『俺と僕で何?』


第七拾壱話 マイスター・アスカ誕生


「「おはようございます」」

「おはよう、レイ、ユリちゃん」

「おっはよう〜」

シンジは朝食の準備だな。

「ところで荷物の用意は大丈夫かしら?」

「ええ、とりあえず一週間分用意して梱包も済ませてあります」

「それは結構。ごめんなさいね、急な話しで」

「いいですよ。俺もアスカとはいずれゆっくり話しがしたかったですからね」

「そう・・・」

ん?

「まだ何かあるんですか?」

「ええ・・・ユリちゃん」

「はい?」

「今回は前回とは随分と展開が変わっているでしょう?」

「まあそうですね」

綾波とフェルはシンジを手伝っている。

「イスラやフェルや渚君もそうだけど、特に貴方の存在は異色だと言っていいわ」

「それはわかっています」

「だからくれぐれもミイラ取りがミイラにならないようにね」

「はい、気を付けますよ」

「そうね・・・頑張ってね、無理しない程度で」

「はい、わかりました」

「朝食出来たよ〜」

「ねえねえ、そのバッグの中身はなに〜?」

「ああ、これは今日の分の着替えだよ。万一荷物が届かなかった時の用心にね」

多分大丈夫だと思うけど。

「そっか〜」

「どうしてそんな事聞くの?」

「いや〜ユリ結構目立ってるからさ〜、そのバッグ」

「ああ・・・」

確かそうかも。

「おはよう、ユリ、フェル、レイ」

「おはよう、洞木さん」

「おはよ・・・」

「なあに、そのバッグは?」

あは、やっぱり。

「これはねぇ・・・」

「ああ、これはちょっとね」

フェルがばらしそうになるのを遮る。

「ふーん」

アスカはまだ来てないみたいだ。

アスカにはまだ知って欲しくないからな。

席に着く前にバッグをロッカーにしまっておこう。

昼休み、屋上でいつもの面子で昼飯だ。

俺達はシンジが作ってくれた弁当。

トウジとケンスケは洞木さんの弁当。

アスカのはイスラが作った弁当だ。

「しっかし毎日毎日平穏無事よねぇー」

と、アスカ。

「いい事じゃないか」

と、シンジが応じる。

やれやれ・・・。

「あんたバカぁ?」

「何だよ、いきなりバカ呼ばわりだなんて?」

「あたし達は何の為に日々訓練に明け暮れてるって言うのよ」

「そりゃあ来るべき使徒の襲来に備えてだろ?」

「そうよ!」

「それが何か?」

「何か、じゃないわよ!せっかくの訓練も実戦がないんじゃなくっちゃ台無しだわ!」

「いいじゃないか、使徒なんて来ない方が」

「どうせ来るならドーンと来いってのよ。このアスカ様が片っ端からやっつけてやるわ」

「はいはい」

さすがにシンジも抵抗を諦めたようだ。

「でも今日は全員待機だけだよね」

と、俺は話題を変えた。

「そうよ。それがどうかしたの?」

「帰りにミサトさんちに来るように言われているんだけど、アスカと一緒に帰ってもいいかな?」

「別にあたしは構わないけどさ、ミサトなんなんだろう?」

「さぁ?」

今ここで話す訳にはいかないからなぁ・・・。

「まあいいわ、イスラとも一緒に帰りましょ」

「ありがとう」

「何よ、改まっちゃって」

「いや、別に」

ちょっと後ろめたい気分だな。

「やぁーっと終わったでぇ・・・」

「確かに月曜日って何となく疲れるよな」

「ホンマやで。これからまた一週間が始まるんかと思うどゾッとするわい」

「でももう一日は終わったんだ。1/5は終了だよ、トウジ」

「せやな。でもな、あと四倍残うとるとも言うでぇ、ケンスケ」

「そうだな。世が世なら四連休なのにな」

「何よ、世が世なら四連休、って?」

と、アスカ。

「ああ・・・惣流は知らないか。昔は祝祭日ってのがあって明日は『憲法記念日』、今日は休日と祝日に挟まれてるから『国民の休日』で休みだったんだよ。セカンド・インパクト以降中止されてるんだ。もうあれから15年も経ってるっていうのにさ」

「へぇ知らなかったわ」

・・・下らない会話だ。

あれ?

どうしてそんな事思ったんだろう?

平穏無事だからなのかな?

昼のアスカの言葉が引っ掛かっているのかな?

なんだろう、この冷めた感覚は?

(ポン)

肩を叩かれた。

アスカだ。

「さあ、そろそろ帰るわよ」

「わかったよ。ちょっと待っててね」

ロッカーにバッグを取りに行く。

『ガチャ・・・ずるずる・・・バタン』

っと。

「何よ、その荷物は?」

「わあっ!」

アスカかぁ。

ビックリしたぁ・・・。

「何そんなに驚いてるのよ?」

「後ろからいきなり話し掛けるからじゃないか」

「まあいいわ。で、その荷物は?」

「内緒なんだ、ミサトさんに頼まれて・・・」

「あっそう。じゃあいいわよ、ミサトに直接聞くわ。さ、帰るわよ!」

「うん」

イスラは何も言わずにニコニコして着いて来る。

・・・

「あ!」

「何だよ突然?」

「イスラ、買い物はしなくて良かったんだっけ?」

「あら・・・そうね、しておいた方がいいかも知れないわ」

「ユリ、悪いけどさ買い物付き合ってくれる?」

「あ、うん。いいよ」

「ありがとう。で、ユリは晩ご飯ウチで食べていくの?」

「ああ、多分そうなると思う」

「わかったわ。じゃあイスラ、四人分用意しなくっちゃね」

「わかりましたわ」

「ねえ、アスカ」

「何、ユリ?」

「いつもこうして二人で買い物してるの?」

「ああ・・・本部に用がなくて直で帰る時には時々ね」

「へぇ」

「それかどうかしたの?」

「いや別に、仲いいんだな、と思ってさ」

「何言ってるのよ、あったり前ジャン!」

「そりゃそうだね」

アスカって女の子には優しいのかな?

買い物も無事終えて今はミサトさんの家の前。

『プシューーッ』

「さあ、入って」

「お邪魔しまーす」

『バタバタバタ・・・』

ガチャ

とりあえず皆で居間に行く。

イスラが買って来た物をしまいながら。

「ユリさん、飲み物は何がいいかしら?」

「アイスコーヒーを出来れば無糖ブラックで」

「わかったわ。アスカはいつものでいいかしら?」

「ええ、いいわ。悪いけど先に着替えて来る」

と言ってアスカは自室に向かった。

「はい、ユリさん。アイスコーヒー無糖ブラックよ」

「ありがとう」

『バタバタバタバタ』

アスカが戻って来た。

「あた、あたしの部屋が・・・」

「どうかしたの?」

と、イスラ。

「あたしの部屋が二人部屋に改造されてるんだけど、どうして?」

ああ・・・もうそこまで手配済みなんだぁ。

アスカが俺の方を見る。

「ユリ、あんた何か聞いてるでしょ!」

「あ、うん・・・まぁね」

「どういう事か説明なさいよ」

「リツコさんが休日から暫くミサトさんの家に住めって」

「で、あたしの部屋で同居するって訳?」

「いや、詳しい事は聞いてないんだけど、どうもそうらしいね」

「何で?」

「だから詳しい事は知らないんだよ、ミサトさんに聞けって、リツコさんが・・・」

と、テーブルに着いた俺が言うと、アスカは携帯を取り出して電話した。

「あ、ミサト。今ユリが来てんだけどさ。あたしの部屋が何であんなになってるのか説明してくんない?」

『・・・』

「ユリと同居するってのはあの部屋みりゃ分かるわよ。あたしの聞きたいのはその理由よ!」

『・・・』

「あっそう。わかったわ」

『・・・』

「いいわよ。うん、じゃあね」

どういう話しになったのかな?

アスカはテーブルに着くと自分の麦茶を飲んだ。

「ミサトさん何だって?」

と、イスラ。

「今こっちに向かってる途中だって。で、詳しい事は帰ってから説明するから、とりあえずユリの荷物を整理しろってさ」

と、アスカが俺を横目で見ながら言う。

「わかったよ。じゃあアスカの部屋に入っていいかな?」

「別にいいわよ、あたしの物をいじんなきゃね」

「わかった、じゃあ」

「わたしもお手伝いしましょうか?」

と、イスラ。

ありがとう。

「大した荷物じゃないから一人で大丈夫、ありがとう」

と言ってアスカの部屋に行く。

・・・

ベッドは二段ベッドになって机も二つ並んでる。

俺の荷物の入ったダンボールはもう届いていた。

「さすがに狭いな、これは」

思わず声に出る。

「アスカ怒ってないかな?」

とにかく荷物を整理しなくっちゃね。

・・・

何とか自分の荷物を整理してリビングに戻ると、アスカはソファーに寝っころがってテレビを観ていてイスラは雑誌を読んでいた。

「あら、もう終わったの?」

と、アスカ。

「うん」

「ベッドどうしよっか?」

「どうするって?

「上と下、どっちが寝るか決めなきゃでしょ?」

ああ・・・。

「そうだね。俺はどっちでもいいから、アスカ好きな方決めてよ」

「あっそ、じゃああたしは上を使わせてもらうわね」

「わかった。なら俺は下で」

「ところで今晩はイスラが当番よね?」

「夕飯ですか?」

「そうよ」

「ええ」

「ユリの分大丈夫よね?」

「はい、問題ありませんわ」

「了解」

「本当に突然で悪いね」

「いいんですよ、気にしないでください」

「そそ、どうせミサトが言うの忘れてたんでしょ。ユリが気にする事ないわよ」

「でもアスカの部屋が狭くなっちゃったし・・・」

「いいのいいの、どうせあの部屋は寝るとき位しか使ってないんだし、ホント気にしなくっていいわよ」

「・・・うん、ありがとう」

俺に対して文句は言えないから言わないけど、ミサトさんにはきつい事言うんだろうな。

あ、イスラが台所に行った。夕飯の準備かな?

「手伝おうか、イスラ?」

「いえ、一人で大丈夫ですよ」

「そう?

「はい」

「ところでさぁ・・・ユリはここにどれ位いるの?」

「さあ・・・暫らくとしか聞いてないんだけど」

「ふ〜〜ん。とにかくミサト待ちって事ね」

「そうだね」

うーん、早く帰って来ないかな、ミサトさん。

「ユリがこっちに来ちゃうとレイは一人になっちゃうわね」

「うん。だけどリツコやフェルと一緒に寝る事もできるから」

「そっか」

『プシューーッ・・・・・・ガチャ

「ただいまー」

あ、ミサトさんだ!

「お邪魔してます」

「あら、ユリちゃん、いらっしゃい。悪いわね、急な事で」

「いえ、いいんです」

「おかえりなさい」

とは、イスラ。

「おかえり。ホント、悪いわよ。何事ももう少し余裕を持って進めてもらいたいもんだわ」

と、アスカはソファーに寝っころがったまま言った。

ちょっとご機嫌が斜めみたいだ。

「ごめん、ごめん」

「で、何?」

「何、って?」

「だから何で急にユリが家に泊まることになったのよ?」

「ああ、その事・・・」

「ああ、ってミサトねぇ」

「ちゃんと説明するから、そうつっかかんないでよ」

「わかったから、きっちり説明しなさいよ」

「ユリちゃんのご両親が渡米されてるのは知ってるわよね」

「知ってるわよ」

「でね、ユリちゃんをこっちに残していくに当たってお願い事されてるのよ」

「何よ、そのお願い事って?」

「ユリちゃんに女の子らしい礼儀作法、言葉遣い、立ち居振る舞いを身に付けさせて欲しい、って言うのよねぇ」

「それとユリがここに泊まるのが何の関係があるのよ?」

「それなんだけどね、色々人選した結果、アスカが先生役にぴったりだって事になってさぁ」

「はぁ?」

「レイはあの調子だし、フェルはどっちかって言うと幼い感じだし」

「そうだとしてもあたしなんかじゃなくってイスラでいいんじゃないの?」

「あ、イスラは逆に丁寧過ぎてユリちゃんにはハードル高いんじゃないかなぁ、とか・・・」

「で、あたしな訳?」

「そ、そうなのよ」

「ふ〜〜ん」

「アスカは普段遣いも余所行き遣いも両方出来るっしょ」

「まぁね」

「だからさぁ、ユリちゃんの先生になってあげて欲しいのよ」

アスカが立ち上がった。

「オッケィ。やるわ、先生役」

「ありがとう、アスカ」

ほっとした様子のミサトさん。

「で、期間は、いつまでやればいいの?」

「それなりの成果が出るまでよ」

「だってさ、ユリ」

と、俺の方を向いて言う。

「あ、うん」

「頑張んなさいよ」

「わかったよ」

「まずはその言葉遣いから直さなきゃね」

げ!

夕飯は焼き魚、美味しかった。

今は明日かも風呂を終え、二人部屋で椅子に腰掛けている。

勉強机は丁度隣り合わせだ。

明日の時間割の準備も済んだし、後は寝るだけなんだけど・・・。

「それで、と」

と、アスカ。

どうなるのかなぁ?

「・・・」

「さっきも言ったけど、まずは言葉遣いをなんとかしなくっちゃね」

「うん」

「ユリのってまるっきり男の子言葉じゃない。どうしてそういう風になっちゃた訳?」

うう〜〜ん、困ったな。考えてなかったよ。

適当にしのがないと・・・。

「一人っ子でいつもシンジと一緒だったから自然と男子と遊ぶ事が多かったからじゃないかなぁ?」

「ふーーん・・・そう言えばシンジとは従兄妹なんだよね」

「うん、そうだよ」

「それにしてもユリの喋り方って男の子そのものって感じ。普通女の子は自分の事『俺』なんて呼ばないと思うんだけど」

「アスカは日本語はネイティブじゃないんだよね」

「でもそれ位は知ってるわよ。って言うかネイティブじゃないからこそきちんと勉強してるわよ」

「そっか」

「日本語の一人称はたくさんあるわよね、『俺』、『僕』、『わたくし』、『わたし』、『あたし』、『自分』、『わい』、『わし』、『拙者』、『それがし』とかね」

「まぁ、そうだね。最後の方のは時代劇でしか聞かないけど」

「でもさぁ『俺』と『僕』は男性用で、『あたし』は女性用よね?」

「あ、うん」

「それから語尾も男性と女性とでは微妙に違うでしょ?」

「そうだね」

「ユリってその両方とも男性言葉じゃん。ぜーったいにおっかしいわよ」

「うん」

確かになんとも言い返せない。

「まずはそこから直しましょ」

「・・・」

「返事は?」

「あ、うん」

「うん、じゃないっ!」

「あ、はい」

「よろしい」

「あたしが先生をするからには完璧を目指すからその積もりでいないさいよ、ユリ」

「・・・はい」

「じゃあ今日からあたしは『マイスター・アスカ』ね」

「へ?」

「へ、じゃない。『マイスター・アスカ』よ」

「何、それ?」

「アスカ師匠、って意味よ」

「師匠?」

「そそ、師匠。で、ユリ、あんたはあたしの弟子よ」

「俺が弟子?」

「うーーん、とにかくまずは一人称から変えなくちゃだめね」

「・・・」

「何にする?」

何に、って言われてもなぁ・・・。

「う〜〜ん」

「ちなみにあたしの場合は普段は『あたし』だけど余所行きには『わたくし』ね。レイとイスラは『わたし』でヒカリも『わたし』。フェルみたいに自分を自分の名前で呼ぶのは問題外よ」

あ、フェル可哀想。

やっぱり『わたし』かなぁ・・・『あたし』よりは抵抗感少なそうだしな。

「『わたし』にするよ」

「了解。じゃこれからは一人称は『わたし』にしなさい。あとは語尾に気を付けるように。女の子なら『するよ』じゃなくって『するわ』でしょ」

「うん」

「こら、ユリ!はい、でしょ?

と、アスカに横目で睨まれる。

「あ、はい」

「よろしい」

アスカだって『うん』位言ってるのになぁ。

「まぁ今日はこれ位にしてそろそろ寝ましょっか?」

「わかった」

「・・・まぁいいわ。おやすみユリ」

と、二段ベッドの上に上りながら言うアスカ。

「おやすみ、アスカ」

と、俺も下のベッドに入りながら言う。

何だか張り切っちゃってるよな、アスカ。

はぁ・・・これじゃあアスカに探りを入れるどころじゃなくって、こっちの神経が持たないかも。


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