『俺と僕で何?』


第伍拾八話 擦れ違い


・・・ん。

ああ、朝か。

今日は学校だな。

朝当番はフェルだったな。

ん、とりあえず起きよう。

・・・

「おはよう、フェル」

「早いね〜、シンジ」

「うん。・・・何か手伝おうか?」

「大丈夫だよ〜。ありがとう。もう直ぐ出来るから座ってていいよ〜」

「わかった」

そう言えばフェルはどうして料理が出来るんだろう?

前に誰かから教わったのかな?

「ねえ、フェル」

「なあに〜?」

「フェルはどうして料理が出来るの?」

「前に教わった事があるんだよ〜」

「それって前にヒトになった時って事?」

「そうだよ〜」

まさか・・・。

「・・・誰に教わったの?」

「シンジだよ〜」

やっぱり。

「そうなんだ。」

なんか複雑な気分だな。

確かにフェルにも色々と聞く必要があるよな。・・・イスラも一緒か。

「おはよう、フェル、シンジ君」

「おはようございます、リツコさん」

「おはよう、リツコ〜」

「いい匂いね」

「あともうちょっとだから待っててね〜」

綾波はまだかな?

「俺は綾波を起こしてくるよ」

「じゃあ行ってくるわね」

「はい」

「渚君の件はよろしくお願いするわ、シンジ君」

「わかりました」

(ガチャ・・・バタン)

「俺達もそろそろ行こうか?」

「あ〜い」

「了解」

ケンスケだ。

「おはよう、ケンスケ」

「おはよう、碇。昨日はお陰様でいい写真が撮れたぜ」

「そうか、それは良かったな」

「ほれ」

「何?」

「碇の分だよ」

「こんなにあるのか?」

結構分厚いぞ。

「ついつい撮っちゃったんだ」

「これだけあるのにタダでいいのか?」

「ああ、いいよ。いつも世話になってるからな」

こいつは普段一体幾等稼いでいるんだ?

「ありがとう、ケンスケ」

「あ、綾波とフェルの分もあるんだ」

「わ〜い!ありがとう!」

「わたしにも?」

「ああ。綾波のは特に我ながら結構巧く撮れてると思うんだ」

「ありがと・・・」

「じゃあな」

昼休み、みんなで弁当を食べている。

「しっかし相田ったらこんなに沢山写真撮ってたのね」

アスカがケンスケから貰った写真の束をパラパラ捲りながら言った。

「アスカの写真が一番多いんじゃない?」

洞木さんが言った。

「そう?」

「うん」

確かにアスカの写真は多い。

「まあタダだって言うんだからいいけどさ。でもねぇ・・・」

「何、アスカ?」

「あいつ普段から写真撮りまくりじゃない」

「そうね」

「撮った写真どうしてると思う?」

「さあ?」

「なんだ、ヒカリ、知らないの」

「どうしてるの?」

「あいつ、あたし達の写真を校舎の裏で売ってるのよ」

「え!そうなの?」

「なんだ、知らなかったの、ヒカリ?」

「うん」

「だから今回の写真はタダで配ったのよ。普段儲けてる感謝の積もりなんでしょうけどね」

「そうだったんだ」

「たからこの写真を貰った事で相田に礼を言う必要なんてないのよ、ヒカリ」

「もう言っちゃったわ。それにアスカの写真は買う人がいるかも知らないけど、わたしの写真を買う人なんていないと思うもの」

「甘い!甘いわ、ヒカリ。あんたの写真だってあたし程じゃないとしても絶対に売れてるわ」

「そ、そうかな?」

「ヒカリ、可愛いもん」

「あ、ありがとう」

洞木さんが赤くなった。

「相田!」

「なんだよ、惣流」

今まで聞いて聞こえていない振りをしていたケンスケ、ご愁傷様。

「あんた、売り上げのランキングはどうなってんのよ?」

「はあ?そんなの聞いてどうするんだよ。あ!だいたい売り上げランキングなんて取ってないからな」

「嘘ね」

「ど、どうして惣流がそんな事分かるんだよ?」

ケンスケ、不利だな。

「だって、そういうデータは仕入れに必要じゃないの」

「そんなの適当にやってるんだよ。無くなりゃプリントするだけさ」

「ふーん、まあいいけど。どっちにしてもモデル料、よこしなさいよね」

・・・

アスカのケンスケイジメで昼休みが終わった。

結局ケンスケはアスカを始め俺達みんなにモデル料を払う羽目になった。ご愁傷様・・・。

中休み。

「カヲル君、ちょっといいかな?」

「なんだい?」

「カヲル君にまた色々と話しを聞きたいんだ」

「それは構わないけど、今ここでかい?」

「あ、いや・・・本部でさ、リツコさんも一緒なんだけど・・・いいかな?」

「僕は構わないよ。で、いつなのかな?」

「今日でもいいかな?」

「わかったよ」

「ごめんね、ありがとう」

今日は用事があると言う事で、みんなとは別にカヲル君と二人で先に帰っている。

「シンジ君とこうして二人きりで歩くなんて初めてかも知れないね」

「そう言えばそうかも知れないね」

「シンジ君はこの世界が楽しいかい?」

どういう意味かな?

「この世界って言われても・・・俺はこの世界しか知らないから比較出来るものがないよ。でも楽しいと思う」

「それは良かった」

「カヲル君には色々と聞きたい事があるんだ」

「わかってるよ」

「カヲル君はどうなの?」

「何がだい?」

「この世界は楽しいの?」

「もちろんだよ。シンジ君達がいるからね」

「来たわね。二人ともコーヒーでいいかしら?」

「はい」

「いいですよ。ミルクを入れて砂糖は二つでお願いします」

「わかったわ。シンジ君は無糖ブラックだったわよね?」

「ええ、すいません」

リツコさんがサーバーからコーヒーを入れてくれた。

「渚君、今日貴方に来てもらったのはこの前の話し、シンジ君の見た夢についての貴方の話しをもう少し詳しく聞きたいからなの」

「わかりました」

「まずはシンジ君が質問を用意しているみたいだから、シンジ君から貴方に質問するわ」

「はい」

「私も途中で適宜質問すると思うけどよろしくね」

「いいですよ」

「じゃあシンジ君、お願いするわ」

「はい。じゃあカヲル君よろしくね」

「いいよ」

えーと・・・夕べのメモメモ、っと。

よし!

「じゃあこれから質問するんでよろしく、カヲル君」

「了解だよ、シンジ君」

「まず最初に聞きたいのは、今回のこの世界がいつ始まったのか、って言う事なんだ。リツコさんとミサトさんと加持さんとではこの世界に戻ったっていう自覚の時期にズレがあったって言っていたよね。これってどういう事なの?」

「そうだね。この今回の世界が始まったのは、知っての通り、サード・インパクトの後からだ。世界は巻き戻されたんだよ。で、シンジ君が聞きたいのはどこまで巻き戻されたか、って事だよね?」

「うん、そういう事になるね。」

「それはシンジ君が碇ゲンドウ、君の父親に呼び出される大体半年前だよ。赤木さんと葛城さんそれと加持さんの記憶の戻った時期にズレがあったのはそれぞれの個人差に過ぎない。別に意図されたものじゃないよ 」

「わかった。でも何故俺が第三新東京市に来る半年前だったの?」

「正確な事は僕にもわからないけどね。でも多分みんなの記憶が戻って定着するのに半年位の期間が必要で、それを見越しての事だったんじゃないのかな」

「わかった。じゃあ次だけど、なんで俺達四人だけが前回の記憶を持っていたの?」

「正確に言えばシンジ君を除く三人だね。シンジ君が記憶を取り戻したのはもっと後だった筈だからね」

そうだった・・・俺が前回の記憶を取り戻したのはシャムシエル戦の後だったな・・・。

「確かにそうだね。でも何故?」

「サード・インパクトから世界を巻き戻す時、レイちゃんはシンジ君にリリスの魂を宿すだけで精一杯だったんだよ。二ついっぺんには出来なかったんだ。それで前回のシン ジ君の記憶は初号機に託したのさ。前回のシンジ君の魂と共に」

「そうだったのか。でも何でサキエルじゃなくてシャムシエルの時だったのかな?」

「戦闘記録を観たけど、サキエルの時はシンジ君は初号機にシンクロしていなかったじゃないか。あの時はレイちゃんが動かしていたからね。初号機から記憶と魂を受け継ぐには初号機にシンクロする必要があったのさ 」

「成程ね、それでわかったよ。で、三人が選ばれた理由は何なの?」

「正解はレイちゃんしか知らないんだろうけど、僕が想像するには、サード・インパクトの前に亡くなっていてレイちゃんが知っている人間、かつ、シンジ君に協力してくれそうな人間だったからだと思うね 」

「そうか・・・。ところで他にも前回の記憶を持っている人はいるのかな?例えば、父さんとか冬月さんとか・・・」

「それはないと思う。少なくともレイちゃんはそんな事はしていない筈だよ」

リツコさん、全然口を挟まないけど、いいのかな?

・・・ま、いいか。

「そうか。じゃあ次なんだけど、リリスの魂はいつこの世界の碇シンジに入り込んだの?」

「さっきも言った通りサード・インパクトの後、世界が巻き戻される前だよ」

あ、そうだったな。

「じゃあ・・・今の俺の中にあるリリスの魂は元の別の世界ではどんな人間に宿っていたのかな?やっぱり綾波なの?」

「これは難しい質問だな。別の世界でどんな人間に宿っていたかは僕もレイちゃんも知らないよ。その世界に綾波レイと呼ばれる存在がいたのかさえ分からない。レイちゃん はリリスの魂に従ってその世界のリリスに呼び掛けただけだろうからね」

「そうなんだ・・・。じゃあその人間がリリスの魂が俺に移った後どうなったのかのかも分からないのかな?」

「リリスには元々分裂するという性質があるんだ。シンジ君の中のリリスは元の世界のリリスの一部なんだ。元の人間にはリリスの魂が残っているから、本人は自分の魂が分裂してこの世界のシンジ君に宿ろうが知った事じゃないんだよ 」

「そっか。次に、前回のシンジは今俺の中にいるみたいなんだけど、彼はどういう状態でいるのかな?」

「前回のシンジ君は、シンジ君に別の世界のリリスの魂の欠片を移した時にシンジ君の中から弾き出されてしまったんだ。これはレイちゃんにも想定外だった。で、レイちゃ んは前回のシンジ君の魂を考えた末に初号機のコア中に移したんだ。初号機のコアなら複数の魂を受け入れてくれるから」

「そうなんだ」

「そうだよ。そうしてシンジ君が初号機にシンクロした時に前回のシンジ君の魂がリリスの魂の欠片を宿した今回のシンジ君の中に入り込む様に仕組んだと言う訳さ」

「そんな事まで出来るんだね」

「まあその時のレイちゃんリリスだったからね。で、今回のシンジ君に入り込んだ前回のシンジ君の状態だけど・・・今のシンジ君の生活を、そうだな、例えて言うならテレ ビでドラマを観ている様な感じで捉えている状態なんじゃないかと思う。自分では身体も動かせないし、勿論喋る事も出来ない。せいぜいシンジ君の夢の中で語り掛ける位しか出来ないんだね 」

「それってなんか不便そうだね」

「そんな事はないさ。肉体と切り離された魂は自由なんだ」

「夢の中では彼の言う事を聴くだけで俺から話し掛ける事はなかったかも知れない」

「じゃあ今度話し掛けてみると良いよ。応えてくれる筈だよ」

「わかった、今度そうしてみるよ。じゃあ次は下らない事なんだけど・・・俺が料理が出来るのは前回の碇シンジの記憶があるからなのかな?」

「シンジ君自身は料理が出来なかったのかい?」

「いや、叔父さんの家にいた時は自炊してたから、簡単な料理は出来たと思うんだけど・・・」

「なら、それはシンジ君自身の能力なんじゃないかな」

「そっかな?自分で思うよりも巧く出来る気がするんだよね」

「なら、前回のシンジ君の記憶が影響しているのかも知れないね。僕には何とも言えないな」

まあいいか・・・下らない事だし。

「話しは違うけど、フェルとイスラはこれからどうなってしまうのかな?ずっと人間として生きていけるの?この前フェルは人間になったのは今回が初めてじゃあないって言ってたんだけど・・・ 」

「フェルとイスラがヒトになった事については僕に責任がある。僕が二人をヒトにしたんだからね。彼女達はヒトとして、人間として生きていく事が出来る、彼女達がそう望めばね。人間としての肉体が存在する限りそれが可能なんだ 」

もしかしたら・・・。

「フェルは前にもヒトになった事があるって言ってたけど・・・それもカヲル君がした事なの?」

「さあ、どうだったかな?忘れてしまったよ」

きっとそうなんだな。

「カヲル君も何回もこの世界を経験しているんじゃないの?」

「この世界に何回来たかなんて僕には判らないんだ。並行宇宙が沢山あるからね。どの宇宙がどの宇宙なのかは僕には判らないんだよ。それぞれの宇宙に名前が付いている訳じゃないし、案内板がある訳じゃないからね 」

でも、カヲル君はそんな宇宙を何回も訪れているっていう事なんだな。

「わかった。俺の知らない過去の事を聞いても仕方ないんだよね」

「まあね」

「なら、違う事を、綾波の事を聞くけど・・・綾波はいつリリスの記憶を取り戻すんだろう?綾波はリリスの記憶を自ら封印してるってカヲル君は言っていたよね」

「それについては僕にも判らないんだ。レイちゃんに記憶を渡せばそれで良いと思っていた。まさかレイちゃんが記憶を封印するとは思わなかったよ」

「じゃあ綾波がいつリリスの記憶を取り戻すかは判らないんだね?」

「残念ながらその通りだよ」

「そうか。じゃあ次だけど、この世界が巻き戻されたのは綾波が望んだからなの?」

「それは違う。シンジ君が望んだんだよ。レイちゃんはそのシンジ君の望みを叶えたに過ぎない」

「そのシンジはもちろん前回のシンジだよね」

「そうだね」

「シンジはやり直したいと思ったの?」

「シンジ君は明確にそう思った訳じゃないんだ。ただあの世界は嫌だと思ったんだよ」

「で、綾波が世界を巻き戻したっていうの?」

必ずしもシンジの直接的な希望じゃあなかったんだ・・・。

実際のところ巻き戻された世界で行動しているのは俺だしな。

「レイちゃんはそれが一番いい方法だと思ったんだろうね」

「なら綾波は最終的に何を望んでいるのかな?」

「それはもちろんシンジ君が幸せになる事さ」

それって俺じゃなくてシンジの、だよな。

「何故碇シンジに別の世界のリリスの魂を宿したんだろう?」

「レイちゃんはサード・インパクトでかなりの力を使ってしまった。だから世界を巻き戻すだけの余力が無かったんだろうね。そこで他のリリスの力を借りようと考えたんだ よ。でも一度分裂したリリスは再び一つなる事は出来ないんだ。何故かは解らないけどね。あそこにたのはシンジ君と惣流さんだけだったからレイちゃんはシンジ君を選んだん だと思う。ただ本来のシンジ君の魂がそのリリス、つまり君の魂に押し込められてしまったのはレイちゃんの想定外だったと思うけどね。これはある意味、今の君には酷い言い方なのかも知れないけどね 」

うーん、確かにそうだよね・・・俺は今となっては結果的に邪魔になっているって事なんだろうからな。

「それって・・・つまりは・・・今の状況は必ずしも綾波の望んだものじゃないって事なんだよね」

「否定はしないよ」

言ってくれるじゃないか。

「まあいいよ。ところで、今アダムはどうなっているの?」

「碇司令の中にあるみたいだ。彼は自らの肉体にアダムを取り込んだようだよ」

「何でそんな事を?」

「自らの願いを叶えるために。碇ユイに再び逢うために、自身の中にあるアダムを使ってサード・インパクトを起こそうと思っているんだ。前回と同じくね」

それを阻止しなくちゃいけないんだな・・・。

「後は・・・俺からの質問はこれで最後になると思うけど・・・出来ればリリスがカヲル君に託したというタスクのスケジュールを教えて欲しいな」

「それは秘密だよ。レイちゃんとの約束だからね」

なんだ言えないのか。

「綾波との約束じゃあ仕方ないな。色々とありがとう、カヲル君。俺からの質問はこれ位だよ。長い間悪かったね」

「いいんだよ、少しでもシンジ君の役に立てて僕も嬉しいんだから」

優しいな、カヲル君は。

「なかなか興味深い質疑応答だったわ」

リツコさんが初めて発言した。

「僕もレイちゃんが何を考えていたか、その全てを知らされた訳じゃないんです。だから僕の想像も交えてお答えしました。もしかしたら僕の思い込みもあったかも知れません」

「それはいいわ。二人とも疲れたんじゃない?とりあえずここで一旦休憩にしましょう」

うーん、やっぱり終わりじゃあないんだ・・・。

・・・

しかしカヲル君の言うところによれば俺の存在って綾波の想定外なんだよな。・・・ちょっとショックかも知れない。

色々あって何だかゴチャゴチャになってるけど、俺って一体何なんだろう?

俺は何でここに居るんだろう?

綾波は本当は前回の碇シンジがここに居る事を望んでいたのかも知れない。いや確実にそうなんだろうな。

最終的にはあの碇シンジをこの世界に呼び戻さなくちゃいけないんだろうか・・・。

でも・・・そうなったらこの俺はどうなってしまうんだ?

今までの記憶、みんなと過ごした日々の記憶は?

そもそも俺の記憶はどこまでが本当の俺の記憶なんだ?

俺の存在意義って何なんだろう?

碇シンジ・・・お前は・・・。

お前は出てくるべきなのかも知れないな。

いつまでも俺の陰にいてはいけない、綾波のためにも・・・。

「シンジ君」

「カヲル君」

「大丈夫かい?」

「何が?」

「シンジ君の質問に答える事で僕はシンジ君を傷付けたかも知れないね」

「そんな事ないよ。正直に答えてくれてありがとう」

「そう言ってくれると助かるよ。ありがとう、シンジ君。君はいつでも優しいんだね」

「そうかな?」

「そうだよ」

そうなのかな?。

「渚君」

「何です、赤木博士?」

「リツコ、でいいわよ」

「わかりました、リツコさん」

「結構。私からも少し質問させてもらってもいいかしら?」

「もちろんいいですよ」

「貴方は何故レイに、リリスに協力しているのかしら?貴方は使徒でしょうに」

「確かに僕は使徒です。ただ、僕は使徒タブリス、自由意思を司る者なんですよ」

「自由意思を司る・・・」

「そうです。僕は何人にも束縛されない使徒だったんです。」

「だった?じゃあ今は?」

「ただのヒトですよ」

「もう使徒じゃあないって言うの?」

「そうです」

「ATフィールドが使えるのに?」

「ATフィールドは誰もが持つ心の壁です。使えるからと言ってそれは使徒の専売特許ではありませんからね」

「でも私にはATフィールドは使えないわ」

「ATフィールドの発現は仕方は人に因って異なります。オレンジの位相転移空間を作るだけがATフィールドの効果ではないんですよ」

「では他にはどういう効果があるのかしら?」

「人は他人との触れ合いを求めていながらそれを怖れてもいる。無意識にも他人を拒絶してしまう。それこそがリリンのATフィールドなんですよ」

「それは精神的な側面での話しでしょう?物理的に人間にはATフィールドは使えないわよ」

「レイちゃんとシンジ君は使えますよ」

え?やっぱり俺も使えるの?

「レイやシンジ君が使えるとしても、それはリリスの魂があるからでしょう?」

ちょっと待って!

「カヲル君!」

「なんだい?」

「俺はATフィールドなんて使えないよ」

「使えるさ。シンジ君は知らないだけだよ」

「そんな・・・でもどうして?」

「リツコさんの言った通り、君もリリスだからね」

「話しが少々ずれてしまったわね。シンジ君のATフィールドについてはまた後で調べるわ。で、貴方が私達に協力してくれるのは何故なの?」

「それは結果論です。僕はレイちゃんに協力している。レイちゃんの望みがシンジ君の幸せだからです」

「どういう意味なの?」

「極端に言えば、仮にシンジ君がこの世界の滅びを望むなら、レイちゃんと僕はそれでも協力すると言う事です」

「それは前回のシンジ君の望みの事を言っているのね?」

「そうですよ」

「でもそのシンジ君は今ここにいるシンジ君の陰に引き籠っているのよ。今の彼の望みが何なのか貴方には解るのかしら?」

「彼の本質を理解していれば解りますよ」

「でもそれは思い込みに過ぎないかも知れないわ」

「今はここにあるシンジ君の望みのままでも等価値です」

「・・・わかったわ。ところで、これからの使徒への対処はどうすればいいのかしら?」

「基本的には前回と同じでいいと思いますけど、何か問題でも?」

「前回ははっきり言って薄氷を踏んでいたと言ってもいいの。それに前回と同じ事をしていては、またサード・インパクトが起こるんじゃないかしら?」

「それはそうかも知れません」

「私達はサード・インパクトを阻止したいのよ?」

「それは何故ですか?」

え?サード・インパクトを阻止するために俺達は今ここにいるんじゃないのか?

「何故って・・・貴方はそのために協力してくれているんじゃないの?」

「僕が協力しているのはシンジ君の望みを叶えるためですよ。シンジ君の望みがサード・インパクトならそれに協力するまでです」

「・・・貴方の認識と私の認識とには何か行き違いがあるみたいね」

「そうみたいですね」

何だか変な雲行きになって来たな・・・。

「話しを変えましょう」

「いいですよ」

「その引き籠りのシンジ君の事なんだけど、彼をサルベージする事は貴方には可能かしら?」

「素体さえあれば可能ですね」

「わかったわ」

「まさかレイちゃんの素体を使うんですか?女の子ですよ?」

「それでも彼と話しが出来るメリットは測り知れないのも事実だわ」

「シンジ君が女の子に、ですか・・・。フフフ・・・それもいいかも知れませんね」

どうしたんだろう、カヲル君?何だか嬉しそうだな?

「・・・まあ今は良しとしましょう。今日はこれくらいでいいわ。私もちょっと自分の考えを整理したいから・・・。今日は長時間ありがとうね、渚君」

「いいえ。少しでもお役に立てれば幸いです」

「今日はありがとう、カヲル君」

「いや、いいんだよ。こうして皆に話しをするのは今回の僕の義務だからね」

「そうなんだ」

「それよりも、シンジ君には辛い思いをさせて済まないと思っている」

「俺が辛いって?」

「シンジ君は自分の存在意義について不安に思っているんじゃないのかい?」

「・・・」

確かにそうなんだよな。

「大丈夫だよ、シンジ君。君は皆に望まれてここにいるんだ」

「どういう事?」

「君は必要とされてこの世界に呼ばれたんだよ」

「そうみたいだね」

「それは素晴らしい事だよ。自分の存在意義がはっきりしているんだからね」

でも・・・。

「でも何をすればいいのか判らないよ?」

「君が思う様にすればいいさ。君の魂に従ってね」

「カヲル君が何を言いたいのか俺には判らないよ」

「いいんだよ、今は」

本当に判らないよ、カヲル君・・・。

(ガチャ・・・バタン)

「ただいま・・・」

「おかえり〜!」

「おかえりなさい、碇君」

「ただいま、フェル、綾波」

「食事の用意が出来ているわ」

「お風呂も沸いてるよ〜」

「ありがとう。」

・・・ありがとう、みんな。 


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