イギリス-Britain
【ウィルオウィスプ】 Will o' the Wisp
字義通りには「(点火用の)一握りの干し草を手にしたウィリアム」。鬼火に対する最も一般的な呼称。悪戯好きの妖精の仕業か、もしくは罪人の亡霊。〈女神転生〉では{外道}に分類され、不気味な顔がちらついているところをみると、後者が出没しているのであろう。尤も、妖精が原因である場合も、人間に対して好意的なわけではないのだが。
【ギャリートロット】 gally-trot
gally とは「怖がらせる」又は「幽霊」を意味する。北部イングランド及びサフォーク州に出没する犬の姿をした亡霊。白く毛むくじゃらで、雄牛ほどの大きさをしているが、あまり輪郭ははっきりしていない。もし、その前から逃げ出そうものなら、どこまでも追ってくる。
【ギャリーベガー】 galley-beggar
gally は「怖がらせる」又は「幽霊」。イングランド北部に出没する。現れる時は必ず闇夜で、その姿は異様に光っている。自分の頭を骸骨となった脇の下に抱えている事もある。大概、けたたましい笑い声をあげている。
【ゴグマゴグ】 Gogmagog
ゴーモト Goemot
とも。その名は「大地の全ての敵」をあらわすらしい。彼、または彼等(ゴグマゴグで一人の巨人であるとも、ゴグとマゴグという兄弟ともいうらしい)は、もともとブリテン島に住んでいた巨人たちの統領であり、伝承によれば、トロイア人がかのトロイ戦争の後、ブルートゥスに率いられてアルビオンと呼ばれていたブリテン島に落ち延びてきた時、この侵略者に対して仲間を率いて戦った。しかしながら、英雄コリネウスによって頭を撃たれ、崖から投げ落とされてしまった。また、このため、他の巨人は敗走し、からくも洞窟などに潜んで生きのびる事となった。また、コリネウスは巨人を斃した報償として島の南部を与えられ、その地は彼の名をとってコーンウォールと名づけられたという。
別の伝説では、ローマ皇帝ディオクレティアヌスの娘たちが夫殺しの罪で海に流され、ブリテン島に漂着して悪魔たちに無理矢理妻とされ、ここから巨人族が発生したと言われる。彼等は戦いなどで滅びていき、ついにゴグとマゴグの兄弟のみが生き残ったが、この二人はロンドンに連れて行かれて、当時のロンドン宮廷(現在の市庁)の衛兵又は運搬人となった由。死後、その彫像が立てられたが、オリジナルはロンドン大火で、次にはロンドン空襲で失われ、現在は複製が立てられている。
ケンブリッジ近くの石灰岩の丘ワンドルベリイに刻まれた巨像を指す。おそらくは、先史時代の豊饒の儀式と関係する。また、その儀式(あるいはその名残)はエリザベス朝にまで続いていたらしい事が、ケンブリッジの学生に対して出された勅令から推測される。すなわちその勅令は学生にゴグマゴグの近くで行われていた祭礼に出席するのを禁じたもので、その祭は大変に卑猥なものであった由。
丘そのものにもゴグマゴグ丘と呼ばれるものがその近辺に存在する。この名の由来として、妖精のグランタによってゴグとマゴグが変身させられたものだという伝承がある。
【ジェニィ・グリーンティース】 Jane Greenteeth
人食いの女の水魔。澱んだ水に棲み、水草と関係が深い。当然、名前の通り、緑の歯をしている。
【ジャックフロスト】 Jack Frost
ブーツを履いた小人で、小さな短剣を持ち、寒い日の早朝などにいたるところへ霜の模様をつけてまわる。また、高笑いしながら人を凍らせて死に至らしめる。なお、ジャックというのは名前ではなく、”男”とか”やつ”ほどの意味である。
【ジャックランタン】 Jack o Lantern
ジャック・オ・ランタン。鬼火の数ある別名のひとつ。主にイングランド西部で言う。大抵は沼地に棲む、悪戯好きの妖精。また、(特にアメリカ合衆国では)万聖節の宵祭に掲げるカボチャ提灯の事をこの名前で呼ぶ。ゲームのジャックランタンがカボチャの頭をしているのは、そういうわけだからだろう。
【シルキー】 silky
イングランド北部からスコットランド南部にかけて出没する。絹の衣をまとった女の妖精。また、亡霊であるともいう。衣擦れの音をたてて家の中を徘徊し、熱心に家事をする。但し、整頓してあるものはかえって散らかす事もあるので、単なる天の邪鬼か、あるいはそうする事で自分の存在をアピールしているだけなのかもしれない。馬車や馬を止めたりする事もあるようだが、この魔法はナナカマドで作った十字架を身につけていれば防ぐ事ができる。
好き嫌いが激しいらしく、家人を気に入っていればよく尽くし、気に入らなければさんざん悪戯をするようでもある。これらの特徴からして、本来、特定の家系を見守る守護妖精や祖霊であったのかもしれない。
【スプリガン】 spriggan
エルフの一種であるか、エルフと共に暮らしているが、気むずかしく醜い姿をしている。巨人の亡霊であるともいい、普段は非常に小さいのに、巨大な姿に膨らむ事ができるという。古い廃墟や塚、環状列石、城の周辺、宝の埋蔵されている場所などに出没する。盗みが好きなので、この宝は彼らがあちこちから盗んできたものなのかもしれない。また、宝ばかりでなく子供をさらって取り替え子をする事もある。悪天候をもたらしたりするいたずら者だが、特に自分たちの領分に手出しをされると、容赦なく報復する。
【ドヴェルガー】 duergar
ドゥアガー。イングランド北部に出没する底意地の悪い妖精。悪意に満ち、常に人間に敵意を持っている黒い小人。群はなさず、大抵、独居している。もしもドゥアガーに遭遇してしまったら、誘惑であるにせよ、挑発であるにせよ、いかなるさそいにも乗ってはならない。さもなければ大変な災難に見舞われるだろうから。
【ハーン】
ウィンザーの森に出る猟魔王。鹿の角を額に戴き、鹿の皮をまとっている。
【バグベア】 bugbear
子供を怖がらせるもの。物陰や暗いところなどにいて、姿は見えないのに背筋をぞっとさせるもの。
【ピクシー】 pixie
イギリス南西部の妖精。彼らの起源については、洗礼を受けられずに死んだ子供や、キリスト教以前に死んだ異教徒の霊で、天国に入れないけれども地獄へ行くほど悪人でなかった者達の霊だと云われる。
旅人を道に迷わすのが好き。けれども気に入った人間には手助けしてくれ、ブラウニーと同様、衣服を贈られれば去ってしまう。外見については諸説あるが、たとえばサマーセット州では緑の服を着て赤い髪をし、耳は尖り、獅子っ鼻で丸顔。目はしばしばやぶにらみという。またデヴォン州では色白で痩せており、裸であるという。あまり愛らしい感じはしませんね。旅人を迷わせるほかに、馬を盗んで夜中乗り回す事もしばしば。そんな目にあった馬は、過労のあまりだんだん痩せ細ってしまう。このようなピクシーの悪戯は、人間であれば服を裏返しに着たり、あるいはナナカマドの十字架で防ぐ事ができる。
【ヘアリージャック】 Hairy Jack
むく犬のジャック。リンカシャーの黒妖犬。炎のように燃える目と毛がもじゃもじゃした犬。ウィラトン・クリフの古い農家の納屋に出没した。足の悪い老人が化けた、あるいはこの犬が人間に化けたという報告もある。
【ヘルハウンド】 hell hound
字義通りには「冥府の犬」。ウォーカーがしばしば述べているように、犬、もしくは犬の仲間はしばしば墓場で屍体漁りをしたり、死肉を食べたりする習慣があるために、死を司る女神や冥界と結びつけられてきた。ケルベロスやアヌビスはそれらの代表格といえる。けれども、イギリス諸島にいろいろな形で見られる冥界の犬どもは、猟犬としての性格も強い。
死の前兆として人間の前に現れる他、これら冥界の猟犬どもはキリスト教時代に悪魔とも結びつき、単なるワイルドハントの一員ではなく、神を冒涜したり、あまりに気安く地獄を引き合いに出したりする者を罰する役目も負っている。
特に悪魔に率いられた猟犬どもは、戸外にいる者の魂を漁ることが目的なので、格別その注意を引くような事をしていなくても、危険である。この犬どもは頭に角を持ち、大皿のように大きく燃えさかる目をして、鼻からも火を噴いている。ほぼ同種のものであるウィッシュ・ハウンドの場合は無頭であり、〈ガブリエルの猟犬群〉の場合は人頭を持っている。もしも、このようなものどもに出会ってしまったら、落ち着いて神に祈る事が最も効果的に身を守る手段となるようだ。
【ボーグル】 bogle
主に北部地方とスコットランドとの境界地方に出没する。どちらかといえば邪悪であるが、本来は性質の良いものかもしれない。人殺しや偽誓をした者、弱者を騙したり、弱者から盗んだ者などが標的になりやすい。また、ブラウニーがいやな事をされたためにボーグルになる事もあるようだ。
【ホブゴブリン】 hobgoblin
ゴブリンというのは本来邪悪な精なので、ホブゴブリンも同様に邪悪だと思われる事がある。しかしながら、ブリッグズは接頭語のホブに注目し、ホブゴブリンとはブラウニー型の人間と親しむ妖精だと述べている。もしかすると、本来単にホブと呼ばれた妖精が、後に邪精をあらわすゴブリンと混淆、あるいは混同されてホブゴブリンという名前が生まれたのかも知れない。ちなみに、ホブというのは親切で善良な(とはいえ妖精の例に漏れず悪戯好きな)妖精で、ホブ穴と呼ばれる自然洞窟に棲み、子供の百日咳をなおしてくれるという。文学作品ではシェイクスピアの『真夏の夜の夢』で典型的な悪戯妖精であるパックが、ホブゴブリンと呼ばれている。
【ワーム】 worm
イングランド北部地方のドラゴンの一種。たいていの場合翼はなく、蜥蜴に似た形をしていると言って良い。炎のかわりに有毒の息を吐く。小さい内は魚などに混じって水中に棲み、イモリに似ているが口の周りに九つの穴がある。尤も、常に九つというのではなく、単にたくさんという事かもしれない。成長すると、一日に雌牛九頭分の乳を飲み干しても足らぬほどになるという。固形物も欲しかったのかも。いずれにせよ、大量の食物を必要としたわけで、結果として相応の大きさであろう事が想像される。困った特徴としては、体をまっぷたつにしても元通りに繋がってしまう事があげられる。
これらの経緯が語られているラムトン家のワームにまつわる伝承によれば、これを退治するために、当家の世継ぎであった騎士は鉄針を一面に植え込んだ鎧を用いて絞め殺される事を防ぎ、また、川の中の岩で戦う事によってワームの体が元通りにくっつく事を防いだ(川の水に流されるので、くっつきあう事が妨げられるのである)。注意しなければならないのは、これらの智慧を授けた賢女が、ワームを斃した後一番最初に出会った生き物は何によらず殺さなければ、九代にわたってラムトン家の当主は非業の死を遂げると告げた事だろう。伝承では、首尾良くワームを斃した騎士が最初に対面したのが父親であったため、この禁忌を果たせず、実際に九代にわたって家系の当主が非業の死を遂げる事になったのだが、何故このような禁忌が課されたのだろう。もしかすると、ワームの魂か呪いとでもいうようなものが、自分を殺した者以外で最も近くにいた生き物に転移するのかもしれない。その宿主が殺されなければ、呪いが働いてこのような結果を生む事になるのではあるまいか。
また、スコットランド南東部にに出現したワーム及びオークニー諸島のあたりに出現したワームは、煮え立つコールタールに浸した泥炭を口中に投げ込む事によって斃された。これらの場合は、ラムトン家のワームと異なり、斃した者が被る呪いについては述べられていない(但し、ラムトン家のワームは、幼い頃に一度安息日に釣りを楽しんでいたラムトン家の世継ぎに捕らえられ、井戸に投げ込まれたために後に禍を及ぼした事になっているので、こういった人間との関わりが先立っていなければ、呪いについては気にしなくても良いかもしれない)。
いずれにせよ、その住処は河や湖、あるいは海であって、水棲のものであると考えられる。
【ワイト】 wicht
サクソン語、スコットランド語ではウィヒトと発音し、「存在するもの」「生き物」といったような意味をもともとは持っていた。感じの良くない、もしくは危険な超自然的存在に対して使用される。