『俺と僕で何?』


第参拾参話 戦士の休息


「お早うございます」

「お早う、シンジ君」

「お早う、碇君」

今日も綾波の方が先だ。

「リツコさん、今日の予定は?」

「今日は何もないわよ」

「アスカもですか?」

「ええ、ないわ。」

「だって、綾波。どうする?」

「どう、って?」

「いや、たまのフリーな日なんだからさ、アスカとカヲル君も誘ってどこか行かないかな、と思ってさ・・・」

「どこかに行きたいの」

「うーん・・・特にこれといって思いつかないけど・・・」

「リツコさんは?」

「せっかくだけど今日も本部なのよ、レイ。あと渚君は私との用事があるから無理よ、悪いけど・・・」

「そうですか」

綾波・・・なんだか残念そうだな。

「とりあえずアスカを誘ってみるよ」

「おはようございます、ミサトさん」

『あ、おはよう、シンジ君』

「ミサトさん、アスカいますか?」

『いるわよ。ちょっち待っててね』

「はい」

・・・スピーカーモードにして綾波にも聞いてもらわなくちゃね。

『シンジ、なんか用?』

「あ、うん・・・今日は僕も綾波も特別用事がないだけど、アスカも暇だったら一緒にどこか出掛けないかな、と思って・・・。

『そう言われてみればそうね』

「だろ。綾波と三人でどっか遊びに行かないか?』

『うーーん・・・そうねぇ・・・この辺で何か面白いとこってあるの?あ、遊園地、って・・・あったっけ、なかったっけ?』

「ああ・・・そういえばあったね・・・」

前・・・アスカがデートで行ったところだよね。

「・・・そこに行きたいの?」

『まあ、ちょっと子供っぽいけど、シンジとレイにはお似合いじゃん!』

「そ、そうかなあ・・・?」

『じゃあ待ち合せ場所は遊園地の入口で時間はあんたが決めるのよっ!』

「あ、うん・・・今からだと・・・10時でいいかな?綾波は大丈夫?」

「10時ね・・・平気、かまわないわ」

『で、何時?』

「なら10時に遊園地入口で」

『了解っ!じゃ、またあとで!』

(ブチッ!・・・ツーーツーー・・・)

「・・・切られちゃったよ・・・」

せっかちだな、アスカって・・・。

「じゃあ俺達も早く準備して出掛けようか」

「わかったわ」

「アスカ、遅いね」

もう10時15分だ。

「アスカの家のからの方が近いのに」

「そうだね・・・何かあったのかな?」

「それなら携帯に連絡入る筈。電話してみる?」

「いや半までは待ってみようよ」

「わかったわ」

「お待たせっ、ご両人!」

「遅いよ、アスカ」

「何かあったの?」

「ああ、服どれにしようか迷ってたら10時になってたの」

「僕ら三人だけなんだから服なんて何でもいいだろうに」

「そうはいかないわよ。他にも客はいるんだから、誰に出会うかわかんないでしょ!」

「まあ、それはそうだけど」

「男はぶちぶち言わないで、さっさとチケット買ってらっしゃい」

「え、三人分?」

「とーうっぜん!」

「なんでさ?」

「あんたが誘ったから来てやったんでしょうが!」

「なんだよ、それ?」

「さあさ、行った行った。時間が惜しいわ」

「もう、調子いいんだからな、アスカは」

「わたし払うわ」

「いいのよ、レイ。どうせシンジはお金の使い道なくて有り余ってるんだから」

確かにあんまり使ってないけど、それとこれとは話が別だ、なんて言うのはやめとこ。

「じゃあ、チケットは僕の奢りにするけど。他のは割り勘だよ」

「オッケーオーケー」

「わかったわ」

「最初はジェットコースターで決まりね!」

「え?いきなりそんなハードでいくの?」

「人気が高いから最初に乗っといた方が無難」

お!綾波がそんな事言うのは意外だな・・・。

「綾波、ここに来たことあるの?」

「うん」

頭をコクンとさせる。

「へえ、あんたが遊園地とは意外な取り合わせねえ・・・いったい誰と?」

「碇指令」

「「えっ!?」」

綾波と父さんが二人で遊園地なんて・・・ちょっと想像出来ないな。

ガードもたっぷり付いて・・・ん?

「もしかすると貸し切りだったの?」

「うん」

またあの頭をコクンとさせる可愛い仕草だ。

しかし楽しかったのかな、そういうんで?

「それであんた楽しかった訳?」

「よくわからないわ」

「さあ、料金分しーっかり楽しまなくっちゃあねっ!」

アスカらしいや。

「そうだね」

「・・・」

・・・綾波も。

アスカって意外と絶叫タイプだったんだなぁ・・・で、綾波は無言、か・・・身体は遠心力でカックンカックンしてて・・・楽しんでるのかな?

「アスカはきゃあきゃあ言って楽しそうだったけど、綾波も楽しかったのかな?」

「無駄よ!」

「へ、何が?」

「レイよ」

「?」

「気絶してたのよ、この子は」

ありゃりゃ。

「ああ、今日は楽しかったわ」

「ほんと、久々に遊んだ、って感じだったな」

「あんたはどうだったのよ?前の時と比べてさ」

「楽しかったわ、みんなと一緒だったから。今度は渚君と四人で来ましょ。」

「何だったらヒカリやジャージやメガネも呼んでやるか。」

トウジとケンスケの事か。

「人数が多い方がもっと楽しいの?」

「そういう場合もあるさ、綾波」

ちょっと小首を傾げている綾波、これも可愛い。

(ガチャッ)

あ、リツコさんもう帰ってたんだ。

(トコトコトコ)

「ただいま、リツコさん」

「ただいま」

「お帰りなさい、どう楽しかった、ここの遊園地は?」

「ええ、楽しかった。前に碇指令と行った時よりはずっと」

「そ、そう。良かったわね、レイ」

「はい」

「俺も楽しめましたよ」

「それは上等」

「はい。・・・ところで今日は渚君とは何を?」

「ああ。彼とはこの前の話しの補足で幾つか質問をさせてもらったの」

「何かわかりましたか?」

「そうね・・・やはり使徒と意志疎通を図るのは少々無理があるみたいね。まあ渚君が試してみるとは言ってくれたけど」

「そうですか」

「ただ仮に使徒を説得出来たとしてもこの世界に居続けて頂くって訳にはいかないでしょうね」

「まあ、あの姿形では無理でしょうね」

まさか動物園に入ってもらう訳にもいかないだろうし。

「ヒト型になれればいいのに」

「そうね。 確かにレイの言う通りヒト型に変態出来れば話しは別ね」

「でも現段階でその可能性は未知数ですね」

「まあそういうこと。第参から第六の使徒はもう倒しちゃったからもうこの宇宙から出て行ってしまっているわ。第七から第拾七使徒まで十一人のヒト型使徒、ってどう扱えばいいのかしらね?」

「さ?そこまではミサトさんとは話しませんでしたから」

「葛城一尉のこと、何か妙案、というか、珍案があるのかも知れないわ」

綾波って真面目な顔して冗談みたいなこと言うけど・・・本気なのかな?

「それよりも第七使徒イスラフェルの来襲はもうそろそろの筈。」

「一応ユニゾン練習しときますか、レイと俺とで」

「多分必要ないと思うけど、時間があるなら一応やっておいてもらおうかしら、良い?」

「いいですよ。一緒に住んでるんだし、ね、綾波」

「ええ、碇君がさえ良ければ」

あ、赤くなって俯いちゃった・・・。

「じゃ今日から少しやろう」

「ええ。」

「前の踊り覚えてる?」

「多分、大丈夫だと思うけど」

「あ!」

「何?」

「音楽がないや」

「あらあるわよ」

「え、リツコさんが?」

「ええ、ここに」

「へー、流石はリツコさん。準備いいですね」

「一応全ての可能性を念頭に置いているだけよ。たいした事じゃあないわ」

「じゃ、わたしの部屋で。碇君」

「あ、ああ。わかった」

綾波の部屋でって・・・あんまり入った事ないんだよな、綾波の部屋って。

綾波の額に汗がうっすらと滲んでいる。俺はかなりの汗をかいた。

「最近運動不足でちょっとこたえたな」

「そうね」

「でも、結構覚えてるもんだな。俺はまだしも、綾波は観てただけだったのに」

「練習してたの」

「え?」

練習、って、いつ?

「自分の部屋で」

「ここで?」

「いえ、違うわ」

それって・・・まさか。

「前の時の事を言ってるんだね」

「うん」

「・・・」

声が出ない。愕然とした。

綾波が、あの綾波が薄暗いコンクリート打ちっぱなしの殺風景な部屋で一人練習してたなんて。

そんな事・・・考えてみてもいなかった。

「碇君がアスカと踊ったのを観た後は、必ず練習してたの」

「命令されてたの?」

「ううん、直接的な命令じゃない」

「じゃあ何故?」

「それが自分の使命、だとその時は思っていただけ」

「そんな、言ってくれれば一緒にだって出来たんじゃ・・・」

「それは駄目だわ。訓練の妨げになる」

「そんなぁ・・・」

「碇君・・・わたしがのなすべき事が必ずしもわたしのなしたい事と一致するとは限らなかったの」

「それはそうかも知れないけど」

「あの時のわたしは、碇指令に言われた自分のなすべき事、その使命だけを優先していたわ。いえ・・・それがわたしのなしたい事だったのかも知れない」

「・・・」

「碇君」

「何、綾波?」

「渚君がリリスとの約束から解放された時、あなたは彼に何を望むの?」

「え?」

突然何を言い出すんだ、綾波は?

「あなたは彼をどうするの?」

「どうするって・・・」

「彼は使徒本来の活動を再開するかも知れないわ」

「それは・・・」

「碇君・・・さっきも言ったけど・・・自分がなすべき事が必ずしも自分のなしたい事と一致するとは限らないわ」

「・・・」

「それと同時に・・・碇君のなしたい事と渚君のなしたい事とが一致するとも限らないわ」

「そんな事、急に言われても」

「急じゃないわ、彼がこの前、自分で言っていた事だもの」

「・・・」

「自分がなすべき事も自分のなしたい事も、その本当の価値は、他人から指摘されて気が付く場合もあるわ。でも、その人自身にとっての価値はその人自身が自分で気付く事が一番望ましいと思うから・・・だからわたし・・・ 」

綾波の両の目から涙が溢れ出て、そして、ついに右目からツツーーっと流れ落ちた。

「・・・綾波・・・ごめん」

綾波は流れ落ちる涙を拭おうともしない。

「ううん、いいの。わたしの勝手な想い、だから。碇君が謝る必要はない」

「いや、そんな事はない。そんな事じゃあないんだ」

「?」

綾波の怪訝そうな眼。

「俺は、俺は自分で、本当は自分でやらなきゃいけないって気が付いていた筈なのに、逃げていただけだったんだ!」

「・・・碇君」

「結論を先送りしていただけだったんだ」

「・・・」

「思い出すのが厭だったんだ」

「・・・」

「考えるのが怖かったんだっ!」

「・・・」

「俺はカヲル君を・・・初号機の右手で握り潰した」

「知ってるわ」

「え?」

混乱。

「観てたもの」

「何を?」

動揺。

「上から観てたの、わたし」

「そんな・・・」

驚愕。

「でも、あの時のわたしは碇君の気持ちを思う事はなかったわ。わたしは碇君に必要とされていなかったから・・・」

「それは・・・」

「とにかく渚君の事は意外と時間に余裕がないかも知れないわ」

「・・・あの・・・綾波」

「何?」

「もしかして・・・取り戻したんだね、三人目の記憶を」

「ええ。渚君から返してもらったわ」

「じゃあ、そのぉ・・・」

「リリスの記憶はまだ」

「そっか」

「でも、渚君がわたしに対してなすべき事はこれで終わったような気がするの」

どういう意味なんだろう?

じゃあ、リリスの記憶はどうなるんだ?

いずれにしてもリツコさんに相談しなきゃいけないだろうな。

「綾波」

「何?」

「三人目の記憶を取り戻した事、リツコさんには話したの?」

「いいえ、まだ」

「じゃあ明日にでも報告して相談しようよ」

「ええ」

カヲル君の事も相談しなくちゃいけないな。

「ユニゾンは終わりにして今日はもう寝ようか」

「ええ。じゃここで」

「え?」

って、一緒に?

「着替えて来て」

「そ、それはまずいよ」

「どうして?」

「寝るのは別々でいいんだよ」

「・・・嘘」

「なんで嘘なんか」

ついてるけど・・・。

「葛城一尉に聞いたわ」

「じゃあミサトさんも一緒だったって言ってたろ!今日は無理だよ」

「わかったわ。今日は諦める」

・・・良かった。

「じゃあもう寝るよ」

「うん。明日この事も相談しましょう」

「あ、うん」

ハア・・・。


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