総括・名古屋JBC 拓かれた企業協賛の道
11月3日に名古屋競馬場で行われたダートの祭典・第5回JBCについて、厳しい意見が相次いでいる。果たして初の西日本開催となった名古屋JBCはどう総括すべきだろうか。地方競馬場が持ち回りで開催するJBCだが、これまで大井が4回、盛岡が1回と、比較的規模の小さな競馬場で行われることはなかった。というのも、クラシック、スプリント併せて賞金総額は3億円にものぼり、 JRAの負担分を除いても、「開催したはいいが大赤字になる」可能性が少なからずあるからだ。事実、名古屋へ招聘が決まった時にも、「数億円の赤字を生み出すようなことになれば、競馬場廃止を加速することになる」と悲観的な見方も多かった。
結果、当日の売り上げは18億7194万円、うちJBCの2レースは14億0641万円。一日の売り上げは、主催者が目標としていた20億円には届かなかったものの、ほぼ及第点をつけることができる数字となった。もちろん、最低だった盛岡開催の数字を下回っているのだから、誉められたものではないが、入場者数は盛岡を6000人ほど上回り 2万人を超えた。当日の名古屋は開門前から長蛇の列ができ、立錐の余地もない賑わいだったことを考えれば、締め切りに間に合わずに"売り漏らした"額は相当なものになると思う。実際、総売り上げに占める本場の割合は盛岡と比べても低い。何とも勿体ない話ではある。
売り漏らしもそうだが、この大きなオペレーションに名古屋競馬は運営の稚拙さを露呈させてしまった。最も目立ったのは、ナイキアディライトがゲート入りを嫌ったことによる発走の遅延問題だ。素人目にも危なっかしいロープの使い方だったが、ナイキアディライトは何と尻餅をついてしまった。この時、ゲート係員が不用意に蹴りを入れる姿は全国放映され、後日、主催者は公式な謝罪コメントを出すハメになった。さらに、地上波、グリーンチャンネルの中継はレース途中で切断されてしまうという、惨憺たる有り様。この他、検量所内の取材規制を巡るマスコミとのトラブルもあったようで、準備不足、勉強不足と非難を受けても仕方があるまい。
しかし、こうした反省点を踏まえても、開催が決定した当初の不安を考えれば、名古屋JBCはひとまず成功裡に終わったと言うべきだろう。いちばん意義深いのはフサイチネットによる企業協賛レースにできたことだ。海外では彼のエプソムダービーも「Vodafone Derby Stakes」として施行されたほどで、当たり前のように行われているが、国内では一般企業による協賛は初めてのケースだ。フサイチネットの協力で大井でも各種イベントが行われ、 JBCというお祭りを他の競馬場で楽しむファンも大勢いたことになる。今年の"フサイチネットJBC"は本当の意味で全国的な祭典になったのではないだろうか。(名古屋でイベントをやるべきとの意見もあったが、あの混雑状況では物理的に不可能だ)
今回の協賛は「地方競馬を救いたい」という関口房朗会長の慈善事業に近いところにあったのは確かだ。その意味ではスポンサーになってもらった割には、テレビCMやポスターでフサイチネットの名前がなかったのは詰めが甘かった部分ではあるだろうし(一部間に合ったものもあったようだ)、一般企業に同じオファーを出して1000万円の協賛金を払ってくれるかどうかはリサーチする必要がある。だが、一般企業による協賛レースの道に先鞭をつけたという意義は地方競馬にとって、とてつもなく大きい。日経の野元賢一氏はJBCについて痛烈に批判しているが、私はそう悲観的になる必要はないと考える。的を射た指摘も多いのだが、企業協賛を「安易なスポンサーシップの導入」としている点は同意しがたい。野元氏は競馬ブックとサラブnetで記事を書いているが、ここでは多くの人が閲覧できるサイトの方を引用するべきだろう。
JBC2競走の賞金3億600万円のうち、1億1900万円(39%)はJRAの補助金で、ほかにもJRAは場内の案内所新設やトイレの改修に資金を出している。「フサイチネット」の協賛金1000万円でレース名を売るのが、世間の常識に照らして通る話だろうか? この程度の判断すらできないほど、地方競馬はJRAへの依存を深め、しかもそれを「当然のこと」と考えているのだからあきれてしまう。失礼ながら今回のケースは、主に小規模主催者が低額で導入している個人協賛の延長線上の話としか思えない。賞金本体を助成するような企業協賛は、農水省の指導もあって、JRAでさえ未開拓の領域である。JRAの賞金助成を返上しても足りるようなビジネスを成立させれば、レース名を売っても良い。だが、今回のような安易なやり方は、レースのステータス向上どころか、主催者の窮状をさらすに等しい。(サラブnet・JBCはどこへ行くか)
JRAは地方競馬の自立経営を喫緊の課題としており、企業協賛によって収入を増やすことは本質的には歓迎すべき話である。競馬ブックではJRAは不快感を隠さなかったと野元氏は述べているが、そうだとすれば事前調整や摺り合わせの観点からではないだろうか。天地がひっくり返っても「JRA・JBC」にしてほしいとは思ってはいまい。また、「賞金本体を助成するような企業協賛は、農水省の指導もあって、JRAでさえ未開拓」と述べているが、私には「前例がないからできない」という官僚答弁と同義にしか聞こえない。協賛の代わりにJRAの賞金を返上しろというのも論理性がない。未開拓の分野を切りひらかなければ地方競馬再建はないだろうし、四の五の言ってられる状況はとうに過ぎた。
来年、JBCは川崎競馬場へとやってくる。コースの形態からスプリントは行われず、 1600メートルのJBCマイル、2100メートルのJBCクラシックの 2レースとなる見込みだ。この2レースは11月2日、3日に分けて実施される。レースの距離より各競馬場の持ち回りという発足時の理念を優先させたことは、主催者のJBCに賭ける期待の現われだ。 JBCは15億円も馬券が売れる地方競馬最大のキラーコンテンツであるのは間違いない。今年、ネットでの売り上げも全体の2割まで占めるようになった。川崎は名古屋の反省点を活かしてコンテンツの価値を高め、また企業協賛レースを目指して、JBCを成功へと導いてほしい。