『俺と僕で何?』
第参拾九話 ATフィールド
「じゃあ行ってくるわね」
「行ってきま〜す」
「「行ってらっしゃい」」
今日はリツコさんとフェルは本部だ。カヲル君とイスラとも一緒で打合せ、というか、口裏合せだな。
俺達も今日は起動試験があるから、後でみんなと会えるんだ。
「俺達も学校に行こう、綾波」
「うん、碇君」
・・・
(キーンコーンカーンコーン・・・)
「なんやシンジと綾波と惣流は早退かいな」
「三人揃って実験か。いいなエヴァに乗れて。羨ましいよ、本当に」
「そんなにいいもんじゃないよ、パイロットなんて」
「ほらシンジ!馬鹿相手してないで早く行きましょ。遅刻しちゃうわよ!」
「行きましょ、碇君」
「ああ、わかったよ」
「ええのぉ、両手に華やんか」
「全く羨ましいよ」
「そんなんじゃないって」
「ほら、早くしなさいよ!」
「わかった。じゃな、トウジ、ケンスケ!」
「おう」
「じゃあな、シンジ」
・・・
「ではこれにて試験は終了とします。各自着替えたらそこで解散、いいわね」
「「「「はい!」」」」
・・・
「しかしカヲル君は凄いね」
「何がだい?」
「シンクロ率だよ。自由に調節出来るなんてさ」
「シンジ君にも出来るさ。その気になれば、ね」
「そっかな?あんまりシンクロしてる気がしないんだけどな・・・」
「それはそれだけ自然だって事さ」
「うーん・・・今一つピンと来ないんだよな、そう言われても」
「これからイスラ達と打合せなんだけど、シンジ君も来るかい?」
「あ、うん。カヲル君が良ければ」
「良いよ。じゃあ行こう」
「うん」
・・・
「大体頭に入ったかしらね」
「「は〜い」」
「じゃあそろそろ学校に行っても大丈夫かしら?」
「「大丈夫で〜す」」
「あなた達は本来はチルドレンじゃあないからシンジ君達と同じクラスにはなれないだけど、なんとか二人とも一緒になれる様にしましょう」
「どうしてですか?」
「渚君の妹だからチルドレンとして登録したわ」
「え、そうなんですか?」
と、俺が意外そうに言う。
「ええ。フェルはイスラに比べると少しお喋りだからよ。余計な事を言った時にはシンジ君達にフォローして貰おうと思っての事よ」
なんだ結局リツコさん二人ともチルドレンしちゃったんだ。いい加減だな。めんどくさかったんだろう。
「ぶぅ」
「イスラは一人でも大丈夫だと思うんだけど、どうかしら?」
「大丈夫だと思います」
と、こちらは落ち着いたイスラ。
「僕もイスラは大丈夫だと思いますよ」
カヲル君が太鼓判を押す。
「じゃあ二人とも来週から学校に行っていいわ」
「「わーい!」」
(ガチャ・・・バタン)
あ、アスカだ。
「どうしたの、二人とも浮かれちゃって?」
「あ、アスカ。あたし達二人とも来週から学校に行けるんですよ」
「ふーん。そんな事が嬉しいんだ。ま、良かったわね。おめでとう」
「「はい!」」
しかし、こうして二人並べて見ると一卵性双生児だと言うのも分かるな。
フェルを最初に見た時には気が付かなかったけど、イスラとまるで瓜二つだよ。イスラの方が少しだけ髪が長く見えるけど、手入れの違いかな。
「フェルもイスラも渚君の妹だからチルドレンとして登録出来たわ。機体はないから予備だけどね。だから二人とも皆と同じA組よ」
「あら、一緒なの?」
アスカが疑問を口にする。
「二人は渚君の妹だからチルドレンの資格はあるわ」
リツコさんが説明する。
「あ、そうか。そうよね。二人ともよろしくね!」
アスカには前みたいなこだわりはないんだ。前は俺やトウジがチルドレンになった時に荒れてたのにな・・・。やっぱり前のアスカとは変わってるよ。
加持さんはこう言ったところをアスカが変わったって言ったんだろうな。
「は〜い。ありがとう」
「あたしの方もよろしくね、アスカさん」
フェルが言う。
「あたしこそよろしく、フェル!あ、あとあたしの事は『アスカ』でいいからね。『さん』付けはいらないわ。しっかしホントにそっくりね。まあ双子だから当然かも知れないけど、変な気分だわ 」
前だったら新しいチルドレンが出るたびにギャーギャー騒いでいただろうに。やっぱり前のアスカとは何かが違う・・・。
「うん。アスカ〜」
フェルが嬉しそうに言う。
「さてと、あたしは夕飯の支度があるから帰るけどさ。イスラはいつ家に来るの?」
「この週末に引越しよ」
リツコさんが言う。
「わかったわ。じゃあ準備しておくわね」
「ところでアスカの部屋なんだけどさ・・・」
俺はちょっと口篭る。
「ああ、フェルが使うのね」
「そうなんだけど、いいかな?」
「当然オッケーよ。あたしもイスラがいればもうシンジんとこに泊まる事もないでしょ。荷物とか洋服なんかも使うなり処分するなり適当にやっといていいわよ。たまには泊 まりに行くかもしんないけど、まその時は適当にするわ」
「ありがとう、アスカ!」
フェルも嬉しそうだ。
「いいって、いいって。じゃああたしは先帰るわね。バーイ!」
・・・
「さて、アスカは帰ったし、何か話しておく事はあるんですか、リツコさん?」
「ひとつだけあるわ」
「何ですか?」
と、リツコさんは俺達をひと渡り見回して、
「ATフィールドは普段は使わない事」
へ?
「「わかりました〜」」
イスラとフェル。
「了解」
綾波。
「仕方ないね」
カヲル君。
「シンジ君は?」
「え?俺はそんなの使えないですよ」
「でも渚君に使い方を聞いたんでしょう?」
「カヲル君から聞いたんでしょう。でも綾波に教えてもらおうと思ってたんです。それに聞いたからってすぐには使えませんよ。俺は使徒じゃないんですから。・・・あ、ごめん、綾波。他意はないんだ 」
「いいの」
と綾波が言う。
リツコさんが続ける。
「シンジ君は今リリスと同化していると思われるわ。それはレイと同じ状態なのよ。だからATフィールドも使える筈だから気を付けてね」
「はい。わかりました」
何がわかったんだ、俺は?
「綾波」
「何、碇君?」
「ATフィールドの使い方を教えて欲しい」
「・・・わかったわ」
「シンジ君!」
「あ、いや、使い方がわからなければ、使わない方法もわからないと思うんですよ」
「なるほどね。わかったわ」
「サンダルフォン・・・か。やっぱり殲滅なのかなぁ」
思わず声に出る。
「さあ」
とはリツコさん。
「しかしイスラやフェルの事、父さんや副司令そしてゼーレは不審に思うんじゃないですか、リツコさん?」
俺が心配している事を言う。
「そうね。ゼーレには渚君からありのままを報告してもらってるわ」
「ええっ!そうなんですか?」
「そうよ。なまじ嘘で口糊しても騙しおおせる相手じゃあないわ」
「ゼーレは納得したんですか?」
「一応はね。レイの素体の件は伏せてあるけど。自力で身体を構成した事にしてあるわ」
そうなんだ。
「父さん達には?」
「ゼーレからは渚君の予備だと連絡がいっている筈よ」
なんか苦しい言い訳に思えるけどな。
「そうですか」
「渚君はもちろん、イスラとフェルには説明済み」
「わかりました」
「「と言う事でよろしくね〜」」
二人はいつも明るいなあ・・・。
「ねえ、シンジ君」
「なんですか?」
「サンダルフォンはどうしたらいいと思う?」
「リツコさんはどうなんですか?」
「わからないのよ。前は孵化直後に殲滅しちゃったから成体情報がないの。成体がとんでもない殺戮魔だったらヒト化しない方がいいでしょ?」
そりゃそうだ!
「孵化させて暫く様子を見ますか?」
「その後で殲滅出来る保証がないわ」
「じゃあ殲滅でしょ」
「やっぱり?」
「でしょ」
「そうね・・・わかったわ」
いいのかな、俺が決めたみたいだけど・・・使徒は死ぬ訳じゃないしな。
・・・
(ガチャ)
「ただいま。」
(バタン)
「「ニャン」」
「ニャー」
「ごめん。今ご飯あげるからね」
「わたしはトイレを換えるわ」
「ありがとう、綾波」
俺は一体全体何故ATフィールドを身に付けたいのだろうか?
自分自身を守るために?
みんなを守るために?
使徒を撃退するために?
使徒を捕獲するために?
テレポートしたいために?
サード・インパクトを防ぐために?
必要なんだろうか?
綾波やカヲル君やイスラやフェルが使えるなら、今更俺が使えなければならない理由はあるのか?
何のために?
誰のために?
俺はヒトなのだろうか?
俺の魂にはリリスが混ざっていると言う。
綾波と一緒だ。
綾波はヒトだ。
だったら俺もヒトだ。
ATフィールドが使えるか否かな関わらず俺はリリスでもあるんだ。
「碇君?」
「あ、何、綾波?」
「夕飯の支度を先にする?それともATフィールドの展開の仕方の勉強を先にする?」
「ああ・・・夕飯を先にしよう。ATフィールドは今日じゃなくてもいいし」
「わかったわ。・・・今日は何にするの?」
「そうだな・・・握り鮨なんてどうかな?」
「握り鮨?家で?」
「ああ。材料を買ってくるよ」
「じゃあわたしも」
「いや。綾波は酢飯を作っておいてくれないかな?」
「酢飯ね?」
「作り方分かる?」
「うん。大丈夫だと思う」
「ならお願いしていいかな?」
「うん。わかったわ」
「じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい」
(ガチャ・・・バタン)
考える時間が欲しい。
俺はどこかの時点で『僕』ではなく『俺』になった。その原因はサード・インパクトだろう。そこでリリスの魂と融合したのかな。とにかく混ざってしまったんだ。
今の俺は『僕』プラスアルファだと思う。『僕』が存在するのは確かだ。たとえそれが記憶だけだとしても・・・。じゃあ俺の本質は?碇シンジ?リリス?混合物?
だいたい俺が俺自身を認識したのは今朝目が覚めた時だ。それ以前の俺は記憶でしかない。
そもそも俺が俺自身を自覚したのは何時だったろうか?
産まれる前?
産まれて直ぐ?
母さんが消えた時?
先生のところで?
第三新東京市に来た時?
綾波に会った時?
それとも今朝目が覚めた時か?
「わからない」
わからない。
「買い物しよ」
・・・
(ガチャ・・・バタン)
「ただいま」
「おかえりなさい」
「じゃあ下拵えするけど、綾波は何か苦手な物ってある?」
「ううん、特にないわ」
「そう、わかった」
じゃあ適当に盛り付けておこうかな。
・・・
(ガチャ・・・バタン)
「ただいま」
「ただいま〜!」
「「おかえりなさい」」
「いい匂いね。今晩は何かしら」
「握り鮨ですよ」
「あら。それは豪勢ね。シンジ君が握るのかしら?」
「ええ、一応は。でも、リツコさんも綾波もフェルも握ってみて下さい」
「わたしにも握らせてくれるの?」
「もちろんさ。その方が楽しいだろ?」
「わ〜い!鮨だ鮨だ〜」
「私にも握らせてくれるのかしら?」
「もちろんですよ」
「嬉しいわね」
「フェルも握る〜」
「じゃあ食べましょう」
「「「いただきまーす!」」」
・・・
今日は久々に楽しい食事だったな。酢飯が足んなくなっちゃったもんな。
フェルが喜んで握っていっぱい食べてたのは嬉しかった。フェルと綾波の手は冷たいんだろう。握り鮨職人向きだね。
リツコさんと俺は手が暖かいから向きじゃないな。酢飯が手にくっついちゃって握り難かったもん・・・。
さあて、この後・・・俺はどうすべきなんだろうか?
昨日の俺は今日の俺を知らないし今日には消えてしまった。
今日の俺は昨日の俺を知ってるが昨日の俺ではない。
新しい俺だ。
ATフィールド。
必要か否か?
・・・
夢を見ている。
奇妙な夢だと分かる。
もはや前線の見る影もない。全ては子供化してしまっている。残った大人は余りにも少ない。
前線では武器の交換で今まで進化してきた。後ろから来た者が前にいる者に武器を渡す事で絶えず進化して来たんだった。
しかし今回は違った・・・。
明らかに退化、いや、退行している。いや、退行していくのは人間だけだ。武器は進化しているのだから。
巨大な武器と子供達。
どうやって闘えと言うんだ?指揮官は?補給線は?そして敵はどこだ?
元に戻らなきゃいけない。
とにかく大人は大人でいて欲しい。武器の交換で進化と退行が進むなら、今直ぐに止めさせなきゃいけない!
指揮官はどこだ?焦りだけが心の内を通り過ぎていく。
こんなんでは闘えない。俺達は子供なんだから。
マニアワナイ。
兵士は子供になった。そして武器は兵器に・・・巨人になった。
敵は?
前方の深い霧の中に敵がいる。姿形はわからない。でも・・・いる。俺達が倒すべき敵が!
巨大な影が見える。段々と進んで来る。霧が薄くなってそこに現れたのは・・・。
初号機!?
・・・
目が覚めた。
じっとりと寝汗をかいている。
やはりATフィールドが必要だ。早くしないと間に合わないかも知れない。
今は?
四時半か・・・。
仕方ないな。
・・・
(コンコン)
(コンコンコン)
こんなんじゃ起きないか・・・。
(ガチャ)
(パタン)
・・・綾波。
「綾波?」
「すぅすぅ・・・」
駄目だ。
「綾波!」
揺すってみる。
「ううん・・・すぅ」
全然駄目だ。
「綾波!」
もう一度揺すってみる。
「ううーん・・・すぅ」
やっぱり駄目だ。
仕方がないな。
「綾波ーっ!」
耳元でわめいた。
「あ・・・何?」
やっと起きたよ。
「俺だ・・・碇だよ」
「あ、碇君だ・・・」
「綾波。悪いんだけど起きてくれないかな?」
「うん。今・・・何時?」
「四時半だよ」
「なあに?」
「ATフィールドの使い方を教えて欲しい」
綾波の目が覚めた様だった。
「今なの?」
「朝早くに悪いんだけど、お願いしたい」
「・・・わかったわ」
・・・
「ATフィールドは心の壁なの。他者と己を分かつバリアーなのよ」
「うん」
「他者を排除して自分自身のイメージを強くして」
「ああ」
「わたしを拒絶する感じで!」
「え?綾波を?」
「そうよ、早く」
「イメージ出来ないよ」
「ATフィールドは心の拒絶の壁。それをイメージしないとATフィールドは出来ない、無理だわ」
「そうなんだ」
「早くやってみて」
念じる、心の壁を。
俺は俺で綾波じゃあない!
俺は俺で綾波じゃあない!
(ブゥ〜ン・・・コチン・・・カタン)
ん、何だ?
「碇君」
「ん、何?」
「目を開けて」
あ、目を瞑っていたのか。
目を開ける。
「開けたよ」
「そのままでいて」
綾波が鉛筆を投げてたんだ。
(ブゥ〜ン・・・パシ)
「あ!折れ芯になっちゃうよ!」
「ダメ!手で捕っちゃ」
「あ、うん」
「心の壁で弾き反して」
「うん」
(ブゥ〜ン・・・ペチ・・・カタン)
身体に当たって落ちた。
「もう一回」
(ブゥ〜ン・・・ペチ・・・カタン)
また身体に当たって落ちた。
「もう一回いくわ。心の壁をイメージしてね・・・」
(ブゥ〜ン・・・コチン・・・カタン)
「ほら、出来た」
「へ?」
また綾波が鉛筆を投げる。
(ブゥ〜ン・・・コチン・・・カタン)
「あ!ホントだ」
鉛筆が薄くて小さいけど俺の身体の直ぐ側のATフィールドにぶつかって落ちたんだ。
なんだこんなに簡単だったのか?
オレンジ色に光って砕けた、俺のATフィールド。
「後は反復練習してATフィールドを強固なものにするのね」
「うん。ありがとう、綾波」
「いいの。慣れたらフィールドを球体にしてみてね」
「わかった。やってみるよ。ありがとう」
「いいのよ。じゃあおやすみなさい」
「あ、ああ。おやすみなさい、綾波。ありがとう」
「じゃ」
(ガチャ・・・バタン)
・・・
なんかあっけなかったな・・・。
淡い淡い俺のATフィールド。直ぐに破られそうだった。
これを堅牢強固な物にするんだ!
みんなを守るんだ。
場合によってはこれで使徒を捕獲するんだからな。
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