『俺と僕で何?』


第六拾七話 素体の変化


今朝は俺の方が先に起きて綾波はまだ寝てた。

あ、綾波が見てる。

「おはよう、綾波」

「・・・おはよう、碇君いえユリ」

・・・

いつもの通りシャワーを浴びて着替えて、綾波と一緒にリツコさんの部屋に行く。

(ガチャ・・・バタン)

「お邪魔しまーす」

「・・・お邪魔します」

みんなを起こさない様に今日も小声で挨拶したんだけど、考えてみたらシンジとフェルは朝食と弁当の当番だから今日はもう起きているんだよね。

「おっはよう〜」

「おはよう」

ほらね。

「おはよう、ユリ、レイ」

リツコさんも起きていたんだ。

「おはようございます、リツコさん」

「おはようございます」

「朝食もう直ぐみたいだからコーヒーを煎れるわ。レイは紅茶の方がいいかしら?」

「あ、わたしが煎れます」

「悪いわね、レイ」

「いえ。碇君とフェルは何がいいのかしら?」

「フェルは紅茶がいいな〜」

「僕はコーヒーがいいや。悪いね、綾波」

「いいの。ユリはコーヒー?」

「ああ」

「わかった」

綾波がコーヒーと紅茶の用意に取り掛かった。

シンジは弁当、フェルは朝食作りに専念している。

「何か手伝おうか?」

「じゃあユリは食器の用意をしてくれるかな」

「了解」

リツコさんと食器の用意をする。

・・・

今日もフェルが作ったからコンチネンタルブレックファーストだ。

「「「「「いただきま(〜)す!」」」」」

「ユリちゃん、学校の方はどう?」

と、リツコさん。

「ええ、特に問題はありません。大丈夫ですよ」

「そう。それは良かったわ。女の子にも大分慣れたかしら?」

「ええ、何とかなってます。綾波が色々と教えてくれてますから」

「それは良かったわ。レイの勉強にもなるから一石二鳥ね」

リツコさん、ニコニコしている。

そうか・・・そういう狙いもあったのか。

「今日はテストはあるんですか?」

リツコさんに聞いてみる。

「今日はないから通常待機でいいわよ」

「わ〜い!」

フェルが喜んでいる。

「じゃあ学校終わったらみんなでショッピングに行かない?」

と、フェル。

「何か買うの?」

「うん。まずはテニス用品!ユリ、まだ買ってないでしょ〜?」

確かに。

「そうだね」

「ユリはシンジに残していちゃった物が結構あるからまだ色々と足りない物があるんじゃない?本部に行かなくていいこの際に買っておいた方がいいと思うよ〜」

「そう言えばそうだね。わかった」

「後片付けは私がしておくからみんなそろそろ学校に行きなさい」

「「「「はい!」」」」

・・・困った。

また下駄箱にラブレターが・・・。

まだこの前のも読んでないのに。

こういうのってどうしたらいいんだろうな?

前のアスカは速行処分してたんだけど。

「ユリ、今日も多いね〜」

あ、そう言えばフェルはどうしてるんだろう?

「ねえ、フェル」

「ん、なあに〜?」

「フェルは貰ったラブレターはどうしてるの?」

「フェル?・・・フェルはそんなに貰った事ないからな〜」

「でも貰ったのはどうしてるの?」

「一応読んでるけど、捨てちゃってるし、返事とかも出さないよ〜」

そうか・・・フェルはアスカタイプなんだな。

仕方がない、後でイスラにでも聞こうかな。

家庭科の時間。

今日は調理実習、作るのは定番のカレーだ。

「碇さんってお料理が上手そうね」

同じグループになったクラスメートからそう言われた。

「そんな事ないよ」

「だって碇さんって包丁捌きがわたし達と全然違うもの。かなり使い慣れてるんでしょう?」

うーん、何て答えればいいんだろう?

「まあ毎日交替で食事を作ってはいるけどね」

「すっごーい!」

そっかな?男の時からやってたんだけど・・・。

放課後。

「じゃあショッピングセンターに行くよ〜!」

元気なフェル。

メンバーは、フェル、シンジ、綾波、アスカ、イスラそして俺のカヲル君を除くチルドレン全員だ。

「俺は確かにテニス道具を持ってないから買わなきゃいけないかも知れないけどさ、他のみんなは持ってるから買う必要はないじゃないか」

「甘いわよ、ユリ!」

アスカが吠える。

「何が甘いって言うの?」

「いいこと、ユリ。テニス用品だってラケットだってウェアだって次々と新作が出てるのよ。着替えだっているし、いっつもいつもおんなじウェアを着る訳にはいかないでしょうがっ!」

「そんなもんなのかな?」

「だいたいユリは女の子のくせに、そういう事に無頓着過ぎるのよ、シンジじゃあるまいし」

ぎく!

「そ、そうかな?」

「そうよ。自分の事だって女の子なのに『俺』なんて言うしね」

「仕方ないじゃないか、癖になっちゃってるんだから」

「とにかくみんなで行くのよ!」

「わかったよ」

「猫ちゃん達のペット用品も買いたいよ〜」

と、フェルが言う。

「フェルってペット担当だもんね」

「うん!」

「そう言えば最近トトやチャチャやミミを見てないな・・・」

「レイさんの空いた部屋を猫ちゃん達の部屋にしたんだよ〜」

「そうなんだ」

「餌箱もトイレもキャットタワーとかの遊び道具も完備したんだからね〜」

「それは凄いな」

今度見てみようっと。

ショッピングセンターでは買い物にかなり時間が掛かった。

「結構遅くなっちゃったね」

「何よ、シンジ。あたしのせいだとでも言いたいのかしら?」

「そんな事言ってないじゃないか」

でもテニスショップでのアスカのウェア選びが一番時間が掛ってたのは確かだよな。

「ペット用品も安くて良いのがあって良かった〜」

あ!

「突然だけど、イスラってさ、学校とかで貰ったラブレターってどうしてるの?」

「どうしたんですか、突然?」

「フェルには聞いたんだけどさ。まあアスカがどうしてるのかは見てれば分かるしね」

「で、わたしはどうしてるのか知りたい訳ですね?」

「そうなんだ。ラブレターなんて貰った事なかったからさ困っちゃって」

「判りました。わたしは貰ったラブレターは一応全部取って置いてあります。でも返事は出していません」

「どうして?」

「返事を出すと、それが断りのものでもまたそれに対するお返事が来そうじゃないですか。だからですよ」

「なるほど・・・参考になったよ。ありがとう、イスラ」

俺もイスラみたいにしとこうかな。

何故かアスカもイスラも俺達と一緒にリツコさんの部屋について来ている。

リツコさんはいない。多分また本部なんだろうな。

「ねえ、猫ちゃん部屋見てみる〜?」

「うんうん、見てみたい」

と、アスカ。

「じゃあ、こっちだよ〜」

元々レイの部屋だったてころだ。

「さあ、見て驚け〜!」

(ガチャ)

『ニャア』

『ニャン』

『キャン』

トトとチャチャとミミがいた。

そして・・・

「すっごい部屋だね」

俺の正直な感想だ。

以前のレイの部屋の面影は全くなくなっていた。

「でしょう〜!」

「まるで猫屋敷だね」

四階建てのキャットタワー、餌場、トイレ、それからありとあらゆる猫用玩具・・・。

「それだけじゃあないんだよ〜」

「何かあるの?」

フェルがキャットタワーのところに行く。

「ねえ、ユリ。ちょっとこっちに来て〜」

フェルがキャットハウスのところで手招きしている。

「何?」

とキャットハウスに近付くと。

「ほら、ここを覗いて見てよ〜」

何だろう?

言われるままに覗いて見ると何と三毛の仔猫がいた。

「この仔猫はどうしたの?」

「フェルが友達から預かったんだよね〜」

「どうして?」

「その子仔猫を拾ったんだけど、お母さんが猫アレルギーだから家では飼えなくて困ってフェルに相談してきたんだ〜」

「で、預かったの?」

「うん」

「いつ?」

「昨日の夜だよ〜」

夕べは気が付かなかったもんな。

だから今日あんなに買い物してたのか・・・。

「びっくりしたでしょう〜」

「ああ、びっくりしたよ」

綾波、アスカ、イスラも覗き込んでいる。

これで猫は全部で四匹になった訳だ。

「この子はどうして他のみんなと一緒に外で遊ばないでこんなところにいるの?」

と、綾波。

「うーん・・・まだウチに来たばっかりで警戒してるみたいなんだよね〜」

「まだ慣ついてないってことなの?」

「うん。近付くと『ウー』とか『シャー』とか言って威嚇するんだよ〜」

「それは困ったわね」

「一応餌は食べてるし、トイレもやっと覚えたみたいなんだけどね〜」

「で名前はあるの?」

「『ウーシャ』だよ〜」

ウーシャ?

「誰が付けたの?」

「フェルだよ〜」

「どうして『ウーシャ』にしたの?」

「さっきも言った通り『ウー』とか『シャー』とか言うからだよ〜」

なんて安直な・・・。

「いい名前だわ」

と、綾波。

「そうでしょう〜」

フェルは嬉しそうな顔で言った。

名前はともかく可愛い仔猫だな。

トトは雉虎、チャチャは錆色長毛の雑種、ミミがアメリカンショト−ヘアとチンチラの混血、で今度のウーシャが三毛だ。

トトとチャチャが10歳、ミミが7歳、で・・・。

「ウーシャは何歳なの?」

「まだ1歳だよ〜」

「そうなんだ。早く慣つくといいね」

「うん。爪がすごい尖んがってて引っかかれると大変だから気を付けてね〜」

「じゃあ早速みんなで協力して爪切りしよっ!」

と、アスカ。

「うーん、大丈夫かな〜?」

「猫の爪を切ったことのある人はぁ?」

フェルと綾波が手を挙げた。

「でもファルはやだな〜、一回切ろうとしたんだけど暴れちゃって怖いんだも〜ん」

「しかたないわねぇ・・・じゃあレイ、あんたが切りなさい」

「わかったわ」

「それから・・・ユリが首を掴まえる係、シンジは後脚を、フェルは頭、イスラが前脚を押さえる係、で、レイが爪を切る係。これで問題ないでしょ」

一同異論の無い様子だ。

「じゃ、決まりね!それからフェルは爪切りと新聞紙と軍手4つと洗濯ネットを用意して」

「了解〜!」

アスカの指示は適切なんだけど、・・・アスカは何をするんだ?

「アスカはなんにもしないの?」

「あたしは総司令官としてみんなに指示を出すわ」

やれやれ・・・そうきたか。

「それだけ?」

「なんか文句あるの?」

「いやそれでいいよ」

「持ってきたよ〜」

「じゃあユリ以外の人は軍手をしてね」

「え?俺は軍手なしなの?」

「あんたは首根っこを掴むだけなんだから軍手じゃかえって掴みにくいでしょう」

「成る程」

「じゃあフェル、ウーシャをハウスから出して」

「了解〜」

フェルが抱っこしてウーシャを連れ出した。

割と大人しいじゃないか。

「フェルが正座してウーシャを仰向けに膝に乗せる」

「了解〜」

フェルがアスカの言う通りにする。

「ユリは首を掴んでね」

アスカの言う通りにする。

まだウーシャは大人しい。

「シンジとイスラ!脚を持って!」

「「了解。」」

二人が脚を持った途端。

『ウウウー・・・シャーッ、シャーッ!』

ウーシャがその名前の通り叫んで暴れ出した。

「それっ!」

と言ってアスカが洗濯ネットをウーシャの頭にすっぽりと被せた。

「フェル!頭を押さえてっ!」

「ふぁ〜い」

『シャーッ、シャーッ!』

ウーシャは全身を悶えさせながら抵抗を試みるが、アスカの立てた鉄壁の布陣の前には為す術もない。

「さあレイ、前脚から切って!」

「わかったわ」

綾波は右前脚から爪を切り始める。

綾波が脚の指を摘まんで爪を出させる。

ウーシャは文字通り『ウー』とか『シャー』とか言って身悶えているが、綾波は一向に怯まない。

『パチン・・・パチン・・・』

俺は結構楽勝だが、シンジとイスラはマジ真剣になって押さえている。

「あ、綾波さん・・・なるべく早くお願いしますね」

イスラが辛そうに言う。

「わかったわ。」

『パチン、パチン、パチン・・・』

少しだけ切るペースが速まったみたいだ。

「あぁっ!噛まれたーっ!」

「いてっ!爪が軍手を突き破ってるよ」

「ほら後少しなんだから我慢しなさい。しっかりとウーシャを掴まえてるのよ!」

・・・

「これで最後の一本だ」

『パチン』

「さあ終わったわよ、ウーシャ」

「よくやった。全員撤収ぅーっ!」

アスカの号令で全員がウーシャを手放す。

と、ウーシャは脱兎の如くフェルの膝の上から飛び出すと一直線に爪研ぎ器に向かった。

『バリバリガリガリバリバリガリガリリリリ・・・』

「かなり怒ってるみたいだね。僕なんか指に穴が開いちゃったよ・・・」

と、嘆くシンジ。

「暫くはフェルと遊んでくれないかもしんないよ〜」

「まあ『猫は三歩歩けば忘れる』って言うし大丈夫なんじゃないかな?」

と俺が慰める。

「そんな諺あったっけ?」

と、シンジ。

「まあ三歩は大げさとしても暫くすれば忘れると思うわ」

イスラがフォローしてくれた。

トトやチャチャやミミとは上手くいってるのかな?

「ウーシャは他のみんなとは上手くやってるの?」

「まだ警戒してるみたいで近づかないんだよ〜」

「そっか」

「そのうち慣れてきたら順位争いが起こるんじゃないの?今の順位はどうなってるの?」

と、アスカ。

「トトが一番で、二番がチャチャ、最下位がミミかなぁ〜。でもチャチャとミミは微妙だけどね〜」

「ふぅー〜ん。じゃあ歳の順なのね」

「大きさの順でもあるわ」

と、綾波。

「歳でも大きさでもウーシャは最下位になるのかしら?」

とは、イスラ。

ウーシャは爪研ぎを終えて落ち着いたのか、今はキャットフードを食べている。

他のみんなは昼寝中だから安心しているみたいだ。

「ねえ・・・爪切りも無事に終わったんだし、みんなでお茶にしようよ〜」

・・・

皆でお茶会になっている。お茶菓子はクッキーだ。

「ねえ、イスラ、今度のテニス・レッスンは何時だったっけ?」

「確か明後日だったんじゃあないかしら?」

「早速新調したウェアを着なくっちゃね!」

「でもテニスするのは僕等だけじゃないか。アスカが何を買ったかは僕等知ってるんだし・・・」

「何言ってんのよ、シンジ!吊るしのウェアだけ見たって駄目よ。テニスウェアだってそれを着る素材によって良くもなれば駄目にもなるのよ。まああたしが着ればどんなウェアだってバッチリだろうけどさ 」

相変わらずの自信過剰振りだな。

「そんなもんかあなぁ・・・」

「それよりもユリはテニス出来るの?」

あ、いきなり話しを振られた。

「前にちょこっとやったぐらいだから、全然大した事はないよ」

そう言われてみればシンジはどうなんだろうか?

俺と一心同体だったからその時の練習の成果も引き継いでいるのかな?そうじゃないとちょっと洒落になんないよな。

「ふーーん。そうなんだ。楽しみね、ユリのテニス観るの」

まさかアスカ、対抗意識を持ってるんじゃないだろうな?

「ユリが加わって、アスカ、レイ、イスラ、シンジ君、渚君、フェル、そして、私・・・全部で八人になって訳ね」

「ダブルスだったら4ペア出来るね〜」

「女子ダブルスとミックスダブルスが一緒に出来るわ」

と、綾波。

「アスカ、私達そろそろ帰らないと・・・食料の買い置きが切れてて買い物もしたいし」

「あ、うん。そうね。じゃああたち達はそろそろ失礼するわ」

「じゃあ明日また学校で」

「バイバ〜イ!」

「じゃあまた」

「さよなら」

・・・

「しかし猫専用の部屋なんて贅沢だよな」

と、率直な感想を言う。

「リツコさんがマニアだからね」

「フェルも猫ちゃん好きだよ〜。シンジは嫌いなの?」

「そんな事はないよ。猫は犬と違って手が掛からないからね」

「その代わり気まぐれだわ」

「まあある意味で自己中だよな」

「ユリ、そろそろ私達も一旦戻ってお風呂にしましょう」

「ああ、わかった。じゃあまた夕食の時に来るね」

「あ〜い!今日はシンジの当番だから期待してていいよ〜」

・・・

風呂はタイマーをセットしてあるからもう沸いていた。

「綾波から先にどうぞ」

「私はユリの後でいいわ」

「じゃあお言葉に甘えてお先に」

・・・

軽くかけ湯をして浴槽に入る。

「気持ち良いな。それにしても・・・」

思わず声に出た。

自分の身体をお湯越しに観る。

自分の身体なのになんだか気恥ずかしい。

もうシンジの身体には戻れないし、このまま一生女の子のまんまなんだろうなぁ・・・

大分この身体にも慣れたとは言え時々違和感を感じる。

身長が低くなった分若干目線が下がった。7cm位の差なのに結構感じが違う。

骨格も筋肉も前よりも華奢だから、なんだか歩いていてもフワフワした感じがするんだよな。

『ガラッ!』

ん?

「ユリ」

振り向くと綾波がいた。しかも裸で・・・。

「あ、綾波ぃ・・・また一緒に入るの?」

「いけない?」

「そんな事はないけど・・・どうして?」

「夕食まで時間がないもの」

「そっか。じゃあ一緒に入ろう。俺は身体を洗ってるから綾波は湯船に入っててくれる」

「うん」

俺が浴槽を出ると綾波がかけ湯をして入る。

俺は身体を洗い始めた。

『ゴシゴシ・・・シャワシャワ・・・』

耳の後ろから始まり、首周り、肩、両腕、脇腹、身体の正面を丹念に洗う。そして背中を洗おうとした時・・・。

「ユリ、背中流してあげる」

と、綾波が言った。

「あ、ありがとう」

浴槽から出た綾波にナイロンタオルを渡す。

『コシコシ・・・』

綾波の洗い方は丁寧で優しい感じだ。

『・・・コシコシ・・・』

「終わったわ」

「ありがとね。後は自分でやるよ。次は綾波の背中を流してあげるね」

「うん、わかった」

と、綾波はまた湯船に入った。

後はお尻とあそこと足を洗う。

しかし・・・やっぱり胸とあそこを洗う時は自分の身体ながら今でもドキドキする。

感触や感覚が男の時とは全然違うのだ。

「ユリ、頭も洗ってあげるわ」

「え、いいよ」

「いいから洗わせて」

「うん、わかったよ」

綾波がまた湯船から出て俺の頭を洗い出した。

『コシコシコシ・・・』

綾波の洗い方は本当に丁寧だ。リンスもしてくれている。

「ユリの髪の毛は柔らかいのね。私のと同じ感じだわ」

「それはそうだよ。この身体は元々綾波の素体なんだからね」

「でも顔や体つきは少し違うわ」

そうなんだよな。フェルやイスラも綾波とは違うし・・・どうしてなんだろう?

「そうだね。どうしてなんだろうね」

「でもユリの身体は綺麗・・・」

「ありがとう」

綾波本人に褒められるのも変な気がする。

「終わったわ。流すわね」

「ああ」

『ジャー・・・コシコシ・・・ジャー・・・コシコシ・・・』

「もういいわ。ユリは浴槽に入って暖まってから出てね」

「うん、ありがとう、綾波」

『ジャボーン!』

綾波が身体を洗っている。

綾波の身体は透ける様に白い。俺やフェルやイスラの肌はそれ程には白くはない。

白さの順番から言えば、綾波、イスラ、俺、フェルの順かな・・・これって一応それぞれ魂の個性が反映しているのかな?顔付きだって綾波に似てるとは言えるけどみんな微妙に違うんだよな。

「じゃあ俺は先に出るから綾波ももう一度暖まってから出なよ」

「うん、わかった」

・・・

「お邪魔しまーす!」

リツコさんの家のドアを開けながら言う。

「「いらっしゃ(〜)い!」」

「いらっしゃい、レイ、ユリ」

「あ、リツコさん帰ってたんですか。今日は早かったんですね。」

「たまにはね」

「食事の用意は出来てるからみんな座って」

と、シンジ。

今晩のメインはシンジお得意のハンバーグが並んでいた。

「「「「いただきまーす!」」」」

・・・

食事も一段落付いた頃疑問に思っていた事をリツコさんに聞いてみる。

「リツコさん」

「なあに、ユリちゃん」

「前々から思っていたんですけど、フェルの身体もイスラのも俺の身体もみんな綾波の素体だったんですよね」

「ええそうよ」

「なのに何でみんなそれぞれ顔や身体付きが微妙に違うんですか?」

「ああ・・・その事ね」

「何か理由があるんですか?」

「そうね・・・レイも含めて四人の遺伝子パターンを解析したんだけど、みんなそれぞれ微妙に塩基配列が違っているのよ」

「でも元々はみんな綾波のクローン素体なんでしょう・・・だったらDNAだっておんなじ筈なんじゃないですか?」

「そうよ。少なくともあの培養槽にいるレイの素体達のDNAは今もみな同じだわ」

「じゃあどうして」

「人間の肉体に関する化学は今世紀に入って飛躍的に進歩したわ。でも心や精神といった分野についてはまだまだ道の分野が多いの」

「・・・」

「だから私の勝手な推測なんだけれど、心や精神、いえ、魂と言った方がいいかしらね・・・それらが肉体に何らかの影響力を持っているんじゃあないかしら。レイはレイの、フェルはフェルの、イスラはイスラの、そして、ユリはユリの、それぞれの魂がレイの素体に入り込むことによってその肉体のDNA塩基配列を変え、容貌や身体付きにまで影響を及ぼしたんだと思っているの 」

「でも・・・仮にそうだとしても人間の容貌や身体付きなんてそんなに簡単に変わってしまうもんなんですか?」

「人間の容貌や身体付きは環境の変化によってだって比較的短期間のうちに変わるわよ」

「どういうことですか?」

綾波とフェルとシンジは黙ってリツコさんと俺の会話に聞き入っている。

「食事、睡眠、精神的なショック、性格の変化・・・そういうことで人間は簡単にその外面的様相を変化させてしまうものよ。今回の事例では唯一変化があると言えば正しく魂の変化だわ。元来レイの素体にはその魂すら希薄でほとんど無いに等しい状態なんだから 」

「・・・」

それはそうかも知れない。

「現段階では魂を入れ替える技術もなければ魂が肉体に与える変化のメカニズムもまだ解っていないけど、実例として存在するのが貴方達なのよ」

「そうですか・・・なんとなく判りました。ありがとうございます」

「そうそうシンジ君の遺伝子もユリちゃんと分離した後で少し変化が見られたわ」

「え!そうなんですか?」

と、驚くシンジ。

「でも、変化した遺伝子は、今解っている限りでは心身に影響を与える因子ではないと思うから心配する事は無いわよ」

「はぁ・・・わかりました」

そうだったんだ。

「じゃあ俺の遺伝子はどうなってるんですか?」

「ユリちゃんの場合は男の子から女の子に変化したんだから随分変わっているわよ。ベースはレイのものみたいだけど心配するようなことはないと思うから安心しなさい」

「はい」

でも・・・レイってリリスなんだけどな。

「じゃあもう遅いからレイとユリちゃんは帰りなさい」

「はい、わかりました。ご馳走様でした」

「碇君、フェル、また明日」

なかなか眠れないや・・・。

俺は・・・この世界のリリスの身体に別の世界のリリスの魂が宿っていることになるんだよな。しかもシンジとしての記憶を今も持っている。

俺って一体なんなんだろう?

どうしてこんなことになっているんだろう?

何の為に俺は今ここに居るんだろうか?

使徒を倒すためか?

そしてサード・インパクトを阻止するためか?

カヲル君はあれから何も教えてくれないし、綾波もリリスの記憶をまだ取り戻せないでいる。

・・・。

まあ今考えてたって、結局はなるようにしかならないんだろうけどな。

もう寝よう。


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