『俺と僕で何?』
第参拾八話 新しい仲間
(後編)
「フェルはレイの記憶と肉体、それと、自分の記憶と自分の自意識、その双方で構成されたモノだよ〜」
そんなぁ・・・。
「そんな哀しい言い方するなよ」
「でも事実だよ〜」
「そうなんですか、リツコさん!」
「そうよ。レイの許可は取ってあったわよ」
思わず綾波を見た。
綾波はうつ向いている。
「綾波。綾波は知ってたんだね、今回の作戦を」
綾波はうつ向いたままだ。
「ごめんなさい、碇君」
なんだ知らなかったのは俺とアスカだけだったんだ。
「リツコさん。どうして・・・どうして俺にだけ知らせてくれなかったんですか?」
「シンジ君は反対すると思ったからよ」
「そんな。」
「碇君」
「綾波」
「碇君の気持ちはミサトさんや加持さんが代弁してくれたわ」
「何をだよ」
「わたしの素体を使う事について色々と議論してくれたの」
「シンジ君、場合によっては外見上はレイが三人になっていたかも知れなかったの」
「でも実際には違ったじゃないですか」
「そうよ。渚君の情報を信じれば今の状況もあり得たの。可能性の問題だわ」
なんで俺にだけ知らせてくれなかったのか、まだ俺は納得がいかない。
「シンジさぁーん」
「あ。フェル。ごめん・・・君の発言の場だったね。ごめん」
「いいよ。シンジがどんなにレイの事を想っているのかは良く分かったから。ごめんね〜」
ちょっと熱くなり過ぎたかな。恥ずかしい。
「・・・。」
「でも・・・あたしはフェルだもん。レイとしての記憶も知識としてはあるし、この身体もベースはレイのものだよ〜。でも・・・あたしはあたし、フェルなの〜」
「フェル・・・やっぱりごめん。俺は子供だ」
「いいよ、もう」
「フェル」
「碇君」
何?
「綾波?」
「フェルもイスラもわたしにとっては姉妹も同然なの。忘れないでね」
「うん、わかったよ」
「で、フェルやイスラがあんたらの言う使徒っちゅう化け物と戦えるかどうかって話しよね〜?」
フェルが話題を戻した。
「そう、そうだったわ」
リツコさんも再起動した。
「それは大丈夫だと思うよ〜。ただこの身体でどこまでやれるかは自信ないなぁ」
「あ、いいの、今は」
「何が?」
「その気持ちがある事が分かればいいのよ」
リツコさんが言った。
「あっそうなんだ〜」
なんかフェルって言動が軽い感じがする。
「フェルってまた猫になれるのかな?」
あ、バカな事聞いたかな。
「うーん。わかんない」
「そっか」
なんだか話題が続かない。昔の綾波みたいだ。
「ねえ、フェル」
リツコさんが言った。
「あなたは今イスラが何をしているか分かる?」
「うん、分かるよ」
「何してるの?」
「トイレ入ってる」
・・・。
「あ、あら・・・そう。ちょっとタイミングが悪かったわね。でも何で分かるの?」
「だって自分の事だもん」
へ?
「あなた達って双子以上の繋がりがあるみたいね」
「そうだよ〜」
「文字通り一身同体なんだもん。余程の事がない限りまた合体する気はないけどね」
「なんで合体しないの」
リツコさんが言葉を繋げた。
「合体たらもうこの身体に戻れないから。言葉を喋れないから」
「ヒトの形の方がいいの?」
「うん。この方が独りじゃないからね〜」
「次の使徒はサンダルフォンなんだけど、ヒト化させると赤ん坊になっちゃうのかしら?どう思う、フェル」
「フェルはそのサンダルフォンって知らない」
「あ、そう・・・どうなっちゃうのかしら?」
「カヲル君に聞いたらどうですか?」
俺が助け舟を出す。
「じゃあ渚君を呼ぶわ」
綾波!
「そんな事出来るの?」
リツコさんが聞く。
「はい。ちょっと待ってて下さい」
綾波が眼を閉じて何か念じている。
と、綾波の周囲がボーッと光り始めた。
その光りがだんだんヒト型になっていく。
「カヲル君!」
「お待たせ、レイちゃん」
「カヲル君!」
びっくりした!何で?
「ダメじゃないか。こんなに大勢の前で呼び出しちゃ」
「そんな約束はしていないわ」
「あ、そう言えばそうだったね。失敬」
綾波以外のみんなは呆然としている。
「カ、カヲル君どうやってここに来たの?」
俺が一番最初に再起動した。
「ATフィールドの応用さ。シンジ君にも出来る筈なんだけどなぁ」
ブンブン。思いっきり首を横に振る。
「そんな事なんて出来ないよ!」
「気が付いていないだけだよ、いや、知らないだけかな。神様に出来ない事なんてないさ。ここは君の世界なんだからね、シンジ君」
「何を言ってるのか分かんないよ、カヲル君」
「いいんだよ、今は。今はまだいいんだよ」
「何だか収拾が付かなくなってきたわね」
リツコさんが疲れた様に言った。
「で、僕に何の用かな、レイちゃん?」
「いや今度のサンダルフォンってレイの素体に入ったらどうなるのかな、なーんてね」
俺が言った。
「さあ、うまくいくかな?」
「どうしてさ?」
「サンダルフォン、彼は胎児を司る天使だからさ」
「胎児?」
「そうさ。まず意思疎通出来るかどうかからして疑問だね。レイちゃんの出番かも知れないな」
「わたし?」
「そうさ。母性が必要だ」
え?綾波が母性?え?
「うん。頑張る」
え?頑張る?は?
「綾波に母性って、綾波はまだ中学生だよ」
「わたしは女性だわ。年齢に関係なく女性なの。次の使徒が胎児なら、わたしがお母さんになってあげるわ」
綾波らしくなく台詞だ。
「リツコさん。リツコさん達は次のサンダルフォンの対策を考えるんでしょう?それともカヲル君の提案をただ受け入れているだけなんですか?」
「そうじゃないわ。受け入れるべき使徒の選択はしているのよ」
「どういう意味ですか?」
「ヒト化すべき使徒と殲滅べき使徒とを選別しているのよ」
「そんな・・・ヒト化すべき使徒と殲滅べき使徒との違いは何ですか」
「はっきり言えば、私達人類に協力的か否か、よ」
「そんなの分かるんですか」
「大体わね。もっともこれもカヲル君の情報だけど。サンダルフォンについて言えば、胎児の安定した状態での捕獲が安全だわ。結果ヒト化で赤ん坊になってとしてもね」
「カヲル君を前にして言うのは嫌だけど、みんなカヲル君の事信用し過ぎていませんか?」
ちょっとカヲル君の方が見られない。
「シンジ君からそういう発言が出るのは意外だったな。惣流さんあたりなら言いそうだけど。まあ彼女は今参加資格がないけどね。シンジ君が代弁した訳だね」
「そんな積もりじゃないさ」
「分かっているよ」
「いずれにしても、サンダルフォンが現れるのはまだ先だわ」
リツコさんが言葉を続ける。
「あなた達がちゃんと修学旅行に行けるように、それまでに時間を掛けて検討しましょう。いいかしら、シンジ君?」
うん、そうだ。時間はまだあるんだ。
「わかりました。俺も修学旅行は行きたいです」
ガキっぽいけど、やっぱり行きたいよ。
「わたしに赤ちゃんが出きる。ウフ・・・」
綾波は・・・完全に往っちゃってるよぉ・・・そんなに赤ん坊が欲しいのかな?
「あの〜」
「どうしたの、フェル?」
リツコさんが応じる。
「あたし眠いみたいだよ〜」
「あら。ヒトになったばかりだから疲れたのよ、きっと。取り合えずアスカの部屋を使うといいわ」
「あたし、レイと一緒がいいな・・・」
「わたしと?」
「うん!」
「ご指名よ、レイ。一緒に寝て上げなさい」
「はい。分かりました。じゃあフェル、一緒に来て」
「うん」
「リツコさん、碇君、渚君、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい、レイ、フェル」
「おやすみ、フェル、綾波」
「おやすみ、フェル、レイちゃん」
フェルが綾波に連れられて行っちゃった。
「しかし今日はびっくりの連続だったな」
俺が率直な感想を言う。
「確かにそうね」
リツコさんが答えた。
「猫からリリンになるとは流石に僕も考えなかったよ。しかし、そうなるとシンジ君も猫には簡単になれそうだね」
「何を言ってるんだい、カヲル君?」
「可能性の問題、いや、単なる事実、かな?」
「俺には君が何を言ってるのか判らないよ」
「いいんだ、判らなくても。気にしないでくれていいよ」
「私もそろそろお風呂に入らせて頂くわ」
「じゃあ僕もそろそろお暇しようかな」
「もう帰るの、カヲル君?」
「ああ。また明日、学校で会おう、シンジ君」
「うん。じゃあ、また明日。」
今日はいろんな事があって驚いたけどさ、何と言っても一番驚いたのはフェルが猫からヒトになった事だな。カヲル君のテレポートにもびっくりしたけど・・・。カヲル君、
俺にも出来るって言ってたな。・・・どうやるのかな?
==========
『キーンコーンカーンコーン・・・』
今日の授業が終わった。
「一緒に帰ろう、カヲル君」
「いいとも、シンジ君」
「綾波、悪いけど先に帰るから、アスカを頼むよ」
「わかったわ。さよなら、碇君」
・
「ねえ、カヲル君?」
「なんだい?」
「昨日のテレポーテーションのやり方教えて欲しいんだけど?」
「いいよ」
「ホント?ありがと」
「簡単な事なんだよ。自分自身をATフィールドで包み込んでそのATフィールド内の空間を移動したい空間と交換するというイメージをするだけでいいんだよ」
「交換する?」
「そうだよ。何もない空気だけの空間をイメージするんだ。でないと壁に突き刺さったりして後で困るからね」
それは困るだろうさ!
「でも俺はATフィールドなんて展開出来ないよ」
「そうだったね。ATフィールドの展開についてはレイちゃんに教わると良いよ」
「え、綾波に?」
「ああ。彼女も展開出来るからね」
「そうなの?」
「そうだよ」
「何でカヲル君がそんな事を知ってるの?」
「彼女は前回のシンジ君と僕との闘いの目撃者だよ。僕の張り巡らせた結界の中にATフィールドを展開して侵入したんだ」
そう言えばこの前そんな事言ってたかも知れない。
「そうか。綾波に教わればいいのか」
「ついでに水泳も教わったらどうだい」
「カヲル君!何でそんな事まで知ってるのさ?」
「あのLCLの海でだよ」
あそこでは隠し事が出来ないよね。
「そっか」
・
・
・
『ガチャッ!』
「ただいまー」
「「ニャン」」
「ニャー」
「おかえりニャン」
「フェル、おとなしくしてたか?」
「うん。でもテレビと雑誌だけじゃあ退屈で死にそうだよ〜。あたしも学校行きたいっ!」
「それはリツコさんに聞いてみないとダメだね。猫は学校に行けないからね!」
「もうヒトだも〜ん」
「戸籍が必要だ」
「だね〜」
「やっぱリツコさんに相談するっきゃないよ」
「そっかぁ。行きたいなぁ・・・」
「宿題や試験もあるんだよ?」
「でも友達との楽しい学園生活もある!」
「そんなに楽しくないよ?」
「シンジは醒めてるんだわ」
「あたしはイスラと双子なんだけど戸籍どうするのかな?」
「イスラはカヲル君と双子って事になっちゃってるからね。まさか三つ子ってのは苦しいんじゃないかな?しかもみんな別居、いかにも不自然だよ」
「そっかぁ・・・不自然かぁ」
『ガチャッ!』
「ただいま」
リツコさんだ。
「おかえりなさい」
「「ニャン」」
「ニャー」
「おかえりー。ねえ、フェルの戸籍どうなってるの〜?」
「カヲル君との三つ子でどうかしら?」
え?マジっすか?
「さしずめ三卵性三つ子だわね。似てないから、あなた達」
そういやそうだね。
「でも何で三つ子が別居なんですか?不自然ですよ?」
「そうねえ。でもアスカはイスラがいるからウチに来る必要がなくなるからフェルの部屋は確保出来るわよ」
「そりゃそうですけど」
「あたしはここでいいよ」
「イスラちゃんと一緒じやなくっていいの?」
「いいの、いいの。リツコさん。イスラとはいつも一緒にいるみたいなもんだから」
「みたいね。感覚的に良く解らないけどね」
「あたし等特殊だから」
そりゃそうでしょ、元々は使徒なんだから。
『ガチャッ!』
「ただいま」
「「ニャン」」
「ニャー」
「おかえりニャーン」
「フェル、おとなしくしてた?」
「シンジとおんなじ台詞だー」
「テレビ見て雑誌読んで退屈だった〜。学校行きたい!」
「フェルもイスラもわたし達とおない歳でいいんですか、リツコさん?」
綾波がリツコさんに聞く。
「いいと思うわよ」
「じゃあ同じクラスかな?」
「リツコさん?」
「何、シンジ君?」
「イスラとフェルはチルドレンなんですか?」
「さあ、どうせ機体がないわよ。あったとしてもアダムベースだし難しそうだと思うわね」
「じゃあ同じクラスになれないかも知れないわ」
綾波が残念そうに言う。
「いずれにしても、学校に行く前にレイでもイスラフェルでもないこの世界のフェルとしての記憶を作っておかなくちゃいけないわね」
リツコさんが言った。
「そうですね。フェル、自分で作れるかい」
「シンジ君。それは無理よ。三ツ子としての歴史はわたしが作らなきゃ。三人共通のものをね」
あ、そうか!
「お願いしま〜す」
あくまでも軽いフェル。
「人間としての一般常識はレイのものがベースになっているからそっちも若干の修正が必要ね」
リツコさん、それって綾波に失礼だよ・・・。
「お願いしま〜す」
「イスラの方はどうなるんですか?」
「それは渚君にお願いしてあるわ、同じシナリオでね。渚君にも覚えて貰う必要もあるしね」
「なるほど」
・・・
(カチャ・・・ガチャ)
「ただいま」
(バタン)
「おかえりー、綾波。」
「「ニャン」」
「ニャー」
「ただいま、トト、チャチャ、ミミ、碇君」
「・・・俺って最後かい。」
「猫は5秒前の事を忘れてしまうの。だから碇君は後回し。」
「わかったよ」
「今ご飯あげるね」
綾波は猫が好きだ。俺が焼き餅焼いても仕方ないのにな。
「今日のご飯は何にしよっか?」
「フェルは焼肉がいい」
「何で焼肉なんだ」
「フェルの記憶に鮮明だから、嫌いみたいだし〜。好き嫌いはいけないんでしょ?」
レイの記憶か。
「レイはいいのかな?」
「いいわ、焼肉で」
「じゃあ買い物行ってくるよ」
「わたしも行くわ」
「レイは留守番。あたしが行く〜」
「わかったわ、フェル。碇君と行ってきて」
「は〜い。じゃ行こ、シンジ!」
・・・
「これがスーパーマーケットなんだ〜。おっき〜い!」
「そんなに大声出さないでよ、恥ずかしいからさ」
「だってぇ・・・初めてなんだもん。」
そうかレイの記憶と今の現実感とは違うんだな、きっと。
「じゃあ買い物するから離れずに付いて来るんだぞ」
「了解〜」
・・・
「おかえりなさい、碇君」
「大変だった、シンジ君?」
「大変でした。まるで幼稚園児を連れてるみたいな感じでしたね」
「お疲れ様」
リツコさんが労いの言葉を投げ掛けてくれた。
「今日は焼肉だからお風呂は後回しだね。準備するから少し待っててね」
「わたしも手伝うわ」
「フェルも手伝う〜」
「じゃあみんなでやろうか?」
「「うん!」」
・・・
「焼肉、美味し〜い」
「フェルは気に入ったみたいだね」
「うん。何でレイは嫌いなの〜?」
「今は別に嫌いじゃないわ。前は食べず嫌いだっただけ・・・良く焼けば大丈夫なの」
「ふ〜ん、そうなんだぁ」
「そうよ」
・・・
「「「「ごちそうさま!」」」」
「じゃあ綾波はフェルとお風呂の用意をして」
「わかったわ」
「は〜い」
・
「リツコさん」
「何、シンジ君?」
「三ツ子のシナリオってどうなってるんですか?」
「ああ、その事」
「ええ」
「三ツ子は産まれてすぐに経済的理由から二人は里子に出されたの。セカンドインパクト直後だから不自然じゃあないわ」
「なるほど」
「フェルとイスラは一卵性双生児。渚君はニ卵性ね」
「なるほど」
「渚君は何故かドイツへ。フェルとイスラは孤児院よ」
「それって無理がありませんか?」
「渚君は過去の記録が抹消済みだからいいの。フェルとイスラがいた孤児院は一応最近閉鎖されたところを選んだわ。細工がし易いからね。ただし二人とも過去の記録は抹消済みよ 」
「いいんですか?そんなに抹消済みにしちゃって」
「下手に偽造して嘘が露呈するよりはよっぽどましだわ。疑われたとしてもそこでおしまいだからね」
「なるほど」
「お風呂お湯入ったよ〜!」
「じゃあフェルとレイとで先に入っててちょうだい。私はシンジ君と話しがあるから」
「は〜い!」
「ところでフェルとイスラは綾波やカヲル君みたいにATフィールドが使えるんでしょうか?」
「さあ、どうかしらね?」
「わからないんですか?」
「まだ細かい検査してないから何とも言えないわ。それに検査してもわからないと思うわ。レイも渚君も検査結果からはATフィールドが使えるなんてわからなかったもの」
「そうですか」
「いずれにしても、あの二人が乗るエヴァは今はないわ」
「そう、でしたよね」
そうなんだ。でも・・・二人は生身でも闘えそうな気がするんだよな。
・・・
「フェルは今日誰と寝るんだい?」
「シンジと寝る〜」
「あ、いや、それはマズイよ。フェルは女の子なんだし」
「何もしなければいいんでしょう?」
綾波が赤くなってるよ?
「ダメ!何もしなくてもダメだからね」
「ちぇ、つまんな〜い」
「じゃあ今日は私と寝ましょう」
リツコさん。
「ぶぅ。・・・まあいいわ。寝てあげる」
「まあ」
クス。リツコさんも形無しだな。
「じゃあ、おやすみなさい」
「「おやすみなさい」」
「おやすみ」
・・・
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