『俺と僕で何?』


第六拾弐話 リハビリ


「おはようございます!」

ん?

朝?

ああ、看護婦さんか。

「おはようございます」

ここは病室だったな。

「夕べは良く眠れましたか?」

「はい」

そう言えば夢も見なかった。熟睡してたんだ。

「では朝食前にリハビリをしましょうね」

リハビリ後に朝食。

身体の方はほぼ問題ない。

この後何をすればいいのかな?

(コンコン)

「はい、どうぞ」

誰だろう?

(カチャ・・・バタン)

「おはよう、碇君」

綾波か。

「おはよう」

「具合はどう?」

「うん。良く眠れたよ」

「良かった」

綾波、心配してくれてたんだ。

「うん」

「今日は簡単な検査をして異常がなければ退院していいそうよ」

「わかった」

「身体は大丈夫?」

「ああ、別に問題はないと思う」

「碇君、名前決めたのね」

「うん」

「『碇ユリ』さん」

「そうだよ」

なんか恥ずかしいな。

「わたしはどう呼べばいいの?」

どう呼べばいいかって・・・。

「綾波の好きな呼び方でいいよ」

「わかった。・・・碇君」

「やっぱり『碇君』なの?」

「急には無理。それとも・・・『ユリさん』の方がいいの?」

「シンジの事はどう呼ぶの?」

「・・・『碇君』」

だよね。

「それじゃあ区別が付かないよ。だから『ユリ』でいいと思うよ」

ちょっと恥ずかしいけどね。

「わかったわ・・・ユリさん」

「うん・・・今日は綾波学校を休んで来てくれたんだ」

「ええ」

「いいの?」

「今日は午前中に検査して問題がなければ退院」

「そうか」

「その後碇・・・ユリさんの体調に問題がなければリハビリを兼ねて買い物に行くように言われているわ」

「買い物?」

「そう。碇・・・ユリさんの洋服とか色々と揃えなければいけない物が沢山あるから」

「確かにそうかも知れないね」

洋服かぁ。

俺は女の子の着る物なんて良くわからないんだけど綾波が見立ててくれるのかな?

大丈夫かな?

「買い物にはリツコさんも一緒よ」

「そうなんだ」

それなら安心かも。

(コンコン)

「はい」

今度は誰かな?

(カチャ・・・バタン)

「碇さん、検査ですよ」

「はい」

検査の結果は特に問題なく午前中に退院の運びになり、綾波とリツコさんと一緒にそのまま買い物に行く事になった。

大分マシにはなったが、念の為に松葉杖も持って行く。

着ているのは綾波に借りた洋服で、俺の希望でシャツとジーパンにしてもらった。

初めて付けたブラジャーの感触が慣れない。

食事の後の買い物。

まずは着る物・・・アンダーウェア、パジャマから始まり、今は普段着を選んでいるんだけど・・・。

「これなんかどうかしら?」

リツコさんがスカートを手にして言った。

「それはちょっと」

「シンジ君、いえ、ユリちゃん、女の子なだからスカートも必要よ」

確かに今のところズボン系しか買っていないんだけど。

「はあ」

「とにかく試着してみなさい」

「はい」

(シャーッ)

試着室に入る。

(シャーッ)

やだなあ。

(ゴソゴソゴソ)

これでいいのかな?

「ユリちゃん、着替え終わった?」

「はい」

(シャーッ)

「あら、良く似合ってるわよ。ねえ、レイ?」

「はい。似合ってるわ、碇君」

「あ、ありがとう」

「じゃあ、折角だからこっちのも着てみてくれる?」

・・・

結局スカートも何枚か買う羽目になっちゃった。その後、学用品やら食器やらも買ったので、荷物が相当な量になった。

必要最小限の荷物だけ手持ちして、後は送って貰う事にした。

で、今はパーラーで一休み・・・。

リツコさんはホットコーヒー、レイはフルーツパフェ、俺はアイスコーヒーだ。

「大分慣れたかしら、ユリちゃん?」

「はあ、まあ」

「段々実感が湧いて来たんじゃない?」

「そうですね」

「ところで学校なんだけど、来週から行ってもらうわよ」

「ええっ!もうですか?」

「そうよ。早い方が悩む時間が少なくてその方が結局は楽でしょう」

確かにそうかも知れない。

「わかりました」

「クラスは2年A組で同じ。制服とか学生鞄も用意は出来てるから心配する事はないから」

「それはいいんですけど、不安だなあ・・・」

「大丈夫よ」

「他人事だと思ってるでしょ」

「そんな事はないわ。レイもフェルもイスラも渚君も事情を知ってるからちゃんとフォローしてくれるわよ」

「そうか・・・アスカは知らないんですね」

「そうよ。アスカには話せないもの」

「わかりました」

新しい部屋で荷物を整理している。

シンジの身の周りの物はシンジに置いておかなければいけないので、あまり持って来る事が出来なかった。

しかし・・・。

今まであんまりビックリしてこの事態の事を深く考えなかったけど、色々と疑問があるな。

俺の魂は結局レイの素体に入ってしまったんだけど、何で今迄の『碇シンジ』としての記憶がちゃんとあるんだろう?

記憶は脳内の蛋白質だって聞いた事があるけど、それならば俺の俺としての記憶はこの素体にはあり得ない筈だよ。

それとも違うのかな?

前にリツコさんと記憶について話しをしたような気がするんだけど・・・どんな内容だったかなんて忘れちゃったよ。

後でリツコさんに聞いておこう。

今迄気が付いていなかったけど、フェルやイスラだって同じなんじゃないかな?

使徒の魂と記憶なんて良くわからないけど・・・。

「碇君」

「あ、綾波。何?」

「荷物の整理はどう?」

「大体片付いたよ」

「そう・・・リツコさんが話しがあるから来るように、って」

「わかった。今行くよ」

・・・

「なんですか、話しって?」

「部屋は片付いた?」

「なんとか」

「それは結構。で、貴方の身体の事だけど、当面は定期検診が必要だからちゃんと本部に来るようにね」

「わかりました」

「まあフェルやイスラの身体を診てきた限りでは特に問題が出る事はないと思うんだけどね」

「はい」

「それから、これが貴方の新しいIDカードよ」

「はい。ありがとうございます」

『碇ユリ』となっていて、顔写真もある。

「後、部屋が足りないから貴方とレイには隣りに住んでもらう事にしたけど、食事は今迄通りこっちでみんな一緒に採ろうと思うんだけどいいかしら?」

「いいですよ」

「レイもそれでいい?」

「はい。問題ありません」

そうだ!今聞いちゃおうかな。

「リツコさん」

「何、ユリちゃん?」

「質問があるんですけど」

「なあに、難しい話しかしら?」

「多分」

「レイも必要なの?」

「出来れば」

綾波には一緒に聞いてもらった方がいいよね。

「じゃあ何か飲み物を用意しましょうか」

・・・

「で、何かしら、質問って?」

「俺の記憶の事なんですけど・・・」

「どうぞ続けて」

「はい。・・・俺は、俺の魂は今回レイの素体に入りました」

「そうね」

「で、何で俺は俺の記憶を持っていられるんですか?」

「その話しなのね」

「ええ。俺は、記憶って言うのは、魂じゃなくて脳を中心とした肉体に帰属するって思ってたんです。だから今回俺の魂がこのレイの肉体に入ったとしても俺のシンジとしての記憶まであるのはおかしいと思ったんです 」

「なるほどね。ユリちゃんは、前回のフェルやイスラ、そして、今回のユリちゃんのサルベージもみんな渚君がやった事だって言うのは知ってるわね」

「ええ」

「渚君のこのサルベージ能力はアダムとリリスの能力なの」

「はあ」

それが何なんだろう?

「確かに人間の記憶は基本的にはユリちゃんが言う通り、脳を中心とした肉体に帰属するもので魂とは直接リンクしていないわ。ただ、アダムとリリスは言ってみれば神様だから例外なのね。世界を巻き戻してみたり、一部の人間の記憶をそのまま残してみたり、色々と出来て・・・まあ言ってみれば万能の神なのよ 」

「・・・」

「で、のフェルとイスラとユリちゃんのサルベージもそう。記憶付きでサルベージしちゃってるのよね。反則だわ」

万能の神、か。

「わかりました。理屈も何も関係ないって事ですね」

「そうなるわね」

「本当は記憶って何なんですか?」

「味気ない言い方だけど、科学的に言うならば、脳内の蛋白質によるものだわ」

「やっぱりそうなんですか」

「そうよ」

「わかりました。現実を直視して受け入れます」

「ありがとう」

「俺の方からの話しは以上です」

「わかったわ。・・・あ、そうそう」

ん?

「何ですか?」

「昨日フェルから聞いたんだけど、今日は本当ならクラスのみんなで遊園地に行くんだったんですってね?」

あ!

そう言えば・・・。

「そうでしたね。サボっちゃったな。ただ・・・シンジはまだ目が覚めていないからどうせ行けませんでしたけどね」

「そうね。でも、フェルに電話してもらって明日に延期してもらったのよ」

「そうなんですか。悪かったね、フェル」

「いいんだよ。シンジがいなくちゃ詰まんないも〜ん」

「ありがとう」

「で、明日シンジ君の替わりにユリちゃんが行ってらっしゃいな」

「えーっ?俺が行くんですかぁ?」

「どうせ来週は登校するんだから、その前の練習にちょうどいいじゃない」

「マジですか?」

「マジよ」

「碇君、一緒に行きましょ」

「綾波・・・」

「でも・・・嫌だなぁ」

「ユリちゃん。いつかは乗り越えなくちゃいけない試練よ」

それはそうなんだけど。明日かぁ・・・。

「碇君、わたしは碇君と一緒に行きたい」

綾波・・・。

「わかったよ」

「じゃあそういう事でいいわね」

仕方ないな。

「・・・はい」

「レイはフェルと一緒にユリちゃんのフォローをしっかりね」

「わかりました」

はぁ。

「ユリちゃん」

「あ、はい」

まだこの呼ばれ方に慣れないな。

「身体が不自由なところ悪いんだけど、レイと一緒に夕飯の買い物の行ってくれるかしら?」

「はい、わかりました」

もう松葉杖はいらないような感じだな。

「何を買えばいいんですか?」

綾波が質問する。

「献立は貴方達に任せるわ。買い置きがほとんどないからその積もりで買ってきてね。ユリちゃんには買い物に行く条件があるから」

ん?何だろう?

綾波と二人で買い物。

リツコさんが俺に付けた条件はスカート着用だった。

「碇君、歩き方がいつもより遅いわ」

「仕方ないよ、スカートって歩きにくいんだから」

足元がスースーして心許無い。

スカートってこんなに頼りない物だったんだ。

「今晩は何にする?」

うーーん。何にしようか?

「綾波は何か食べたい物がある?」

「わたしは・・・わからない」

ありゃ。俺は・・・何にも思い付かないや。

「スーパーに行ってから決めよう」

「わかったわ」

・・・

タイムサービスにはちょっと時間が早いけど、今日の特売は何かな?

売り場を少しうろうろする。

うーん、特に安いのがないよ。まだ16時で時間が中途半端だからな。

「何にしよう?綾波は何か思い付いた?」

「ううん」

仕方ないな、もう。

「じゃあお好み焼きでもいいかな?」

「お好み焼き?」

そう言えば今まで作った事なかったっけ?

「そうだよ。まさか・・・綾波は食べた事ないの?」

「いいえ、ないわ」

ええ、本当に?

「お好み焼きを食べた事ないの?」

「ええ」

「お好み焼き自体は知ってるよね」

「それは知ってるわ」

「そっか。じゃあ今晩はお好み焼きにしよう」

豚玉、蝦玉、烏賊玉位でいいかな。

・・・

薄力粉、玉子、長芋、キャベツ、万能葱、桜海老、ニンニク、チーズ、切り餅、ソース、紅生姜、鰹節、料理酒、豚腿薄切り肉、海老、烏賊・・・こんなもんかな?

あ、韮も要るな。

デザートは・・・アイスクリームでいいか。

「材料が沢山要るのね」

「うん。折角だから本格的に作ろうと思って」

綾波は初めてなんだから好い加減な物は作れないよ。

「じゃあこんなもんだからレジに行こうか」

「わかった」

・・・

(ガチャ・・・バタン)

「ただいまー」

「ただいま」

「お帰りなさい」

「お帰り〜!」

あ、フェル帰って来てたんだ。

リツコさんとフェルはリビングにいた。

「今日はお好み焼きにしますが、いいですか?」

「あら、珍しいわね。私はお好み焼き好きよ」

「わ〜い!お好み焼きだぁ〜!」

買って来た材料をとりあえず冷蔵庫に仕舞う。

「あ、それとさっき買った荷物が届いたからユリちゃんの部屋に入れておいたわ。今のうちに整理してらっしゃいな」

「はい。ありがとうございます」

・・・

新しい部屋。

でも、ベッドも机の箪笥も揃っている。

パソコンもある。

届いた荷物はダンボールで3箱もあった。

衣類、学用品、日常雑貨・・・一つ一つ収納していく。

なんだかわからないけど少し楽しい。

衣類にしても学用品にしても雑貨にしても、デザインが女の子の物だから何か新鮮だ。

最初は不安ばっかりだったけど、少し期待する気持ちも出て来たかも知れない。

何を期待するのかはわからないけどね。

シンジとしての荷物はほとんど残してきた。

洋服や学用品は丸々置いておかなきゃいけなかったし、写真と書籍の一部を持ってきた位だ。

後はシンジが目覚めたら直接シンジと相談して決めるしかない。

「碇君」

「ん、何?」

「そろそろご飯にしましょう、って」

ああ、もう直ぐ7時か。

「わかった。今いくから」

「じゃあ、待ってるわ」

・・・

「おっ好み焼〜きっ!おっ好み焼〜きっ!うっれしいな、っと!」

「フェルったらご機嫌ね」

リツコさんが呆れている。

テーブルには食事の準備が出来ていた。

「準備していただいたんですね、すいませんでした」

「いいのよ、気にしないで。ユリちゃんはまだ本調子じゃないでしょ」

「ありがとうございます」

「早く焼こうよ〜」

「はいはい」

リツコさんがホットプレートに種を落とす。

「フェルは豚玉〜!」

「わかったわ。レイは?」

「わたしは蝦がいいです」

「ユリちゃんは?」

「俺は豚でお願いします」

「ねえ、ユリちゃん」

「はい?」

何だろう?

「やっぱり、その『俺』ってやめた方がいいんじゃないかしら?」

あ!そういう事か。

「じゃあ何て言えばいいんですか?」

綾波とイスラは『わたし』、フェルは『フェル』、アスカは確か『あたし』・・・だったよな。

「ユリちゃんはユリちゃんとしてのイメージを作る必要があるわね」

「ユリのイメージ、ですか?」

「ええ。基本的にはシンジ君の人格でいいと思うんだけど性別が変わった訳だからそれなりのアレンジは必要よ」

俺なりのアレンジねぇ・・・。

「今の俺のこの格好ってどういうイメージですか?」

「そうねえ・・・レイに似ているからどうしてもそのイメージに引っ張られるけど、元が男の子だからね。うーん・・・」

「『俺』じゃ駄目ですか?」

「ユリちゃんは自分の事を『俺』って言う女の子を知ってる?」

リツコさんが具をトッピングしてる。

「いえ、知りません」

確かに俺の身近にはいないよな。

明日には遊園地に行ってみんなに会うんだからどうするか今のうちに決めておかないといけないんだ。

「やっぱり付け焼刃はいずれボロが出ると思いますから、少し変でも『俺』にします。男言葉で何とかやってみますよ」

「そう・・・わかったわ。好きにしなさい」

お好み焼きを裏返してる。

「はい」

そう言えばシンジは自分の事を『僕』って言うんだったな。

シンジこそ今まで俺が『俺』って言ってたからいきなり『僕』になると違和感があるんじゃあないのかな?

「さあ、そろそろ食べられるわ。いただきましょう」

「「はい」」

「は〜い!」

・・・

食事が終わってリビングでぼんやりしている。

「ユリちゃん。お風呂はどうするの?」

リツコさんに聞かれた。

「向こうの部屋に帰って入ろうかと思いますけど」

「わかったわ。じゃあユリちゃんはお風呂を入れてらっしゃいな。レイ、ちょっといいかしら?」

「はい」

綾波が呼ばれてリツコさんの部屋に入っていった。

内緒話しみたいだけど、何だろう?

仕方ない。風呂入れるか。

「じゃあフェル、俺は自分の部屋に戻るから、リツコさんとレイにそう言っておいてね」

「あ〜い、ユリ」

う・・・フェルもそう呼ぶか。

(ピピピ・・・ピピピ・・・)

あ、風呂が入った。

(ガチャ・・・バタン)

綾波かな?

「ただいま」

綾波だ。

「綾波、ちょうど良かった。今風呂が入ったところだよ。先入る?」

「いい。碇君が先に入って」

「うん。じゃあそうさせてもらうよ」

・・・

(チャポーン・・・)

「ああ・・・気持ちいいな。やっぱり自宅の風呂の方が落ち着くな」

この部屋はリツコさんの部屋とは完全に左右対称になっているから、少し変な感じだ。

さて身体を洗うか。

「よっ、と」

(ザッパーン)

しかし身体が少し縮んだみたいで変な感じだ。

身長が152だから10位背が低くなったんだよな。

肩幅もないし、体重だって軽い。

小学校に戻ったみたいだ。

(カシャッ!)

え?

(パタン!)

あ、綾波ぃ?

え?何?

綾波が裸で入って来た!

「あ、綾波・・・」

「背中を流すわ」

「え?・・・その・・・不味いよ、綾波」

「何が?」

「いや・・・その・・・綾波裸だし」

「問題ないわ」

「問題あるよ!」

「女の子同士だもの、問題ないわ」

それは・・・。

「それは見掛けはそうかも知れないけどさ、やっぱり不味いよ」

意識は男なんだからさ。

「他の女の子の身体にも慣れなければいけないもの。だから練習よ」

・・・リツコさんの差し金だな。

「リツコさんに言われたの?」

「うん」

仕方ないな。

「わかったよ。じゃあお願いするよ」

綾波が俺の後ろに座る。

ボディソープで背中を洗ってくれる。

綾波の手が時折俺の背中に触る。

あれ?

緊張はするけど・・・興奮はしないな。

身体が女の子になっただけなのにどうしてだろう?

まあこの身体じゃあ興奮のしようもないけどね。

そう言う事なのかな?

綾波が背中をシャワーで流してくれた。

「終わったわ」

「ありがとう、綾波。じゃあ今度は綾波の背中を流してあげるよ」

「うん」

攻守交代だ。

ナイロンタオルにボディソープを付けて綾波の背中を洗う。

綾波の背中って小さいんだ。

「綾波の背中って綺麗だね」

何を言ってるんだ、俺は?

「ありがと」

シャワーで泡を流す。

「はい、終わったよ」

「うん」

・・・

その後で隣り合わせに座って身体を洗った。

(チャッポーン)

綾波と一緒に湯船につかっている。

でも何だか自然だ。

「綾波、ありがとう」

「何が?」

「一緒に風呂に入ってくれて」

「いいの」

「綾波は俺がこんな身体になった事をどう思ってるの?」

「・・・わからない」

「そう」

俺は・・・俺は綾波を好きだったのかも知れない。

「碇君」

「何?」

「碇君は碇君だわ。たとえ肉体がどうなろうとも、わたしにとって碇君は碇君なの」

「綾波・・・」

「もう一人の碇君もいずれ眼を覚ますわ」

「うん、そうだね」

「でも今日までわたしが一緒に過ごした碇君はあなたなの」

「?」

「だからその事は忘れないでね」

どう言う意味なんだろう?

良くわからないよ。

「どう言う事なの?」

「碇君はわからなくてもいいの。わたしが今言った事だけを覚えていてくれればいいの」

「わかったよ、綾波」

「そろそろ出ましょ」

(ザッパーッ!)

明日は遊園地か。

シンジはネルフ絡みのテストで急遽松代に行って帰って来れなくて替わりに俺が行く事になっているんだったよな。

で、俺は碇シンジの従兄妹、『碇ユリ』、なんだ。

父親は碇ゲンゾウ、母親は碇クミ。

碇クミは碇ユイの姉。

両親が仕事で渡米したので、俺は単身第二新東京市からここ第三新東京市に来た。

「とにかく間違えないようにしないとな」

明日はカヲル君やイスラは事情を知っているからいいとしても、事情を知らないアスカやトウジ、ケンスケ、洞木さんも来るんだ。

まさか俺が女の子になっちゃったなんて誰も思わないだろうけど、変な事を言わない様にしなくちゃいけない。

初対面という筈だもんな。

緊張するかも。

(コンコン)

あれ?

綾波かな?

「はい」

(ガチャ・・・バタン)

「ちょっといい?」

「うん、いいけど・・・どうしたの?」

「・・・今晩一緒に・・・」

「一緒に何?」

「その・・・一緒に寝てくれる?」

「え?」

なんだって?

「・・・だめ?」

また上目使いの反則技かぁ。

俺ってそれに弱いんだよね・・・。

「それもリツコさんに言われたの?」

「うん」

嘘が付けないんだね、綾波は。

仕方ないか。

「わかったよ」

綾波の顔がパッと明るくなった。

まあいいよね、女の子同士なんだからさ。

「ありがと、碇君」

「じゃあ綾波のベッドもこっちの部屋に持ってこよう。シングルベッド一つじゃあ狭いからね。」

・・・

女の子二人には少々重労働だったけど何とかベッドを持って来て隣り合わせにした。

俺の筋力は男の時よりも落ちているみたいだ。

「これでいいね」

「うん」

「じゃあ寝ようか」

「うん」

それぞれのベッドに潜り込む。

綾波は疲れているのか、もう寝息を立てている。

寝たねかな?

「綾波?」

返事がない。

寝たのか。

しかし俺はこの先どうなっちゃうのかな?

これから一生女の子のままなんだろうか?

大体本当に実験は失敗だったのかな?

この結果は元々予定されていたんじゃないのか?

シンジはそもそも男の子だ。

リリスはカヲル君が言うには女性的な存在だ。

だから男の方を綾波の素体にサルベージしたんじゃないのかな?

済んでしまった事をうだうだ言っても仕方ないし、恨み言を言う気もないけど。

まあ最初にそう言われたら俺が抵抗しただろうってのも確かなんだけどね。

そうだな、済んでしまった事を思い悩んでも仕方ない。

これからの事を考えよう。


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