じ『綾波レイ』なんだ。ただ『三人目の綾波』には『二人目の綾波』の記憶のバックアップ以降に『二人目の綾波』が経験した事は認識しようがなかったんだ 」

そうなのね・・・

「じゃあ二人目が最後に取ったバックアップから自爆までの記憶が三人目には無かったのね」

「そうだよ」

でも、今のわたしが渚君から三人目の記憶を貰ったとしたら・・・記憶の欠落は発生しない筈だわ。

「碇君」

「何、綾波?」

「碇君・・・前、三人目のわたしに何か言いたい事があるって言ってたわ 」

・・・碇君、吃驚した顔・・・

・・・綾波、僕の言った事を覚えていたんだ・・・

「ええ。」

「綾波・・・そうだったんだ・・・

「碇君の希望を叶えるには・・・わたしは三人目にならなくてはいけないわ 」

「あ、綾波っ!」

!?

あっ・・・碇君に抱き締められた?

「どうして?・・・どうしてわたしを抱き締めるの?」

「あ、ご・・・ごめ。」

「どうして碇君が謝るの?」

・・・僕が・・・僕が不用意な事を言ったから・・・綾波を苦しめたから。だから、ごめん 」

何故?解らない・・・

碇君に抱き締められたまま・・・嫌じゃない、この感触。

「何故、謝るの?」

あ!・・・碇君が腕を解いてしまう・・・

「僕が『三人目の綾波』に言いたい事っていうは、『謝罪の言葉』だったんだよ」

「?」

・・・謝罪?碇君がわたしに・・・謝るの・・・何故?

・・・前回の世界では、僕と綾波は・・・その・・・今回程親しい関係じゃあ無かったんだ 」

「そう・・・そうかも知れない 」

「僕は・・・自分が綾波に対して当時どういう気持ちを持っていたのか・・・今でもうまく説明出来ない。多分、その・・・こ、好意を持っていたとは思うんだ 」

碇君・・・顔が真っ赤。

・・・わたしの顔も多分赤くなってるわ。

・・・わたしの中では、碇君は特別、だったような気がするわ 」

「そ、そうだったの?」

「うん。でも、それがどういう感情だったのかは良く判らない・・・

「僕は・・・三人目の綾波とはほとんど話をしなかった。あの時はトウジの事なんかもあったりして、僕の精神状態は結構ボロボロになってた。・・・アスカやミサトさんとの生活もうまくいってなかった、と言うか、家でもろくに会話も無かったからね・・・みんな追い詰められていたんだと思う 」

「わたしは?」

「良く分からない。綾波が三人目になった後は、綾波とはほとんど会ってもいないんだ。・・・リツコさんのダミー破壊、カヲル君の殲滅、戦自のジオフロント侵攻、そして・・・エヴァ量産機に伴うリリスによるサードインパクト・・・

辛そうね・・・碇君。

・・・ごめんなさい 」

「え、何が?」

・・・辛い事を話させてしまったわ 」

「いや、いいんだ・・・あの当時・・・本当に一番辛かったのは、綾波だったかも知れない。今はそんな気がする・・・

・・・碇君・・・

わたしはやっぱり・・・

わたしは、今の人としての生活に慣れてしまっている・・・

これでは結局前と同じ、前回の・・・ただ運命だと受け入れて流されていた『綾波レイ』でしかないわ。

・・・何のために今回の世界が構築されたのか・・・何のために前回の『三人目のわたし』が渚君に『二人の綾波レイ』の記憶を託したのか・・・

そう・・・そうだわ・・・わたしはわたし。

どんな記憶が甦ろうとも、どんな記憶が追加されようとも・・・わたしは『綾波レイ』でしかないわ。

・・・

・・・

・・・

・・・はぁ。

・・・

・・・

うん!

・・・

(トコトコトコ)

『ガラッ!』

(ペタパタペタン)

・・・

・・・渚君

・・・

・・・渚君に協力して欲しい事があるの・・・

・・・

・・・渚カヲル・・・いえ・・・タブリス」

・・・

「聞こえてるのでしょう?」

・・・聞こえているよ、レイちゃん、いや、リリス・・・か 』

「わたしの望みを叶えて欲しいの」

『何をお望みかな、レイちゃん?』

「教えて欲しいの・・・わたしの願いは何だったのかを 」

『それは僕にも判らないよ。だから、残念だけど、教える事は出来ないね』

・・・わたしが識る方法はあるわ 」

・・・

「あなたなら出来るんでしょう?」

『それはそうだが・・・いいのかい?』

「ええ、もう決めたもの」

『でも、本当にいいのかい?多分一度やると元には戻せないと思うよ、多。』

「うん、いいの。わたしはわたしの使命を、いえ、自分のやりたい事をしたいの。そのためには・・・前の三人目とリリスの記憶は絶対に必要なの・・・

・・・

・・・お願い 」

・・・

・・・協力して!」

・・・

・・・駄目なの?

・・・なぜ?

・・・

・・・碇君・・・ごめんなさい・・・

あなたの力になれないかも知れない・・・

(ポタ・・・ポタン・・・

・・・・・・泣いてるの、わたし?

・・・フィインンン・・・・・・ウィーーーーンンンン・・・

何!?

《ピュイン》

《ブブブブ・・・シュワンッ!》

・・・・・・

「やあ、レイちゃん」

・・・

「何だか驚かせてしまったようだね

「何を抱えているの?」

「ああ、これかい?」

・・・記憶回復装置?」

こんなに小さい物なの?

「いやだな、これは違うよ」

「じゃ、それは何?」

「これはアニメのDVDだよ、この前、貸して欲しいって言ってたろ」

・・・あ!」

「思い出したかい?」

・・・ええ 」

思い出した・・・けど・・・何も今じゃあなくても良いと・・・思う

「せっかくここに来るんだから、序でに持って来たんだよ」

そう。」

「迷惑だったのかい?」

「ううん・・・そんな事ない。嬉しい・・・ありがと、渚君」

「そうかい、良かった。・・・レイちゃんの好みが解らなかったから、ジャンルはバラバラだけどね 」

「あ、うん・・・

「どこに置いておこうかな?」

「え・・・と、取り敢えずそこの本棚に・・・

「了解したよ。・・・んっと・・・これでいいか な」

「うん」

「さてと、本題に入ろうかな?」

あ?

「その前に・・・あなたはどうしてここに来たの?」

「どうして、って・・・レイちゃんの側にいないと記憶を還す事が出来ないからね・・・

・・・

「ううん・・・そういう意味じゃあなくて・・・

「あ、ああ。How to?って事?」

「そう

「まあ、テレポーテイションの一種だよ。S2機関があれば造作の無い事さ。レイちゃんも記憶を取り戻せば出来るようになるよ」

わたしにも出来るようになるの?

・・・それって・・・わたしも使徒になるという事?」

「いや、違うよ。君は『リリス』として覚醒するのさ」

・・・今のわたしは人間、なの?」

「厳密に言えば、『人類』ではない。だが『ヒト』だよ」

・・・『リリス』として覚醒したわたしは?それも『ヒト』なの?」

「レイちゃん

なに?

「『リリス』として覚醒した君は、君自身が望めば・・・何にでも・・・『リリス』にも『使徒』にも『アダム』にさえなれるんだ。ただし・・・『ヒト』にも『人類』にすらなる事も出来る 」

・・・わかったわ。わたしの気持ち次第、と言う訳ね・・・

「そうだね」

わたしはわたし・・・『綾波レイ』だわ。

わたしの心は変わらない。

「碇君に気付かれないかしら?」

「それは心配ない」

「どうして?」

「今のこの空間は結界化している」

「結界?」

「ああ、元の時空から切り離されているのさ」

「じゃあ・・・とにかく・・・碇君には気付かれないのね?」

「保証するよ」

・・・さあ、後戻りは出来ないわよ、レイ!

・・・じゃ、はじめましょ 」

「了解」

渚君がわたしに向かって手を差し出した・・・

まるで握手をするかのように・・・

・・・オーバー・ザ・レインボーの時と同じ?

「さ、今の自分のイメージを強く持って、今の自分の自我が崩壊しないように、ね」

・・・ええ、大丈夫よ 」

「僕の手を握って・・・

自分も手を差し出す。

躊躇は・・・ない。

前に進むんだ・・・

忘れてしまったこの世界の意味を、そして、この世界での自身の使命を、取り戻すのだ。

指の先が触れた・・・

渚君がわたしの手を握る。

・・・凄まじい想念が流れ込んで来る・・・

過去に繰り返されて来た・・・この宇宙の歴史・・・

・・・この第3新東京市で・・・ジオフロントで起きた事も・・・

綾波レイ、碇シンジ・・・碇司令、赤木博士、葛城一尉・・・みんなの気持ち・・・

何度も・・・何度も・・・

・・・なぜ・・・

・・・どうして・・・

・・・何故・・・

・・・いけない・・・わたしの自意識を維持しなくては・・・

飲み込まれてしまうわ・・・リリスに・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

・・・・・・そうして・・・・・・・・・わたしの自意識は・・・終いには完全に弾け飛んだ。


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