『俺と僕で何?』


第七拾話 雨の休日


あれ?

朝なのかな?

綾波に借りた詩集が枕元にあった。

「あのまま寝ちゃったんだ」

詩集はきちんと表紙が閉じてあってどこも痛んでいないようだ。

「良かった」

起き上がって着替えをする。薄いピンクのシャツとGパン、それにグレーのフリース・・・ちょっと

地味かな?ま、いいや。

リビングに行くともう綾波がいた。

「朝食の時間よ」

「うん、じゃあ行こうか」

今日は雨だった。

リツコさんのところで皆で食事中。

「ねえ、今日はどうするの〜、外は雨だよ〜?」

と、フェルが言う。

内が雨だったら大変だ、なんて馬鹿な事を考えた。

「どうしようか?」

と、シンジ。

「綾波は何かしたい事ある?」

と、俺が聞く。

「特に何もないわ」

「そっか」

「じゃあゲームしようよ〜」

「ゲーム機なんてあるの?」

俺がシンジだった時にはゲーム機なんてなかったと思うけど・・・。

「あるんだな〜これが〜」

フェルがニヤニヤしている。

「買ったの?」

「ううん、違うよ〜。ね、リツコさん!」

思わずリツコさんを見た。

何だか照れ臭そうだ。

「ユリちゃんはあんまりゲームに興味が無かったから知らなかったでしょうけど実は私が持ってるのよ」

「ええっ!」

驚いた!あのリツコさんがゲームをするなんて・・・。

綾波も驚いているのか目を真ん丸にしている。

「ねえ、みんなでやろうよ〜!」

・・・

と言う事でゲームをやっている。

俺はまずは観戦することにした。

俺はシンジだった頃たまにケンスケ達に付き合ってゲーセンに行った位で基本的にゲームはあまり好きじゃない。

ただ巧く出来ないからそう思っているだけなのかも知れないが・・・。

あの赤木リツコ博士がみんなと一緒にゲームをしている光景は俺にとっては非常に驚くべき事に他ならなかった。

「ユリもやんなよ〜」

今やってるのは格ゲーだ。

俺の最も苦手とするところだ。

端から見ているところ巧いのはリツコさんとフェルみたいだ。

綾波もシンジも参加しているが特にシンジはほとんど凹られている。

「俺、格ゲーは苦手なんだ」

「じゃあ何だったらやる〜?」

そうだな。

「麻雀かスパロボならいいかな?」

「わかった〜!じゃあスパロボに替えていいかな〜?」

と、みんなに承諾を求める。

「いいわよ」

「僕もいいよ」

「わたしも」

かくしてスパロボが始まった。

何でもケンスケの薦めでフェルが買ってきた最新作で最大8人まで同時にプレイ出来るらしい。

まずキャラを選ぶ。

あー!エヴァがあるー!

「ねえ」

「何、ユリ〜?」

「エヴァがあるんだけど」

「あるよ〜」

「いいんですか、リツコさん。エヴァがゲームになっちゃって?」

「仕方ないわよ。この第三新東京市ではエヴァの存在は公然の秘密なんだから、大抵の人間はエヴァの事を知ってるわ」

「でも発売禁止にするとかしないんですか?」

「いいのよ。ここだけの地域限定版だし。ちゃんと検閲をかけているからここ以外に流出する事はないの」

「はあ・・・わかりました」

何だか変な気分だな。

とか言って俺は初号機を選んだ。

リツコさんは弐号機、綾波はやっぱり零号機、フェルはガンダムフリーダム、シンジは俺と同じ初号機だ。

「じゃあ・・・レディ・・・ゴウ〜!」

フェルの掛け声でみんな一斉に動き出す。

「まずはシンジ狙いだ〜」

フェルがそう言うと各機シンジの初号機に襲い掛る。

「えー!ズルイよ、みんなぁ、一人狙いなんて・・・」

俺は暫く静観する事にした。

『ドカーン』

『バババババババン』

『バシッ』

『ゲシゲシ』

シンジは手も足も出ない状態で凹られている。

シンジの初号機のライフゲージは既に3分の1になっていた。

「じゃあ今度はユリだ〜!」

え?俺?

「マジ?」

「行っくよ〜、ユリ〜!」

フェルのフリーダムがこっちに飛んで来る。

『ババババ・・・』

機銃照射だ。

避けたつもりだったけど当たったみたいでゲージが減る。

こっちもポジトロンライフルで応戦する。

『シューン・・・シューン』

当たらない。

フェルがビームソードを出した。

『ガッシーンッ!』

ライフルで受け止めた。

『スパッ』

え?ライフルが切られちゃったよ。

ビームソードがエヴァに食い込む。

もうゲージが残り少ない。赤く点滅し始めた。

「やった〜!」

、フェルは大喜びだ。

・・・

結局6戦6敗。

リツコさんとフェルが3勝ずつだった。

・・・

昼になったので昼食。

みんなでワイワイとサンドイッチ。パンと具だけ用意してテーブルに並べる。

後は各自がめいめいに自分の好きな様にパンに具を挟んで食べる。

ハム、ソーセージ、玉子、チーズ、レタス、キャベツ、キュウリ、トマト、生クリーム、バナナ、苺・・・色々ある。

結構量があると思ったけど、みんな平らげた。

・・・

気が付くともう2時だった。

「お腹いっぱいになったね〜」

「うん、美味しかったね」

と、シンジ。

「もうゲームも飽きちゃったし・・・何しようかぁ〜?」

「もうそろそろお暇するわ。ね、ユリ?」

と、綾波が言った。

この後俺と何かしたいのかな?

「そうだね」

「えー!もう帰っちゃうの〜?」

「まあいいじゃない。もう充分に遊んだでしょ?」

「あ〜い。じゃあね、ユリ、レイ!」

「綾波、何かしたいことある?」

「特にないけど・・・ユリと一緒に読書したい」

「うん、いいよ。昨日借りた詩集まだ全部読んでないし」

と言うと綾波の顔がパーッと明るくなった。

「じゃあ本を持ってきてリビングでユリと一緒に読みたい」

「わかった、取ってくるよ」

・・・

綾波と俺はお互いめいめいに詩集を読んでいる。

きっと綾波はこういう穏やかな時間を過ごすのが好きなんだろうか?

俺は一応ちゃんと読んではいるけど、なかなかすんなりとは頭の中に入って来ない。

なんとなく物悲しい詩が多い気がする。まあ中には明るいものもあるけど・・・。

綾波は俺に話しかけるでもなくいつものように詩集を読んでいる。

・・・

もう1時間経った。

二人とも一言も話してない。

「綾波は何読んでるの?」

堪り兼ねて話しかけてみた。

「ダンテの『神曲』」

「ああ・・・ダンテが地獄とか行くやつだったよね?」

「そう。ユリは読んだことあるの?」

「ううん、ないよ」

「そう」

会話が途切れる。

・・・

また1時間か経った。もうすぐ4時になる。

「ちょっとリツコさんのところに電話してくるよ」

「わかったわ」

・・・

『プルル・・・プルル・・・プル、はい赤木で〜す!』

「フェルかい?」

『そだよ〜なあにユリ?』

「今晩の夕食なんだけど買い物はもう済んでるの?」

『まだだよ〜』

「なら今日は俺達が作るからさ、買い物も行ってくるよ」

『え〜いいよ。フェルが行くからさ〜』

「いや、いつもご馳走になってばかりだから、たまには作らせてよ」

『う〜ん・・・わかった〜。じゃあお願いしちゃおっかな?』

「うん、任せてよ」

『じゃあまたね〜。ガチャ・・・ツーツー』

・・・

「綾波、これから一緒に買い物に行かないか?今日は俺が晩飯を作ることにしたんだ」

「ええ、いいわ」

「じゃあ行こっか?」

「うん」

商店街をブラブラしている。

まだ献立を考えてないからだ。

「昼間がサンドイッチだったから揚げ物にしようと思うんだけど、綾波は何が食べたい?」

「ユリが作るなら何でもいいわ・・・美味しいから」

う〜ん・・・。

「じゃあ蠣フライでどうかな?」

「うん。・・・わたしも手伝う」

「ありがとう」

・・・

「さあ下拵えしようか」

「わかった」

買ってきたのは、生食用の蠣、パン粉、玉子、サラダ用の野菜、それと日用雑貨。

「じゃあ俺が蠣を剥いてるから綾波にはサラダの準備をお願いしていいかな?」

「うん、いいわ」

各自作業に取り掛かる。

蠣って殻から身を外すのが結構大変なんだよな。失敗しないように慎重にしなくちゃ・・・。

一人5個ずつで全部で25個、予備も入れて30個ある。

綾波は淡々と野菜を洗ってサラダの準備をしている。

・・・

やっと30個全部の蠣の身を殻から外し終えた。何とか失敗しないで出来たな。

これを食塩水で振り洗いしておく。

「こっちは一段落ついたよ」

「わたしも野菜の準備は終わったわ」

「じゃあ後はベーコンと茹で玉子だね」

「わかった」

「ベーコンは5mm程度に切っておいてね。まだ火は通しちゃダメだよ 」

「わかったわ。後は茹で玉子ね?」

「うん、だけど茹で玉子はリツコさんの家で作ろう。出来立ての方が美味しいからね」

「うん」

「終わったらフェルに電話して揚げ油の用意をお願いしておいてくれるかな?」

「いいわ」

綾波がベーコンに取り掛かっている。

俺は玉子を溶いてボールに、小麦粉とパン粉をパンに入れる。

あとは蠣の身に衣を付ければいいだけだ。

「フェルに電話しておいたわ。リツコさんはあれから本部に行ったんだって」

「そっか、ありがとう。じぁあ準備した物を持ってリツコさんちに行こうか」

「はい」

リツコさん、帰りが早いといいけどな。

「いらっしゃ〜い!」

「お邪魔するよ。台所貸してね」

「いいよ〜。ご飯と油の用意はしてあるからね〜」

「ありがとう。で、リツコさんは今日は?」

「今日は定時に帰れそうだって連絡あったよ〜」

「そっか」

良かった。

・・・

台所で準備した物をセッティングする。

今6時半過ぎだから定時なら7時にはリツコさんが帰ってくる筈だな。

「俺はタルタルソースを作るから、綾波はサラダを盛り付けてくれる?」

「わかった。それからドレッシングも作るわ」

綾波の料理の腕は随分と上がっている。

俺は、茹で玉子、キュウリ、パセリをみじん切りにしてマヨネーズで和える。

ちょっと手抜きだけど、まあいいだろう。

「ユリ、こっちは終わったわ」

「じぁあ一緒に蠣フライの下拵えしよっか?」

「うん!」

玉子を溶いて小麦粉と混ぜる。

「綾波は蠣に小麦粉をまぶしてよ」

「わかった」

綾波が蠣に次々と小麦粉をかけていく。

俺はそれを溶き玉子に付けてパン粉をまぶしていく。

・・・

後はリツコさんが帰って来るのを待つだけだ。

・・・

『ピンポーン・・・ガチャ』

「お帰りなさ〜い!」

フェルが出迎えに行った。

『バタン』

「ただいま。あらユリちゃんとレイも来てるのね」

「うん、今日はユリ達が晩ご飯作ってくれるんだよ〜」

「あら、そうなの。楽しみだわ」

「でしょう〜」

「じゃあ私は先に着替えてくるわ」

「あ〜い!」

そんな会話を聞きながら蠣を揚げ始める。

『ジュー・・・』

「ごちそうさま〜、美味しかった〜」

「本当に美味しかったわ」

「うん、僕よりユリの方が料理は格段に上手いや。あ、もちろん綾波もね」

シンジらしい発言だな。

「じゃあ後片付けは私達でしましょう。ユリちゃんとレイはいったん部屋に戻ってお風呂を済ませて落ち着いたらまたここに来てちょうだい」

なんだろう?

「わかりました」

綾波が先に風呂に入ってる間に後片付けをする。

後でまた来い、ってリツコさん言ってたけど、また何か打ち合わせでもするのかな?

「ユリ、お風呂空いたわ。後片付け任せてしまってごめんなさい」

「ああ・・・いいよ、そんな事。じゃあ俺も風呂入るよ」

風呂も済ませて後片付けも終わったし、そろそろリツコさんとこ行こうかな。

「綾波はもう大丈夫?」

「うん」

「じゃあ行こっか?」

「ええ」

リツコさんを囲んでみんなで座っている。

「実はみんなに話しておきたい事があって意見があったら聞いておきたいのよ」

リツコさんが口火を切った。

「何ですか、話しって?」

と、俺。

「アスカの事よ」

「どうかしたんですか、アスカが?」

「アスカが前回の記憶を持っているかどうか確かめたいのよ」

「リツコさんはアスカの事色々と調べたんじゃないんですか?」

シンジが聞いた。

「それは調べたわよ。催眠なんかも試したのよ。でも確証は得られなかったわ」

「そうですか」

「ミサトにもそれとなく探りを入れるように言ってるんだけど、あんまり当てにならないしね」

「それなら今度は何するの〜?」

「ユリちゃんにアスカと暫く一緒に暮らしてもらおうと思うのよ」

「「「ええーー!」」」

「何で俺がアスカと一緒に暮らさなきゃいけないんですか?」

「なんだかんだ言ってもアスカの事一番良く知ってるのは貴方でしょう?」

「シンジだって・・・」

「シンジ君は男の子よ、ミサトの家に同居するのには問題があるじゃない」

「はぁ・・・で同居して、アスカの様子を探れ、と。でもどんな名目で同居するんですか」

「アスカにはユリちゃんの教育係りになってもらうのよ、女の子らしさを教えるね」

「げー」

「もうミサトとは了解事項なの」

「で、いつからなんですか?」

「明日学校から帰ったら荷造りして行ってもらうわ」

「そんなに突然ですか?アスカはこの事知ってるんですか?」

「アスカにはまだ話してないわよ」

「アスカ、きっと嫌がりますよ」

「そうかしら?私はそうは思わないけど」

「だいたいアスカって女の子ぽいって言うより男勝りじゃないですか」

「あら、最初はアスカが加持君には猫被ってたのはユリちゃんもシンジ君も知ってるじゃない」

「あ、そうか・・・」

「そういう事よ」

仕方ない、か。

「わかりました。行きますよ」

「ありがとう、ユリちゃん。ただねぇ・・・」

「ただ、なんですか?」

「いえね。もしもアスカが前回の記憶を持っていたとしたら、今回の展開を不審に思っている筈だわ 。イスラやフェル、そしてユリちゃんの存在についてもね」

「なるほど」

「だからくれぐれもミイラ取りがミイラになんかはならないでね」

「わかりました、気を付けますよ」

事前にイスラと話ししておいた方が良さそうだな。

「他のみんなは何か質問とか意見はあるかしら?」

「綾波はどうするんですか?また一人暮らしになっちゃいますよ」

「わたしは別にかまわない」

「レイさえ良ければまた私と一緒に寝てもいいのよ」

「大丈夫です、ありがとうございます」

そうか・・・俺が来る前は綾波はリツコさんと一緒に寝てたんだ・・・。

「僕は特にありません」

「フェルもないよ〜」

「じゃあこれで決まりね。ミサトには私から話しておくわ」

風呂にまた入って明日の荷造りをしている。

『コンコン』

「どうぞ」

「何か手伝うわ」

「大丈夫だよ。とりあえず一週間分の衣類と教科書位だから。荷物はネルフの人が持ってってくれるんだって」

「そう・・・」

「それよりも悪いね、綾波。こんな事になっちゃって」

「いいの」

「リツコさんの言う通り当分はリツコさんと一緒に寝た方がいいよ」

「うん。淋しかったらそうする」

荷造りはこれでオッケーだ。

「さて、荷造りも終わったし、もう寝よっか?」

「うん。・・・ユリ」

「何?」

「今晩は一緒に寝てもいい?」

綾波・・・。

「いいよ」

「うれしい」

「なんだよ、それ位で」

綾波は隣で穏やかな寝息を立てている。

・・・。

アスカと同居かぁ。

シンジの時だったら嫌だけど、ユリとしてなら何とかやれるかも知れないな。

そう言えば前回のアスカは洞木さんとは仲が良かったみたいだけど、他の女子とはどうだったのかな

シンジや男子に対しては性格キツかったけど・・・。

しかし、アスカに女の子修行し、もらうなんて思ってもいなかった展開になっちゃったなぁ。

多分最初は言葉遣いなんだろうな。

さすがに女の子が自分の事を『俺』って呼ぶのは珍しいから・・・アニメとかなら別だけど。

後は仕草とか洋服とか、もしかして化粧もかな?

アスカって化粧してたっけ?記憶にないなぁ。

・・・。

一体俺はどうなっちゃうんだろう?

このまま女の子の碇ユリとしてこの世界で一生を過ごすのかな?

それともカヲル君の言う元の並行世界に戻るのかな?

でも・・・その時にはこの世界で過ごした今までの記憶はどうなるんだろう?

ああっ!

そんなの分からないから考えてもしょうがないじゃないか!

・・・。

またカヲル君と話しをしたいな。

今のところは彼が一番事情を知ってるんだから。

・・・。

疲れた・・・もう寝よう。


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