『俺と僕で何?』


第七拾四話 バカシンジ


「じゃあ行ってらっしゃい。今日は通常待機だからみんな自由行動でいいわよん」

「は〜い」

「はい」

「わかりました」

「じゃあ今日は帰りに久し振りにショッピングセンターに行くわよっ!」

げぇ・・・。

「と言う訳なんだけどあんた達も一緒に来る?」

と、アスカが昼休みの弁当仲間に声を掛けてる。

弁当仲間とは7人のチルドレンにトウジ、ケンスケ、ヒカリの計10人。

全員参加ならちょっとした遠足みたいになるなぁ。

「俺はゲーセンのほうがいいんだけどな。な、トウジ、シンジ」

「せやなぁ」

「あ、うん」

男子陣は及び腰だ。

「じゃあわたしも・・・」

「ユリはあたしに付き合いなさい!弟子は師匠に従うものよ」

「えー、それって横暴」

「・・・」

アスカが横目でギンと俺の顔を睨む。

「・・・はい、わかりました」

あえなく降参。

「ヒカリとレイとフェルはどうする?」

「わたしは構わないわよ」

と、ヒカリは賛意を示す。

「じゃあわたしも」

「フェルもいいよ〜」

「渚、あんたはどうするのよ?」

「女性陣に男子一人っていうのは流石の僕でも辛いから今回は遠慮させてもらうよ」

「ほな、わしらと一緒にゲーセン行かへんか?」

「そうだね。そうさせてもらうよ」

「じゃ、女子は全員ショッピングセンター、男子は全員ゲーセン、でいいのね?」

みな異論はないみたいだ。

俺はホントは嫌なんだけど・・・アスカに付いてなきゃいけないしな。

リニアでショッピングセンターに向かっている。

フェルはイスラと、アスカは洞木さんと向かい側の席でお喋りしている。

綾波は俺の隣に座っている。

「ユリ」

綾波に呼び掛けられた。

「何?」

「どうアスカの様子は?」

「まだ二日目だし今のところは特にこれと言った決め手はないよ」

正直に言う。

「そう」

「せっかくだから綾波もアスカとお喋りしてみてよ」

今日は綾波にも協力してもらおう。

「わかったわ」

前回の綾波とアスカの関係って必ずしも良好じゃなかったからな。

ただ今の綾波は前回とはずいぶん雰囲気が変わっている。

だからアスカの綾波への対応にも変化があって当然かも知れない。

「綾波は自分の部屋で寝てるの?」

「ええ、そうよ」

「そっか・・・えーっと、その・・・ごめん」

「どうしてユリが謝るの?」

「だって綾波を独りにしちゃったから」

「それはユリのせいじゃないわ」

「うん、それはそうなんだけど・・・」

「だから気にしないで」

「うん」

「ユリは自分の役目を果す事に専念すればいいのよ」

「わかったよ」

「うーーん」

何着も手にしてさっきから唸っているアスカ。

「とりあえず試着してみたら?」

見るに見かねて洞木さんが言う。

「そうね、そうするわ」

と、試着室に向かうアスカ。

他のみんなも洋服を手に取って自分の身体に合わせたりしている。

「ユリさんも何か買ったらいかがかしら」

そんな光景をぼーっと見ていたら後ろからイスラに声を掛けられた。

「え、でも着替えはちゃんと持って来てるから」

「試着だけでもいいですから」

「え、でも・・・どうして?」

「フェルから聞いてるんですよ。ユリさんは女の子らしい洋服をあんまり持ってないって」

「フェルの奴・・・」

「ユリさんが自分でなさらないのならアスカさんに見立てていただきましょうか?」

あ、それはちょっと嫌かも・・・。

「でも、女の子の洋服なんてよく解らないよ」

「うふふ、じゃあわたしがお手伝いしましょう」

「じゃあお願いするね」

イスラが何着か俺のために選んでくれている。

アスカはヒカリと、レイはフェルとお互いの選んだ洋服を見せ合って批評している。

「じゃあこれを試着してみてください」

数着の洋服を手渡される。

「うん」

試着室に入る。

ワンピースやらブラウスやらスカートやら色々。

しょうがない、ワンピースから始めようか。

着替え終わって試着室のカーテンを開けると・・・。

「なかなかいいじゃない」

と、アスカ。

「へぇ、ユリってお嬢様系なんだ〜」

と、フェル。

って、みんなが俺の事を見ている。

と思ったら知らず知らずに自分の顔が赤くなっていくのに気付く。

どうしちゃったんだろう?

「何照れてんのよ?」

と、アスカ。

「さあ次のに着替えてくださいな」

と、イスラ。

もしかして俺はアスカとイスラに嵌められたのかな?

なんだかんだで俺は洋服を買わされてしまった。

それも女の子女の子したやつばっかりだ。

今はアクセサリーショップにいる。

「ユリってアクセサリーほとんど持ってないんだってねぇ」

「なんでそんな事アスカが知ってるんだよ」

「ユリ、語尾!」

「あ、ごめん」

「ミサトから聞いたのよ。リツコが嘆いてたって」

え、リツコさんが?

「じゃあ今日のショッピングってわたしのためだったの?」

「そうよ。最初から話してたらユリは嫌がるでしょ?」

「あ、うん・・・そうかも」

やっぱり嵌められたんだ・・・俺。

「だから今日は観念してあたし達に任せなさいよ」

はぁ・・・。

「うん、わかった」

それからはみんなでわいわいがやがや・・・大変だった。

ネックレスやらリングやら・・・なんでこんなに色んな種類があるんだろう?

俺にはまだ今ひとつ女の子の気持ちがわからない。

化粧品売り場。

ここでも化粧品の種類の多さに驚かされた。

中学生だからそんなに化粧をする訳じゃないと思ってた。

ほとんど使う事はないらしいが、でもアスカは結構揃えているみたいな事を言ってた。

もう好い加減うんざりした頃にみんなで甘い物を食べる事になった。

やっと家に帰り着いた。

疲れたぁ・・・。

女の子って買いもしないのに色んな物を見るウィンドーショッピングが楽しめるんだな。

とりあえず自分の部屋に荷物を置き着替えて居間に戻る。

台所ではイスラが買い物の整理をしている。

「あ、今飲み物用意しますから」

「あ、わたしも手伝う」

と、俺は台所に行く。

「すみません」

「いいよ、そんなの。もう直ぐ夕食だけどお茶菓子はクッキーでいいかな?」

「いいんじゃないですか?」

「わかった」

イスラが用意してくれた紅茶とクッキーを居間に持って行くとアスカがいた。

「あら、おやつ?」

「あ、うん。そんな感じかな。夕食前だから食べ過ぎないでね」

「オッケー。ところでユリはあのショッピングセンターはこの前あたしと一緒に行って以来?」

「えーっと・・・どうだったかなぁ。多分そうだったと思うけど、何で?」

「別に深い意味はないわ」

と言って早速クッキーを頬張るアスカ。

「夕飯はオムレツでいいかしら?」

と、イスラ。

「あたしはオッケーよ」

「わたし、手伝う」

「ありがとう、ユリさん。じゃあそろそろ作るわね」

「あたしはお風呂の用意しておくわ」

夕飯の支度も終わりかけてテーブルセッティングしていると・・・。

『プシュー・・・カシャッ』

「たっだいまー」

と、ミサトさんが帰ってきた。今日は早いんだな。

「「おかえりなさい」」

「おかえり、ミサト」

「おー、いい匂いねー」

「直ぐに食べられますから着替えてきてください」

「了解よん」

「「「ご馳走様」」」

「お粗末様」

各自自分の食器を流しまで下げる。

後片付けはアスカの分担だ。

調理器具は俺が配膳している間にイスラが洗ってしまっている。

ミサトさんは一番風呂。

「どう、少しは慣れましたか?」

「あ、うん。慣れたと思うよ」

「色々大変ですね」

「まぁね」

ホントに色々と、だよ。

「でもユリさんって凄いですね。私感心しちゃいます」

「何が?」

「だってシンジさんから分離して男の子から女の子になっちゃったのに全然動じてないんですもの」

アスカは洗い物してるから俺達の会話は聞こえていない。

「それはイスラだっておんなじじゃないか。使徒からヒトになっちゃったんだから」

「それもそうですね。でも私達の場合は前にもお話ししましたけど初めてじゃありませんからね」

「そうだったね」

「アスカさんの事は私もお手伝いできれば良いんですけど・・・」

「あ、いいよ、気にしなくて。イスラ達は前のアスカを知らないんだから」

「すみません」

「いいって。それよりミサトさんがちゃんとしてれば俺もここに来る事はなかったんだろうけどね」

「仕方ないんですよ。ミサトさんは帰りが遅い事が多いですから、あまりアスカさんと一緒に過ごせる時間がないんですから」

「あ、そっか」

「そうなんです」

「なら仕方ないね」

「ええ」

「さすがにシンジがここに泊まる訳にもいかないもんね」

「女所帯ですからね」

アスカ、洗い物終わったみたいだし、この話題はここまでかな。

あ、ミサトさん、お風呂出たみたいだ。

「アスカ、お風呂先入ったら」

「いいの、じゃあお言葉に甘えておっ先にー」

と、風呂場に向かった。

「アスカって同性には人当たりいいよね」

これは多分だけど前回も同じだと思う。

極親しい友人以外に対しては同性に限らず猫を被ってるんだよね。

「アスカにとってわたしって何なんだろうなぁ・・・?」

自問が思わず声に出る。

「それってアスカさんにとってシンジさんが何かって事ですか?」

あ、そっか。

「そういう事でもあるのか・・・アスカは何かシンジの事で話したあるの?」

俺とシンジは従兄妹で幼馴染みって事になってるんだもんな。

「いえ、特に聞いた事ないですね」

「そっか」

まだ恋愛とかは早いのかな?

近くにいる男子って、シンジかカヲル君かトウジかケンスケだもんな。

で、トウジはもう洞木さんとくっ付いちゃってる、と。

この話題で攻めてみるかな。

「何考えてるんですか?」

「いやぁ、アスカって誰か好きな男いるのかなぁ、ってね」

「加持さんなんじゃないんですか?」

「加持さんは単なる憧れの対象でしかないと思うよ、前回もそうだったみたいだし」

「そうなんですか」

「悪いけどケンスケは論外として、シンジでもないだろうし、本命はカヲル君かなぁ?」

「兄さんの話も出ませんよ」

「あ、そうなの・・・色々聞かれたりしなかったの?」

「いえ、全然」

「ふーーーん、やっぱり恋愛とかにはまだ早いのかなぁ?」

「で、ユリさんはどうなんですか?」

「へ?」

・・・何だって?

「『へ』じゃないですよ。ユリさんもれっきとしたレディなんですから恋愛の一つや二つ位しなくっちゃ」

えーー俺がぁー?

「まだ無理だってそんなの、女の子になったばっかりだし」

「それならイスラはどうなの」

「私は使徒ですからそういう感情はないんですよ」

「そうなの?」

「この身体は文字通り魂の器です。レイさんとは違うんですよ」

「そっかぁ」

悪い事聞いちゃったな・・・。

「あ、気にしないでくださいね」

「うん」

「なあに、作戦会議?」

「あ、ミサトさん。作戦会議って程のもんじゃないですよ」

「じゃあ何?」

「いえ、アスカって加持さん以外に恋愛対象っていないのかな、って」

「恋愛対象ねぇ・・・とは違うけど気になってる子はいるみたいよ」

「え?誰ですか?」

「シンジ君よ」

「!?」

「あらぁ、気が付いてなかったの?」

イスラは首を縦に振っている・・・気が付いていなかったって事だよね。

「全然。どうしてそう思うんですか?」

「だってアスカ、シンクロテストとか本部にいる時ってたいていシンちゃんの事目で追ってるもの」

「へぇ・・・気が付かなかったなぁ」

「まぁシンちゃんがアスカの恋愛対象かどうかはわからないけどね。聞いても素直には答えないでしょ」

「それはそうですね。記憶の事も正面きって聞いても正直に答えてくれる保障ないですよね」

アスカの性格なら。

「多分ね」

「ミサトさんは今のアスカに不自然さを感じた事はないんですか?」

「それはあるわねぇ。前回よりも少し素直で丸くなった感じがするわ。でもそれはエヴァ弐号機のコアにアスカのお母さんが居るって信じてるからなんでしょうね。きっと前回の記憶とは関係ないと思うわよ」

「そうですね。俺もそう思います」

「それ以外では特に不自然な点はないわ」

「そうですか」

「アスカさん、お風呂出たみたいですよ」

「じゃあこの話しは一旦お預けね」

「はい」

「ユリさん」

「ん、何?」

「良かったら一緒にお風呂入りませんか?」

「え?」

「だからお風呂に一緒に入りましょう」

「え、でも・・・」

「女の子同士なんだからいいじゃないですか」

イスラが俺の右腕を引っ張る。

「何してんの、二人して?」

バスタオルを身体に巻いたアスカが怪訝そうな顔で聞く。

「いえ、ユリさんと一緒にお風呂入ろうって」

「あっそう。じゃあ明日はあたしと一緒に入ろっか」

「ええっ!」

「ん、何かあんの?」

「いや・・・別に」

「さぁ早く入りましょうよ」

「あ、うん。わかった」

結局イスラに押し切られて一緒に風呂に入ってる。

「やっぱり素体が一緒なせいか体型が似てますね」

「そうだね」

「ユリさんは私と一緒にお風呂入ってて私の身体に興奮しますか?」

そう言えば・・・。

「しないなぁ」

綾波と一緒の時にも違和感なかったなぁ。

「でしょう」

「なんでだろ?」

「それはユリさんが心身共に女性だって言う証拠ですよ」

「そうなの?」

「そうです。確かに記憶はシンジさんの時のままでしょうけど、肉体的には完全に女性です。だから女性の裸を見ても性的には興奮しないんですよ」

「そうかもしれない」

でも・・・改めてそう言われるとちょっと意識しちゃうかも。

それって危ないよね?

「今回の主目的はアスカさんの記憶の確認でしょうけど、ここに来た言い訳の女の子らしさを身に着けるって言うのもせっかくだからちゃんとしてくださいね。もう男の子には戻れないんですから」

そうだ。

「うん、わかった。そっちも頑張るよ」

「ねぇユリ」

「ん、何?」

「この黄色いマーカー引いた漢字にルビ振ってくれない?」

「ええ、いいわよ」

と、言葉遣いに注意して、アスカから教科書とプリントを貰ってルビを振る。

へぇ・・・結構難しい漢字も読めるんだな。

「はい」

ルビを振り終わったのからアスカに返す。

「ありがとね」

「終わったぁ・・・ユリが居てくれて助かったわ」

「そう言ってもらえると嬉しいな」

「その代わり解かんないとこあったらあたしが教えてあげるからね」

そっか、アスカはもう大学出てたんだった。

「うん、ありがとう。今日のところは大丈夫だから」

「そう。遠慮しないでいいのよ」

「わかってる」

「ならいいわ」

「ところでさ」

「何?」

「アスカって好きな男性いるの?」

「え、あたし?」

「うん」

「まぁ一応は加持さんかな」

「何一応って」

ちょっと笑っちゃった。

「笑う事ないでしょ。加持さんって素敵でしょ」

「でも年が離れすぎてると思うけどな」

「いいのよ。好きになるだけなら自由なんだから」

「アスカはそれでいいの?」

「うーーん・・・どうなのかなぁ。自分でもよくわかんないわね」

「うちのクラスの中じゃどうなの?」

「同じ年のお子様には用はないわ」

「そうなの?」

「そうなの!」

「シンジとかは?」

「えーー!なんであたしがバカシンジなんかとー?」

え?

バカシンジ?

もしかして・・・これって瓢箪から駒?


拾参話 へ  第七拾伍話 へ

目 次 へ  「創作小説」へ戻る  トップページへ戻る


* 感想をお願いします。