『俺と僕で何?』


第六拾四話 シンジ、復活


ん?

なんだろう?

眼を開ける。

目の前に紅い眼がある。

「綾波・・・」

「おはよう、碇君」

「あ、おはよう、綾波」

綾波がじっと俺の顔を見ている。

「どうしたの?」

「ううん、何でもない」

今は・・・7時20分か。

「起きようか?」

「・・・うん」

シャワーを浴びて着替えると綾波と二人でリツコさんの部屋に行った。

「おはよう」

「おはよう」

「おっはよ〜。」

あれ?

「フェル、リツコさんは?」

「もう本部に行ったよ〜」

え?

今日は俺と一緒に行くんじゃなかったっけ?

「早いんだね・・・どうかしたのかな?」

「うん。シンジが目覚めたって連絡があって、それでリツコさんは先に行ったんだよ〜」

ええっ!

「本当か?」

「うん」

「大変じゃないか!」

「良かったんじゃないの〜?」

それはそうなんだけどね。

「じゃあ俺も本部に行かなくちゃ!」

「朝ご飯は〜?」

「いらないよ!じゃあ行ってくるよ!」

「わたしも行くわ」

「フェルも行く〜」

「わかった。じゃあ二人とも早く支度してよ」

俺はイスラに電話して俺達三人が学校を休む事を伝えた。

本部に着いたらシンジの病室に直行する。

(コンコン)

「はい」

リツコさんの声だ。

「シンジ・・・いや、ユリです。綾波とフェルも一緒です」

「どうぞ、入って」

「はい」

(ガチャ・・・バタン)

シンジはベッドに上半身を起こしていた。

「早かったわね、みんな」

リツコさんが言った。

「ええ、俺も起こしてくれれば良かったのに・・・」

ちょっと恨み言を言う。

「まあ怒らないでよ。検査とかも終わったから、丁度いいタイミングになったんだから」

「そうですか」

「みんな横一列に並んでくれる?」

俺達は言われた通りに横一列に並んだ。

「シンジ君」

「はい」

「貴方から向かって右から渚フェル、碇ユリ、そして、綾波レイよ」

「フェルだよ〜。よろしく〜、シンジ!」

「綾波レイ・・・よろしく」

「碇、碇ユリだよ。元碇シンジだ。よろしく」

「碇・・・碇シンジです。よろしく」

やっと逢えたんだ、碇シンジに。

「具合はどうかな?」

「大丈夫みたいだ。ありがとう。君が僕だったんだね、碇ユリさん」

「そうだよ」

「あの・・・その・・・ごめんなさい」

「何が?」

「僕のせいでそんな事になっちゃって・・・」

ああ、この身体の事か。

「別にいいんだよ。割りと気に入ってるし、この身体」

嘘ばっかり!

「フェル、レイ、暫く二人だけにしてあげましょう」

「は〜い」

「わかりました」

「じゃあ話しが終わったら呼んでね、ユリちゃん。まだあまり長く話しちゃ駄目よ」

「わかりました」

(ガチャ・・・バタン)

「やっと逢えたね、シンジ」

「うん」

「どう、久しぶりに自分の身体に戻った感じは?」

「まだ良くわからないよ」

「サード・インパクトから今迄何が起こったのかは判る?」

「うん。その辺の事は君と一緒にいたから・・・」

「そっか」

「僕は戻って来て良かったのかな?」

「当たり前じゃないか」

「僕はみんなに酷い事をしたんだ」

「そんな事ないよ」

「みんなを傷付けて自分だけ逃げて・・・僕は卑怯で狡いヤツなんだ」

「そんな事ないって。みんな君を待っていたんだよ」

「そっかな?」

「そうだよ」

「・・・ありがとう」

「で、身体の調子はどう?」

「うん、何も問題はないみたいだよ」

「それは良かった」

「僕はまた繰り返すのかな?」

「何を?」

「前回と同じ事をさ」

「もう前回とは変わっている。これから作るんだ、新しい未来をね」

「・・・」

「一緒に頑張ろうよ、シンジ!」

「うん・・・あの・・・」

あ、そうか。

「ユリ、呼び捨てでいいよ、シンジ。」

「ありがとう・・・ユリ」

まだあまり話し込むのもシンジが疲れるかな?

「じゃあリツコさんを呼ぶね」

「うん」

俺は綾波とフェルとで本部の食堂で遅い朝食を採っている。

「どうだった〜、本家本元のシンジとのご対面は〜?」

「良くわからないな」

「話ししたんでしょう〜?」

「話したって言っても少しだけだからね」

「ふ〜ん」

「シンジはまだ自分を責めているみたいだ。サード・インパクトの事をね。だからその辺は気遣う必要があると思う」

「わかったわ」

「オッケ〜」

「フェルはシンジと一緒に住む事になるんだから、その辺のケアもよろしく頼むよ」

「わかってるよ〜、任せて!」

リツコさんの執務室。

綾波とフェルは朝だと言うのに食堂でデザートを食べている。

「シンジは何時退院出来るんですか?」

「身体には特に問題はないから本人さえ良ければ今日の午後でも退院出来るわよ」

「で、シンジはどう言ってるんですか?」

「シンジ君は退院するって言ってるわ。だから、午後には退院ね」

「わかりました」

本当に大丈夫なのかな?

「出来ればユリちゃんシンジ君と一緒に帰ってくれないかしら?車は出すから」

「いいですけど何時位になるんですか?」

「2時でどうかしら?」

「わかりました。で、俺はここではどう言う立場なんですか?」

「貴方はシンジ君の従兄妹よ、あくまでもね」

「はい。了解です。でもまだまだ時間がありますね」

「レイとフェルはどうしたの?」

「食堂でデザートを食べてますよ」

「朝から?」

「ええ」

「じゃあ折角だから貴方をみんなに紹介しておこうかしら?」

「今日これからですか?」

「そうよ。何か問題でも?」

「あ、いや」

まあリツコさんに任せておけばいいか。

みんなに紹介されるのか・・・あ!

「リツコさん!」

「何よいきなり・・・びっくりするじゃない」

「俺ってシンジの従兄妹なんですよね?」

「そうよ。それがどうかして?」

「父さんは?父さんは大丈夫なんですか?」

「ああ、その事。今頃気付いたの?」

「自分の身体の事にばっかり気を取られてすっかり忘れてました」

「総司令と副司令にはちゃんと説明してあるから心配しなくても大丈夫よ」

「そうなんですか?」

「そうよ。そもそも貴方がシンジ君の従兄妹だと言うシナリオを描いたのは碇司令なのよ」

ええっ?!

「父さんが・・・ですか?」

「そう」

「でも俺の正体はどう説明したんですか?」

「貴方はエヴァのシンクロテスト中に事故で碇シンジの人格が分離してレイの素体に宿ったもう一人の碇シンジと言う事になっているわ」

なんて強引なんだ・・・。

「そんなんで納得したんですか、父さんや副司令が?」

「納得したかどうかは解らないけど疑ってはいないみたいだったわよ」

マジ?

「もう何でも有りですね、エヴァって・・・」

「貴方がいつ聞くかと思って待ってたんだけど、思ったよりも遅かったわね」

「はあ」

確かに自分の状況を受け入れるだけで精一杯だったからな。

「今度私の家に住む事になったシンジ君の従兄妹の碇ユリさんよ。私のマンションの隣りの部屋にレイと一緒に住んでいるわ。チルドレン候補生としてシンクロテストをする事になっているからよろしくお願いするわ 」

リツコさんが発令所のみんなに紹介してくれた。

今日は休日なのにみんな出て来ているんだ・・・大変なんだな。

「碇ユリです。皆さんよろしくお願いします」

「俺は青葉、青葉シゲルだ。ここではオペレーターをやっている。よろしくな」

「はい」

「僕は日向マコト、作戦立案の補佐兼オペレーターをやっている。よろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」

「わたしは伊吹マヤよ。エヴァとMAGIの制御とオペレーターを担当しているの。よろしくね、ユリちゃん」

「はい、よろしくお願いします」

あ、ミサトさんだ。

「あたしはこの前会って自己紹介済みだからもういいわね」

「はい、ミサトさん」

「以上よ。では各自仕事に戻って」

「「「了解!」」」

リツコさんが携帯をチェックしている。

何かあったのかな?

「シンジ君の検査が予定よりも早く終わったいだから、とりあえずシンジ君の病室に行きましょう」

「はい」

シンジは着替えてベッド脇の椅子に座っている。

「退院の準備は出来たかしら?」

「はい、出来てます」

「ユリちゃん、レイとフェルを呼んでくれないかしら?」

「はい、わかりました」

「やっほ〜、シンジ。元気になったかな?」

「うん・・・お陰様で・・・ありがとう」

「フェルは何もしてないよ〜」

「あ・・・うん・・・そうだね、ごめん」

「何で謝るの〜?」

「あ、うん・・・口癖なんだよ・・・ごめん」

「あ、また。おかしいな〜」

「お昼はここで済ませてから帰るといいわね」

「はい、そうします」

シンジには特別食のお粥が用意されていた。

「シンジに俺の経歴を教えておかなくちゃいけないね」

「うん、そうだね」

・・・

俺はシンジに俺の経歴を説明した。

「そっか・・・従兄妹なんだね、僕達」

「ああ。俺は明日からみんなと同じクラスに転入するんだ。シンジはどうする?」

「僕も明日から学校に行くよ」

「わかった。ところで相談なんだけど・・・」

「何?」

「俺は自分の事を『俺』って呼んでたんだけど、シンジは自分の事を『僕』って呼ぶじゃないか。これからはどうするんだ?」

「ああ・・・そうだね」

「まあ無理する事はないけどね」

「うん。学校のみんなに変に思われるのも嫌だから頑張って『俺』って言うように努力するよ」

「そうか。じゃあそろそろ行こうか?」

「うん」

「えー!デザートは〜?」

「まだ食べるの、フェル?」

「うん」

「家で何か用意するから、それでいいかな?」

「うーん・・・わかったよ〜」

「綾波はいいかな?」

「いいわ、行きましょう」

リニアから地上に出ると車が待っていた。

「これに乗って」

シンジに声を掛ける。

「うん」

・・・

「家に帰る前にスーパーに寄りたいんですがいいですか?」

黒服の保安部の人に聞く。

「別に問題はない。どこのスーパーかね?」

・・・

「今晩の食事は何か制限があるのかな?」

シンジに聞く。

「もう大丈夫みたいだけど」

「そっか」

「何か食べたい物があるかな?」

「ううん・・・別にあから」

「そっか」

何かお腹に優しい物がいいかな・・・じゃあ素麺か冷や麦にしようかな。それとも煮込みうどんがいいかな。

「煮込みうどんでいいかな?」

「いいよ」

スーパー経由で帰宅。

「家の中とか自分の部屋の事は分かるよね」

「うん、分かるよ」

「じゃあリビングで待ってるから落ち着いたら来てよ」

「わかった」

・・・

リビングでテレビを観ていたらシンジが来た。

「もういいの?」

「うん・・・ありがとう」

「何か飲む?」

「うん・・・じゃあコーヒーをお願い出来るかな」

「はいは〜い。フェルが煎れるよ〜」

「悪いな」

「いいって〜。ユリはシンジとお話ししてなよ〜」

「ありがとう、フェル」

フェルがキッチンへ行った。

「さて、ここには目も耳もないから何でも話せるよ」

「あ、うん」

「やっと会えたね、シンジ」

「そうだね・・・ユリさん」

「ユリ、って呼び捨てでいいよ。従兄妹なんだからさ」

「わかったよ・・・ユリ」

「そうそう」

「・・・何だか久しぶりだ」

「何が?」

「こうやって話しをするのが」

「シンジは今迄俺の意識の陰に隠れていたんだよね。どんな感じだったの?」

「そうだね・・・長い夢を見てるような感じ、かな」

「そうなんだ」

「うん。で、君の意識は共有出来てるんだ。だからシャムシエル戦の後からの事は分かるんだよ。その前の事は分からないけどね」

「その前って初号機に取り込まれていた時の事?」

「そうだよ」

「そっか」

「もちろんサード・インパクト迄の前回の記憶は持ってるんだけどね」

「ああ、それはそうだよね」

「コーヒー入ったよ〜」

「ありがとう、フェル」

「シンジはお砂糖とミルクはどうするの〜?」

「あ・・・今日はブラックで」

「了解〜。ユリは〜?」

「俺もブラックでいいよ」

「了解〜。レイは〜?」

「お砂糖とミルクを。自分でするわ。ありがとう」

「了解〜」

フェルがコーヒーを並べる。

綾波が砂糖とミルクを入れている。

「シンジは今のこの世界をどう思ってる?」

「どう思ってる、って?」

「うん。シンジはこれからまたエヴァに乗る事になるだろう?」

「あ、うん・・・多分そうなるんだよね」

「そして使徒と戦うんだ。まあ前回とはもう大分展開が変わっているけどね」

「そうだね」

「シンジは何を望むの?」

「何、って・・・」

「あのサード・インパクトの後の紅い海で何を望んだんだい?」

「僕は・・・いや俺は・・・あの世界は違うと思ったんだ。誰もいない世界なんかでは生きている意味がない、そう思ったんだ」

「またみんなのいる世界を望んだのかな?」

「多分そうなのかな?・・・はっきりとは判らない、自分でも」

「そっか。綾波は今リリスの記憶を封印してるから彼女が何を思ってこの世界を創ったのか確認出来ないんだ。多分シンジの望みを叶えようとしたんだと思うんだけどね」

「そっかな?」

「俺はそうだと思ってるよ」

「ごめんなさい」

「綾波のせいじゃないさ」

「碇君」

「何、綾波?」

「碇君が何を望んだのかは今のわたしには思い出せないの。でも、きっとわたしの望みは碇君の望みだわ」

「・・・ありがとう、綾波」

なんか妬けるな。

「さて今日は学校を休んじゃったけど明日はどうする?俺は行くけどね」

「僕・・・いや俺も行くよ」

「なかなか『俺』って言いにくいみたいだな、シンジ」

「そうだね。まだ慣れなくって・・・」

「まあ仕方ないさ。俺だって女の子になったのに相変わらず『俺』だもんな。変だよね」

「そんな事ないんじゃないかな?その・・・ボーイッシュで」

「そうかな?」

「いいんじゃないの〜。フェルは変だとは思わないよ〜」

「わたしもユリは今のままでいいと思う」

「そっか。じゃあまあいいか」

結局リツコさんは今日は本部に泊まりなった。

四人で夕食を済ませて綾波と帰宅。シャワーも浴びて、今は勉強部屋にいる。

部屋は元々の綾波の部屋を二人の勉強部屋にして俺の部屋を二人の寝室に模様変えした。

「時間割り揃えなくっちゃ」

真新しい学生鞄、真新しい教科書、真新しい学用品・・・まあ仕方ないんだけど、全部が全部真新しいっていうのも不自然って言や不自然だよな。

筆箱やなんかは前から使っていた筈なんだから・・・。

まあ俺としては心機一転の気分でいいけどね。

教科書やらなんやらに自分の名前を書いていく。

「さすがに筆跡は変わらないか」

思わず声に出た。

「どうしたの?」

「あ、俺の筆跡が前のシンジの筆跡と同じなんだよね」

「そう・・・確かにそうかも知れないわね」

「うん」

「でも気にする事はないわ。従兄妹なんだから似ていてもそれ程おかしくはないわ」

「それもそうだね」

でも良く見ると微妙に違う感じだ。

指の筋肉とかがシンジの身体とは違うからかな?

明日から学校・・・。

「二度目の転入、か」

間違ってもへまをしない様にしないといけないな。

「じゃあ寝ようか」

「ええ」

・・・

「おやすみ、綾波」

「おやすみ、碇君」


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