ハルウララ強奪騒動 泥にまみれた美談
「今すぐ安西さんとの預託契約を解除したいと思うほど、感情的になっている」 温厚な宗石師から出たとは思えない怒りの言葉。 契約を解除してしまえば、もう二度と手塩にかけて世話したハルウララに会えない ことになるというのに…。 9月15日、とんでもないニュースが飛び込んできた。 馬主の安西美穂子氏が調教師らの反対を押し切って ハルウララを馬運車に載せて栃木県内の牧場へ 「強制的に放牧させた」というのである。
休養は、馬主で競馬エッセイストの安西美穂子さんの意向。 高知県競馬組合や調教師は反対していたが、安西さん側はこの日午前、 予告なしに厩舎を訪れ、正午すぎにハルウララを運び出した。 安西さんは自身のホームページで「ハルウララは休まず113戦、一生懸命走ってきました。 ご褒美に、どうしてもお休みさせてあげたい。もう一度、皆さまの前に姿をお見せしたい」 と説明している。宗石大調教師は「安西さんは『約3カ月間放牧させ、 その後は来年3月の引退レースに向け調整したい』と話していた。 強引に連れていかれた」と戸惑い気味。 同組合の前田英博管理者は「突然のことで驚いている。 馬主と調教師との間の問題なので何も言えないが、 16日に関係者から話を聞きたい」としている。 (スポニチ速報)
以前から週刊誌などではハルウララの映画出演を巡って、 安西氏と宗石師、高知競馬との間で軋轢が生じていると伝えられてきた。 今回のハルウララ強奪騒動は こうした両者の思惑の対立が伏線にあるのは言うまでもない。 以下は安西氏の記者会見での発言である。
「引退した競走馬を引き取って余生を支える活動をしていたので、 ウララが話題になり始めた1年ほど前から譲り受ける話を進めていました」 「グッズのロイヤリティのうち馬主に入るのは35%で、せいぜい月100万円前後」 「ウララを映画に出すのは絶対に嫌です。現役競走馬が出演などおかしい。 3月に武豊さんが騎乗して以後、取材が殺到して神経質になり、 知らない人が馬房の前に立つだけで嫌がるほど」(週刊ポストより抜粋)
発言を表面上だけで捉えれば、 @金銭を度外視して馬主になった安西氏は、 A取材攻勢を受けたハルウララの体調を心配して、 B映画出演やレース出走に反対した、ということになる。 ギャロップ誌上では競馬評論家の白井透氏が安西氏の応援射撃を繰り返してきた。 「どのようにして勝たせるかは馬主の権利である」 「その正当な権利を行使しようとするのに、 主催者側が口を挟むようなことは、どのような事情があれ許されることではない」 つまりは、ハルウララは安西氏のモノであるから、 高知競馬や宗石師は黙って安西氏の言うことを聞け という論理である。
確かに馬は馬主の所有物であり、通常であれば 馬主の意に反してレースに出走させることなどあり得ない。 ただ、ハルウララに関して気にとめておかなければならないのは、 安西氏は無償でハルウララを譲り受けた という事実だ。 安西氏の上記の発言で「話題になる1年ほど前から譲り受ける話を進めてた」 とあるが、これは明らかな誤りである。 ハルウララが全国紙に取り上げられたのは 去年7月のことである。この後、フジテレビで小倉智昭氏が ハルウララの連敗を紹介したことで、一気にブームに火がついた。 この一年前、ハルウララはようやく70連敗に到達した程度で、 地元紙ですら注目しない一介の未勝利馬にすぎなかった。 競走馬の余生事業に携わっているだけで、ハルウララをピックアップすることはあり得ない。 ブームの起こり始めた時期、 新たな馬主の成り手を探していた宗石師に安西氏が立候補したのが実情だ。 安西氏が陰のブームのプロデューサーのように言われているそうだが (私はその内容は安西氏自身のサイトでしか見たことがないが)、 ブームを作ったのは高知競馬広報であり、 きっかけになったのは小倉氏の紹介である。
安西氏が正式な 馬主になる前には浦河町の乗馬ファームが 引退後に引き取るという話もきており、 宗石師とすれば 「引退までのつなぎオーナー」に安西氏は最適な人物に見えたのかもしれない。 ボランティア的に馬主になってもらった安西氏には、 預託料を上回る程度のロイヤリティを受け取ってもらいお役御免。 ハルウララストーリーの美談のツマになれば万事成功だ。 高知競馬側は馬主が代わっても、これまで通りハルウララを高知競馬再生の切り札として自由に 使うことができると、何ら疑問を抱かなかったはずだ。 それまで苦しい思いをして90戦以上、レースに出走させてきたのは宗石厩舎の スタッフであり、ブームを支えてきたのは高知競馬に他ならないのだから。 もし宗石師が中央競馬のマスコミ事情に精通していたら、 師の目の前に現れた女性に対する評価は違っていたかもしれない。 だが、そうはならなかった。そして、 高知競馬の筋書きは徐々に狂い始めていく。 乗馬施設へ引き取られる話は立ち消えになり、 安西氏が引退後も世話をする ということになる。 それがハルウララの余生を見るだけの経済的利益を安西氏は 受け取らねばならない、という論理に変わってしまう。
従来から、 安西氏はハルウララで儲けてはいないと主張しきた。 しかし、武豊が騎乗した一日だけでハルウララグッズの売り上げは 1000万円にものぼり、 「経費を差し引いたほとんどの利益は、すべて馬主さんの手に渡る」(高知競馬広報担当) というから額面通りには受け取れない。 これまでの安西氏の発言でもグッズのロイヤリティの割合は 一貫しておらず、そうした点にも疑問が残る。 ハルウララ関連のグッズの販売、管理をしているのは 高知競馬の関連団体であるサポートKRAだ。 今月発売の競馬最強の法則によれば 「サポートKRAに対して弁護士経由の内容証明が安西氏から届いた」という。 記事ではサポートKRAから安西氏に 「7月まででも総額700万円以上が支払われている」そうだから、 高知競馬の安い預託料を差し引いても、相当額が手元に残っているはずだ。 なぜ、安西氏は内容証明などという仰々しい行動に出たのだろうか。
「はっきりいって”もっと金寄こせ”なんですよ。 グッズの売り上げの取り分がお気に召さないようなんですね。 実際、自分の会社(「エムエイオフィス」)の資金繰りが苦しいのは、 ご自身でも認めてますしね」 「サポートKRA」が安西氏とかわしている契約によれば、 売り上げの7%が氏のもとに入ることになっている。… JRAではこういう契約の相場は3%というから、それよりはかなりいい条件。 …この7月まででも総額700万円以上が「エムエイオフィス」に 支払われているという。… 内容証明は、「グッズの個々の売り上げ内容の明細や会社の経理内容を示せ」 というものらしいが、ここにきてやはりというべきか、 「ハルウララ利権」が表沙汰になる形となってしまった。 (競馬最強の法則10月号)
「グッズについては7%、CMなどについては35%のロイヤリティが 馬主に入ることになっています。最近では売上がガクンと落ちていますが、 それでも安西さんには700万円以上が渡っている。 でも、彼女はそれでも不満のようなんです。 実際、お金にも困っているようで、”8月分のロイヤリティは いくらですか。当方も金策に困っています”という文書を送ってきたこともある。 表向きは休養させたいと言っていますが、 本音はグッズの販売権を狙っている のではないでしょうか」 (週刊新潮9/23号)
当然のことだが、グッズが売れても売れなくても、 調教師である宗石師のもとに直接、利益が入ってくるわけではない。 高知競馬としてはグッズ販売云々より、 ハルウララが出走してくれて、馬券の売り上げ を伸ばしてくれる方が重要なことだ。 高知競馬は昨年度こそ黒字を計上したものの、 それは賞金を削るなど関係者にしわ寄せした結果というもの。 存続の危機にある高知競馬は、今年もハルウララ効果で馬券を売らねばならないのだ。 だから、ハルウララを放牧に出すなどあり得ない話だった。 第一、放牧して英気を養うというのは、 中央競馬のエリートたちに許される行為であって、 地方の下級条件馬を故障以外で休養させるなど常識外だ。 それに8歳の未勝利馬をトレーニング施設も不十分な所へ出せば、筋肉は衰え、 能力検定試験さえ合格できるか復帰も危うい状態になりかねない。
安西氏のハルウララ強奪はなぜ行われたのか。 もし、記事の通り、安西氏の目的がハルウララから 最大限の利益を得ることだとしたら、その行動も理解できないこともない。 ハルウララを厩舎から連れ出すことで、 所有者は誰であるかを世間にアピールし、 今後、自由にハルウララを取り扱うことができるようになるからだ。 栃木の観光牧場を放牧先に選んだのも、 引退後のここでの繋養を見据えてのことだろう。 ハルウララは一般の観光客を集めるのに大きな目玉になる。 この牧場にはレストラン、宿泊施設、乗馬施設から ダイビングレジャープールまであり、 経営者としても集客力のあるハルウララは喉から手が出るほど欲しい存在だ。 安西氏としても、多くの人々が接することのできる場所として、 ファンの理解を得やすいと考えたのではないだろうか。 既に引退後に目がいっているならば、 ロイヤリティを上げるか否かは、安西氏にとっては 枝葉末節な問題になっているのかもしれない。
気の毒なのは、わずか半年前に馬主になった安西氏に、 文字通りハルウララを取られてしまった高知競馬だ。 庇を貸したら、母屋どころか母ちゃんまで寝取られてしまったという感じか。 せめて、来年3月までハルウララが定期的に出走してくれていたら、 冒頭のような言葉も宗石師から出てこなかったかもしれない。 互いに腹に一物あっても、ハルウララのためと黙ることができたかもしれない。 だが、安西氏がハルウララを連れ去ったことで、 高知競馬にとって事態は最悪の結末へと動いている。 ハルウララはダーティーでスキャンダラスなイメージにまみれつつある。一方で 安西氏サイドとしては、このまま高知競馬との関係が修復できなくても、 引退させてしまって観光牧場の客寄せパンダにしてしまえば痛くも痒くもない。 むしろ、高知競馬と縁が切れたほうが、 ハルウララグッズの管理権は安西氏に全て移るのだから好都合ではないか。 一縷の望みは安西氏が心底、競馬を愛しているかどうかだ。 安西氏が本当の競馬ファンなら、ハルウララを宗石厩舎へ帰してあげてほしい。 そして、引退後はグッズなどで得た利益とともに、ハルウララの所有権を 公営か第三セクターの乗馬施設へ譲り渡してほしい。 いちばんの安西氏の願いが、ハルウララが幸せに余生を送ることなら、 決して無理な話ではないではないか。 最後に安西氏の高知競馬への反論をご紹介する。
「経理がどうなっているのか債務状況を明らかにして欲しいと 内容証明を送ったことはありますが、そんな文書は送ってません。 もともとウララのグッズ販売で得たお金は、 高知競馬の馬のために使うという約束です。私のロイヤリティを上げさせるために 放牧に出して、高知競馬を揺さぶるなんて絶対ありえない話です」 (週刊新潮)
最悪の道筋はイメージダウンした高知競馬からファンの支持が離れ、 廃止への道と突き進むことだ。そうなれば影響はハルウララ関係者だけでなく、 地方競馬全体にまで及ぶことになる。それだけは避けなければならない。 ハルウララの厩舎(おうち)は、 飼い葉をつけ、寝わらをあげ、世話を続けてきた厩務員や調教師がいる場所だ。 彼らこそ、ハルウララにとって本当のパパやママではないのか。 残念だがハルウララの法的所有権が安西氏にある今では、 高知競馬もファンも安西氏の良心に訴えるしか術はない。