| 馬の話は馬に訊け(2001.10.18記) |
熱狂的な信者を得た「男気ある異端児」
通算1,112勝という優秀な騎手成績もさることながら、
田原成貴はその独特の雰囲気や歯に衣着せぬ発言
で多くのファンの支持を得ていた。
特に92年のサンエイサンキュー事件では、
サンスポの悪意のある報道に対し毅然とした態度を取り続けたことで、
「孤高で男気のある人間」というイメージが作られたのではないだろうか。
トウカイテイオーやマヤノトップガンで見せた派手なパフォーマンス、
漫画の原作者、ロック歌手、エッセイストと言った異色の才能も
熱狂的なファンを生み出す「田原神話」の要因となった。
田原の書いた文章などを読んでも、
異端児的イメージを演出することに腐心していたように思える。
調教師になってからも彼の行動は注目の的だった。
厩舎スタッフは「チームタバラ」と名乗り、
統一された黒づくめの衣装はひときわ目を引いた。
また、初年度から有力馬主に高額な良血馬を預託され、
フサイチゼノンは弥生賞を勝つなどクラシック戦線を賑わした。
また、自身でオフィシャルサイトを開設し、
サテライトなるファン会員も募集する先進性も持っていた。
サイトで通信販売された田原グッズ
(例えばサングラスは2万5千円もの値)は飛ぶように売れたという。
傍から見れば、田原の厩舎運営は順調すぎるほどに見えた。
不問にされた傷害事件
しかし、すべての競馬ファンが田原を賛同していたわけではない。
傍若無人とも思える彼の行動に人間性の浅薄さを感じ、
アンチ田原へと傾いた人々も多かった。
かくいう私もそうしたうちの一人だ。
かつて、田原ファンだった私が田原嫌いの契機になったのが、
騎手引退間際の「スポニチ記者殴打事件」だ。
詳しい経緯はその時に書いたコラム(「さらば田原成貴 〜スポニチ記者殴打事件を考える〜」)
に譲るが、簡単に説明すると田原に不快な記事を書いた記者を検量室に呼び出し、
ムチ3本を顔面に振り下ろして前歯2本を折るケガを負わせたものだ。
この時、田原はJRAの事情聴取に対し「試しぶりをして当たった」と主張、
JRAは釈明を受け入れ、ケガは故意によるものでなかったとして何の咎めも行わなかった。
スポニチ側も以後の取材に支障が出ることを怖れて、それ以上の追及を取りやめた。
常識的に考えても「試しぶり」でそれほどのケガをするはずがない。
何より当初、スポニチ側は殴られたとJRAに猛抗議しているのである。
もしJRAが故意と認めれば田原の調教師免許を剥奪せねばならず、
JRAは事件を闇に葬ったというのが真相だろう。
男気のあるはずの田原もこの事件について沈黙を決めこんだ。
収まらなかった奇行の数々
事件後も田原の常軌を逸した言動は収まることがなかった。
去年、皐月賞の最有力候補だった管理馬フサイチゼノンを
レース直前で回避させ周囲を驚かせた。
理由は「気配が物足りない」という感覚的なもの。
だが直後、田原は何事もなかったように同馬を坂路で調教、
逆にJRAは騒ぎを打ち消すように脚部不安を発症したと矛盾する発表をして波紋を広げた。
さらに回避をオーナーに全く報告していない非常識な対応に、
同馬はオーナーの逆鱗に触れた田原のもとを離れた。
また、今年7月には管理馬の耳の中に振動式の発信器を取りつけるという
奇々怪々な事件も発覚した。
これについても田原の釈明は二転三転。
「放馬した際などの事故防止のため」などと答えていたが、
発信器がどのような働きをするのかは一切、説明しなかった。
一方、発信器を装着していたことは担当厩務員、オーナーは全く知らず、
機械そのものは調査前に田原が処分してしまった。
JRAは罰金50万円は科したものの
真相を調査することはなく、事実上、田原を無罪放免したと言っていいだろう。
他にも厩舎内に幾つもの監視カメラを取りつけたり、
脚にボルトの入った馬をセリで評価額の4倍の1億7千万円で落札
する行為もあった。米国テロで厳戒体制の空港にナイフを持ち込んだことも含め、
この辺りは覚せい剤使用で常人の判断ができなかった故とみるのが正しいのかもしれないが。
覚せい剤すら黙認したJRAの責任
私が常に嫌悪感を抱いていたのはJRAの不祥事を隠蔽しようとする姿勢である。
上記のどの事件も田原の競馬人生に終止符を打っていいほど重大なものであった。
しかし、事件が起きるたびJRAは真相を隠そうとし、
競馬界のスターである田原の処分を避けてきた。
田原は自分への特別視に増長したに違いない。
何をやっても許される、誰も田原を叩けないと。
媚びるばかりのスタッフ、マスコミ、ファンで取り巻きを固め、
いつの間にか孤高の一匹狼は裸の王様になっていた。
そして、男気を勘違いした王様はクスリに手を出し、
JRAの範疇を超えた不祥事を引き起こしてしまった。
記者会見でJRAは田原の覚せい剤使用について「噂では知っていた」
ことを認めた。サークル内では田原の異常な言動から
クスリをやっていることは有名だったという。
JRAは田原の覚せい剤使用すら黙認していたと言っていい。
獄中で黙秘を続ける田原はJRAが助けに来てくれるのを待っているのだろうか。
サテライトは田原は無実だと声をあげてくれると思っているのだろうか。
果してJRAは今回の田原逮捕をどれほどの危機感を持って受け止めているのだろう。
「競馬はやはり汚いもの」と
世間から競馬の信用を失わせたのである。
ファンにJRAは公正ではないと確信させたのである。
八百長、博打、一家離散、ダーティーなイメージを膨大な労力と広告費を使って
払拭してきたことは何だったのか。
JRAには幾度も事件を未然に防ぐチャンスがあったはずである。
しかし、臭い物には蓋をすればいいという体質が嘘に嘘を塗り重ね、
事実を隠蔽するうちに取り返しのつかないことになってしまった。
この後に及んでもJRAはスポンサーとなっている競馬番組中では田原逮捕に
全く触れさせていない。ひたすら事件の風化を待っているだけで反省の色は見られず終いだ。
JRAは覚せい剤使用だけでなく、田原関係の過去の事件についても早急に再調査
し、ケジメをつけるべきである。
コトの真実を白日の元に晒し、
事実を隠蔽した人間に責任を取らせなければ、組織の体質は変わらない。
もう誰もJRAの発表など信じるバカはいないのだから。
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